大飯原発の“地すべり”と東通原発の“膨潤”

 (2012年12月15日作成)

 原子力規制庁による活断層調査が行われている.その中で,発電事業者から敷地内の破砕帯について,地すべりあるいは膨潤によってできたものであると言う主張がされているという報道がある.
 長年,地質技術者として,土木関連工事に関わってきたものとして見過ごすことのできない点があると感じる.
 現在までに,原子力規制庁の現地調査が終わった大飯原発(再調査)と東通原発の破砕帯について,電力事業者の主張の疑問点を述べる.


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大飯原発の「地すべり」

 地すべりというのは,重力の作用によって「斜面を構成する物質が斜面下方へ塊の状態で運動する現象」(大八木,2004,3p)である.

 今,大飯原発で問題となっている「地すべり」による破砕帯は,斜面の傾斜方向にほぼ並行している.しかも,基盤岩を含めて逆断層のセンスで変動している.
 このことから言えるのは,1)トレンチに出ている破砕帯は,すべり面の側部を見ている,2)今回掘削されたトレンチでは,地すべりの底面(すべり面本体)が見えていない, と言うことである.
 このような地すべりが,どのような機構で形成されたのか説明するのは非常に難しい.トレンチ箇所は,地すべりの末端付近に地すべり移動方向に直交して掘られているので,逆断層の破砕帯は地すべり移動方向と直交する方向に動いたことになる.

 文献で示した関電報告書を見ると,破砕帯は「蛇紋岩中で起こった地すべりを想起させる。」(関電報告書,24p)としている.そして,基盤岩の直上のD層は土石流堆積物で,形成された時代はMIS7〜MIS6(約25万〜13万年前)と推定している.このD層は,地すべりによって変位している.

東通原発の「膨潤」

 膨潤という地質用語は,層状構造を持つ粘土鉱物の層間に,水分子が浸入して層の間の距離を広げて体積を増大させる現象である.膨潤性粘土の代表であるベントナイトでは水を含むと10倍程度まで大きくなる.

 東北電力の報告書の14ページには「小断層s-19の第四系変状の成因・形成メカニズム」が図入りで載っている.
 それによると次のような形成メカニズムが述べられている.
 この付近を構成する泊層はモンモリロナイトを多く含んでいて,この地層が海退期に地下水の低下に伴って岩盤劣化した.
 その後,海進により地下水面が上昇して劣化した岩盤に含まれている粘土鉱物の膨潤によって小断層s-19に沿って西側の岩盤が上昇した.
 小断層s-19は,トレンチ上部では西側から東側へ乗り上げる逆断層となっているが,トレンチの小段から下では逆傾斜になっていて「逆くの字型」になっている.これを説明するために,「膨潤」モデルが考えられたようである.

 小断層s-14は洞爺火山灰層堆積後に上昇,変形した可能性が考えられるとしている.この断層も西側が上昇している.
 原発敷地南端にあるF-9断層は西落ち高角の正断層のセンスを持つが,これも岩盤劣化部の上昇によって形成されたもので,断層で形成されたものではないとしている.

『活断層の専門家は「世界的にもまれな解釈で、聞いたことがない」などと疑問視している。』(北海道新聞 2012年12月14日「膨潤と断層」)という意見があるとおり,粘土鉱物の膨潤によって,ある面を境に地盤が上昇したという現象は恐らく例が無いと考えられる.
 膨潤性粘土の代表であるベントナイト鉱床周辺では地形は浸食によって,なだらかになり地形図で追えるほど等高線が粗になる(例えば,北緯44度18分07秒,東経141度52分41秒付近の地形).このような地形は,数100万年を経て形成されたものであり地質状況も異なるので同列には論じられない.しかし,東通原子力発電所周辺の変状が地盤全体の膨潤で地盤が上昇したことに依るもので,その後,10万年以上その地形が残っているというのは考えられない.

 このような解釈のもとで原子力発電所の審査が行われ建設されてきたことは驚くべきことと言わざるを得ない.活断層と判定された場合の影響の大きさは分かるが,今からでも遅くはないので変動地形学の専門家の意見を取り入れて抜本的な対応をするのが賢い選択だと思う.

文献など(順不同)

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