神居尻山

 (山行:2016年8月11日−山の日− 作成:2016年8月14日)

概 要

 東を石狩川,西を当別川,北を徳富川(とっぷ・がわ)に挟まれた山地は,樺戸山地と呼ばれる.その北西にある標高947mの山が,神居尻山(かむいしり・やま)である.

 「カムイ・シリ《と言う吊前の山は,北海道の各地にある.kamui-shir は「神の・山《という意味で,畏敬されてきた山に付けられる吊前である.この神居尻山も標高は1,000mに満たないが,どっしりとした山容と三番川源流の深い谷が印象的である.

 樺戸山地と当別川を挟んだ西側の増毛山地とには,前期白亜紀(1.45億年前〜1.00億年前)の海成堆積岩類が分布している.この中で,神居尻山周辺は惣富地川層(そっちがわ・そう)の黒色粘板岩が広く分布している.
 惣富地川層の上位には,整合関係で神居尻山を取り囲むように神居尻山層が分布している.この地層は礫岩と砂岩・泥岩互層とからなる.礫岩は径1〜5mmの亜角礫を主とするもので,礫種は黒色粘板岩,砂岩,白色チャートなどのほかに斑れい岩質岩を含む.

 神居尻山の登山道は北からAコース,Bコース,Cコースの三つがある.
 Aコースは神居尻山の北を回り込むようにして尾根伝いを登り,避難小屋のある東の根から頂上に達する.
 Bコースは,もっとも一般的なコースで,842mピークから北西に伸びる尾根に取り付き頂上へ行く.尾根に取り付くまでの斜面がきついが,あとは比較的楽である.
 Cコースは,842mピークの西側の尾根を登って行く.842mピークへの登りがきつい.

 今回はBコースから登り,Cコースを降りてきた.後半,足が疲れた状態でのBコースの階段下りはきついと考えられる.842mピークからは,往復1時間見れば大丈夫である.


*:惣富地川層の由来となっている惣富地川は,新十津川町市街の西で徳富川に南から合流する川である.現在は,総富地川(そっち・がわ)と表記されてている.


図1 神居尻山.jpg
図1  神居尻山
 「道民の森 神居尻地区」への取り付け道路付近から見た神居尻山である.この写真では分かりにくいが,神居尻山は中央やや右の屋根型の峰で,右手の842mピークから続く尾根の後ろにある.842mピークからは一度,鞍部へ降りて急斜面を登って行く.

道民の森 神居尻地区からのBコース

 このコースは707m尾根に取り付くまでは,ほとんど露頭がないが,標高460m付近で右手に表層崩壊があり泥岩が見られる.

 さらに標高590m付近の登山道には,「月形図幅」で神居尻山層の玢岩としている岩石が出てくる.
 この岩石は,ほぼ惣富地川層と神居尻山層の境界に沿って,北西−南東方向に長軸を持つ楕円形の分布を示している.北側は中新世の堆積岩類に覆われてはっきりしないが,北北西−南南東方向に約15km,東北東−西南西方向に8kmの大きさである.

 「月形図幅《では,「神居尻山層と惣富地川層との境界付近には、厚い玢岩(安山岩)質の集塊岩・熔岩ないし岩床が発達する。《としている.
 また,神居尻山層の中にも小規模に安山岩様のひん岩が出現し,「月形図幅《では神居尻山層の堆積とひん岩の活動が同時期であるとしている.


図2 ひん岩.jpg
図2 登山道のひん岩
 登山道に泥岩の転石が出なくなる辺りにこの露頭がある.方状節理が発達している.ここでは,風化が著しく割っても風化面しか出てこない.

 きつい階段上り約1時間10分で842mピークから北西に延びる尾根に着いた.神居尻山の山頂が見える.ここからは,多少の上り下りはあるが比較的楽な歩きで,登山道には露頭も多い.
 大部分が礫岩で,砂岩も所々に出ているほか,ひん岩も見られる.安山岩のような石も出ている.比較的連続して露頭が出てくる.
 やがて842mピークに着く.


図3 700m尾根からの神居尻山.jpg
図3 700m尾根からの神居尻山
 左が神居尻山の山頂で左の三角の峰が842mピークである.まだ二つほど峰を越えていかなければならない.


図4-1 砂岩露頭.jpg
図4-2 新鮮な砂岩 .jpg
図4-1 登山道に出ている砂岩露頭
 標高715m付近の登山道に出ている砂岩露頭である.非常に硬い.
図4-2 砂岩の顔つき
 石英と主とし黒色チャートの岩片を含む.いずれもあまり円増されていない.


図4-3 745m付近の礫岩.jpg
図4-3 標高745m付近の礫岩
 登山道に出ている礫岩である.礫径は10mm以下の中礫で,礫種は泥岩やチャートが多い.シャープペンシルの赤いノックの長さは24mmである.


図5-1 砂岩泥岩互層露頭.jpg
図5-2 砂岩 .jpg
図5-1 砂岩泥岩互層露頭
 標高770mのコブ付近に出てくる砂岩泥岩互層の露頭である.
図5-2 砂岩の顔つき
 登山道に転がっている砂岩で,弱い堆積構造が認められる.


図6 842mピークから山頂.jpg
図6 842mピークからの見た山頂
 所々に黒色泥岩を挟んでいるが,ほとんど全山が礫岩である.斜面に見られる崩壊地も礫岩と考えられる.特に,右側(南側)の斜面の傾斜がきつく,平均傾斜55°で一気に350mほど落ち込んでいる.

 842mピークから頂上までは礫岩の細い尾根を登って行く.所々に泥岩が見られる.斜面には表層崩壊がかなり多く見られる.礫岩が上連続面で人頭大くらいの岩塊に分離しやすく, 崩壊を起こしているようである.
 所々で見られる黒色泥岩は,細片化しやすいが硬質である.

 山頂は,着いたと思ったらその先に階段があり,なかなか遠い.ほぼ全面的に礫岩である.


図7 山頂下の泥岩.jpg
図7 標高815m付近の黒色泥岩 
 山頂への登山道で見られる新鮮な黒色泥岩である.細片化しやすいが岩片は硬い.


図8 山腹の露頭.jpg
図8 山腹の露頭 
 山頂への登山道の標高835m付近で見られる露頭である.直接確認はできないが,硬質な砂岩と推定される.


図9 山頂の礫岩.jpg
図9 山頂の礫岩
 山頂は礫岩である.ここでは,含まれる礫は亜角礫で最大径40mmほどの中礫(pebble)が中心である.固結度は良いが上連続面から分離しやすい.写真のシャープペンシルのクリップの長さは4cmである.

 神居尻山の山頂への登山道は三つある.今回はBコースから登ったので,一番南のCコースを降りた.842mピークからの下りが少しきついが,そのあとは林の中のなだらかな道である.露頭はほとんど見ることができない.


図10 礫岩の崩壊.jpg
図10  礫岩の崩壊
 Cコースの標高810m付近の登山道で見られる崩壊地である.地質は礫岩で,人頭大ほどの大きさで割れやすく崩壊している.


図11-1 Cコース560mの泥岩.jpg
図11-2 泥岩 .jpg
図11-1 泥岩露頭
 Cコースの標高560付近の登山道に出ている泥岩である.
図11-2 泥岩の顔つき
 黒色泥岩で割合硬質である.走向・傾斜は,NS, 70゚Eである.やや動いているかもしれない.


図12 泥岩の崩壊地.jpg
図12 泥岩の崩壊地
 Cコースの標高570m付近の泥岩の崩壊地である.泥岩が細片化して表層崩壊を起こしている.この崩壊地は遠くからでも,はっきりと見える.

参考にした図書など

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