1 山岳トンネル調査の流れ

トンネルの役割

 現在,日本の道路は高速道路から市町村道まで実延長で1,203,776.7kmに達している.(2008年4月1日現在:国土交通省ウェブサイト).日本の国土の70%は山地であり,山脈等の地形的障害を克服する手段としてトンネルは不可欠である.

 現在,大量輸送に対処するために第2東名高速道路,第2名神高速道路の調査・工事が進められている.これらの高速道路では,断面積が200m2を越え,従来のトンネルの約3倍に相当する大断面のトンネルが計画されている.
 さらに国土交通省では山地・河川等の地形的な制約のために相互の交流が遅れている地域を大規模なトンネルや橋梁で結ぶ事業を展開してきた.

 交通施設としてのトンネルの利点は,平面的には出来るだけ直線に近く,また上り下りの少ない道路線形を確保することによって自動車の走行性を向上させること,地中を通過することにより落石・土石流・雪崩などの自然災害から交通を守り自動車が安全で確実に走れるようにすることなどである.また,地形の著しい変更を伴わないため自然景観の保全にとっても有効である.

 トンネルの計画・設計にあたっては,トンネルの施工上の安全性・経済性についての配慮が必要で,特にトンネル坑口位置の決定は,建設費ばかりでなく供用後の維持管理費にも大きな影響を与える.


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トンネル調査の要点

 トンネルでは,周辺の地山はトンネル空洞を保持する支保構造体として扱う必要があるため,一般の構造物と比べて地形・地質等の地山条件の影響を大きく受ける.
 また,トンネルは改築・改修が極めて困難であることも大きな特徴である.このようなことから,トンネルにおいては事前の地質調査が極めて重要である.

 施工中調査を含めた調査段階毎の調査区分は,トンネル標準示方書(山岳編)・同解説(土木学会,1996,p12)などに示されている.地山条件調査(地質調査)の流れと調査手法および取得情報は,上記仕方書に,トンネル施行の流れと地質調査の流れはNEXCOの設計要領 第三集 トンネル(2009,p35)などに示されている.

 トンネルにとって問題となるのは,坑口付近の地すべりと大規模な破砕帯および大量湧水である.
 予備調査段階で,ほぼこれらについては見当がつくが,第1次調査での地表踏査および弾性波探査が非常に重要である.この段階で大きな問題がなければトンネルの基本的な事項は決定できる.
 ただし,大量湧水はトンネルの施工に大きく影響すると同時に周辺の渇水問題を引き起こす.大量湧水が予想される場合は,早い段階で水利用実態調査や流量観測などを実施し,施工前の長期的なデータを収集しておく必要がある.

 また,坑口地すべりは,坑外からの事前対策が必要か,補助工法を含めた一般的なトンネル工法で対処可能かの判断が重要である.そのためには,踏査による地すべりブロック区分が不可欠である.

 施工中の調査は,切羽前方の地質を把握する調査と支保パターンの妥当性(経済性・安全性)を検討する調査とがある.
 切羽前方の地質確認は切羽からの水平ボーリングが最も信頼性があるが,施工サイクルとの整合性を取る必要がある.

 支保パターンの妥当性を検討するための調査は,切羽観察・内空変位計測・坑口部での地表沈下測定のほかに,地中変位計測,ロックボルト軸力測定,コンクリート吹付け応力測定などがある.問題のあるトンネルについては,供用後も地中変位などによる計測を実施する場合がある.

 なお,供用後の維持・補修の調査は,これらとは全く別に計画立案から始めることになる.ここでの要点は,クラック展開図を精度よく作成し,それにもとづいて変状原因解明と対策工をにらんだ調査計画を立案することである.


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