ピンネシリ

 (山雨:2016年6月27日 記事作成:2016年7月4日)

概 要

 当別川の中流から上流にかけて,東西に後期ジュラ紀〜前期白亜紀の付加コンプレックスと考えられている隈根尻層群が分布している.
 西側の地質体は別狩岳コンプレックスと呼ばれていて,渡島帯の後期ジュラ紀〜前期白亜紀の付加コンプレックスとされている(川村,2010).

 ピンネシリを中心とする東側には,前期白亜紀(1.45億年前〜1億年前)の黒色頁岩を主とする総富地川層(そっちがわ・そう),岩床状に迸入しているひん岩(はん岩),礫岩を主体とする神居尻山層,総富地川層に貫入している斑れい岩が分布している.

 ピンネシリ南東にある隈根尻山(くまねしり・やま)周辺には,北東南西方向に凝灰岩からなる隈根尻層,黒色頁岩主体の共有地沢層・浦臼山層などが分布している.

 ピンネシリは,樺戸山地の最高峰で標高1,100mである.登山道は,新十津川町の総富地川支流の砂金沢沿い辿る砂金沢コースのほかに,西の当別町道民の森からの一番川コースがある.


図1 ピンネシリ遠景.jpg
図1 新篠津村武田付近から見た樺戸山地
 中央のお椀を伏せたような形の山がピンネシリ,そのすぐ右の小さな山が待根山(まつね・やま)で,二つの山頂付近は斑れい岩からなる.さらに右の山は隈根尻山と浦臼山である.
 左は神居尻山で,山頂付近は盆状構造をとる礫岩からなる.
 手前左の丘陵性の山地は,中小屋温泉裏の山で,新第三紀中新世・須部都層(すべつ・そう)の泥岩を主体とした地層からなり,山麓には当別川沿いの当別断層の南延長部が想定されている(地震調査研究推進本部).


図1 ピンネシリ遠景その2.jpg
図2 石狩川右岸の新十津川町袋地沼付近から見た樺戸山地
 右からピンネシリと待根山,中央の右にゆるく傾斜した平らな尾根が隈根尻山,左手前が浦臼山である.

道民の森一番川コース

 道道28号当別浜松港線から道民の森一番川地区に入り,行けるところまで車で行くとゲートと広場がある.ここから歩きとなる.

 最初に小さな沢を渡って右岸に出ると対岸に地すべりがある.地理院地図で見ると最大幅100m,奥行き110mで平面形は角形である.河岸に露頭があり黒色の粘板岩とその上位の礫層が認められる.粘板岩は上流に10°程度で傾斜していて付近の一般的な傾斜と全く異なることから,移動岩塊と考えられる.上位の礫層は土石流堆積物と考えられる.
 この付近までは林道に落ちている石は粘板岩がほとんどであるが,林道が川から離れると斑れい岩の亜円礫が目立つようになる.この付近では林道の平均傾斜は5°で非常に緩い.土石流堆積物の斜面と考えられる.


図2 粘板岩.jpg
図3 総富地川層の黒色頁岩
 標高380m付近の登山道対岸(左岸)で見られる地すべり末端の河岸に露出していいる黒色頁岩である.左(上流)に約10°で傾斜している.

 標高530m付近で林道から登山道に入る.登山標識はあるが倒れている.
 この付近からは足下の石は,ほとんどすべて斑れい岩である.標高800m付近からは細い尾根上の道となり,階段が多くなる.待根山とピンネシリの間のケルンコルに出る.
 尾根を少しピンネシリ側に行ったところに黒色頁岩の露頭があり,その先はピンネシリ山頂の斑れい岩となる.


図3 ピンネシリ山頂.jpg
図4 待根山との間のケルンコルから見たピンネシリ山頂
 ここから山頂までは比高160mほどある.全体が斑れい岩とされていて,左手に見える露頭も斑れい岩と考えられる.その露頭の上部に半円形の凹地形が見られる.表層すべりの可能性がある.

図1.jpg
図5 斑れい岩
 比較的新鮮な斑れい岩で斜長石と輝石からなる.このサンプルでは石基は認められず,中粒・等粒状組織を示す.

図5 コルの泥岩.jpg
図5 ケルンコル付近の登山道脇の黒色頁岩
 シルト質の黒色頁岩でスレーキングしやすい.図2に示した地すべりの末端に出ている黒色頁岩とは全く岩質が異なる.

図5 隈根尻山.jpg
図6 標高850m付近から見た隈根尻山
 中央の張り出した尾根のこちら側の沢の突き当たりが隈根尻山である.中央のなだらかな尾根が急斜面となる付近が総富地川層(黒色頁岩主体:手前)と隈根尻山層(凝灰岩主体:急斜面側)の境界とされている.

ピンネシリという地名について

 ピンネシリは「ピンネ・シリ」で「男である・山」の意味である.待根山は「マツネ・シリ」に由来すると思われ,「女である・山」の意味である.
 5万分の1地質図幅「月形」を見ると地勢根尻(チセ・ネ・シリ)山と賓根山(ぴんね・やま)が併記されている.「チセ・ネ・シリ」は「家・のような・山」の意味である.(山田秀三,2000,39p,170p)
 賓根山は,ピンネシリと待根山を含めた呼び名だったという(NHK北海道本部編,1975,271p).
 ただ,アイヌ語地名からいうと,ピンネシリと待根山を合わせて地勢根尻山と呼び,大きな方を「男山」,小さい方を「女山」と呼ぶのが自然に思える.

 隈根尻山は「クマ・ネ・シリ」で「物乾し・のような・山」であるという.山頂が物乾しのように見えることに由来するそうである(山田,2000,39p).

参考にした図書など


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