絵鞆半島

 (2017年7月22日作成)


図0 地球岬.jpg
チキウ岬

概 要

 室蘭市街がある 絵鞆えとも 半島は,太平洋に鉤形に突き出た半島で,室蘭湾を抱くようにしている。北海道本土の 本輪西もとわにし 周辺は,鮮新世・室蘭層を覆って鷲別岳(室蘭岳)などの更新世中期の火山岩類が広く分布しているのに対し,絵鞆半島は中新世中期から鮮新世の火山岩・火山砕屑岩類が分布している。
 また,鷲別岳南山麓には海成段丘が広く分布しているのに対し,絵鞆半島には段丘は分布しいていない。

 このように,地形・地質的に絵鞆半島は独特の姿をしている。

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絵鞆半島の地形

 絵鞆半島は,東と南西が太平洋に面していて断崖をつくっている。北西は室蘭湾が口を開けている。地形的には,室蘭市役所などがある南北性の低地で二つの地域に分けられる。この低地の北西側は測量山(標高194m),ヨシサンベ山(標高140m)などのドーム状の地形が散在している。低地の東側は,母恋富士(最高点141m)など,なだらかな地形が多い。ここでは,山地は北東に向かって次第に高度を下げていき,イタンキ岬付近には低地が拡がっている。
 太平洋に面したところは,ほとんどが断崖絶壁となっているのに対し,室蘭湾側は比較的なだらかな地形となっている。


図1 絵鞆半島の地名.jpg
図1  絵鞆半島の地名

絵鞆半島の地質

 絵鞆半島の地質は,市役所のある南北方向の低地と JR 母恋ぼこい 駅から南東に延びる沢で区切られている。
 この二つの境界に囲まれた地域には,中新世・幌別層の堆積岩類と安山岩・流紋岩が分布しているのに対し,半島北西側と付け根には室蘭層のハルカラモイ石英粗面岩質集塊岩層(主に酸性凝灰岩:10.3Ma;渡辺,1992)・電信浜安山岩質集塊岩層(ハイアロクラスタイトを含む火砕岩:7.5Ma;同前)が広く分布している。これらを貫いて玄武岩質安山岩(測量山)などの貫入岩が分布している。

チキウ岬

 「室蘭図幅」によれば,チキウ岬は母恋南町から伸びてくる北西-南東方向の断層が二つに分岐した間に挟まれている。周辺に分布する地質はハルカラモイ石英粗面岩質集塊岩層,玄武岩,安山岩,変質安山岩である。

 図幅調査当時に比べて火山体の知見は蓄積されている上,水中溶岩類の噴出形態や海底での火山体形成モデルも構築されている。これらの知見に基づいてチキウ岬の地質を解釈するとすれば,どのようになるかは興味のあるところである。

 


図2 チキウ岬.jpg
図2 チキウ岬 
 灯台が乗っているのがチキウ岬である。先端部分は成層構造が見えるので水中火砕岩類であろう。
 画面ほぼ中央の栗のような形をした岩体は,貫入岩と思われる。その左の淡黄褐色の部分は変質を被っている。さらに左には水中溶岩が左傾斜で堆積している。


図3 チキウ岬の貫入岩体.jpg
図3 地球岬の貫入岩体
 比較的細かい横方向の柱状節理が見られる。手前の崖に比べると,あまり変質を被っていない。「室蘭図幅」で紫蘇輝石玄武岩としているものに相当のするだろう。
 チキウ岬駐車場から西に向かって下って行く遊歩道の途中で見ることができる。

測量山

 測量山は室蘭中心街の北西にある標高199m の玄武岩質安山岩の貫入岩で出来た山とされている。周辺には水中火砕岩類が分布している。
 


図4 測量山.jpg
図4 測量山
 中央やや右の緩い尾根を持つ山が測量山である。海岸の崖には酸性凝灰岩を主とする水中火砕岩類が見える。追直おいなおし 漁港沖から。


図5 測量山からの眺め.jpg
図5 測量山からの眺め
 手前の三角の山はヨシサンベ山で,左に白鳥大橋が見える。その向こうに羊蹄山,左に有珠山が見える。測量山から北西を眺める。
 測量山は,1872(明治五)年に函館から札幌までの「札幌本道」を造る時に,アメリカ人土木技師の A.G.ワーフィールドが,この山に登って見当を付けたとされていて,当初「見当山」と呼ばれていた。1900(明治三十三)年に陸軍陸地測量部によって一等三角点補点が設置された(現地説明版による)。

イタンキ岬の砕屑岩脈

 絵鞆半島の付け根側は,イタンキ浜付近で丘陵はなくなり平地となる。しかし,イタンキ岬,東町の旭公園,鷲別岬などのコブ状の高まりが散点している。
 イタンキ岬の北北西に採石場跡がある。そこに巨大な砕屑岩脈がある。幅は8m ほどで,高さ60m の尾根まで続いている。
 


図6 イタンキ岬の砕屑岩脈.jpg
図6 イタンキ岬の砕屑岩脈
 安山岩溶岩に入り込んだ砕屑岩脈である。安山岩の亜角礫と黄褐色の基質からなり,縦方向に礫が並んだり前の砕屑岩脈を切る構造などが見られる。この写真では,手前の部分では礫の大きさは最大で人の頭ほどであるのに対して,上の方では小さい礫が多くなる。砕屑岩脈の走向・傾斜は,N80゚E,90゚である。
 なお,砕屑岩脈に貫かれている安山岩は,図幅では岩脈としている。しかし,露頭の中段付近に赤褐色の水平な層があることや自破砕状を呈する部分があることから溶岩と考えた方が良いであろう。「登別」図幅では,この周辺に室蘭層の本輪西砂岩・頁岩互層が分布しているとしている。この地層は火山砕屑物に富んだ地層である。


図7 イタンキ岬の砕屑岩脈上部.jpg
図7 イタンキ岬の砕屑岩脈上部
 砕屑岩脈の壁に沿って礫が配列している。途中で礫の含有量が明らかに少なくなる。また,中央の真っ直ぐ上に延びる礫の列は,右下がりの礫の列を切っているように見える。

イタンキ浜

 室蘭市のイタンキ浜は,オホーツク沿岸の小清水海岸とともに「全国鳴砂ネットワーク」に加盟している。
 条件が良いと,歩くだけで「きゅっきゅっ」と鳴く場合がある。つま先を蹴り込むようにして歩くと鳴くことが多い。

 イタンキ浜の砂をルーペで見ると,透明で少し角のある石英がかなりの量入っている。石英のほかには黒色の磁鉄鉱,鉱山に由来すると思われる白色の角の取れた石英などが見える。透明な石英は,あまり円磨されていないことから,イタンキ浜の南の崖に出ている軽石凝灰岩に由来するものと考えられる。
 「鳴き砂」は「鳴り砂」とも言い,「全国鳴砂ネットワーク」は,送り仮名を付けない『鳴砂』を採用している。


図8 イタンキ浜の砂.jpg
図8 イタンキ浜の砂
 肉眼でも透明な石英が多いことが分かる。黒いのは磁鉄鉱,白色は鉱山由来の石英と考えられる。岩片が非常に少ない。
 市民団体の「室蘭イタンキ浜鳴り砂を守る会」が,1997(平成九)年以来,海岸の観察と清掃などの自主的な保全活動を続けている。

母恋富士

 母恋富士は,最高点標高141m の安山岩の山である。頂上付近は採石場跡で窪地が出来ている。その壁には鉛直に近い柱状節理が見られ,この安山岩が陸上溶岩でできていることが分かる。
  採石場跡へ行く道路の標高80m 付近に水中溶岩の露頭がある。つまり,水中での火山活動がある時期に終わり,陸上での活動に移ったと考えられる。


図9 母恋富士の柱状節理.jpg
図9 母恋富士の柱状節理
 柱状節理の発達した輝石安山岩溶岩で,この露頭では東に30゚で傾斜する流走面を持つ。この採石場は,恐らく溶岩の下底まで掘って採掘を止めたものと想像される。


図10 母恋富士.jpg
図10 地球岬から見た母恋富士 
 地球岬の北北西約1.4km に母恋富士がある。人家のある付近は水中火砕岩類が分布している。

白鳥大橋付近の地盤構成

  白鳥はくちょう 大橋は,室蘭湾口に架かる橋長1,380m の吊橋である。航路幅は300m,航路限界は54.54m である。1998年6月に開通した。
 北海道本土側(陣屋側)の主塔(P3)基礎の支持層は室蘭層の凝灰質砂岩で TP-73.0m,半島側(祝津側)の主塔(P4)基礎は室蘭層の凝灰岩で TP-57.0m と非常に深い。このため,地中連続壁工法で基礎を構築した。。室蘭層の伏在深度は,陣屋側で TP-65m 付近であった。室蘭湾の湾口付近の岩盤深度は非常に深い。


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図11 白鳥大橋
 左手前は祝津側の主塔で,中央 向こうにアンカレイジとヨシサンベ山が見える。主塔基礎の周りは,直径67m の人口島で固められている。


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図12 白鳥大橋の地質断面図(小針ほか,1996に加筆) 
 室蘭湾の湾口に建設された白鳥大橋は,岩盤深度が深く大規模な基礎工事を余儀なくされた。第四紀層が深度80m 以上まであると想定されている。

参考にした図書など(あいうえお順)

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