何を今更という感じですが、放射能の怖さについてまとめてみました。
放射能の怖さの一つは、その量が即死するほど強くても、見たり、臭いや痛みを感じたりすることができないことです。
もう一つ怖いのは、放射能を浴びてすぐに健康に影響が出なくても数年、長い時には数十年後に影響が出ることです。
すでに、1989年に日本科学者会議福岡支部核問題研究会が「原発事故ーその時あなたはどうするか!?」(合同出版)という冊子を発行しています。
この冊子で、原子力発電所で事故が発生した場合どのように進行するかを述べた部分は、今回の事故を見ているようです。下のURLでpdfファイルが入手できます。
<http://www.godo-shuppan.co.jp/index.php>
ここに示した表および図は、この冊子をもとに作成しました。
注) 2014年9月現在、このファイルは入手できません。このファイルの新版が「原発事故緊急対策マニュアル(放射能汚染から身を守るために)」(日本科学者会議福岡支部核問題研究委員会、2011年4月.合同出版.)として出版されています。
初期に放出される核種 | ヨウ素131、キセノン133、クリプトン85 |
ヨウ素131,セシウム134,テルル132, 核燃料物質の微粒子(ウラン235,ウラン238,プルトニウム239など) | |
後期に放出される核種 | ストロンチウム90,セシウム137,その他の長寿命核種 |
原子炉の燃料となる天然ウランは、ウラン238が99.27%、ウラン235が0.72%、ウラン234が微量含まれています。発電するためにウランから熱を取り出すには、ゆっくりと連鎖反応を起こさせる必要があります。そこで、遅い中性子でも連鎖反応を起こしやすいウラン235を約3%に濃縮したものを燃料として用いています。
このウラン235を原子炉内でゆっくりと連鎖反応を起こさせ、その熱で水を沸騰させて水蒸気をつくりタービンを回して発電します。この連鎖反応ではウラン235から放出された中性子をウラン238が吸収してウラン239ができ、さらにいくつかの段階を経てプルトニウム239が生じます。
このプルトニウムは、天然にはほとんど存在しない人工超ウラン元素です。しかし、現在は核実験により生じたプルトニウムが地球上いたるところに存在しています。
原子炉事故の時、「事故中期」に放出される核種としてウランやプルトニウムが検出された場合は、原子炉本体から漏れている可能性が高いと言うことになります。
ウランの核分裂ではストロンチウム90やセシウム137が生じます。ストロンチウム自体は天然に存在する元素ですが、同位体であるストロンチウム90は人工的に形成されたものです。ストロンチウムの半減期は28.8年です。ストロンチウムの特徴は身体に入った場合、カルシウムと置き換わって体内(骨など)に留まりやすいことです。
半減期の短いものから順に示します。
気体のキセノンやクリプトン、エアロゾルや蒸気と結合しやすいヨウ素が最初に出てきます。セシウムは沸点が690℃と比較的低いのが特徴です。
ヨウ素132 | 2時間 |
ランタン140 | 48時間 |
イットリウム90 | 64時間 |
モリブデン99 | 66時間 |
テルル132 | 3日(72時間:沸点1,390℃) |
キセノン133 | 5日(気体) |
ヨウ素131 | 8日(エアロゾルや蒸気と結合) |
セシウム136 | 13日 |
バリウム140 | 13日 |
コバルト58 | 71日 |
ルテニウム106 | 370日 |
セシウム134 | 2年(沸点690℃) |
コバルト60 | 5年 |
クリプトン85 | 11年(気体) |
ストロンチウム90 | 29年 |
セシウム137 | 30年 |
プルトニウム239 | 2万4千年 |
ウラン235 | 7億年 |
ウラン238 | 44.8億年 |
半減期には物理的半減期と生物学的半減期があります。物理的半減期は、一定の割合で指数関数的に原子の数が減少していきます。生物学的半減期は身体のどの器官に影響するかで変わってきます。
生物学的半減期というのは、身体に取り込まれた放射性物質が代謝機構によって排出されて、体内の放射性物質の量が半分になるまでの時間のことです。
プルトニウム239の場合、物理的半減期は24,400年です。生物学的半減期は、骨で200年、肺では500日です。
ヨウ素131は甲状腺に溜まりやすく、生物学的半減期は138日と物理的半減期より大分長くなります。
ストロンチウム90は骨あるいは全身で物理的半減期より長い生物学的半減期を示し、約50年です。身体から排出されにくい核種があることに注意が必要です。
この二つの半減期から生体への影響を考慮して計算されるのが有効(実効)半減期です。有効半減期は物理的半減期と生物学的半減期の短い方の値に近くなります。
放射性核種 | 身体の器官 | 物理的半減期 | 生物学的半減期 | 有効半減期 |
イットリウム90 | 全身 | 64時間 | 38年 | 64時間 |
---|---|---|---|---|
骨 | 64時間 | 49年 | 64時間 | |
ヨウ素131 | 甲状腺 | 8日 | 138日 | 8日 |
コバルト60 | 全身 | 5年 | 10日 | 9.5日 |
セシウム137 | 全身 | 30年 | 70日 | 70日 |
ストロンチウム90 | 骨 | 28年 | 50年 | 18年 |
全身 | 28年 | 49年 | 18年 | |
プルトニウム239 | 骨 | 24,400年 | 200年 | 198年 |
肺 | 24,400年 | 500日 | 500日 |
今回の事故でも、ヨウ素131とセシウム137が早い段階で検出されました。
ヨウ素の半減期は8日だから心配いらないと言われていましたが、被曝して健康障害が出るかどうかは放射線量によります。どの段階で、どの程度の放射線を浴びたのかが分からない状態では半減期は関係ない話です。
また、半分になったから無害というわけではないので注意が必要です。
ベクレル(becquerel) [Bq]
放射能の強さを表す単位です。放射性核種が1秒間に1個の壊変を起こす場合、1ベクレルと言います。核種によって異なりますから核種と一緒に値を示します。放射性元素の壊変のしやすさを表すSI単位です。
環境試料では「リットルごと」や「キログラム生ごと」で表します。
壊変というのは放射性核種が放射線を出して別の核種に変わることを言います。
フランスの物理学者ベクレルにちなんでいます。
グレイ(gray) [Gy]
α線、β線、γ線、X線、中性子線などの電離放射線の照射により物質1kgにつき1J(ジュール)の仕事に相当するエネルギーが与えられるときの吸収線量で、SI単位です。
吸収線量とは、吸収した放射線の量のことで、放射線が物体に当たったとき、その物体の単位質量が吸収したエネルギーで定義されます。1Gy=1J/kgです。
原子力発電所周辺のモニタリングポストでは、放射線によって空気が受け取ったエネルギー量を測定して空間放射線量率として「グレイ/時間」などで表しています。
自然状態での空間線量率は、数十ナノグレイ/時間程度です。
シーベルト(sievert) [Sv]
放射線が人体に与えるエネルギー量を表す単位で、等価線量と言います。SI単位です。
放射線が人体の外から来ている場合は、空間放射線量率(グレイで表す)の値に0.8をかけてシーベルトに換算しています。
内部被曝の場合、取り込まれた核種の放射能(ベクレルで表す)に核種ごとの換算係数をかけてシーベルトで表しています。
地面からの放射能、食物に含まれる放射能など人が普通に生活していて1年間に受ける放射能のエネルギーは世界平均で約2.4mSvと言われています。
スウェーデンの物理学者シーバートにちなんでいます。
今回の福島第一原発の事故では、2011年3月29日午後2時に浪江町赤宇木で時間あたり43マイクロシーベルトという放射線が観測されています。これは年間376ミリシーベルトになります。
赤宇木で常時この放射線を浴びるわけではありませんし、この値が人体への影響を考慮した実効線量なのか等価線量なのか記されていません。
国際放射線防護委員会1990年勧告の実効線量(一般公衆)上限は1ミリシーベルト/年です。つまり24日以上赤宇木で、この値が続くと上限を超えてしまうことになります。“緊急作業従事者”の被曝実効線量の限度100ミリシーベルトを軽く超えています。
なお、日本では2011年3月26日の放射線審議会の答申で、緊急作業従事者の限度100ミリシーベルトは250ミリシーベルトに引き上げられました。
また、国際的に推奨されている値は500ミリシーベルトです。これらはいずれも、「緊急救助活動に従事する者の線量」あるいは「壊滅的状況への発展を防止するための活動に対する線量」が対象であることに十分注意が必要です。
放射能の怖さを和らげようと良く引き合いに出されるのが、X線を使った医療診断時に受ける放射線量や自然界にある放射線を人は常に浴び続けているという話です。
人が受ける自然界の放射線は前述したように2.4ミリシーベルト/年(0.27×10-3ミリシーベルト/時間)です。また、これも前述したように国際放射線防護委員会では、一般人の実効線量限度を1ミリシーベルト/年としています。
放射線検査では、胸部で0.1ミリシーベルト、胃透視で15ミリシーベルト、CT検査で20ミリシーベルト以下と言われています。これらの検査は長くて1時間程度ですが、自然界から1時間に受ける放射線に比べれば桁違いに大きな量です。実際には、放射線検査で健康障害が出ることは、ほとんどないと考えて良いと思います。しかし、CTスキャンの機器では、いかに放射線量を少なくするかの開発が行われています。
一方、放射線検査を行う事業所では、3ヶ月間に1.3ミリシーベルトを超える恐れのある区域を「管理区域」として標識を明示することになっています(電離放射線障害防止規則第3条)。つまり、5.2ミリシーベルト/年の放射線が発生する区域が管理区域となります。
そして、管理区域内で作業する人は50ミリシーベルト/年(5年間で100ミリシーベルト)を超えないように規定されています(同第4条)。この50ミリシーベルト/年という放射線量は0.006ミリシーベルト/時です。比較的長時間、放射線を浴びる人については、慎重な配慮がなされているのです。
こう見てくると、浪江町赤宇木の放射線レベル(0.043ミリシーベルト/時)が、いかに強烈か分かると思います。
どんな少量の放射線でも被曝すればガン発生の可能性は高まります。また、ガンの発生確率は被曝した放射線量に比例します(図1参照)。
乳ガンの場合、300ミリシーベルトで発生確率が2倍になります。このようにガンの発生確率が2倍になる線量を倍加線量と言います。
ただし、疫学調査では、被曝線量とガンの発生確率は直線関係で、ある線量以下であればガンに対して安全であるという「閾値(しきいち)」は存在しないと言うことが分かっています。この点に注意が必要です。
つまり、放射線はできるだけ浴びないのが生命にとっては良いのです。