空沼岳

 (山行:2011年8月19日 作成:2016年8月31日)

概 要

 空沼岳は,札幌市街の北から見える山の中で一番東に位置する標高1,251mの山である.北西−南東方向に延びる尾根の途中に山頂が在るため山としては目立たない.

 この山は,山頂尾根の北東側と南西側に大きな地すべりがあり,真駒内川上流の登山道,万計沢コースは,北東斜面に分布する地すべり移動土塊の中を登っていく.標高680m付近までのなだらかな斜面は,地すべり移動体が土石流になったもののように見える.

 空沼岳の基盤岩は,中新世・漁川層の変質安山岩や砂岩・凝灰岩類である.その上に80万年前に噴出した空沼岳溶岩が載っている.現在まで得られているデータでは,札幌西部山地でもっとも新しい活動である.

 空沼岳の登山道は,真駒内川上流の万計沢沿いの万計沢コースが一般的である.札幌岳からの縦走路があるが,伐開されてないこともあるので注意が必要である.


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図1  札幌市南区常盤付近から見た空沼岳
 札幌から見た場合,左に傾いた平坦な尾根が空沼岳の特徴である.尾根から70mほどの急崖は滑落崖で,その前面に地すべり移動体が広く分布している.
 この道路の奥に,鮮新世の小滝の沢溶岩を採掘している日鉄鉱業常磐採石所が在り,ダンプが行き来している.登山口は採石所のさらに奥にある.

万計沢コース

 登山道は地すべり移動体の中を上っていくので,露頭はほとんどない.
 万計沼のすぐ下にある滝の脇の登山道に変質安山岩の露頭がある.
 万計沼は地すべり移動土塊の途中に形成されている沼である.万計沼のある標高900m〜950mにかけては沼の南と北では急崖が連続して見られ,二次すべりの頭部となっているように見える.万計沼周辺だけが,二次すべりの頭部がさらに崩壊して凹地ができたと考えられる.

 万計沼から,なだらかな登山道をしばらく行くと真簾沼(まみす・ぬま)の畔に出る.この沼は大規模な地すべりの頭部陥没帯にできたものである.沼の南東には小山がある.この小山は移動土塊の残存物で,登山道はその背後の凹地のへりを辿って空沼岳の山頂へと登って行く.

 空沼岳の北東斜面の地すべりは,規模の割に滑落崖の比高が小さい.この小山のような移動土塊が頭部に残っているためと考えられる.


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図2 万計沼手前の露頭
 万計沼から流れ出た滝の脇にある変質安山岩の露頭である.節理から分離しているように見え,移動岩塊の一部である可能性が高い.
図3 万計沼出口の滝
 変質安山岩がつくる滝である.


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図4 万計沼
 前方が万計沼で,ここから水が流れ出す.この背後に滝がある.


図5 真簾沼 .jpg
図5 真簾沼
 真簾沼の東の畔である.登山道は沼と南東にある移動土塊である小山の間を通っていて,小山から崩れてきた岩塊が岸辺を作っている.


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図6 山頂の安山岩
 尾根の両側が規模の大きな地すべりで抉られていて、辛うじて残った山頂である.方状節理の発達した輝石安山岩である.


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図7 縦走路から見た真簾沼
 札幌岳への縦走路から見た真簾沼である.右側の小山は滑落崖直下に残った移動土塊である.ちょっと信じられない大きさである.


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図8 ヒョウタン沼
 この付近では尾根が不明瞭になっていて,地すべりが尾根を巻きこんでいると考えられる.地すべり頭部の凹地に形成された沼である.


図9 羊蹄山.jpg
図9 羊蹄山と尻別岳
 空沼岳の頂上から見た羊蹄山(右)と尻別岳(左)である.右端の雲を被っているのはニセコ連峰の一部であろう.

参考にした図書など

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