スレーキング

 スレーキングというのは,現象としては膨潤と反対の過程が進行することで,粘土鉱物が関与している.一般にスレーキングは,粘土鉱物の粒子の間に水が入ってそこのあった空気が圧縮されてその圧力で粒子間の結合が弱くなり細片化すると説明されることが多い.
 しかし,最近の研究ではそれだけではなく,層間に水分子と一緒に入っているイオンの種類によってスレーキングのし易さが左右されるということが判ってきた.

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札幌市豊平川の約800万年前の泥岩のスレーキング
 この泥岩は,貝化石や鯨・海牛の化石を含んでおり,当時の海が非常に豊かであったことを示している.貝化石はやや変形していて全体に頁岩化が進行しているが,板状に割れやすく乾湿繰り返しで細片化しやすい.


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スレーキング特性

 堆積岩類が乾湿繰り返しにより形態を変化させて土砂化する現象をスレーキングと呼んでいる.工学的には斜面の安定やトンネルの変位などに大きな影響を与える.
 堆積岩類を乾燥させたあと蒸留水中に浸した場合,直ちに(一度で)砂,泥状に崩壊(形態変化)する現象を急速スレーキングと呼ぶ(中田ほか,2006).

 スレーキングは,スメクタイトなどの膨潤性粘土鉱物の含有量が多い場合に起きる.Naスメクタイトの含有量が1.5Wt% 以上で起こるという報告(中田ほか,2004)や6Wt% 以上からスレーキングが起こる(一ノ瀬,1986)という報告がある(中田2006による).
 中田ほか(2006)によれば,塩水域にある堆積岩中のスメクタイトなどの層間は一価のNaイオンで占められている.この場合,乾燥させると層間には1個の水分子が残る.これに対して,二価のCaイオンで占められている場合(淡水域の堆積岩)は,水分子2個が残り収縮量は水分子1個分少なくなる.このため,周辺地下水が塩水域の堆積岩は,淡水域の堆積岩に比べて急速スレーキングを起こしやすいと考えられている.

 このことが建設工事でどのような現象をもたらすだろうか.
 深海底に堆積したタービダイト泥岩中から湧出してくる地下水の塩分濃度が高い場合がある.これは,堆積時の古海水を含んでいるためと考えられる.このような泥岩に膨潤性粘土が含まれていると,層間にはNaイオンが入り込んでいて,乾燥によって急速に層間が小さくなり急速スレーキングを起こすと考えられる.
 付加体堆積物分布地域において,切土でスレーキングにより急速に斜面が不安定化したり,トンネル壁面の変位が予想以上に進行する原因となっていると考えられる.

 一方,粘土粒子は海水程度の塩分濃度で凝集しやすい.これは,海水程度の塩分濃度では,粒子表面の電位(ゼータ電位)がほとんど 0 になるためである.蒸留水や河川水などでは,この電位は負になっており,斥力が作用して粒子は分散しやすい状態になっている.塩分濃度が高くなり海水程度の濃度の場合には,粒子表面の電位が 0 になり,粒子同士の斥力が弱くなり凝集しやすくなる.

 このことは何をもたらすか.
 例えば,トンネル切羽をある期間止めておくと地下水がほとんど無くてもスレーキングを起こす.この原因は,空気中の水蒸気(蒸留水)が粒子間に作用して電位が負になるためと考えられる.

スレーキング試験

 スレーキングのしやすさの試験には,土木学会の「浸水崩壊度試験」(軟岩の調査・試験の指針(案)〜1991年版〜),鉄道建設・運輸施設整備支援機構の「浸水崩壊度試験」(2006),旧道路公団の「岩の乾湿繰り返し吸水率試験」(JHS111-1992)などがある.

 「浸水崩壊度試験」(鉄道機構の場合)は,水に浸けて水中での崩壊の様子を24時間観察し記録する.最終的な崩壊形態によって0(変化なし)〜4(完全に泥状化)の5段階に分類する.つまり,急速スレーキングするかどうかを目安としている方式と言える.

 「岩の乾湿繰り返し吸水率試験」は,まず,自然含水状態の質量を測定したあと水中に24時間浸ける.その後取り出して水を切り,湿潤質量を測る.次に24時間110℃で24時間(一定質量となるまで)乾燥させたあと,乾燥質量を測る.この手順を10回くりかえす.
 こうして得られた値を用いて自然含水比(w0)と吸水量(wan)を算出する.
 この試験では,一般には回数を重ねるごとに湿潤質量は増加し,乾燥質量は少しずつ減少する.つまり,泥岩などが水を吸収することによって湿潤質量は増加していくが,水を切るときに,水と一緒に少量ではあるが懸濁している粘土分が失われるので乾燥質量は減少する.

 乾湿繰り返し試験で求められた吸水量増加率(M:%/回)と法面安定勾配の関係が求められている(例えば,「切土法面の調査・設計から施工まで」,1998,地盤工学会, p154).
 これによれば,かなりスレーキングしやすい岩の法面でも,1:1.5で切土すればほぼ安全であると言える.
 ただし,特殊な岩は必ずあるもので,1:2.0より緩く切土しても斜面が安定しない地質があることに注意が必要である.
 このようにヘドロ状になりやすい泥岩類は海成の場合が多いように思われる.

 なお,土木用語大辞典で「スレーキング試験」として述べられている方法は,脆弱岩材料の盛土材としての耐久(スレーキング)性を評価するための方法である.
 この方法でいう岩のスレーキング率は,5サイクル乾湿繰り返しを行った後の9.5mmふるい通過乾燥土質量と全乾燥土質量との比をいう.

 脆性岩材料の破砕性を評価する試験方法として「岩の破砕率試験」(JHS109-1992)という試験もある.
 切土のり面における岩の風化に対する耐久性を求めるには,乾湿繰り返し試験が必要であることに注意する.

スレーキング(slaking)の定義(主要な事・辞典からの抜粋)

 乾燥した粘土や泥岩の塊が降雨などの水分を吸収し,崩れて細粒化する現象.
 水の浸入によって内部の間隙中の空気が圧縮されて土粒子間に引張り力として働くこと,土粒子が水を吸収して粒子間隔を広げ粒子間結合力が低下することが原因.
新版地学事典,1996,平凡社)

 岩石が乾燥と湿潤による水分変化を受けると,鉱物粒子間の結合力が失われて次第に崩壊する現象.その理由として,(1) 水分の浸入が間隙中の空気を圧縮し,岩塊や土塊中に引張り力を生じること,(2) 土粒子の水分吸収により粒子間が拡がり,粒子結合が低下すること,が考えられている.
土木用語大辞典,1999,技報堂出版)

 一般に物質が水や空気にさらされることにより崩壊する現象をいう.粒子間に含まれる空気は毛細管現象により吸い込まれた水によって圧縮され高圧となるため,粒子間の結合力の弱いところから吹き出して組織を破壊し,崩壊現象を起こす.
(堆積学辞典,1998,朝倉書店)


参考文献


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