手稲山

 (2009年8月9日作成/2014年9月5日修正)

 「札幌農学校は蝦夷が島.手稲山,夕焼け小焼けのするところ.」と歌われたこの山は,札幌市街から見え,藻岩山とともに市民に親しまれている.頂上には各放送局のテレビアンテナや開発局の無線中継施設などが目白押しである.

 この手稲山の大きな特徴は,その平坦な山頂と直下の岩壁である.ここでは,手稲山山頂付近を構成する地質,大昔の山体崩壊について述べる.

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 手稲山山頂
 平坦な山頂と直下の絶壁が印象的である.急崖下部に灰色に見える部分が手稲山溶岩である.


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手稲山溶岩

 手稲山の山頂付近を構成するのは,手稲山溶岩と呼ばれる輝石安山岩の溶岩で,山頂の北斜面および南西斜面の絶壁をつくっている.これらの絶壁を造っている溶岩は,柱状節理の発達したものである.
 手稲山から西方の積丹半島にかけては,標高1,000〜1,500m の山頂を持つ溶岩台地が広がっている.これらの溶岩は「平坦面溶岩」と呼ばれていて,その特徴の一つは,板状節理が発達していることである.手稲山溶岩は節理の状態が平坦面溶岩とは異なっている.

 手稲山山頂へはテイネ・ハイランドの山麓駅からロープウェイで登るのが最も手っ取り早い.次に楽なのはテイネ・ハイランドの駐車場まで車で行き,そこから山頂の送信所に通ずる管理用道路を歩くコースである.
 この道路沿いには何箇所か露頭が見られる.最初の露頭は男女回転コースの手前で現れる.典型的な輝石安山岩で黒色の輝石と白色の斜長石が見られ,山頂付近のものと同じ岩質である.節理はどちらかというと柱状である.
 その先の男女回転コースの縁からは手稲山地すべりの頭部が一望の下に見渡すことが出来る.

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 手稲山溶岩の露頭 手稲山溶岩の顔つき
 柱状節理が見られる.その他に左下がりの緩い傾斜の不連続面がある.  典型的な輝石安山岩で白色の斜長石と黒色の輝石が目立つ.いずれも鉱物も大きさは2mm 以下で細粒である.

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 男女回転コース頭部付近から見た岩屑なだれ地形
 中央の観覧車のある丘は,岩屑なだれの移動土塊である.男女回転コースは岩屑なだれの滑落崖である.

 ヘアピンカーブを過ぎてやや急な坂を登っていくと大きな露頭がある.全体に白灰色を呈していて一見デイサイト質であるが,弱い変質を受けた輝石安山岩である.

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 変質を受けた手稲山溶岩 左の拡大
 一見デイサイトに見えるが石英は認められず,安山岩の変質したものと考えられる.  変質によりもともとの柱状節理が消えかかっている.

 この露頭を過ぎると,後は山頂まで露頭はない.

 山頂は標高1023.1m で一等三角点「手稲山」が置かれている.位置は北緯43度04分36.3秒,東経141度11分33.5秒である.この山頂の足元は輝石安山岩の露岩でごつごつしている.この三角点を含む平坦面の南西斜面は柱状節理の発達した溶岩の露頭が絶壁をつくって連続している.

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 手稲山山頂の安山岩 三角点
 ブロック状になっているが露頭である.この左手は柱状節理の発達した安山岩の絶壁となっている.
 平和の滝登山道の途中から柱状節理の露頭が見える.
 世界測地系の三角点として2000(平成12)年10月に設置され,2008(平成20)年5月に標高が改訂された.
 最初に埋設されたのは1900(明治33)年である.


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南西斜面のガレ場

 鉄塔群の途中から西区平和の滝へ下る登山道がついている.この登山道の標高900m 付近から標高720m 付近まではガレ場となっていて,その中を登山道がついているので非常に歩きにくい.特に下りが怖い.ガレ場の下の方に大ガレ場があり,大きいものでは差渡し3mほどの角のやや取れた転石が積み重なっている.
 これらの転石は扁平なものや柱状のものが多く,サイコロ状のものは少ない.石はいずれも山頂溶岩と同じ輝石安山岩である.

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 南西斜面のガレ場と山頂溶岩(2013年5月19日撮影)
 南西斜面も崩壊によって絶壁となっている.手稲山が北西方向から見ると岩峰状に見えるのは,両側が崩壊によって削られているためである.

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 南西斜面の大ガレ場 礫の覆瓦構造(インブリケーション)
 この大ガレ場は崩壊斜面の下の方に出来ているものである.これより上方あるいは周辺は木が生えているが,同じような礫の堆積斜面である.
 印象としては30年前に比べ,ガレ場の面積が縮小しているように感じる.
 斜面下方から見た状態である.扁平な礫は山側に傾斜しているものが多い.
 斜面全体として上に凸,すなわち,はらみ出した状態となっていて不安定であることを示している.

 手稲山の北西側には大規模な地すべり(岩屑なだれ)があり,南西斜面は岩石崩壊による堆積物がガレ場を形成している.

手稲山山体崩壊の堆積物

 札幌から見える手稲山の急崖は,5万年前より古い時代に発生した山体崩壊の滑落崖である.この山体崩壊は岩屑なだれとなって斜面を流れ下り,末端は国道5号を越え,JR 函館線付近に達したとされている.規模は最大幅2,000m,奥行き6,500m,崩壊頭部の崖の落差は約400m である.

 この山体崩壊の堆積物が見ることが出来る場所が幾つかある.

 まず,テイネ・ハイランド第3駐車場の隅である.ここでは岩屑なだれ堆積物とその上に載るクッタラ火山(クッタラ火山Kt-2テフラ:5.2万年前) と支笏火山(支笏火山 Apfa1テフラ:約4万年前) の火山灰,さらにその上位の山麓緩斜面堆積物(最終氷期の堆積物)を見ることが出来る.ここでの層序からこの岩屑なだれ堆積物は5万年前より古いと判断されている.

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 露頭の全景 岩屑なだれ堆積物とその上位の堆積物
 テイネ・ハイランド第3駐車場の隅の法面である.この法面の奥は,頂上へ向かう管理道路である.
2014年8月末現在,草が生い茂っていて,地層を見ることはできない.
 下位の亜角礫層が岩屑なだれ堆積物で,礫は手稲山溶岩である.折尺付近に火山灰質の礫質土があり,折尺の下端付近にクッタラ火山kt-2テフラが,上端付近に支笏火山Spfa1テフラがある.上位の礫質土層は山麓緩斜面堆積物である.

 サッポロテイネスキー場には聖火台がある.この聖火台が立っている丘の東側の裾に岩屑なだれによって移動してきた安山岩のブロックが見られる.全体に節理面で分離し空石積みの状態となっている.

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 手稲山溶岩からなる岩屑なだれ堆積物 聖火台下から見たネオパラ山
 手稲山溶岩が節理から分離して空石積み状態になっている.  手稲山火山噴出物は下位のネオパラ山溶岩と上位の手稲山溶岩とからなる.

 テイネスキー場への道は,国道5号から岩屑なだれ堆積物の南東の縁を境する三樽別川に沿って上っていき,岩屑なだれ堆積物中を横切って軽川を横断する.この横断するところが手稲橋で2007(平成19)年12月に新しい橋に作り替えられた.
 この橋の山側橋台付近に岩屑なだれ堆積物とされる露頭がある.現在は,かなり小規模となっているが,西野層相当層と考えられる火山角礫岩を確認することが出来る.一部ピローブレッチャの礫を含むガラス質の安山岩礫を主体とする.

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 テイネ橋の右岸の露頭位置 火山角礫岩からなる移動岩塊
 橋台手前の電信柱の影に露頭がある.  この露頭ではあまりクラックが見られないが全体に緩んだ感じはある.

 スキーと登山,そして山登りサイクリングで親しまれている手稲山のあまり知られていない一面を紹介した.


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