帯磁率の地質工学への利用

1. 花崗岩類の磁鉄鉱系列とチタン鉄鉱系列
2.火山岩の帯磁率
3.堆積岩の帯磁率
4.帯磁率の地質工学への利用
5.携帯型帯磁率計

 帯磁率というのは,磁化の強さと磁場の強さの比で磁化率ともいう.岩石では,磁鉄鉱などの磁性鉱物を含んでいるかどうかでその値が左右される.このことが岩石の識別や風化・変質の程度の指標として利用できる.すなわち,火山岩などでは,新鮮なものほど帯磁率が高く,風化あるいは変質により磁性鉱物である磁鉄鉱が磁性の弱い赤鉄鉱や褐鉄鉱に変化すると帯磁率は小さくなる.
 この帯磁率の地質工学へ利用について述べる.


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1. 花崗岩類の磁鉄鉱系列とチタン鉄鉱系列

 日本の花崗岩類の分類は,組織と鉱物組み合わせによる岩相区分で分けられていた.すなわち,花崗岩は体積にして70%以上が,斜長石,アルカリ長石,石英などの無色鉱物からなる.したがって,これらの無色鉱物の量比によって分類されてきた.

 これに対し,不透明鉱物の種類と量に着目して花崗岩類を分けたのは,石原(1977)である.
 すなわち,花崗岩の帯磁率の違いをもとに磁鉄鉱系列とチタン鉄鉱系列に分け,野外では磁鉄鉱の有無や携帯型帯磁率計による帯磁率を用いて両者を識別した.
 この違いは,花崗岩マグマの生成に関与した物質の性質を反映している.

 それぞれの系列の特徴をまとめて示す.

表1 磁鉄鉱系列とチタン鉄鉱系列の諸元
項目磁鉄鉱系列 チタン鉄鉱系列
不透明鉱物 磁鉄鉱(0.2〜2容量%),チタン鉄鉱,赤鉄鉱,黄鉄鉱(黄銅鉱),くさび石,緑れん石 チタン鉄鉱(0.2容量%以下),磁硫鉄鉱,(グラファイト)
黒雲母(角閃石)の性質Fe3+/Fe2+,Mg/Fe が高く,屈折率低い. Fe3+/Fe2+,Mg/Fe が低く,屈折率高い.
ザクロ石−白雲母−黒雲母花崗岩,白雲母花崗岩はこの系列.
簡易識別方法研磨片,薄片上の低倍率観察による磁鉄鉱の有無.
野外における磁石鑑定法では,肉眼的に磁性を持つことが分かれば磁鉄鉱系列としてよい.
化学的性質塩基性に富み,酸性岩でも親石元素(K,Rb,F,Li,Sn,Beなど)に乏しい.一般に酸性で,親石元素に富む.
同位体組成δ18O は小さい.
δ34S は大きい.
87Sr/86Sr 初成値は低い.
δ18O は大きい.
δ34S は小さい.
87Sr/86Sr 初成値は高い.
産出位置縁海側(大陸側)の産出.大洋側の産出.
形成過程 上部マントルや地殻下部のような深所で発生し,地殻物質と反応しにくい機構(割れ目を充填上昇するなど)で上昇固結したと予想される.大陸地殻の頁岩を含む岩石の溶融により生成したか,深所で発生したマグマが上昇過程で堆積岩類と反応した可能性が大きい.
日本での代表的産地北上山地,山陰帯 日高中軸部,領家帯

 一方,オーストラリア東部の古生代花崗岩の研究から,チャペルとホワイトが泥質変成岩に類似した花崗岩のあることを明らかにし,これを「Sタイプ花崗岩(S=Sedimentary Rock)」と名付けた.また,普通角閃石のようなカルシウムに富む鉱物を持った普通の花崗岩を「Iタイプ花崗岩(I=IgneousRock)」と名付けた.その後,「Mタイプ花崗岩(M=Mantle)」,「Aタイプ花崗岩(Alkali)」とが提唱された.
 IタイプやMタイプは磁鉄鉱系列に,Sタイプはチタン鉄鉱系列にほぼ相当する.

2.火山岩の帯磁率

 火山岩も帯磁率に変化が見られる.中国地方の流紋岩類を見ると,山陰地方では磁鉄鉱系列が多く,山陽地方ではチタン鉄鉱系列が大部分を占める.安山岩ではより鮮明で,山陰地方ではほとんどのものが磁鉄鉱系列に属している.
 山陰地方で昔から「たたら」と呼ばれる製鉄業が栄えたのは,これらの火山岩,深成岩から洗い出された磁鉄鉱の砂鉄が産したからである.

 新第三紀の花崗岩類は,中央構造線の南側および北海道の日高山脈より東側の外側深成岩帯ではチタン鉄鉱系列が多くなっているのに対し,東北日本の奥羽山脈より西側および山陰地方の内側深成岩帯およびフォッサマグナ中では,磁鉄鉱系列が圧倒的に多くなっている.

3.堆積岩の帯磁率

 堆積岩は後背地の地質により帯磁率が左右される.その中では、チャートなどの遠洋性堆積岩や石灰岩は帯磁率はほとんど0.00となる.陸から供給された土砂が堆積したタービダイトなどはやや高い値を示す.孔隙率の大きな(含水率の高い)シルト岩ではマイナスの値を示す場合がある.これは水が反磁性体で帯磁率がマイナスとなることを反映しているものと考えられる.

 なお,余談であるが,最近は帯磁率異方性測定からメランジなどの構造解析が行われている.

4.帯磁率の地質工学への利用

 帯磁率は次に述べるような応用が可能である.

(1) 堆積岩と火成岩との識別
 肉眼官邸をする場合,間違いやすいものとして黒色泥岩と玄武岩がある.これらは相対的に玄武岩の方が帯磁率は高くなる.一般に,黒色泥岩は水深のある水底で形成されるので,磁鉄鉱(比重5.2)のような重鉱物(比重2.85以上の鉱物)は運ばれにくい.これに対し,玄武岩は磁鉄鉱を含むことは普通であり帯磁率は相対的に高くなる.
 その他にも,凝灰岩とシルト岩なども帯磁率により識別できる可能性がある.

(2) 風化区分への適用
 一般に,火成岩は含まれている磁鉄鉱が風化作用によって分解し,磁性を失っていく.このため,露頭やボーリングコアで連続的(例えば,10cm毎)に帯磁率を測定すると風化曲線を描くことが可能となる場合がある.
 また,花崗岩が風化して形成されるマサと火山灰との識別が難しい場合がある.この場合も,マサはほとんど磁性を示さないので火山灰の方が相対的に高い値を示す.

(3) 岩体あるいは噴出単元の識別
 安山岩などの火成岩では,空気と急激に接触した部分は赤褐色(レンガ色)になる.これは,マグマが固化するときに空気と触れて中の鉄分が酸化し赤鉄鉱が形成されるためである.つまり,磁鉄鉱が形成されにくい条件となる.
 したがって,風化区分と同様に連続的に帯磁率を測定することにより,肉眼では見分けにくい岩体の境界や溶岩の噴出単元を識別できる.

帯磁率柱状図

 付加体堆積物中のボーリングコアの帯磁率柱状図である.
 深度6m付近まではやや変質した玄武岩で,一部赤鉄鉱が形成されている.
 2 SI Units以上の値を局部的に示しているが,磁鉄鉱の農集部分があるのかもしれない.
 深度6m〜10m付近までは砂岩と頁岩がほぼ等量の細互層で,データがまばらになっている部分は粘土化が著しくコアが採取されていない.
 ここでも局部的に2 SI Units に近い値を取る部分がある.
 深度10m以深は帯磁率がマイナスとなっている.
 深度11m以深で “-1” 付近の一定の値を取っているのは帯磁率の測定限界以下の値である.
 なお,この柱状図を対数表示にすると変化がより鮮明となるが,マイナスの値があるので普通表示とした.

5.携帯型帯磁率計

 携帯型の帯磁率計は,「カナダExploranium社製のKT-9」が取り扱いも簡単で野外向きである(http://www.raax.co.jp/).
 取扱説明書によれば,この測定器は室内での測定との誤差は10%程度で,測定される帯磁率は真の帯磁率である.感度は1×10-5 SI Units である.

参考文献

石原舜三,1980,花崗岩と流紋岩.岩波講座 地球科学15 日本の地質,105-141.
高橋正樹,1999,花崗岩が語る地球の進化.岩波書店.


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