地山弾性波速度1.5km/secは地下水位線

 弾性波(elastic wave)は弾性体内を伝わる波の総称で,(超)音波,地震波などがこれに属する.この弾性波には縦波と横波がある.
 縦波とは,弾性体の棒の一端を叩いた場合に生ずる棒の瞬間的な縮みと伸びが棒に沿って伝わるような波である.この縮みと伸び(体積変化)は棒の伸びの方向に変化する変位によって発生する.
 これに対して,横波は弾性媒質が波の進行方向に対し直角に振動する波で体積変化を起こさずに形が変化する振動である.縄の一端を持って振った場合に発生する波が横波である.

 弾性波を発生させて,その到達時間を測って地下の構造を推定するのが弾性波探査である.この弾性波探査には屈折法と反射法とがある.屈折法は“はぎとり法”と呼ばれる解析方法が長く行われてきたが,最近は逆解析の原理を用いたトモグラフィー的解析(高精度弾性波探査)が一般的である.また,反射法を土木地質に利用する事例が増えてきている.
 今回は,地山弾性波速度について,知っていそうであまり知られていない事柄について述べる.


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1 地山弾性波速度に影響する因子
2 水と空気の弾性波速度

1 地山弾性波速度に影響する因子

 弾性理論では弾性波速度は次の式で与えられる.

V=(K/ρ)1/2

V:弾性波速度
K:弾性定数
ρ:密度

 つまり,弾性体は質量を持つバネであるために,ある区間を区切ると弾性波は隣の区間の質量に押されて変位することになる.この場合,慣性が働くので質量の大きいもの(密度の大きいもの)ほど変位が遅れることになり弾性波速度は密度が小さい物質ほど速くなる.
 ただし,このことは弾性波探査で密度の大きい地質ほど地山弾性波速度が大きくなることと感覚的に一致しない.それぞれの地質の密度は,未固結の堆積岩(1.5g/cm3以下)→固結堆積岩(1.8〜2.7g/cm3)→酸性火成岩(2.4〜2.7g/cm3)→塩基性火成岩(2.6〜3.1g/cm3)→超塩基性火成岩(2.8〜3.3g/cm3)となっており,地山弾性波速度もほぼこの順番に大きくなる.

 水に飽和した地層の弾性波速度は,次の式で表される(Wyllie et al.1956).

Vp=(Vm×Vf)÷{n×Vm+(1-n)×Vf}

Vp:地山弾性波速度(km/sec)
Vm:岩石供試体の超音波伝播速度(km/sec)
Vf:岩石内に含まれている水の弾性波速度(=1.5km/secとしてよい.)
n:間隙率(10%は0.1とする.)

 つまり,地山弾性波速度は供試体の超音波伝播速度に比例し間隙率に反比例する.地盤を構成する地質は岩石そのもの(あるいは土粒子)と空気と水(空隙)からなっている.地山弾性波速度に影響する因子は理論的な弾性体と異なり空隙(間隙率)が大きく影響する.

2 水と空気の弾性波速度

 水の弾性波速度(音波速度:縦波速度)は水温20℃の場合1482.9m/sec,水温15℃の場合1433m/secで,ほぼ1.5km/secである.水の20℃での密度は0.9980g/cm3,4℃でもっとも密度が大きくなり1.000g/cm3である.ここでは密度が大きくなると弾性波速度は小さくなると言う関係が成立している.
 地下水探査では1.5km/secの層が,ほぼ地下水面を表すとして扱われてきた.

 空気中の音波(弾性波)速度は100℃の水蒸気では471.5m/sec,乾燥空気では20℃の時343.5m/sec,0℃の時331.45m/secである.
 間隙水の中に気泡が入ると当然,地山弾性波速度は著しく低下する.このようなことから土木地質的には水に飽和していない土砂の境界速度が,ほぼ0.4km/sec程度を示すとされている.石油探査でのガス層の検出に弾性波速度の著しい低下が利用される.

(2004年5月3日)
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