地質技術者と理科教育

1 技術者教育の現状
2 地質コンサルタント技術者の受けてきた学校教育
3 地質コンサルタント技術者としての教育

 社会資本整備をどうするかが現在,鋭くれています.また,理科離れということが言われて久しくなります.
 一方で,2000年のノーベル賞を小柴昌俊氏,田中耕一氏が受賞しました.02年12月7日に行われたスウェーデン王立科学アカデミーでの受賞者の共同記者会見で,若者へ向けた言葉をそれぞれ次のように語ったと報道されています(朝日新聞,2002年12月8日朝刊).

小柴氏:夢を持つこと.持ち続ければ達成できる.

田中氏:失敗してもちゅうちょしないこと.他の人の意見に従わないこと.

 我々に身近にいる地質技術者は,どんな教育を受け,今どんなことで悩み何を望んでいるのか,そしてこれからに地質技術者には何が要求されるのかを考えてみました.


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地質技術者と理科教育

                       

1 技術者教育の現状

 現在,産業界で一人前の技術者として認められる一つの基準は,技術士および建築士の資格を取得することである.社会的には,博士は専門的な知識を有する学識経験者としての役割を持っている.

企業での技術者教育

 技術者教育の現状は次のようにまとめられる.

(1)業務の中で訓練する方法(OJT=On the Job Training)が最も一般的である.この方法の利点は,数人でチームを組むことにより「暗黙知」を含めた技術を習得することが出来る点である.いわば,徒弟制度である.欠点は,あくまでも業務に関連した技術,知識中心に習得することになり,広い視野を持つことが難しくなる点である.

(2)外部の研修会,セミナー,各種学会,研究会などに出席して知識を得る方法(OFF-JT)も並行して積極的に用いられている.特に重要だと思うのは,学会などに関しては受け身で出席するのではなく,業務の中で得られた知識をまとめて発表することである.そのことにより,広い視野で自分の業務を眺めることができ,どんなところに問題があるのかを知ることができる.

(3)業務を行いながら技術力を向上させる要点は,自分が調査,設計したものがどのように施工されたかを自分の目で見ることである.望ましいのは,調査を担当した業務に関しては,施工中に現場を見て,予測が合っているのか,どこが間違っていたのかを検証することである.つまり,フィードバックによる知識,技術の修正が最も効率的で,あとあと役に立つ.この点では,施工中に問題が発生して,現場に呼ばれて意見を求められることも役に立つ.だだし,失地回復的な状況で対応をしなければならない場合にはかなりしんどい. 一般的には調査,設計はやりっ放しで,特に施工現場を直接見る機会は少ないのが現状である.しかし,最近は工事着手前に発注者,施工者,設計者,調査者の合同会議を持つ試みがなされ始めている.

(4)技術者資格の改訂をにらんで,日本技術者教育認定機構(JABEE:Japan Accreditation Board for Engineering Education)が1999年に発足した.2001年度は地球科学関係では,秋田大学工学資源学部地球資源学科資源システム工学/応用地球科学,島根大学総合理工学部地球資源環境学科の3プログラムが試行審査を受けた(担当学協会はいずれも,(社)資源・素材学会).この制度が機能すると,JABEE認定コースを卒業した学生は,実務経験4年で技術士試験を受けることが出来る.これまでは実務経験7年が必要であったから,若い技術士が多くなる.30才代前半の技術者の力量が向上することが期待される.

(5)技術者資格の国際化に伴い,各学会等で「継続教育」(CPD)を始めた.APECエンジニアでは,各国の技術者資格を統一し相互乗り入れを行うために,資格取得後も一定の期間をおいて審査することになった.例えば,技術士はこれまで終身保障であったが,継続教育の記録を残し年間50時間(3年間で150時間)の教育時間を確保しなければならない.完全に引退するまで自己開発に努力することが必要となった.内容は,倫理,環境などから始まって,専門分野の最新技術,関係法令,事故事例など広く知識を習得することが求められている.土質・地質関係の継続教育については,土質・地質技術者の生涯学習ネット(http://www.geo-schooling.jp/)を参照のこと.

 以上を要約すると,技術者として社会的に認められるには,最低限,技術士の資格を取得すること,資格取得後も自己開発に努めることと高い倫理性を持って仕事に当たることが,現在,技術者に求められている.技術者教育もこれらの点を考慮して進められている.

 補足すると,APECエンジニアの国際的会合に初期の段階から関わってきた西野文雄氏(政策研究大学院大学教授)の考え方は明快である(日経コンストラクション2000.3.24.). 
この中には,技術教育で何を教えなければならないかを考えるヒントがある.この場合,地球科学分野では,基礎的な堆積学,岩石学,その他の知識を習得していることが必須の条件であると考える.それらをもとに,土質力学や流体力学などの基礎知識を有し,解析的な仕事にも対応できることが理想であろう.

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技術士の資格は「経験を積めば将来,本当にいいエンジニアになるだろうというポテンシャルのある若い人にあたえるべきだ」と考えています.
現在の日本の技術士の水準はAPECエンジニアより高いとみています.
アングロサクソン系(イギリス・ドイツ系)の人達が言うエンジニアというのは,数学,物理,化学という自然科学の基礎があり,構造力学や流体力学などの工学の基礎を駆使して新しいものに挑戦し,物を造っていける人材を指しています.自然科学や工学の基礎が欠落していて他の分野に挑戦できない人はテクニシャンと呼びます.
エンジニアの職業倫理が一般の倫理と合わない時は,職業人としての倫理を優先する.技術的問題で妙なことが行われ,上司に言っても聞いてもらえない時は,権威ある第三者(監督官庁など)に通告することが専門職の倫理です.

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なぜ技術者資格が必要か

 技術者資格が企業にとって必要なのは,業務の発注時に管理技術者の用件として技術士やRCCMの有資格者とうたわれていることが最も大きい.

 技術士は国家資格であり,RCCMは国交省の認定資格である.通常の業務で受注した場合には,国交省関係の業務であればどちらかの資格を持っていれば管理技術者として認められる.しかし,最近増えたプロポーザル方式では,技術士が優位とされており評価の時に点数に差がつくことがある.現在の経済状態を反映し,生き残りを賭けた各社は少しでも有利な条件を築くべく資格取得に力を入れている.


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2 地質コンサルタント技術者の受けてきた学校教育

 

2−1 まわりの状況

 私事で恐縮であるが,1943年(昭和18年)生まれの私は,1959年(昭和34年)に高校に入学した.数学は微分,(積分)まで学習したし,理科は物理,化学,生物,地学を学習した.ついこの間まで,地質コンサルタントに入ってくる人は,大体同じような内容を学習してきているものと考えていた.ある時,大学受験の話になり,「数学は受験科目でなかったから,高校ではほとんどやっていない」と言う話を聞いて愕然とした.ほとんど解析的な仕事をしていない私でも,三角関数は日常的に使うし,微分,積分の細かいテクニックは忘れたが式の意味くらいは分かる.物理にしても,土質力学を理解するには最低限の数学と力学の知識が必要である.理科系でなく受験した人は会社に入ってから自分で業務のかたわら数学の勉強したと言う.このような人が,決して少数でないことを知った.理科系で大学を受験した人たちは「秀才」なのだそうである.

 

2−2 学校教育に関するアンケート

 それでは実態はどうなっているのか.ささやかであるが30才台の地質コンサルタント技術者にアンケートを行ってみた.アンケートを依頼した人は41人,これに対し回答者は25人で回収率は61%であった.

 以下,アンケート結果の概要を述べる.

アンケートの回答者の内訳

 アンケートはかなり思いつき的で回答しにくい設問があったが,それぞれ真剣に答えてくれた.「たまに自分の過去をこういう形で振り返るのもいいものですね」 という感想を語った人もいた.その中で,アンケート以外に理科教育についての感想を書いてくれた人の文章を紹介する.

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 最近の教育事情がニュースで流れるたびに、私も非常に問題を感じていました。 特に理科が嫌いという子供が圧倒的に増えつつあるということには、教育現場での指導の仕方に問題があるとしか考えられないと思っていました。もう、どうしようもないのかなと不安になっていたので、先生の中にもこのような意欲的な方がいらっしゃることに大変心強く感じています。
 是非、理科の好きな子供をたくさん育てていただければと思います。

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 回答してくれた人は,中学入学年が昭和52(1977)年から昭和62(1987)年までで,昭和39年から昭和49年までに生まれた人たちである.学部卒業者と修士課程修了者とがいるため,入社年は昭和63(1988)年から平成10(1998)年となっている.女性は一人である.

 学部は理学部が20人,工学部が5人で,修士課程を修了している人が5人である.

小学校の理科で印象に残っているもの

 蛙やひまわりなどの成長を観察したこと,リトマス試験紙の呈色反応, 燃焼実験などが印象に残っているようである.

 野外での観察や化石の採集,日食の観察なども印象に残っています.野外でみんなで話をしながら受けた授業が良かったようである.

 小学校での授業では,「広く自分の一般的な知識を身につけることが出来る」ようなものが望ましいというのが一般的な答である.

中学校の理科

 化学の授業が印象に残っている人が多いようです. 河原で石を鑑定したことも面白かったようである.

 ただし,中学校になるとあまり記憶にないと言う答が増えている.

 ハレー彗星の観察,偏光顕微鏡観察などを覚えています.

 堆積岩の露頭を見せてもらっても「それがどうしたの?」という感じだったようである.

 望むこととしては,もう少し突っ込んだ説明をして,興味を引き出すような授業をして欲しかったという意見がある.地学を専門にしている先生の場合は,やはりい面白い授業であったようである.

高校での地学

 高校で地学を履修した人は,11人(44%),履修していない人は14人(56%)であった.

 高校になると地学に興味を持って履修している人が多くなる.

 地学の授業がなく,また大学受験に必要でないので履修しなかったという人が多いもの目立つ.

理系では地学が選択肢になかったということである.

卒業論文のテーマ

 卒業論文のテーマとしては,「地質層序について」といったものから「フィッショントラック」や「同位体」などの手法を用いたものまで様々である.

 回答者25人のなかで,一人だけ卒論を行っていない人がいた.工学部の土質関係学科の卒業生である.

卒業論文でのフィールドワークの日数

 フィールドワークに費やした日数は図2の様になっていて,最低日数はサンプリングを1日行っただけの人である.最高は300日であるが,これは3年目からフィールドに入って卒論をまとめたためである.同位体,希土類元素,ナノ化石,有孔虫などを手段として卒論ではフィールドの日数は10日前後となっている.どの程度の日数をフィールドの費やすかは,指導教官の考え方と本人の意欲で決まってくるようである.2ヶ月から4ヶ月フィールドワークに時間を割いている人が,28%(7人)いることは注目すべきことかも知れない.

大学での指導教官の指導

 指導教官についてはおおむね満足している.「指導が十分であった」という人が16人(64%),「やや不満」という人が6人(24%),「十分でない」という人が2人(8%)で,「回答なし」が1人である.

  

高校までの理科教育と大学教育

 高校までの理科教育あるいは地学が大学で役にたったかという問いに関しては,「役に立った」が9人(36%),「どちらともいえない」が5人(20%),「役に立たなかった」が9人(36%),「回答なし」が2人(8%)であった.

地質コンサルタントに従事して

 これまでの関わってきた業務はいろいろであるが,地すべり,路線調査(道路,鉄道など)が多い.業務の中では,津波堆積物調査,氷河堆積物(ティル)と地すべりとの関係の調査など,地質現象を詰めることができたものが面白かったと感じている.また,自分の予測が当たったときのおもしろさも感じている.

 これらは,調査対象者の会社の性格によるところが大きい.設計中心に行っている会社か,調査中心であるかといったことから,それぞれの会社の得意分野があり一般化できない.


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3 地質コンサルタント技術者としての教育

3−1 経験的な地質技術者の成長過程

 自分自身のことを振り返り,また若手技術者の成長を見てきた結果からどのように技術者として成長していくのかを述べる.

 一般的な地質調査の流れは次のようになる.

受注

実施調査計画書作成:
 既存資料の収集・整理・問題点抽出,空中写真判読,地形判読,地表踏査
 調査計画書作成(調査の優先度ランク付け),見積もり作成

発注者との打合せ:
 実施調査計画の承認

地元用地交渉

現地調査実施:
 物理探査,ボーリング,サンプリング,現位置試験,再踏査

室内作業:
 地質平面図・横断図・ルートマップ作成,試験データとりまとめ,室内試験

調査総合解析:
 地山物性値の設定,地質工学的検討,設計・施工上の留意点
  (圧密沈下解析,トンネル地圧解析,地すべり安定解析,シミュレーション,FEM解析等)

後続調査計画作成:
 調査の優先度ランク付け

納品:報告書の説明

 入社して2年ほどはあちこちの現場の管理を行う.この時期は,調査の流れで言うと「現地調査」までをこなすのがやっとで,能力のある人間であれば「室内作業」と「調査総合解析」の一部まで手がけることが出来る.

 地質学を修めてきた人間に欠けていることの一つは,空中写真判読,地形判読が出来ないか苦手なことである.地形形成過程は地形営力,地形物質(地質),時間,地形場(斜面傾斜の大きいところで地すべりが発生しやすいというようなこと)によって制約される.地形には地形独自の発達過程があり,地質的要因だけで地形形成を説明できない(鈴木,1997,p40).

   もう一つの問題点は,力学に弱い人が多いことである.先に述べた西野文雄氏の言葉が重要である.西野氏の言葉で注目して欲しいのは,エンジニアの定義である.例えば,地すべりの安定計算にしても,基本的な力学と土質力学の知識がないと本当には理解できないであろう.地質出身者の多くは,これらを企業に入ってから独力で勉強しなければならないことになる.意欲さえあれば教科書はそろっているし,業務で使うとなれば身につくのも早いのでそれほど心配ではないが,大学までにどれだけ物理的な思考が出来る頭を作ってあるかは大きなポイントとなる.

 技術者として成長できるかどうかのポイントは,どれだけ早く「調査総合解析」を手がけることが出来るかどうかにかかっている.この前段で足踏みする人が実に多い.ここで必要な能力は,判断し決断することである.

 数年のちには,調査結果にもとづいて工事が行われるわけで,調査結果なり対策工なりが正しかったかの結果が出る.重要なことは失敗をおそれないで,自分で判断することである.その場合,判断の根拠をはっきりさせておくことが大切で,それさえあれば失敗したとしてもいいと私は思う.

 現在の建設業のシステムでは,調査を担当した施工現場を調査者が見る機会はあまり多くない.施工現場を見て調査にフィードバックできれば,その技術者の技術力は飛躍的に向上する.この点では,最近工事着手前に調査,設計,施工の各担当者が打合せを行う機会が発注者によって設けられる例が出てきている.

 以上は,主として技術的な点に絞っての話だが,地元との用地交渉の能力,調査計画書や報告書の説明能力を磨くことも重要である.若い技術者と発注者との打合せで良く遭遇することは,相手の問いの意味を理解できない,あるいは勘違いして返答していることである.その多くは,発注者が事業をどう進めるかという視点から質問しているのに対し,技術的な返事をすることが原因である.


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 3―2 これからの技術者教育

企業での技術者教育

 企業での教育は,前述したように仕事を通じて技術を伝えることが基本となろう.この場合,とにかく自分でやらせて失敗の中から学ぶことも必要であるが,経験のある技術者と組むあるいはチームの中で鍛えるのが最も効果的である.

 基礎的な物理,化学,生物,地学の知識をどう身につけさせるかは,個人の努力に頼らざるを得ない.ただし,地球科学の最新の知識を身につけ実際に応用できる能力は,組織として対応しないと立ち後れることになろう.

地質技術者が行う地質調査の目的は次のように要約されよう.

 「対象となっている地質がどのように形成され,形成後どのような変化を受け,その結果どのような広がりと工学性(物性値など)を持っているかを明らかにし,工事により地山がどのような挙動を示すかを予測し,必要な対策を提案することが,地質調査の目的である.」

 この目的を達成するには,最新の知識を持っている必要がある.例えば,最近多い事例としては,付加体堆積物での予想外の地山挙動(大変位,大きな応力発生)である.例えば,トンネルの地山分類は,地山弾性波速度を一つの基準としボーリングコアや現位置試験の結果をもとに行うが,付加体堆積物では一般に,弾性波速度が実際の地山状況よりも早くなる傾向にある.つまり,トンネルを押さえるH型鋼のピッチを1.2mでいいと判断したが,実際に掘ってみると1.0mでないと変位が大きくトンネルとして機能しなくなるといったことが生じる.これは直接,工費の増大,工期の延長をもたらす.これはある程度経験を積まないと判断できない問題であるが,その場所の地質がどのような環境で形成されたかを知っていることが最低限必要である.

 最近の大きな社会的問題は環境問題であるが,地質汚染,緑化,近自然工法などでは,化学,生物の知識が要求される.また,情報公開に対応するためにきちんと説明できる能力,記録を保存することも必要である.幅広い知識が一方で求められている.

技術者を取り巻く状況

 地質学の中でも応用地質学の発展を見てみると,明治のお雇い外人地質学者以来,昭和40(1965)年頃までは,石炭,金属,石灰岩などの資源開発が主な目的であった(第1世代の応用地質学:千木良,1995).その後,国内の資源産業は衰退し,土木工事に伴う諸々の問題解決に地質学が貢献してきた(第2世代).そして,現在,応用地質学に求められているのは,環境,災害などに対応できる地質学であるという(第3世代).ここでは,自然環境を物理的に解明するだけでなく,化学的,生物学的側面の解明と結合しながら社会的要求を支える応用地質学が求められている.

 一方,地質技術者を含め建設業に携わる技術者にとって,最近の大きな変化は,国際標準規格(ISO)の導入であろう.これに伴い,地盤工学会の試験方法も順次改訂され,地質学会では地質基準が作られた.国際的な整合性のある基準が必要とされている.この流れは,技術者の資格にも反映されている.

 技術士法の改正で,平成13(2001)年度から第一次試験と第二次試験が導入され,原則としてこの順番に資格を取ることになった.若い技術者の質の向上と有資格者の数の増加をねらった措置である.また,継続教育が義務づけられていることは前述したとおりである.また,新たに「総合技術監理部門」が作られた.これは,「経済性監理」,「人的資源管理」,「情報管理」,「安全管理」,「社会環境管理」の5つの監理能力を要求される部門である.事業全体を俯瞰したマネジメント能力が要求されている.そのためには,若い時期から総合的な視野を持つ訓練が必要となる.

 発注業務の透明性,トータルコスト縮減などを目標に,プロポーザル方式(提案型)の発注が今後増加する.この方式の特徴は,業務を統括する管理技術者の経歴と力量を中心に評価し,受注業者を決定する.いろいろな方式があるが,一つの例は次のようなものである.
 まず,プロポーザルの応募するかどうかを問い合わせ,会社の業務経歴,担当する技術者の経歴を提出させる.書類選考を行って受注候補企業を絞る.この候補企業に対し簡単な技術提案書の提出を求める.業務を受注した場合中心となる管理技術者のヒアリング(面接,時間は一般的には30分)を提案書にもとづき行い,管理技術者の力量を判断する.質疑応答の中でその技術者の力量は明瞭に現れる.

 以上のように,広い視野と深い専門性がこれからの技術者には必要となる.

学校での理科教育に望むこと

 実際に業務に携わってきた人間として,どのような教育を学校で行って欲しいと考えているかを述べる.

 学校教育に望むことは,数学,物理学,化学,生物学,地球科学の基礎知識を身につけさせて欲しいということにつきる.やはり,論理的な思考が出来ることは非常に重要である.その点では,数学の知識は必須であり,出来れば論理学をきちんと身につけている必要があると感じる. また,現位置試験や室内試験のデータを取り扱うので,データの取り扱いについての基礎的な知識(統計学を含めて)も必要である.

 報告書作成が業務の後半の大部分を占めることから,説得力のある論理的な文章作成能力も必要である.一つ一つの表現の問題もあるが,全体を通して分かりやすい報告書になっているかという点がより重要である.言葉の定義を正確に行い,同じ事象には必ず同じ言葉を使用するといった基礎的な訓練が出来ていない例は数多くある.

 建設業に伴う地質調査は,最後は地山(岩盤や土)を見て判断することになるので,その基礎となる物を観察する能力を磨く必要がある.これは,どれだけ現物に接してきたかという各個人の経歴が大きく左右するように思われる.この点では,地学の野外教育の役割は非常に重要である.

参考文献(順不同)

鈴木隆介,1997,建設技術者のための近い図読図入門 第1巻 読図の基礎.古今書院.
千木良雅弘,1995,風化と崩壊・・・第3世代の応用地質学.近未来社.
石井弓夫,1998,国際化に耐える技術者資格へ.土木学会誌,83,3,29-32.
岩松暉,2000,技術者教育の国際相互承認制度.日本地質学会News,3,1,6-7.
日経コンストラクション,2000,技術士法改正案が閣議決定.2000.3.24,29-30.
西野文雄,2000,技術立国・日本建設産業にふさわしい会計法,海外進出,技術士資格 のあり方 優れた建設技術を国益につなげるための提言.日経コンストラクション, 2000.3.24,44-47.
日本応用地質学会,学会記事,日本応用地質学会の21世紀を考える.応用地質, 41,1,51-59.
巻内勝彦,1999,地盤工学50年の歩みと展望 20.教育・資格・認証・技術普及. 土と基礎,47,11,82-85.
岩松暉,2000,技術者教育の国際相互承認制度.地質News,3巻,1号,6-7.
天野一男,2000,大学における地質教育は21世紀に生き残ることができるか?.地質 News,3巻,1号,p8.
宇田進一,2000,JABEEとは,APEC技術者とは何,ワシントン協定やWTOと どういう関係があるの,日本の技術士ではだめなの?.地質News,3巻,1号,p8.
荒井克弘,1999,中等教育の多様化の影響.土木学会誌,84巻,6号,4-8.
風間晴子,1999,知の営みの危機.土木学会誌,84巻,6号,8-12.


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資料−1(JABEEホームページより)

日本技術者教育認定制度とは

  1. 技術者教育プログラム認定の目的

JABEEの主要な活動は,高等教育機関で行なわれている教育活動の品質が満足すべきレベルにあること,また,その教育成果が技術者として活動するために必要な最低限度の知識や能力(Minimum Requirement)の養成に成功していることを認定することである.

JABEE の活動は教育機関に一定のカリキュラムや達成度を押し付けたり,教育機関の教育レベルを調べて順位付けし公表したりするものではない.むしろ,文部省の大学設置基準の大綱化に従い,各大学の個性を伸ばすことを目的としている.各教育機関に独自の教育理念と教育目標の公開を要請し,新しい教育プログラムや教育手法の開発を促進し,日本や世界で必要とされる多様な能力を持つ技術者の育成を支援するものである.

2. 日本技術者教育認定制度の求めるもの

JABEEは前節で紹介した理念を実現するために,各高等教育機関に次のような活動を求めている.

(1)大学や教育プログラムは,社会のニーズに一致する使命と目的を明示しなければならない.

(2)教育プログラムは,使命と目的に沿う具体的な教育目標を定義し,教育活動の成果がこれらの教育目標と日本技術者教育認定制度が求める教育成果を如何に満たしているかを示さなければならない.

(3)教育プログラムを継続的に改善する仕組みを持たなければならない.
a) 学生や就職先企業など顧客層のニーズを取り入れる方法
b) 教育活動を観察して教育成果を測定し分析する方法 (Assessment)
c) 教育プログラムが教育目標を達成しているか否かを判断する方法 (Evaluation)
d) 効果的な自己点検・教育改善システム(組織と活動)

(4)入学学生の質,教員,設備,大学のサポート,財務などの諸問題を教育プログラムの目標と結びつけて十分検討してあること.

 これらの項目は,教育機関が,整然とした教育目標と教育戦略を持ち,必要な水準の教育活動を維持し継続的に改善していくために,人的資源や設備が組織的にも財政的にも充分であることを要求している.

(2002年12月8日)


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