トンネルの事前地山分類と支保工実績(その2)

  トンネルの地山分類要素は岩石の硬さ(一軸圧縮強度),地山弾性波速度,岩質,不連続面(層理面,節理,シーム,断層など)の状態や間隔,ボーリングコアの状態などである.
これらの要素のうち弾性波速度はトンネル全線にわたってデータが得られるために地山分類の主要な要素となっている.

 弾性波速度は岩盤のヤング率(縦弾性係数)に左右されるとされている.弾性係数は鉱物組成,固結度,亀裂状況,空隙率,風化・変質・含水状態,封圧(周圧:自荷重圧)などの要因によって大きく変化するといわれている(例えば,伊藤ほか,1998,3p).また,水で飽和した地層では岩石供試体の超音波速度と間隙率に左右されるとされている.

地山弾性波速度を主要な要素として地山分類を行う場合注意すべきことは

「頁岩,粘板岩,片岩などで褶曲などによる初期地圧が潜在している場合,あるいは微細な亀裂が多く施工時にゆるみやすい場合には,実際の地山等級よりも事前の弾性波速度によるものが過大に評価されることがある.」
(日本道路公団設計要領第三集,1997,72p)

ということである.

 この点を考慮して事前設計の支保パターンを決定した事例としては,愛知県北設楽郡設楽町と東加茂郡下山村を結ぶ新段戸トンネルがある(岡本ほか,2003,トンネルと地下,第34巻,5号,7-15.).このトンネルの地質は領家変成岩類で泥質および砂質片麻岩と古期花崗片麻岩,新期花崗岩から構成されている.

新段戸トンネルの物性値
地山弾性波速度最大5.0km/secで3.5km/secの低速度帯が挟在する.
一軸圧縮強度112MPa(1,120kgf/cm2) :新鮮な片麻岩
単位体積重量25.5kN/m3(2.55g/cm3)
超音波伝播速度5.4km/sec

新段戸トンネル一般部の事前設計支保パターン選定基準
弾性波速度3.0-4.0km/secの漸移帯および3.5km/secの低速度帯割れ目の発達した部分.支保パターンを1から2段階下げてDIとする.
泥質片麻岩の分布区間弾性波速度が5.0km/secであってもCIIとし前後にCIの漸移帯を設けた.
弾性波速度5.0km/secで花崗片麻岩の分布区間CI-B

 以上のように地山の特性に十分注意して事前支保パターンを決定したが,施工ではBパターンがなくなりCIおよびDIの比率が減少しIIパターンが半分近くを占めるという結果となった(下の図参照).また,DIIパターンがないのは剥離性構造を示す地山の特徴の一つと考えられる.

shindanto41.jpg
(「トンネルと地下」の記事から読みとって作成したので正確な数値ではない.)

 不連続面の性質に左右される地山はの評価は弾性波速度のみで分類すると大きく予想が外れることがあり,地質条件を十分考慮する必要がある.
 このような性質を示す岩盤の特徴は地質構造的応力を受けた履歴を持っていることである.理学的には低変成の鉱物の種類と圧力溶解劈開の存在,変形構造が目安となる.これらの現象を工学的地山分類に取り込むことは難しいので地質的な検討を行い地山等級を下げることで対応するのが実際的である.


参考文献

伊藤芳朗,楠見晴重,竹内篤雄編,1998,斜面調査のための物理探査―地すべり・地下水・岩盤調査―.吉井書店.

岡本勝雄,稲熊隆夫,山本高央,難波進,2003,剥離性構造を示す地山の評価 新段 戸トンネルの地質と施工.トンネルと地下,第34巻,5号,7−15.

田中崇生,古谷栄治郎,石井正之,2002,付加体頁岩中で発生した,トンネル掘削後 の割れ目によるゆるみの性状.トンネル工学研究論文・報告集,第12巻,183−188.


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