山岳トンネルの調査と設計

<トンネルの役割>

 日本の国土の70%は山地であり日本列島を縦断して急峻な山脈が北から南に連なっている.このような地形的障害を克服する手段として鉄道,道路,水路などの山岳トンネルは不可欠である.一方,大都市のある海岸平野では,土地の高度利用のために地下鉄や地下河川などが建設されている.また,快適な都市生活になくてはならない下水道,電気,ガス,水道などのライフラインも地下洞道により結ばれている.

<トンネルの区分>

 トンネルは施工方法により大きく,山岳トンネルとシールドトンネルに分けられます.一般に,山岳トンネルは岩盤中に掘削され,シールドトンネルは未固結ないし半固結の地盤に掘削されます.近年は両者の境界は,はっきりしなくなりつつあります.
 用途によって,鉄道トンネル,道路トンネル,地下鉄道トンネル(ほとんど都市部),サービストンネル(発電用水路トンネルや農業用水トンネルなど)に分けられます.

<山岳トンネルの特徴>

 山岳トンネルは一般には,ロックボルトと吹付けコンクリートを主体とするNATM工法で施工され,シールドトンネルはシール機による掘削とセグメントによる覆工で建設されます.
 山岳トンネルの工法は近年大きく進歩し,その工事費の低減率は自動車生産と同じ程度の効率を達成しています.さらに,大量輸送に対処するために3車線トンネルが施工され一部では完成しています.


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写真1 東名高速道路 日本坂トンネル

 3車線トンネルで断面は扁平である.さらに,照明を自然光に近い蛍光灯にしているため圧迫感が無く非常に運転しやすい.


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<トンネルの調査・設計の流れ>

トンネルの調査・設計の流れは次のようになります.


路線選定のための調査路線選定・トンネルの概略位置を決定する設計

概略設計のための調査概略設計(坑口位置選定)

詳細設計のための調査詳細設計・施工計画(トンネル位置・構造決定,施工法決定)

施工中の調査切羽の地山評価と支保の妥当性評価
掘削による周辺への影響評価(特に渇水問題)

施工後の調査周辺への影響の収束状況把握(渇水,水質汚染,地表面沈下,掘削ズリの影響など)

 調査のそれぞれの段階で見直しは可能ですが,もっとも手戻りが少なく合理的なのは「路線選定のための調査」と「概略設計のための調査」の精度を上げ,設計と連携してもっとも合理的な坑口位置,構造,施工方法を決定することです.

<トンネル調査の留意点>

 トンネル調査で問題となる点はいろいろありますが,重要なのは,坑口での地すべりと岩石崩壊,大量湧水,大規模破砕帯の3つです.

坑口の地すべり・岩石崩壊

 トンネルは,円形,線状構造物です.多少の土圧には耐えることが出来ますが,地すべりの推力や大規模な衝撃力には対抗できません,特に,縦断方向の外力に対してはあまり抵抗性を持っていません.それで,地すべり地や岩石崩壊が予想される場所は,坑口として避けるのがもっとも合理的です.しかし,前後の線形や用地の関係で地すべり地に坑口を設けざるを得ない場合が発生します.その場合,トンネルを掘る前に対策が必要かどうかの判断が重要になります.

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写真2 坑口の地すべり対策

 正面の二つの沢に囲まれた尾根が旧地すべりの移動土塊で施工前の融雪時に変位が観測された.φ800mmのパイプルーフ工法(SH工法)で地表の変位を押さえると同時に,ソイルセメントによる押え盛土により地すべり全体の安定度を高めた.

katanak1.jpg 写真3 斜面対策を施工中のトンネル坑口(国道229号 刀掛トンネル江差側坑口)

 岩盤崩落を防ぐために施工中の吹付けのり枠工.のり の直高は約100m.ロックボルト3,200本,植生土のう 52,000袋を手前の300tクレーン(斜面上部)とスカイステーション(斜面下部)で施工する.

大量湧水

 JR東海道線丹那トンネル,上越新幹線中山トンネル,JR中央線塩嶺トンネルなどでの大量湧水と渇水は有名です.大量湧水が発生するかどうかは地表踏査と流量観測である程度予測することが可能です.ただし,どの位置で突発的に大量湧水するかの予測はかなり難しいものがあります.実際には,大量湧水が予想される付近ではトンネル施工機械(クローラージャンボ)で30m程度の探りボーリングを行いながら掘削することになります.

tanna11.jpg 写真4 静岡県JR東海道線丹那トンネルの突発湧水の状況(丹那トンネルの話,1933 より)

 熱海側から2,700m付近から湧水がひどくなり,被圧地下水が噴出した.先進ボーリングからは最大5 m3/min の湧水があった.
なお,「丹那トンネルの話」は,1995年に復刻されたが現在は在庫はない.

kohokum1.jpg 写真5 トンネル内での水抜きボーリングからの湧水

 被圧しているために勢いよく噴出している.ここでは,水頭圧は0.7MPa(水位にして70m)ほどで,このボーリング孔だけで 1m3/min 以上の湧水量である.粘土を伴う破砕帯が遮水帯を形成し切羽前方の地下水を遮断している.
 諏訪湖周辺に分布する塩嶺累層は溶岩,火砕岩を主体とする更新世の陸上火山の産物で,JR中央線塩嶺トンネル,JH長野道岡谷トンネルなどのトンネル工事でも大量湧水が発生し,特に,JR中央線塩嶺トンネルでは広範囲な渇水が生じた.

大規模破砕帯

 日本列島は,太平洋プレートとユーラシアプレートに挟まれ,さらに西日本はフィリピン海プレートの動きもあり,至る所に大規模な破砕帯が形成されています.特に,糸魚川−静岡構造線,中央構造線は日本を代表する構造線で幅100m以上の破砕帯を形成しています.
 さらに,日本列島の太平洋側には,海洋プレートにより押し付けられた付加体といわれる地質体が分布しています.付加体の中では,比較的軟質な泥岩類がもまれて破砕帯状になっていることが多いのです.

3shimiz1.jpg 写真6 静岡県に分布する砂岩・泥岩互層

 新第三紀中新世〜鮮新世の地層で,この付近では泥岩層が著しい破砕作用を受けている.ハンマーのやや左付近から右側は層理面に沿って破砕されている.
 このような破砕帯は,TBMに取って大きな障害となる.TBMは,言ってみれば超大規模(一般には直径5m,最大では12m近くのものがある)な水平ボーリングである.ボーリングで言うジャーミングを起こすと進退が窮まってしまい,人力で拡幅して救出するしかない.ボーリングとちがうところは後戻りができないことであろう.

kohokuk1.jpg 写真7 トンネルの切羽

 このトンネルはその位置と周辺の地質状況から,糸魚川−静岡構造線と中央構造線の両方を貫いている可能性がある.この切羽は,岩構造は残っているが全体に鏡肌の発達が顕著で,鏡止めボルトで切羽が自立している.掘削ズリはほとんど岩塊にならない.

<トンネル設計の留意点>

トンネル設計で留意する点を順に述べてみます.

坑口設計


 坑口位置
 坑口部の区間
 坑口斜面の安定度と斜面安定工
 近接構造物(特に,橋梁)との取り合い
 坑門形式
 管理用施設

nagamine1.jpg 写真8 長峰トンネル坑口(海南湯浅道路和歌山側坑口)

 面壁型坑口で土被りの薄い区間がやや長く続き,偏圧地形となっている.トンネル上部には道路がありそれより上はミカン畑となっている.ここからは見えないが左側に避難坑がある.地質は三波川帯の黒色片岩が主体であるが,輝緑岩や蛇紋岩も分布しトンネル直交方向に断層が分布している.

shinomom1.jpg 写真9 東雲トンネル坑口(北海道縦貫自動車道札幌側坑口)

 単純な突出型の坑口.北海道では比較的雪の少ない虻田地域であるが,積雪期は雪の吹き込みによる吹き溜まりが形成されることがあり,ベルマウス式では雪の吸い込みが生じやすい.
 地質は新第三紀中新世の安山岩で,近くにはかって硫黄を採取した虻田鉱山がある.変質が著しい地域で,周辺の地質はあまり良好ではない.

断面形状の決定

 トンネルの断面形状は,円形に近いほどトンネルの安定性は高くなりますが,建築限界に比して余分な空間が発生し掘削土量が多くなります.車両の大型化に伴い一般のトンネルでも断面は大きくなる傾向にあることのほかに,最近は3車線トンネルが多くなりトンネル断面は扁平になってきています.施工実績などによる扁平率(トンネル高さ/トンネル幅:この値が小さいほど横長の断面となりアーチ作用が働きにくい)は下の表のようになっています. この表を見ると,通常の2車線断面の場合の一般的な扁平率は,ほぼ0.6以上となっています.トンネル断面積は扁平率が小さくなるとほぼ直線的に縮小しますが,支保工に作用する圧縮応力度は扁平率0.6以下では急激に増加し,扁平率が0.02減少すると圧縮応力度は倍になります.このことも一般的な扁平率が0.6以上となっている理由です.

施工実績による扁平率
事業主体 断面種別 扁平率(H/B)
日本道路公団 2車線断面(通常断面) 0.64以上(0.64〜0.74)
拡大断面(非常駐車帯) 0.56以上(0.56〜0.62)
3車線断面 0.53〜0.61(施工事例)
建設省四国地方建設局 2車線断面(標準断面図集) 0.67〜0.68
大断面(幅員:14.25m) 0.56
建設省近畿地方建設局 2車線断面(トンネル内空断面集) 0.6程度以上
施工例 0.59〜0.72
建設省中部地方建設局 設計要領 0.55〜0.75
建設省北陸地方建設局 通常断面 0.65〜0.67


掘削工法決定

 山岳トンネルの掘削工法は掘削断面の分割法によって決まる施工法です.最近のトンネルでは補助ベンチ付き全断面工法が多く採用されています.この工法は切羽の安定を確保しながら上・下半の同時施工により掘削効率を向上させることが出来ます.
 また,秋田自動車道 第二湯田トンネルで試験的に採用され,第二東名高速道路 清水第三トンネルで各種試験施工を行ったTBM導坑先進工法というのがあります.この工法は,φ5mほどの導坑をTBMで掘削し,天端を中心に先行支保を行って大断面トンネルを掘削する工法です.

TBM導坑先進工法の効果(三浦,1998 による)
事前地質調査の精度向上 TBMの運転記録だけからでも地質不良個所を確定することが出来る.ほとんどすべての出現地質を事前に把握できる.
導坑からの事前補強 天端を中心にケーブルボルトを打設し補強を行うことが出来る.
水抜き効果 本坑掘削時にはほとんど地下水は低下している.ただし,大量湧水が予想される場合にはTBMの採用を慎重に検討する必要がある.
発破掘削の芯抜き 発破掘削にしろ機械掘削にしろ自由面が増える分だけ掘削は効率的になる.
切羽安定効果 地質不良個所では導坑から鏡ボルトを打設して切羽の安定を図る.


支保工設計

 トンネル本体の支保工設計は,工事費に大きく影響すること,施工中の変更が後手に回ることが多いことから,事前調査で地質条件を可能な限り正確に把握して地山に適合した支保構造とする必要があります.一つの目安として,支保パターンの変更による2車線トンネルでの標準的な工事費(掘削工+覆工工)の減少率を示します.
 この表を見て分かるとおり,DパターンからCパターンに変更する場合(DI→CII)が,減少率26%で最も工事費は大きく減少します.これは掘削費が大幅に減少するためです.

支保パターン変更による工事費減少率の例
支保パターンの変更

直接工事費の減少率(%)

DIII→DII

12

DII→DI

3

DI→CII

26

CII→CI

19

CI→B

12


注)DIIIは上半先進工法での坑口部である.側壁導坑先進工法ではない.

補助工法の設計

 補助工法は,通常の支保パターンで対処できない,あるいは得策でないと判断した場合に検討します.補助工法の目的は,切羽の安定性,トンネルの長期的安全性確保,周辺環境の保全などです.
 当初設計で補助工法を採用するには地山条件,環境条件,施工法などを十分に検討する必要があります.現在のトンネル施工では,掘削しながら地山状況に合わせて合理的な支保構造とするという考えですから,当初設計では極力補助工法を使用しないで標準的な支保構造ですまそうとする傾向にあります.
 一方,トンネル施工中に補助工法採用を検討する場合は,施工状況,計測結果などを十分に把握し,掘削工法や支保パターンとの適合性,施工サイクルへの影響などを検討し,経済性,工期を勘案して決定することになります.特に,施工サイクルとの整合性は重要です.
 一般に,トンネルが掘削できれば安定性は確保できるとされていますが,長期的には変状が発生しているトンネルは少なくありませんので,補助工法の採用に当たってはこのような点にも留意する必要があります.
 補助工法の分類を表に示しましたが,ここで重要なのは摘要欄に示した通常のトンネル施工機械設備・材料で施工できるかどうかです.段取り替えが必要な工法は,施工サイクルに影響を与え工期の遅れをもたらすので,地山条件が劣悪な場合や湧水量が極端に多い場合などの限られてきます.

補助工法の分類表(トンネル標準示方書〔山岳工法編〕・同解説,P233)

工      法

目       的

対象地山

摘要
施工の安全性確保 周辺環境の保全
切羽安定対策
天端の安定 鏡面の安定 脚部の安定 湧水対策 地表面沈下対策 近接構造物対策 硬岩 軟岩 土砂
先受け工 フォアポーリング(非充填・充填式,注入式)        
パイプルーフ      
水平ジェットグラウト(噴射攪拌)        
長尺鋼管フォアパイリング(充填式・注入式)      
プレライニング      
鏡面脚部の補強 鏡吹付けコンクリート            
鏡止めボルト            
仮インバート            
脚部補強ボルト(パイル)           〔*〕
湧水対策・地山対策 水抜き坑      
水抜きボーリング      
ディープウェル          
ウェルポイント          
注入
垂直縫地      
遮断壁          

 注) ◎:比較的良く用いられる工法  ○:場合によって用いられる工法  

    *:通常のトンネル施工機械設備・材料で対処が困難な対策,または,施工サイクルへの影響の大きい対策


sakiha11.jpg 写真10補助工法を施行した例

 切羽には鏡止めの吹付けコンクリート.赤い印はAGF工法のパイプ.右の側壁の白い印は上段がサイドパイル,下段がフットパイルである.サイドパイルとフットパイルの間の鋼製支保工が曲がっているのは補強リブ付きであるためである.

sakiha21.jpg 写真11 強大な地圧により座屈したH鋼

 インバート部分にストラットとして設置していたH鋼が座屈した状態.インバートコンクリートを打設して変位は収束した.

インバートの設置

インバート設置を検討する場合
地山不良の場合:トンネルに作用する側圧の増大,偏圧の作用,覆工脚部での支持力不足,覆工の大きな断面力や変形が発生

近接施工の影響が懸念される場合

断層破砕帯などでの耐震性の向上

土被りが小さい場合や都市域で地表面沈下が許されない場合

施工中の大型重機による路盤の泥ねい化が予想される場合

インバート設置の原則(トンネル標準示方書〔山岳工法編〕・同解説,P97 をまとめた)
トンネル種別 地山等級 記事
道路トンネル CI,CII 泥岩,凝灰岩などの膨潤性粘土を含む地山で,長期の安定性に問題がある場合に設置出来る.
  DI 原則として設置.ただし,岩盤の長期的支持力が十分であり,側圧による押し出しがないと予想される場合は省略できる.
  DII,坑口部 インバート設置.坑口部は鉄筋構造.鉄筋補強に替えて鋼繊維補強コンクリートなどを使用できる.
鉄道トンネル IIN 剥離性の硬岩(B岩種=変成岩や中・古生層の堆積岩)および泥質岩では原則設置.
  IN 盤ぶくれや側壁の押し出しが生じやすく,列車走行時の振動による噴砂が懸念されるので設置する.
  IL インバート設置.出来るだけ早期に断面を閉合する.
  IS,特,特 インバート設置.吹付けコンクリートによる早期閉合を原則とする.
水路トンネル 全タイプ 原則としてインバート設置.
  無圧トンネルのA,B,C 無筋インバート
  無圧トンネルのD 状況に応じて鉄筋で補強.


掘削ズリの処理

 環境基準が整備されてきて,最近のトンネル工事では,掘削ズリおよびトンネル排水中の有害金属について検討する必要があります.問題となるのは銅,鉛,亜鉛,カドミウムなどの重金属類や砒素,トンネル排水のpH,水温などです.一般的には,事前調査で代表的な掘削対象地山の溶出試験を行ってズリの処理が必要かどうかの大まかな判定を行います.有害元素の含有量が多い場合には,ズリ処理場を検討することになります.有害元素の管理は長期にわたるので,場合によっては有害元素を含む地域を避けてルートを選定し直すことも検討する必要があります.
 廃棄物処分場にトンネルが計画されるということもあります.事前調査を十分に行いルートを避けることが必要です.

tamag1.jpg 写真12 秋田県の玉川温泉

 強酸性の温泉が湧出している.新第三紀中新世頃の地質では,温泉水の温度は低下していても強酸性水が湧出することがあり,砒素を大量に含むことがある.
 トンネルでこのような地質に遭遇した場合は,掘削ズリの処理が膨大になるのでルート変更を検討する必要が出てくる.また,変質鉱物中には膨潤性を示す粘土が含まれることが多く,変位が収束しにくい.いわゆる後荷がかかる地山である.

<施工中の調査>

 トンネルが他の構造物と異なる点は,トンネル周辺の地山を構造材料と考え,応力を負担させるという点です.しかし,トンネルにかかる荷重をあらかじめ正確に把握したり,構造材料としての地山の力学的特徴を求めることが困難です.それで,トンネル掘削に当たってはトンネルの変位や支保工に作用する力を計測して,それをもとに支保工の妥当性を評価することになります.切羽の観察も重要な評価要素です.

nezame1.jpg 写真13 トンネル切羽の状況

 ミニベンチ工法を採用している.上半切羽は下半切羽より5mほど進んでいるがクローラージャンボで上半の削孔,支保工建込み,ロックボルト打設が可能である.

 施工中の地山の評価は,切羽観察にもとづく評価が基本ですが,内空変位や支保工応力,ロックボルト軸力などの値が参考になります.特に,内空変位は初期の変位量から最終変位量を予測し,早期に対策を立てることが出来る点で優れた評価要素です.

kohoku31.jpg 図1 切羽観察にもとづ地山評価点の例

 このトンネルでは,評価点が70点を超えると補助工法が必要となる.それぞれのトンネルで支保パターンと評価点の関係を施工の早い段階で把握しておくと,簡単な数量化で比較的実際にあった地山評価が出来る.

<供用後の調査>

1960年代に始まった高度経済成長期に建設されたトンネルが40年近くの年月を経て老朽化し始めています.山陽新幹線,JR室蘭線礼文浜トンネルの覆工コンクリート落下はその典型です.やや古いですが変状トンネルの実態を表に示します.

変状トンネルの実態(JTA保守管理委員会,1996)
トンネル種別 供用中のトンネル 変状トンネル数量
道路トンネル 4,307件 292件(6.8%) 過去対策実施209件(4.9%)
JR鉄道トンネル 約3,600箇所 50%(約1,000km)が戦前に建設
公営地下鉄トンネル 483km 最古は73年前(開削・シールド)
下水道トンネル 226,000km 4,360km(約2%)が50年以上経過
発電用水路トンネル 6,200km 3,000kmが昭和初期以前に建設
通信用トンネル 800km 約5%で鉄筋の腐食.20年以上経過の約10%


 供用後でもトンネル事故の大きなものは,坑口で発生していて,豊浜トンネルの例は記憶に新しいものです.岩石崩壊の事例をまとめて示しました.その他に,JR飯山線高場山トンネル(新潟県小千谷市)や国道231号雄冬トンネル(北海道増毛町)など地すべりにより破壊したトンネルもあります.

岩石崩壊の事例
年月日 場所 道路名 規模 崩壊土量 その他
1987.7.5 静岡県大崩海岸 国道150号 幅:45m

高さ:50〜100m

6,000m3 岩すべりにより国道部分の道路が崩壊した.
1989.2 同上 同上 幅:7〜8m

高さ:約25m

2,000m3 国道より下が崩壊.
1987.6.9 北海道上川町

層雲峡

国道39号 厚さ:4〜5m

高さ:120m

約11,000m3 溶結凝灰岩の岩石崩壊.石狩川を堰き止め,約100m離れた国道の通行中の車を直撃した.
1989.7.16 福井県越前町

玉川越前岬

国道305号 幅:約30m

高さ:約25m

約1,100m3 岩石崩壊によりロックシェッドとポケット式落石覆工が破壊した.
1991.10.18 長野県

猿なぎ洞門

国道158号 幅:60〜65m

高さ:65m

岩石崩壊によりロックシェッドが崩壊.
1996.2.10 北海道古平町

豊浜トンネル

国道229号 幅:40m

高さ:60m

約20,000m3 大規模な岩盤の崩落が発生し,トンネル坑口明り巻きが破壊した.
1997.8.25 北海道島牧村

第2白糸トンネル

国道229号 幅:約40m

高さ:約70m

厚さ:約10m

約20,000m3 大規模な岩盤崩落によりトンネル巻出し部が約100mにわたって破壊.1993年7月12日の北海道南西沖地震により近傍で崩壊が発生していた.


 以上のような突発的なトンネルの破壊は除いても,交通に支障を来しているトンネルが増えています.このようなトンネルの調査の流れを示します.
トンネル補修,補強対策の要点は,行った対策工である程度長期間トンネルが健全に機能するようなものとすることです.

日常点検

異常箇所の抽出

定期点検:5年に1度の一斉点検

危険個所のランク付け

詳細調査:既存資料の整理・解析から始まり,変状原因の特定と対策工の概略を検討する.

判定:対策工が必要かどうかの判定を行う.

対策工:外力に対抗する補強対策と交通の支障になる現象を取り除く補修対策とに大きく分けられる.

監視:対策工の効果を監視する.最低1年間行えばある程度の結論は得られる.

hurumi1.jpg 写真14 変状トンネルの例

数ミリの開口したクラックが入り漏水もしている.外力が作用していると推定される.一般に,この程度のクラックが発生していると天端は数10cm程度沈下していることが多い.白く見えるのはクラックの進行性を見るために張り付けたモルタルパットである.


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