トンネル技術はどこへ向かうのか

 (2009年10月9日作成)

 「山岳トンネルの補助工法」が15年ぶりに改訂された.その講習会で京都大学大学院の朝倉俊弘氏がこんな意味の話をされた.
 「35年くらい前のトンネルのシンポジウムで,ある大家が『トンネルの横断方向のことばかり言っているけども,トンネル縦断方向にはどうなっているのか.考えなくてもいいのか』と言う質問をした.この質問に会場も含めて誰も答えることができなかった.」


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 トンネルの補助工法,特に切羽安定のための長尺先受け工や鏡ボルトは,トンネル縦断方向を考えて施工される工法である.しかし,視野に入っているのは今,目の前の切羽をどう安定させるかと言うことで,先に先に手を打って支保を軽減し,かつ長期的安定も確保できるトンネル掘削工法までを視野に入れているとは言えないのが現状であろう.トンネルを三次元的に安定させるという視点を持つと,現在採用されている「補助工法」は補助工法ではなく地山状況に対応した「正規の支保工」となるのではないか.

 1994年の山岳トンネルの補助工法が B5判218ページであるのに対し,改訂版は A4判364ページである.その特徴を私なりに整理してみると次のようになるかと思う.

1)全体に記述が統一され読みやすくなっている.図が見やすいのも有り難い点である.
2)2002年から1年間かけて事例収集を行い,その後も,補助工法の採用が明示されている文献の工事報告を収集している.調査した文献は,トンネル工学研究論文・報告集(土木学会),トンネルと地下(土木工学社),施工体験発表会(日本トンネル技術協会)で,1994年から2005年分を対象としている.
3)上の調査で収集した文献リストが整備されている.1994年版と併せれば補助工法を検討する上で必要な文献はほぼ網羅されていると言える.
4)事例を紹介する場合に,図,写真が豊富で内容を理解しやすい.
5)長尺フォアパイリングの簡易設計法など補助工法の設計方法について計算式も含めて記述されていて便利である.また,トンネル集中湧水の予測式,恒常湧水を求める水理公式の一覧も掲載されているなど,資料集としても使える.

 確かにトンネルは線状構造物である.しかし,安全に施工でき,長期的に安定なトンネルを,より経済的に建設するには,切羽前方数十m と二次覆工の終わっていない掘削部分のトンネル周辺の空間を三次元的に利用した効率的な支保構造とすることが得策のように思える.特に,切羽到達前の先行変位を極力抑えることが効果的であることは,はっきりしている.実際に,AGF 工法は地中に半円筒の金網を伏せているようなものである.

 事前の地質調査,設計,切羽前方探査,施工,計測,設計へのフィードバックと言った体系(相互連携)を構築することが必要である.そして,施工記録を残し,必要な人が見ることのできるデータベースを構築することも重要であろう.

<参考図書>

土木学会,2009,山岳トンネルの補助工法ー2009年版ー.

土木学会,1994,山岳トンネルの補助工法.


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