施工のための岩の掘削区分

(2007年9月30日作成)

 建設工事には掘削がつきものである.同時に掘削対象地山の構造物の基礎としての評価,掘削面がどの程度もつのか,掘削の難しさはどの程度かと言ったことの評価が必要となる.
 ダム,大規模橋梁,トンネルでは岩級区分あるいは地山分類が利用されてきた.

 一般の建設工事では,対象とする地山を掘削の難易によって分類する.この分類は,土については「地盤材料の工学的分類方法」にもとづいて土相によって分類し,岩については固結度・亀裂の頻度,弾性波速度で分類している.


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一軸圧縮強度の推定方法

 現場で最も得られやすい物性値は一軸圧縮強度である.コアリングによる室内試験,シュミットハンマーテストによる反発度からの推定値,針貫入試験による貫入量からの推定値,さらに土壌硬度計による推定値などから,比較的容易に一軸圧縮強度を推定することができる.

表1 一軸圧縮強度の推定方法
試験方法測定範囲(MN/m2概        要
シュミット・ロックハンマー5〜150ピストン式のハンマーの反発度(跳ね返りの高さ)で強度を測定する.向きによって跳ね返り高さが異なるので補正をする.
針貫入試験機0.3〜40木綿針状の針を貫入させてその貫入深さと貫入荷重から硬さを推定する.
土壌硬度計5程度まで先端角度30°の金属の円錐を地山に挿入して貫入深さで硬さを測定する.
点載荷試験機非整形試料をピン状の載荷ポイントに当てて破壊強度を測定する.載荷ポイント間の試料の大きさと破壊荷重の関係から点載荷強度を求め,一軸圧縮強度を推定する.
簡易反発硬度試験機
(エコーチップ反発硬度試験機)
10〜200程度金属材料の弾性的性質や強度把握を目的に開発された試験機である.
供試体の表面を打撃した衝撃体(インパクトボディー)の反発速度を電気的に検出し,硬さ値(L)を求める.硬さ値は弾性係数にも影響される.現在のところ,岩石供試体については,L値と一軸圧縮強度の相関図は確定したものはない.

簡易な地山弾性波速度の測定

 地山弾性波速度は,超小型弾性波速度測定器(ハンディーサイス)により,ある程度の緩み範囲を含めて現場で求めることができる.この器機では,震源は大型ハンマーによる打撃であるため弾性波の到達距離が制限されるが,条件によっては3m程度まで受振器を離して測定が可能である.

掘削の難易による岩の分類の考え方

 まず,主に発破作業によって掘削できる岩を硬岩,リッパ作業によるものを軟岩,排土板で掘削できるものを土砂と呼ぶことが一般的である.つまり,作業する機械の種類と対応させて区分するのがこの分類の特徴である.そして,この作業のし易さと地山弾性波速度には,ある程度の相関がある.
 地山弾性波速度1.0km/sec程度までは,ショベル系で掘削可能であり,1.0km/sec以上になるとリッパ付きブルドーザでの掘削となる.1.5km/secを超えると発破掘削が選択肢に入ってくる.

rock_rip_class002.jpg 図1 掘削工法の限界(道路土工−施工指針,1986,p145 による)
 リッパ付きブルドーザの規格・爪の本数と地山弾性波速度ともある程度の関係が示されている.

表2 地山弾性波速度とリッパ付きブルドーザの規格およびリッパの爪数

地山弾性波速度(km/sec)爪の本数摘    要
A群の岩B群の岩21t級32t級
0.6未満0.9未満3本3本
0.6以上〜1.0未満0.9以上〜1.4未満2本3本
1.0以上〜1.4未満1.4以上〜1.8未満1本2本
1.4以上〜1.7未満1.8以上〜2.1未満1本発破掘削を標準とし,岩掘削量の
多い場合,その他とくに理由のあ
る場合に32t級1本爪を使用する.

(*道路土工−施工指針,1986,p62)

 岩の掘削性に作用する因子としては,次のようなことが考えられる.

(1) 軟岩では乾燥湿潤の繰り返しにより著しく地山が劣化するスレーキングの著しいものがある.場合によっては土砂扱いとなることがある.
(2) 岩盤中の割れ目の間隔,割れ目が開いているかどうかや粘土などの挟在物があるかなどの割れ目の状態によって掘削性が著しく変化する.岩自体は硬質でも割れ目の発達が著しい場合は,リッパを使わずに掘削可能となる.逆に,豊浜トンネルで岩盤崩壊を起こしたようなハイアロクラスタイト(水中溶岩)のように,岩自体はそれほど硬質でなくても割れ目が少ない場合は掘削能率は低下する.
 つまり,掘削の難易に影響するのは,岩自体の硬さと割れ目の間隔である.

表3 掘削の難易による岩および土の分類
名 称説    明摘    要日本統一土質分類法による土の簡易分類との対応

または
硬岩亀裂が全くないか,少ないもの.
密着の良いもの.
弾性波速度
3.0km/sec以上
中硬岩風化のあまり進んでいないもの
(亀裂間隔が30〜50cm程度のもの.
弾性波速度
2.0〜4.0km/sec
軟岩固結の程度の良い第四紀層.
風化の進んだ第三紀以前の地層.
リッパ掘削できるもの.
弾性波速度
0.7〜2.8km/sec
転石群大小の転石が密集しており,掘削がきわめて困難なもの.
岩塊・玉石岩塊・玉石が混入して掘削しにくく,バケットなどに空隙のできやすいもの.玉石まじり土
岩塊
起砕された岩
ゴロゴロした河床堆積物
礫まじり土礫の混入があって掘削の能率が低下するもの.礫の多い砂
礫の多い砂質土
礫の多い粘性土
礫{G}
礫質土{GF}
バケットなどに山盛り形状になりにくいもの海岸砂丘の砂
マサ土
砂{S}
普通土掘削が容易で,バケットなどに山盛り形状にしやすく空隙の少ないもの.砂質土,マサ土
粒度分布の良い砂
条件の良いローム
砂{S}
砂質土{SF}
シルト{M}
粘性土バケットなどに付着しやすく,空隙の多い状態になりやすいもの.
トラフィカビリティが問題となりやすいもの.
ローム
粘性土
シルト{M}
粘性土{C}
高含水比粘性土バケットなどに付着しやすく,特にトラフィカビリティが悪いもの.条件の悪いローム
条件の悪い粘性土
火山灰質粘性土
シルト{M}
粘性土{C}
火山灰質粘性土{V}
有機質土{O}
(有機質土)高有機質土{Pt}

(*道路土工−土質調査指針,1986,p295)

実際の現場での判定

 掘削中に岩の判定が必要になることは意外と多い.その時,適用されるのは旧建設省の岩の分類表である.この表では,軟岩をIとIIに分け,硬岩を中硬岩,硬岩I,硬岩IIに分けて,5種類で区分している.分類基準は,硬さと亀裂間隔である.
 旧道路公団の岩の分類は軟岩をA〜Dの4つに分け,硬岩をA〜Cの3つに分けて岩種,硬さと亀裂間隔,弾性波速度を分類の目安としている.
 これらの岩の分類は,分類の指標となる明瞭な数値が示されていないので,結局現場技術者の判断によって最終的には岩分類が行われる.しかし,現場ではこの表にぴったりと当てはまる岩が出てくることはなく,微妙な判定を迫られる.

 以上のような状況から,現場で簡易に岩判定を行うには,一軸圧縮強度が最も手軽で誰にでも分かる指標となる.しかし,岩の硬さのみで掘削の難易は決まらない.亀裂間隔,亀裂の状態,水による劣化度なども重要な要素となる.

 一つの案としては次のような方法が考えられる.
(1)地盤工学会の「岩盤の工学的分類体系」にもとづいて,一軸圧縮強度25MN/m2で軟岩と硬岩とに区分する.一軸圧縮強度はシュミットハンマーなどから推定する.
(2)硬岩については,亀裂間隔30〜50cm程度を目安に中硬岩と硬岩とに区分する.
(3)できれば超小型弾性波速度測定器で掘削面での地山弾性波速度を求め参考とする.
(4)土砂と風化して土砂化した軟岩の区別は地山弾性波速度0.7〜1.0km/sec付近とする.


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