藻岩山の地質

 (山行:2016年4月24日 記事作成:2015年6月1日;6月2日修正)

概 要

  札幌の南西にある藻岩山は,南に裾を引く山容をしています。昔の名前は,インカルシペ(inkar-ush-pe:眺める・いつもする・処)だったと言います(山田秀三,2000,33p)。つまり,ここから遠くを眺めて敵を見張ったり,物見をしたり,行く先の見当を付ける場所であったと言います。

 もともとモイワというのは,今の円山のことだったそうです。モ・イワ(mo-iwa)は,「小さい・山」という意味で,豊平川扇状地に接して突き出している小さな円山にぴったりの名前です。ただ,「イワ」と言うのは,「もとは祖先の祭場のある神聖な山をさしたらしい。」(知里真志保,1992,38p)ということです。

 藻岩山の地質の概要を登山道に沿って説明します。

藻岩山の地質概要

 藻岩山の基盤は鮮新世・西野層のデイサイト溶岩あるいは軽石凝灰岩です。西野層の年代は約400万年前です。
 藻岩山は鮮新世末期から前期更新世に活動した火山です。最も早く活動したのは軍艦岬を形作っている軍艦岬溶岩あるいは岩脈で,280万年前に噴火しました。
 一番新しいのはスキー場の東尾根をつくっている溶岩で,235万年前に噴火しました。藻岩観光道路の脇に見られる安山岩は260万年前に噴火したものです。
 藻岩山スキー場は,溶岩でできた二つの尾根に挟まれていますが,下に行くほどなだらかになります。ここには,最終間氷期に形成された山麓緩斜面堆積物が分布しています。

軍艦岬溶岩と登山道入口まで

 藻岩山の登山道は,南東の藻岩下から登るコース,北東の旭ヶ丘にある慈恵会病院から登るコース,北西の旭山記念公園から上るコース,南西の北ノ沢から登るコースなどがあります。
 地質を見るという点では,藻岩山スキー場の東の尾根を登り旭山記念公園へ降りるというのが良いでしょう。

 札幌駅バスターミナルから「じょうてつバス」の真駒内線(54)あるいは藻岩線(55)に乗り「南34条西11丁目」で降ります。

 停留所から北へ戻り,山鼻川緑地の先にある軍艦岬の安山岩を見ます。現在分かっている藻岩山で一番古い溶岩で284万年前に噴火しました。節理の状態から判断して,この露頭は溶岩のようです。
 軍艦岬溶岩と同じ岩質の安山岩は,藻岩山の北東斜面に2箇所確認されています。いずれも下位の西野層のデイサイトを貫いています。


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写真1 軍艦岬の軍艦岬安山岩溶岩
 藻岩山で一番東にあり,その名のとおり岬状に張り出した尾根を形成しています。定山渓に向かう国道230号からも見ることが出来ますが,木々の葉が茂ってくると見えにくくなります。
 手前の石積は山鼻川の護岸です。

 山鼻川に沿って南へ歩くと,藻岩発電所の圧力管路付近から西野層のデイサイトになります。余談ですが,この山鼻川の護岸に使われている石は,ほとんど全てかんらん岩です。
 西野層デイサイトの露頭は,藻岩スキー場へ登って行く道路の右側にあります。古い採石場の跡で,節理の発達した見事な露頭を見ることが出来ます。


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写真2 山鼻川の護岸に使われているかんらん岩
 かんらん岩の岩塊をブロックのように積んだ護岸です。比重(3.3程度)が大きいので安定性が高いと考えられます。

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写真3 スキー場入口の西野層デイサイト
古い採石場の跡で,斜面下部は法面緑化を行っていますが,上部は落石防護柵があるだけです。露頭観察には絶好の場所です。イバラのとげに注意が必要です。

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写真4 西野層デイサイトの露頭
 鉛直に近い明瞭な板状節理が発達していて,淡い黄色味を帯びた灰白色をしています。角閃石が目立ちます。

東尾根登山道で山頂へ

 藻岩山スキー場の駐車場の東に登山道入口があります。山鼻川上流を小さな橋で渡って登って行きます。ここでは,この登山道を東尾根登山道と呼んでおきます。
 やや急な登りを過ぎて尾根に取り付いたあたりから,西野層デイサイトを抜けて藻岩山溶岩の分布域になります。標高200m前後の場所です。

 東尾根登山道は幾つかのコブを乗り越えながら藻岩山スキー場のてっぺんへと続いています。登山道に出ている石は,すべて安山岩です。ロープウェイの中腹駅から頂上までも全て輝石安山岩の藻岩山溶岩で非常に単調な地質です。

 ただ,溶岩は流れていく時に上面は空気に触れて高温酸化を受けます。いわば天然のレンガが作られるのです。また,溶岩の流れが止まった場合,末端はやや急な崖をつくります。このようなことに注意すると溶岩の流れた跡を見つけることが出来ます。

 東尾根登山道では,標高200m付近にやや急な斜面があり,登山道が少しレンガ色になっています。ですから,この付近に藻岩山溶岩の下底である可能性があります。

 さらに,標高270m付近には明らかにレンガ色の安山岩が転がっていて,急な登りになっています。この付近は,藻岩山溶岩の1枚の流れの境界になっている可能性があります。


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写真5 東尾根登山道のレンガ色の安山岩
 標高270m付近のやや急な斜面の登山道脇で見られます。

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写真6 藻岩山溶岩
 標高350m付近で登山道が鋭角部に曲がる付近の安山岩で,板状あるいは方状の節理が見られます。

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写真7 板状節理の藻岩山溶岩
標高377mピーク手前に見られる溶岩で,板状節理が急立しています。溶岩の表面では固まった溶岩が後からの流れで押されて急立することがあります。

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写真8 スキー場の頂上から南東を見る
 左端に銀色屋根の札幌ドームが見えます。札幌ドームから続く緩やかな斜面は,支笏火砕流の台地です。遠くの緑の丘陵は野幌丘陵です。

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写真9 もーりすカー脇の安山岩
 これも板状節理の発達した安山岩です。この付近にもレンガ色の岩石が転がっています。ロープウェイ終点の中腹駅から山頂を結ぶリフトをもーりすカーと呼んでいます。

山頂から旭山記念公園へ

 藻岩山溶岩は北斜面では標高400m付近から上に分布していて,それより下は西野層の角閃石安山岩(5万分の1地質図幅「札幌」では,幌見峠溶岩)になります。旭山記念公園付近は,中新世・滝ノ沢層の変質安山岩です。

 このような地質の違いは,地形に良く現れていて,藻岩山の急な北斜面を下った鞍部付近から北では沢の発達が顕著です。それに対して,藻岩山周辺では沢があまり発達していません。


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写真10 北西斜面の安山岩
 旭山記念公園登山道の400mピーク付近から見た北斜面の安山岩です。この露頭は,木々の葉が茂ると見えにくくなります。

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写真11 小林峠分岐手前から見る山頂
 北西方向から見ると,藻岩山は,ほぼ左右対称の山体です。

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写真12 小林峠への分岐付近の角閃石安山岩
 小林峠への分岐の北にある350mピークへの登り付近に見られる角閃石安山岩です。あまり石英が目立ちません。この付近では沢の侵食が進んで,尾根が非常に狭くなっています。

 軍艦岬から旭山記念公園まで約7kmの行程です。石を見ながら歩き,頂上で昼飯を食べて約5時間かかりました。旭山記念公園ではバスの待ち時間が長かったので,地下鉄円山公園駅まで歩きました。

 最後に,石狩低地から見た藻岩山は,南に裾を引き,北は急斜面となっています。これが,私が見慣れた藻岩山の形です。


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写真13 国道275号雁来大橋から見た藻岩山
 この左右非対称の山容が低地側から見た藻岩山の特徴です。藻岩山の右は砥石山,左遠くは札幌岳で,手前は豊平川です。

参考にした図書


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