札幌の南西にある藻岩山は,南に裾を引く山容をしています。昔の名前は,インカルシペ(inkar-ush-pe:眺める・いつもする・処)だったと言います(山田秀三,2000,33p)。つまり,ここから遠くを眺めて敵を見張ったり,物見をしたり,行く先の見当を付ける場所であったと言います。
もともとモイワというのは,今の円山のことだったそうです。モ・イワ(mo-iwa)は,「小さい・山」という意味で,豊平川扇状地に接して突き出している小さな円山にぴったりの名前です。ただ,「イワ」と言うのは,「もとは祖先の祭場のある神聖な山をさしたらしい。」(知里真志保,1992,38p)ということです。
藻岩山の地質の概要を登山道に沿って説明します。
藻岩山の基盤は鮮新世・西野層のデイサイト溶岩あるいは軽石凝灰岩です。西野層の年代は約400万年前です。
藻岩山は鮮新世末期から前期更新世に活動した火山です。最も早く活動したのは軍艦岬を形作っている軍艦岬溶岩あるいは岩脈で,280万年前に噴火しました。
一番新しいのはスキー場の東尾根をつくっている溶岩で,235万年前に噴火しました。藻岩観光道路の脇に見られる安山岩は260万年前に噴火したものです。
藻岩山スキー場は,溶岩でできた二つの尾根に挟まれていますが,下に行くほどなだらかになります。ここには,最終間氷期に形成された山麓緩斜面堆積物が分布しています。
藻岩山の登山道は,南東の藻岩下から登るコース,北東の旭ヶ丘にある慈恵会病院から登るコース,北西の旭山記念公園から上るコース,南西の北ノ沢から登るコースなどがあります。
地質を見るという点では,藻岩山スキー場の東の尾根を登り旭山記念公園へ降りるというのが良いでしょう。
札幌駅バスターミナルから「じょうてつバス」の真駒内線(54)あるいは藻岩線(55)に乗り「南34条西11丁目」で降ります。
停留所から北へ戻り,山鼻川緑地の先にある軍艦岬の安山岩を見ます。現在分かっている藻岩山で一番古い溶岩で284万年前に噴火しました。節理の状態から判断して,この露頭は溶岩のようです。
軍艦岬溶岩と同じ岩質の安山岩は,藻岩山の北東斜面に2箇所確認されています。いずれも下位の西野層のデイサイトを貫いています。
山鼻川に沿って南へ歩くと,藻岩発電所の圧力管路付近から西野層のデイサイトになります。余談ですが,この山鼻川の護岸に使われている石は,ほとんど全てかんらん岩です。
西野層デイサイトの露頭は,藻岩スキー場へ登って行く道路の右側にあります。古い採石場の跡で,節理の発達した見事な露頭を見ることが出来ます。
藻岩山スキー場の駐車場の東に登山道入口があります。山鼻川上流を小さな橋で渡って登って行きます。ここでは,この登山道を東尾根登山道と呼んでおきます。
やや急な登りを過ぎて尾根に取り付いたあたりから,西野層デイサイトを抜けて藻岩山溶岩の分布域になります。標高200m前後の場所です。
東尾根登山道は幾つかのコブを乗り越えながら藻岩山スキー場のてっぺんへと続いています。登山道に出ている石は,すべて安山岩です。ロープウェイの中腹駅から頂上までも全て輝石安山岩の藻岩山溶岩で非常に単調な地質です。
ただ,溶岩は流れていく時に上面は空気に触れて高温酸化を受けます。いわば天然のレンガが作られるのです。また,溶岩の流れが止まった場合,末端はやや急な崖をつくります。このようなことに注意すると溶岩の流れた跡を見つけることが出来ます。
東尾根登山道では,標高200m付近にやや急な斜面があり,登山道が少しレンガ色になっています。ですから,この付近に藻岩山溶岩の下底である可能性があります。
さらに,標高270m付近には明らかにレンガ色の安山岩が転がっていて,急な登りになっています。この付近は,藻岩山溶岩の1枚の流れの境界になっている可能性があります。
藻岩山溶岩は北斜面では標高400m付近から上に分布していて,それより下は西野層の角閃石安山岩(5万分の1地質図幅「札幌」では,幌見峠溶岩)になります。旭山記念公園付近は,中新世・滝ノ沢層の変質安山岩です。
このような地質の違いは,地形に良く現れていて,藻岩山の急な北斜面を下った鞍部付近から北では沢の発達が顕著です。それに対して,藻岩山周辺では沢があまり発達していません。
軍艦岬から旭山記念公園まで約7kmの行程です。石を見ながら歩き,頂上で昼飯を食べて約5時間かかりました。旭山記念公園ではバスの待ち時間が長かったので,地下鉄円山公園駅まで歩きました。
最後に,石狩低地から見た藻岩山は,南に裾を引き,北は急斜面となっています。これが,私が見慣れた藻岩山の形です。