付加体堆積物の形成過程

1 付加体とは
2 付加体堆積物の工学的問題点

 付加体堆積物は日本列島の骨格を形成している.ジュラ紀付加体である美濃丹波帯,白亜紀から古第三紀の四万十帯などである.これらの地質体は海洋プレートの沈み込みにより大陸に付加され,激しい褶曲運動や断層運動を受けている.このため,全体に破砕されていたり不連続面が発達していて,土木工事などの人工改変により予想外の応力が発生することが多い.

 ここでは,付加体がどのように形成されたのか,土木地質的にはどんな点に注意が必要なのかに付いて述べる.


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1 付加体とは

 地球表層を覆うプレートは,太平洋や大西洋で上昇してくる玄武岩が海洋を移動して大陸に衝突して沈み込むという運動を行っています.

 上昇してくる玄武岩マグマは,海底火山ですから枕状溶岩が形成されます.この枕状溶岩がプレート運動で海洋を移動している間に,石灰質のプランクトンの死骸からなる石灰岩,放散中の遺骸を主とするチャート,風で大陸から飛ばされてきたチリ(粘土や石英粒)が堆積した赤色頁岩が堆積します.

 プレートが陸に近づくと島弧から飛んできた火山灰も堆積します.さらに,大河川から流入してくる砂や泥もたまり始め,海溝付近では大陸棚斜面を流下してくる混濁流(海底地すべりにより発生)で,泥と砂の互層からなるタービダイトが堆積します.

 沈み込む場所は海溝やトラフ(舟状海盆:しゅうじょう・かいぼん)ですが,この時に海洋底にたまっていた一連の堆積物が剥ぎ取られて陸側に押しつけられて,陸側斜面先端部に付け加えられ,多くの逆断層で積み重なった楔(プリズム)状の断面を持つ堆積体が形成されます.これが付加体です(図1参照).


図1 付加体の形成過程

 付加体の特徴は,断層で境されたいくつかのユニットからなり,それぞれのユニットは見かけでは上位となる陸側ほど古くなっています.全体の構造は陸側に傾斜していることから,下のものほど地質時代が新しいという構造を取ります.これは,「地層累重の法則」に反した堆積構造です.

 さらに,沈み込み帯ではプレートの沈み込みに伴う応力集中により枕状溶岩や遠洋性堆積物が付加体に取り込まれたり,遠洋性堆積物が海底地すべりを起こしたりといった運動が発生して地質構造が複雑となっています.
 この結果,付加体では著しい破砕作用を受けた泥質岩の中に,硬質な砂岩や遠洋性堆積物であるチャートのブロック,海洋地殻である玄武岩類が取り込まれた構造を示す部分が形成されます.このように,さまざまな岩種が混在した地質体がメランジです.

 時代的には,白亜紀〜新第三紀の付加体である四万十帯が有名ですが,ジュラ紀付加体の秩父帯,美濃帯なども建設工事で遭遇する地質です.
 また,静岡地方の鮮新世の砂岩・泥岩互層も付加体と考えることが出来ます.北海道では空知―エゾ帯が建設工事で問題となる付加体です.

2 付加体堆積物の工学的問題点

 工学的に最も問題となるのは,チャートや緑色岩あるいは砂岩といった硬質な岩塊が,泥岩(粘板岩)のような軟質な基質の中に分布しているような場合です.
 このような地山の工学性は,破砕され粘土化した基質の粘板岩によって規制されます.基質を構成する粘板岩はたいていの場合,一軸圧縮強度が1MN/m2(10kgf/cm2)以下で,しかも鏡肌が発達しているので,どこから破壊してもおかしくない状態となっています.

 水が着いた場合,極端に強度が低下するのも大きな特徴です.潜在的に蓄積されていた地質構造的応力が解放されることにより,土工を行った地山の周辺に微少クラックが発達し水が集まってくるために吸水率が増加することが大きな要因と考えられています(例えば,仲野,1975).

 さらに注意を要するのは,付加された時の圧力と温度の上昇により泥岩中に含まれる硫黄バクテリアの遺骸と鉄が反応して黄鉄鉱が形成されることです.
 このような黄鉄鉱は,結晶度が低く反応しやすいために,風化により水溶性の硫酸塩(例えば,鉄明礬(テツ・ミョウバン))を作り,雨水が触れるだけで強酸性水(pH2以下)に変化します.このような掘削土は捨て土に際して試験を行い必要な対策工を検討する必要があります.

 このような付加体形成の一般的なプロセスを知っておくと,やや広い範囲で地質を見た場合,地質のつながりを推定する大きな助けになります.
 すなわち,粘板岩の基質の中に含まれるブロックが,石灰岩主体であれば海嶺からあまり離れていない位置で形成されたものであり,チャートであれば深海底で形成されたものです.砂岩のブロックが目立つようであれば,陸に近い位置で形成された堆積物と考えてよいことになります.

 このことは,たとえばトンネルの場合,切羽前方の地質を予想する場合重要で,チャートが出現するのであれば硬いので非常に掘削しにくくなり,石灰岩が出るのであれば空洞が形成されていて突発湧水の可能性が考えられます.


参考文献

(2001年4月22日,2002年12月8日修正,2011年11月10日再修正)


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