北海道自動車道 穂別トンネル,ユーパロトンネル

(2007年10月11日作成)

 今月21日に道東道のトマムインターチェンジから十勝清水インターチェンジの間が開通する.
 札幌から帯広・釧路方面に行く場合の最大の難所であった日勝峠の上り下りが大幅に改善される.特に冬の日勝峠は,雪でスリップしたトレーラートラックがジャックナイフのように折れ曲がって道をふさぎ,一時通行止めの状態になったり,視界が全く効かない猛吹雪になったりして交通網の大きな弱点となっていた.
 現在,夕張からトマムの間が急ピッチで工事が行われているが,夕張に代表される炭田地帯や神居古潭帯の蛇紋岩地帯を通過するこのルートは,難工事が予想されていた.
 今回,400mの土被りで蛇紋岩地帯を抜く穂別トンネルと幌内層の破砕帯を抜くユーパロトンネルの切羽を見学した.いずれのトンネルも,これまで何回かの切羽崩落を経験している.


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ユーパロトンネル

 ユーパロトンネルは国道274号(樹海ロード)の登川付近にあるトンネルで,延長は1,955mである.地質は古第三紀の幌内層(約3,400万年前)の泥岩で岩片自体は最大25MN/m2とやや硬質であるが幅2cm程でテカテカの鏡肌が発達している.見学した切羽では,この鏡肌がきらきらと光って見えた.掘削によって体積膨張しこの鏡肌から分離して切羽崩壊が発生するようである.

 切羽には水はあまり付いてこないが,メタンガスが発生している箇所がある.この対策として,24時間送風,風速0.3m/sec以上,ガス濃度の常時測定のほか,局所ファンや送風用の発電機設置などを行っている.

 このトンネルでは,帯広側坑口に石炭の掘削土砂であるボタ山がある.このボタ山は間隙率40%,N値15の礫質土から構成されているため,注入工法とAGF工法でトンネル周囲を防護して掘削することにしている.一軸圧縮強度で1N/mm2を目標に改良する.

 掘削中の変位は沈下量が最大145mm,上半水平変位量が85mmで,一部で縫い返しを行っているが土被りは40m程度の箇所で大きな変位が発生している.事前調査でDIとされていた区間の90%はDIIに変更して施工している.

yuparo1.jpg写真1 ユーパロトンネル 夕張側坑口

 現在,札幌から274号を帯広に向かうと夕張市街への三叉路を過ぎた先の道路右側で大切土工事が行われている.この切土工事の部分は地すべり対策工を施工している.
 高速道路は,その先でJRと国道と川を横断してユーパロトンネルの坑口に達する.坑口は小さな沢を横断して取り付いている.
 地質は幌内層の泥岩で地形はなだらかである.

yuparo2.jpg写真2 ユーパロトンネルの増ボルト区間

 手前が通常のパターンボルトで,ボルトの座金が青く塗ってある区間が増ボルトをした区間である.
 下の2本のボルトは,下半に施工されたものである.

yuparo3.jpg写真3 ユーパロトンネルのメタンガス湧出地点

 この写真では分からないが,水の中から泡が常時発生している.

yuparo4.jpg写真4 ユーパロトンネルの切羽

 ほとんど均質な泥岩からなる.全体に30〜50°左下がりのシームが見られる.泥岩の亀裂間隔は3cmほどで亀裂表面はぴかぴかの鏡肌となっているため,切羽がキラキラと光っている.
 ピックで容易に崩せるほどの“岩盤”である.

yuparo_sketch001.jpg写真5 ユーパロトンネルの切羽スケッチ

 トンネルの方向は北から約125°で,東南東に向いている.
 図に示した走向・傾斜はNEXCOで推奨されている表示方法で,走向はトンネル軸に対して左右に何度寄っているかを示し,傾斜は見た感じでの大まかなものである.支保工建て込みまでの短時間で不連続面の走向・傾斜のデータを効率的に取得できる.

yuparo_sump.jpg写真6 ユーパロトンネルの幌内層サンプル

 切羽のどこでも,この程度の小岩片となるくらい鏡肌が発達している.右半分は鏡肌で表面に粉状の方解石が付着している.
 均質で無層理の岩片で,割ると貝殻状の断口(劈開面以外の割れ口)が発生する.

穂別トンネル

 穂別トンネルはJR石勝線新登川トンネルの北側をほぼ並行して走る延長4,323mの長大トンネルで,本坑のほかに4,304mの避難坑を掘削中である.トンネル中心部付近は土被り400mで蛇紋岩が出現する.

 夕張側坑口付近の地質は中部蝦夷層群(約1億年前)の泥岩で構成され,中心部には蛇紋岩があり,帯広側はジュラ紀〜白亜紀の(約1億5千万年前)のハッタオマナイ層の粘板岩類と新第三紀中期中新世(約1,500万年前)の滝の上層(ニニウ層群下部層)の泥岩類が分布している.

 見学した切羽(2007年10月5日)はTD530である.切羽の地質は著しく破砕された泥岩で,ほとんど土砂状の地山である.この泥岩から出てくる地下水は古海水で塩分濃度は5%で,舐めてみるとかなり塩辛い.

 本坑はまだ蛇紋岩に達していないが,泥岩でもインバートのストラットが挫屈し脚部沈下量が90mm,水平内空変位量が120mmとなっている.避難坑を先行して施工しているので,このデータを用いて本坑の支保パターンを設定することにしている.

hobetsu1.jpg写真1 穂別トンネル本坑 夕張側坑口

 坑口までは,国道274号の穂別ダムの橋を渡っててすぐ左に曲り,かっての林道を延々と上っていく.冬のことを考えると非常に厳しいアプローチである.
 地質は中部蝦夷層群の泥岩であるが著しい破砕作用を受けている.緑色岩が泥岩中に含まれているという話で,典型的な付加帯堆積物である.

hobetsu2.jpg写真2 避難坑の夕張側坑口

 本坑の掘削幅約12mに対して,避難坑は5.3m程度で側壁直の断面である.

hobetsu3.jpg写真3 穂別トンネルTD530の切羽下半右下

 全体に破砕して小礫が形成されている泥岩である.中央部に部分的に硬質な泥岩が分布している.

hobetsu_sketch001.jpg写真4 穂別トンネルTD530切羽のスケッチ

 全体の構造は不明であるが,主要な不連続面の形態から見ると著しく褶曲している可能性がある.

hobetsu_sump.jpg写真5 穂別トンネルTD530付近のサンプル

 左:著しい破砕を受けた泥岩で,手で容易に割ることができる.
 右:切羽中央部の硬質な泥岩で葉理が見られる.


 なお,今回の見学会は,北海道土木技術会トンネル研究委員会主催のものです.
 東日本高速道路株式会社北海道支社 千歳工事事務所では,トンネル現場見学を受け入れています(電話 0123-22-8870).日本でも屈指の難工事トンネル群の施工状況を見学できる機会を大いに利用し,地質と土木への理解を深めるのがよいでしょう.

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