支笏湖とその周辺−地質と火山の恩恵−(1) | 支笏湖とその周辺−地質と火山の恩恵−(2) |
樽前山は支笏カルデラの形成後にカルデラの南東壁近くで噴火した,後カルデラ火山の一つである.後カルデラ火山は,風上死火山の噴火が最も早く,次いで恵庭岳,そして約9,000年前に樽前山が活動を始めた(Ta-d 期).樽前山は,その後,2,500〜2,000年前に活動(Ta-c 期)し,約2,000年の間を置いて西暦1667年から活発な活動を開始し,1909年には山頂に溶岩ドームが形成された.
最も最近の活動は1999(平成11)年1月の噴煙活動で,これに伴って火口原への立ち入りが禁止されている.
最近の研究の進展で,風上死岳の噴火史が明らかになってきた.
それによると,風上死岳の最も古い活動は約3万年前の降下軽石の活動で,これまで nEn-b 降下軽石と言われていたものがこの時の噴出物である.この降下軽石は風上死岳の北側に分布している.その後,8,500年前にマグマ噴火,4,500年前に水蒸気噴火を起こし,以後活動は認められていない.樽前山に比べて谷の発達が明瞭であることから,より古い火山であるとされてきたがそれが立証された.
樽前山への登山は,かつては支笏湖畔のモラップからの登山であったが,現在は標高660mの7合目まで車で行くことが出来るので東山まで1時間かからずに登れる.
ただし,登山シーズンの週末には7合目駐車場は午前8時には満車になる.その場合は,標高430m付近のゲートが閉まるので,そこから歩くことになる.
手軽に登れて,しかも外輪山の途中斜面からは樹木が無く眺めがよいので人気の山となっている.
7合目登山口から登り始めると林の中の急登がしばらく続き展望台に出る.ここからの眺めでも素晴らしい.足元には白色の軽石が転がっていて油断すると足元をすくわれる.
樽前山の歴史時代の噴出物のうち本質物質,つまりマグマが噴出したものは,1)白色軽石,2)灰色軽石,3)スコリア,4)縞状軽石,5)1909年ドーム溶岩であるとされている.これらのうち,軽石には石英の粒が見えるほか,黒色の鉱物が目立つ.これらは輝石や磁鉄鉱であるが,場合によってはカンラン石の結晶も入っている.カンラン石が軽石に入っているのはちょっとおかしいと思うけども肉眼的にはカンラン石に見える.
さらに登っていくと樹林帯を抜けて一面の砂礫地になる.このあたりにはパン皮火山弾が時々見られる.外輪山の尾根に出ると展望が開けて溶岩ドームが正面に見える.この溶岩ドームは主に安山岩からなるがよく見ると右(北)に傾斜した縞状構造が見える.
この付近で黒色の基質に白色の斜長石の結晶が見られる岩石をよく見るとオリーブ色をしたきれいなカンラン石(オリビン)の結晶が見られる.つまり,マントル物質を取り込んできたものである.
樽前山からの眺望は,折り紙付きである.日高山脈,夕張山脈,紋別岳から恵庭岳,風上死岳,羊蹄山,渡島半島の山々から駒ヶ岳まで見ることが出来る.
登山道入口から直ぐの展望台から見た支笏湖 |
紋別岳,支笏湖,風上死岳を望む.登山口から10分程度登った所でこの風景を楽しめる.ここはまだ樹林帯の中である. |
外輪山の斜面 | 白色軽石 |
草が少し生えているだけで樹木は全くない. | 登山道の脇にある径50cm ほどの軽石で,表面にパン皮状の構造(?)が見られる. |
パン皮火山弾 | 左の拡大写真 |
西山への分岐点から東山の頂上に向かう登山道に落ちているパン皮火山弾. | こんなのに当たったらひとたまりもない.ハンマーの柄の水色の部分の長さは15cm である. |
樽前山の溶岩ドーム |
この新鮮な黒さは独特の迫力がある.写真ではこの迫力は伝わってこない. このドームは1909(明治42)年4月17日から19日にかけての活動で大部分が形成された.ドームの裾に白く見える噴煙の場所が A 火口と呼ばれもので,1979年1月〜2月に火山灰を出している.火口付近の温度は640℃ほどである. この溶岩ドームが出来て,今年は100年である. ドームの左側の噴煙は B噴気孔からのものであろう.この噴気孔の温度は315℃ほどである. ドームの右側に三角の山体の尻別岳と頂上を雲に隠した羊蹄山が見える. |
カンラン石安山岩 | ガラス質の輝石安山岩 |
最大径6mm ほどの斜長石が目立つ黒色の安山岩で,よく見ると深緑色のガラスのようなカンラン石の結晶が見える.なかなか魅力的な石である. | 黒色で斑晶は全体に細粒である.独特の割れ口を示し,ガラスのようにテカテカ光を反射する. |
白色軽石 | 縞状軽石 |
高温酸化を受け薄いレンガ色になっている. 半透明の石英,黒色の輝石の結晶が目立つ. |
石英,輝石 のほかに緑色のカンラン石の結晶が目立つ. 黒く縞状になっている部分がスコリア質の部分である. |
樽前山は2,500〜2,000年前の噴火以来,約1500年の休止期の後で,1667年に大規模なプリニー式噴火(爆発的な噴火で噴煙柱ができ,それが崩壊して火砕流が発生する)を皮切りに火山活動が再開した.1739年にも大噴火が発生し降下軽石と火砕流が発生した(Ta-a).
現在樽前山のハザードマップは,この1739年の噴火と同規模の噴火が発生した場合を想定して作られている.(参考 URL: http://www.nilim.go.jp/lab/rbg/bousai_map/006_tarumaesan.htm )
このハザードマップで火砕流の危険度大(火砕流の熱風部に襲われる危険性の高い区域)に流域が含まれるのは,東から苫小牧川,有珠川,小泉の沢川,小糸魚川,錦多峰川,覚生川,樽前川,別々川,社台川である.
錦多峰川の砂防ダム | |
この付近で錦多峰沢川と錦多峰川が合流していて遊砂地となっている.下流には錦岡の浄水場の取水堰がある. この写真は下流右岸から見ている |
樽前ガロー地区の案内板 | 下流の樽前ガロー橋から見たガロー |
下流のガロー橋付近に立っているもの. | 深い谷を滔々と流れる水にビックリする.オーバーハングになっている. |
樽前ガロー案内図 | 上流の樽前橋から見たガロー |
樽前ガロー周辺は林道が入り組んでいる. | ここでは谷の幅がやや狭くなっている. |
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