1.スクィーズィング地山とは
2.スクィーズィングトンネルの特徴
3.スクィーズィングレベルの定量的予測方法
膨張性地山というとスメクタイトなどの膨潤性粘土により異常な変位と応力が発生する地山というのが一般的な理解であろう.
泥質岩や凝灰岩などでの膨潤性粘土によるトンネルの異常変位については,細粒分の含有率,膨潤性粘土の含有量,塩基性置換容量,地山強度比などの指標で要注意地山を特定する方法が用いられてきた.
しかし,以下に見るように膨張性地山と膨潤性粘土を含有することによる押出し性地山とは区別する必要がある.つまり,トンネル周辺の地山の強度がトンネルに作用する応力に対抗しきれずに発生する破壊が,ダイレタンシーによる体積増加を含みながら進行するのが膨張性地山であると考える.その中には,膨潤性粘土による体積膨張も含まれる場合がある.
以下に,アイダンほか(1992)にもとづいて,スクィーズィング地山(膨張性地山)の特徴について述べる.
スクィーズィング地山についての定義には,次のようなものがある.
押出し性地山(squeezing ground)>:トンネル掘削に伴って地山周辺に生じた応力が地山強度を超えて地山が塑性化した場合に,見掛け上,塑性流動的に地山がトンネル内に向かって押し出してくるように,外力が作用し変形する地山.トンネル底盤がはらみ出す盤膨れといわれる現象を伴うこともある.
(土木用語大辞典)
これに対して,
土が吸水して膨張するような地山を膨潤性地山(swelling ground)
という.
これらを総称して膨張性地山と呼ぶ.(テルツァギ(1946),(アイダンほか,1992 より引用))
「スクィーズィング(squeezing)とは,トンネル周辺岩盤がその体積を増加させることなくトンネル内空へ押し出す現象であるが,スウェリング(swelling)は,岩盤の体積が顕著に増加することによって地山がトンネル内へ押し出す現象である.同じような形態の現象であるが,その違いは地山中に含有する粘土鉱物の種類のみに起因する」(アイダンほか(1992))
スクィーズィングとは,トンネル掘削に伴う二次応力が周辺岩盤の強度を超えて岩盤を破壊させ,さらに掘削が進むにつれて破壊領域がトンネル壁面から地山内部へと進行し,破壊した岩盤マスがトンネル内空へ押し出す現象である.
この流動の状況は,材料の降伏後の特性によって異なり,せん断破壊に伴うダイレタンシーが生じて地山の体積増加も含む押出し現象である.
日本における膨張性トンネルの実態は,スクイーズィングした後,スウェリングしているものと考えられる.
実際の現象としての押し出す量は,スウェリングによるものはそんなに大きくなり得ず,スクィーズィングによるものが大半を占めると考えるのが妥当と思われる.
これに関連した用語として以下のものがある.
土木用語大辞典では,押出し性地山(squeezing ground)=膨張性地山=swelling rock(膨張性地山)となっていて全体の統一はとれていない.塑性地圧(plastic ground pressure)
掘削により生じる応力が地山の強度を超える場合,地山が塑性流動を生じてトンネル等の構造物に作用する地圧.塑性流動が大きい場合には押出し性地圧ともいう.
(土木用語大辞典)
塑性流動(plastic flow)
応力を増加させなくても塑性変形が継続する現象.物質内のせん断応力が降伏応力をこえ,塑性域に達して低荷重のもとで限りなく変形を続けていく状態.
(土木用語大辞典)
膨張性地山(swelling rock)
山岳トンネルの掘削に当たってトンネル内空を縮小するようにはらみだしてくる地山.粘土鉱物を含有する地山の体積膨張や地山応力による塑性変形が要因.
(土木用語大辞典)
膨潤(swelling)
土が水を吸収して体積が増加する現象.
粘土鉱物の膨潤は,鉱物どうしの周辺に拡散二重層(電気二重層)が形成され鉱物粒子どうしの距離が離れて体積が増加する外部膨潤と粘土の層状構造の中に水分子が進入して層間が拡大する内部膨潤とがある.
(土木用語大辞典)
アイダンほか(1992)は,日本の膨張性地山でのトンネル施工事例を収集・解析し,スクィーズィングトンネルの特性をまとめている.
(1)壁面ひずみは,1〜12%の範囲内.1%以下のスクィーズィングはない.
(2)大きな壁面変位を起こす場合は,一軸圧縮強度は小さい.小さな壁面変位でスクィーズィングを起こす場合は,一軸圧縮強度に制限されない.
(3)地山強度比は1.6〜2.0が境界値である.2以上でのスクィーズィングはない.
(4)含水比はほぼ25%以上である.
(5)地質は堆積岩で膨潤性粘土を含む.その含有量と壁面変位の間に特別な関係はない.
(6) スクィーズィング速度は地山強度比が小さいほど速い.
⇒スクィーズィングを起こすかどうかの判定は可能である.
アイダンほか(1992)が提案しているスクィーズィングの予測方法は,次のような考えにもとづいている.詳しくはアイダンほかの論文を参照のこと.
トンネル壁面ひずみが1%を越えるとその変形はスクィーズィングによる.ひずみ量とスクィーズィングの激しさは比例する.
→径10mのトンネルでは100mm以上,壁面変位としては50mm以上はスクィーズィングによる.
しかし,比較的高強度の地山では弾性限界ひずみが小さいため,地山ひずみが小さい段階で切羽の自立がままならないような過激なスクィーズィングが起きる.このような地山では,降伏後のひずみレベルが相対的に低くなる.つまり,桜井(1982)の「限界ひずみ−一軸圧縮強度の関係図」に見るように両者は負の相関となっており,強度が増すほど限界ひずみは小さくなる.
このことから,スクィーズィングレベルは,壁面ひずみの大小と地山降伏後の応力ひずみ挙動に関するパラメーターを導入し判定する.
そこで,一軸圧縮強度試験の「ひずみ−応力曲線」から「限界ひずみ」(εe),「ピークひずみ」(εp),「軟化開始ひずみ」(εs),「流動開始ひずみ」(εf)を求め,限界ひずみで正規化したパラメーターを導入し,このパラメーターと一軸圧縮強度(σc)の関係を求めた.
その結果,下に示すような関係が成り立つことが判明した.
このことから,それぞれの状態での壁面ひずみ(内空変位)とトンネルが弾性限界状態にあるときの ひずみの比を求め,ひずみ比と一軸圧縮強度との関係図のなかでどこにプロットされるかを求め,スクィーズィングレベルを決定する.
一軸圧縮強度(MPa) | 0.8 | 1 | 2 | 4 | 6 | 8 | 10 | 20 |
ηp | 2.9227 | 2.0000 | 0.6156 | 0.1895 | 0.0951 | 0.0583 | 0.0399 | 0.0123 |
ηs | 3.1721 | 3.0000 | 2.5227 | 2.1213 | 1.9168 | 1.7838 | 1.6870 | 1.4186 |
ηf | 5.3845 | 5.0000 | 3.9722 | 3.1556 | 2.7582 | 2.5069 | 2.3279 | 1.8494 |
ξ=〔{2/(q+1)}×{((q-1)+α)/((q-1)×β+α)}〕^{(f+1)/(q-1)}
β=pi/p0 (支保圧/土被り圧);支保圧は1.0MPa(100tf/m2)程度が最大値
α=σc/p0 (地山強度比);σcは一軸圧縮強度
q=(1+sinφ)/(1-sinφ)
f=2.0(塑性ポアソン数):試験的に求めることが難しい場合は,この値を取ってよい.
壁面ひずみ比(ξ) | 1.39 | 3.41 | 1.43 |
受動土圧係数(q =m+1) | 3.00 | 3.0 | 3.0 |
土被り圧(P0:MPa) | 2.30 | 4.60 | 4.60 |
支保圧(Pi:MPa) | 1.0 | 1.0 | 1.0 |
塑性ポアソン数(f) | 2.00 | 2.00 | 2.00 |
内部摩擦角(φ:°) | 30 | 30 | 30 |
単位体積重量(γ:kN/m3) | 23 | 23 | 23 |
一軸圧縮強度(σc:MPa) | 1.00 | 1.00 | 6.00 |
土被り(H:m) | 100 | 100 | 200 |
この例では,一軸圧縮強度が1MPaで壁面ひずみ比が1.39であるので,ηpを下回っておりスクイージングレベルは「軽い(LS)」となる.この場合,土被りが200mになると(表の真ん中の列),壁面ひずみ比は3.41となり,スクィーズィングレベルは「激しい(HS)」となる.土被りが200mであっても,一軸圧縮強度が6MPa以上あれば(表の右の列)スクィーズィングは「軽い」となる.
分類番号 | 記号 | 定義式 | 推定されるトンネル挙動 | |
1 | 無し | NS | εaθ/εeθ≦1 | 壁面変位は切羽距離2Dでほぼ収束し,その大きさは弾性計算によって求められる程度である. |
2 | 軽い | LS | 壁面変位は切羽距離2Dでほぼ収束するが,その変位量は弾性計算によるものよりも大きくなる. | |
3 | 中位 | FS | 切羽距離2Dを越えても変位は継続し,か なり大きくなるが,やがて収束する. | |
4 | 激しい | HS | ηs<εaθ/εeθ≦ηf | 切羽通過後大きな変位が急速に押し出す ような現象を呈し,収束する様子は見せない.盤ぶくれ現象も起こる. |
5 | 非常に激しい | VHS | ηf<εaθ/εeθ | 切羽は自立せず,壁面は絶え間なく押出 し,縫い返して強固な支保で補強しない限り変位は止まらない. |