乙部岳は,渡島半島の南半部中央付近にある標高1,017mの山である。乙部町で日本海に注ぐ姫川の源流部にあり,北斜面は野田追川の,南東斜面は安野呂川の源流である。
乙部岳周辺は,松前半島に広く分布する渡島帯のジュラ紀付加体(松前層群)が分布していて,乙部岳コンプレックスと呼ばれている。この岩体は,東・西・北の三方は断層で新第三紀層に接しているが,南側は新第三紀・檜山層群・大安在川層の礫岩・砂岩が不整合で覆っている。
姫川沿いの標高150m付近まで道道1061号旭岱鳥山線で,その先は林道となっている。さらにその先は,頂上にある開発局の乙部岳レーダ雨雪量観測所のための専用道路である。
登山道は,下流側の沢コースと奥の尾根コースがある。姫川左岸の標高250m付近までの比較的なだらかな斜面は,中新世・江差層の硬質頁岩を主体とする地層が分布している。相沼および濁川図幅では,それより東は松前層群の粘板岩・砂岩・チャートの分布域となっている。
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沢コースは,その名のとおり標高550mで尾根に取り付くまで沢沿いの緩やかな道である。標高260mほどのコブ状の尾根を越えると沢を渡り,松前層群の分布域に入っていく。
標高300m付近で対岸に露頭が見えてくる。恐らくチャートのブロックであろう。南に大きく張り出したやせ尾根の東南東斜面である。尾根コース直下の崖も見えてくる。
少し行くと,登山道のすぐ脇に大きなチャートのブロックがあり,その下が行者洞と呼ばれている。現地説明版によれば,「その昔九郎嶽社の宗信者が身を清めるために一夜を明かしたところ。」だそうである。そう言われると,何となく厳かな感じがする。一升瓶や磁器のかけらなどが散らばっている。
行者洞を過ぎると沢はほぼ北を向く。木々の間から尾根コースの断崖が見えてくる。崖の高さは300mほどある。この断崖は,登山道が尾根に取り付くまで木々の間から見え隠れしている。
恐らくチャートだろうと思われるが,図幅に記載はなく,はっきり分からない。
沢に転がっている礫を見ると,ほとんどがチャートである。そのチャートの礫も行者洞のように10m近い大きなものが密集しているところもあれば,1m程度の礫しかない場所もある。沢を流れ下った土石流の構造−先端部に大きな礫が集まる−を表しているのか,付加体堆積物中にチャートブロックが密集している部分があるのかだろうと考えられる。
登山道の標高480m付近から沢幅が広くなり水が伏流し始める。そして,標高550m付近で幅の広い尾根に取り付く。平均傾斜33度の斜面を400m登って行く。最後の高さ50mはやや傾斜が緩くなるが,かなり辛い登りである。
標高860m付近で視界が開けてきて,九郎岳の南に連なる868mピークとその向こうの低地が見えてくる。
稜線直下の急斜面が始まる標高900m付近にチャートの岩塔がある。この先は斜面の傾斜が緩くなり尾根にたどり着く。
山頂は,この尾根道からさらに60mほど登らなければならない。すでに足に来ていたので下りのことを考えて尾根道の途中で待っていることにした。図8と図9は同行者が撮影したものである。
帰りは尾根コースをたどった。
所々急になっているが,平坦な尾根道が続くところもあり割合楽である。標高約1,000mの乙部岳の山頂,登山道分岐付近に緩やかな斜面が拡がっている。尾根コースの標高800m付近に幅約50mと狭い平坦な尾根があり,766mピークから680m付近まで緩斜面,618mピーク周辺の南北に延びる尾根もなだらかな地形となっている。ここは沢コースと尾根コースの連絡コース分岐点である。
ここからはジグザグの長い下りで,疲れた足にはかなり応える。
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