垂直縫地工法の地すべり対策工としての評価

1 垂直縫地工法の概要
2 垂直縫地工法の計算方法
3 垂直縫地工法の地すべり対策工としての評価

 トンネル坑口に厚い崖錐堆積物や小規模な地すべりがある場合に,トンネル周辺地山の安定と切羽の崩壊防止を目的として垂直縫地工法が施工される.この工法が地すべり対策工の主要工種となるかどうかについて私見を述べる.


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1 垂直縫地工法の概要

 垂直縫地工法は,すべり面を貫いて鉄筋を挿入し,鉄筋のせん断力で地すべり滑動力に 対抗すると同時に,鉄筋周囲への充填材により地山の地盤改良効果と見かけ上の地山物性 値(せん断強度)の向上を図るものである.
 この工法は,主にトンネル坑口地すべりの安定性確保を目的にして多くの施工実績がある.

 垂直縫地工法の施工手順は次のとおりである.

(1) 地表から必要な深度まで鉛直方向に直径100〜120m程度のボーリングを行う.
(2) このボーリング孔に直径25〜32mmの鉄筋を挿入し,モルタルやセメントミルクで孔内を充填する.これで1サイクル終了である.
(3) 鉄筋の挿入間隔は,1.5〜1.8mで格子状あるいは千鳥状に構築する.

 トンネル坑口での垂直縫地工法の効果は次の通りである.

表1 垂直縫地工法の効果と施工上の長所・短所(吉田ほか,2002の記事をまとめた)

項目記事
効果 ・斜面の安定化が図れる.
・偏土圧作用が解消または緩和できる.
・トンネル切羽の安定化が図れる.
・トンネル掘削による地山の緩み領域の拡大を防止できる.
・トンネル掘削による地表沈下が抑制できる.
長所 ・斜面の安定とトンネル切羽の安定とが両立する.
・トンネル断面内でも施工可能である.抑止杭等の場合は不可.
・施工に際し特殊な材料や機械を必要としない.
・単純作業の繰り返しであり,工程管理が比較的容易である.
・現地の作業班数を増やすことにより工期短縮が図れる.
短所 ・斜面勾配が急な箇所での設計施工は難しい.
・土被りが厚い場合は施工性が低下する.
・充填材の充填状況に関する現場管理が難しい.

 以上のように,特殊な機械を用いず単純作業の繰り返しで施工できることから多くの施工実績があるが,地すべり対策工としての信頼性については問題があるとされ,主要な工法とは考えられていないのが現状である.

2 垂直縫地工法の計算方法

 垂直縫地ボルトの本数を決定する方法としては,以下の方法がある(土木学会トンネル工学委員会,1994,p98).ただし,完全に確立された設計方法はないというのが現状である.

(1) 過去の類似地山での実績を参考にする方法
使用ボルト:D25〜32mmの鉄筋
削孔径  :φ100〜120mm
打設間隔 :1.5×1.5m〜2.0×2.0m
備考:打設間隔を2.0m以上とするとその効果は少ない.また,1.5m以下とすると経済 性で劣る.

(2) すべり面に対して鉄筋をせん断杭として評価する方法
 地すべり安定解析の手法で,すべり面,計画安全率を確保するために必要な抑止力を 求める.この抑止力に相当する鉄筋のせん断抵抗力を求め,必要な鉄筋本数を算出し 打設長,打設ピッチ,鉄筋径を決定する(計算方法については,トンネル工学委員会, 1994,98-100 参照).

(3) 地山のせん断強度の改良効果をFEM解析により評価する方法
地山のせん断強度の改良効果を地山の物性値に反映させ,FEM解析を行い地山の 安定を検討する.

 トンネル坑口の地すべり対策工としては,ボルトの打設長はスプリングラインまでとするのが一般的である.また,ボルト頭部は地山の変形に対し一体として抵抗させるため,連結構造とすることが望ましいとされる.

3 垂直縫地工法の地すべり対策工としての評価

 地山をゆるませないトンネル坑口での補助工法として有効であるが,主要な地すべり対策工としては採用できない.理由は以下の通りである.

(1) 多数の鉄筋の挿入することによりそのせん断力で地すべり滑動力に抵抗するのが原理である.一方,地すべりは滑動した場合あるいは滑動しかかっている場合,滑動力が均等に作用するとは限らない.部分的に大きな滑動力が作用し鉄筋が破断した場合,連鎖的 に滑動が波及するおそれがある.

(2) トンネル規模に見合った比較的小規模な地すべり(幅20m程度)であれば,かなり有効であるが,中規模以上の地すべりでは,ブロック全体に見あう抑止力を作用させるにはかなりの本数施工しなければならず,経済的でない.また,施工が地形条件に左右されることから施工位置が制約を受ける.

(3) 鉄筋と注入によりほぼ一体の地下壁を構築することにより,地下水を遮断する可能性があり,縫地より斜面上方で地下水位が上昇することが考えられる.地すべりの不安定化をもたらす.

 地すべり地内でのトンネル掘削では,垂直縫地工法はその効果があるとされており,変位抑制などに有効である.一般に,坑口の縫地ボルト施工範囲では,トンネル掘削による変位は斜面下向きに作用する.
 ボルトの軸力測定の結果,トンネル天端より上で止まっているボルトには,引張の軸力が作用する.トンネル上半まで達しているボルトには掘削の進行とともに,圧縮の軸力が作用する.
 これはボルト周辺地山の沈下により,ボルトにネガティブフリクションが作用するためと考えられる.

参考文献

 井上勝人,香月廣志,田中康弘,1993,地すべり地形の坑口を垂直縫地工法で施工−松山自動車道石槌トンネル.トンネルと地下,24巻,9号,17-24.
 奥田庸,阿部敏夫,2000,垂直縫地ボルトによる地表面沈下対策の研究.トンネルと地下,31巻,6号,41-50.
 土木学会トンネル工学委員会,1994,トンネルライブラリー第5号 山岳トンネルの補助工法,98-102.土木学会.
 日本道路公団,1998,地すべり対策 北陸自動車道(上越〜朝日).(財)高速道路技術センター.
 吉田幸信,藺牟田英人,大寺正宏,2002,四国地方の三波川変成帯での垂直縫地補強工法の効果.地すべり,38巻,4号,58-67.


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