トンネルの地質調査に限らず,地山物性値の設定は,地質学的な区分けと工学的な区分けの橋渡しとなる重要な要素である.
地質調査の目的は,人工改変により地盤がどのような応答をするかを予測することであると言ってよい。そのためには,まず,対象となっている地質が,いつ,どのように形成されたのか,形成後どのような変化を受けたのかを明らかにする.そして,それぞれの地盤の三次元的な分布を明らかにし,どのような工学性(物性値)を持っているかを決定する必要がある。
さらに広く言えば,人工改変による水文環境や動椊物への影響など化学的・生物学的な変化を予測することも重要となっている.例えば,地山の透水性などの評価も重要である.
ここでは,地山分類に必要な物性値の設定の仕方について述べる.
地山としての物性値は,設定の仕方が一応確立されている.最も一般的に用いられる地山物性値は,
単位体積重量,弾性係数,ポアソン比は岩盤を評価する上での基本的指標である.弾性的な挙動を示す場合には,粘着力,内部摩擦角は解析上必要ない.
トンネルに出現する地山の物性値を設定することにより,トンネルに作用する応力,変位をある程度予想することが出来る.変位が大きくなると予想されるトンネルでは,類似トンネルの事例収集を行い,変位を予想し支保パターンを決定する目安とするとともに,場合によっては数値解析を行うことになる.この場合に,どの範囲までどんな地山物性値を用いるかを調査結果にもとづき提案する.
坑口付近については,土砂,風化岩(強風化,弱風化など),新鮮岩が出現するので,それぞれについて物性値を設定する.また,破砕帯(亀裂の多い地山,粘土化した地山など)の評価も重要である.
地山物性値設定の手順としては次のようになる.
なお,注意を要するのは亀裂が極端に多い岩盤や水により著しく劣化する岩盤である.亀裂が多い岩盤の評価は,亀裂係数による低減を行って岩盤評価に取り込むことが可能であるが,水による劣化については浸水させた試料による力学試験を行うなどして,どの程度物性値を低減させるのが妥当か検討する必要も出てくる.
物性値を設定する基礎データとしては現位置試験,物理探査,室内試験などがある.
地山物性値の一般値も種々提案されている.それらをまとめて示すが,試験データなどから得られた値のチェックに用い,設計に使用できる値を設定する必要がある.
なお,橋梁などの構造物の基礎に用いる地盤反力係数は,試験方法による補正係数(α)に注意する必要がある.
岩石試験の一軸圧縮強度と引張強度から供試体の粘着力,内部摩擦角を求めることができる.
供試体の超音波伝播速度と速度検層や弾性波探査で得られた地山弾性波速度の比を用いて地山のせん断定数を求める手順が確立されている.
ただし,この方法では,まれに現実とあわない せん断定数 が出てくることがあるので,一般値と比較した上で総合的な判断を行って地山物性値を設定する必要がある.
粘着力を求める式 | |
内部摩擦角を求める式 |
ただし,Cr:亀裂係数
Vp:地山の弾性波速度(km/sec)
Vp0:供試体の超音波伝播速度(km/sec)
なお,岩石試験から求められる限界ひずみは,トンネル内空変位などの計測値の管理基準値を決定する際に使用できるので,データをまとめて整理しておく必要がある.
施工実績から管理基準値は変更されるべきものであるが,当初の管理基準値は,
類似地山での施工実績から経験的に求めるか限界ひずみを用いることになる.
トンネル坑口では,坑門基礎,橋梁基礎,切土斜面の保護工など他の工事でも地山物性値が必要になる.このような場合には,これらの構造物に必要な物性値と整合性の取れるように設定する必要がある.
この図の場合の限界ひずみは,0.10%(1,000分の1)である.トンネルの半径は5m(5,000mm)程度なので,壁面の変位量が5mm(水平測線の内空変位量が10mm)を越えると要注意と言うことになる. 普通は,この変位量の1/3,2/3の値を求めて,それぞれの段階での対応方法を事前に検討する. |
地山物性値の一般値は様々な物が提供されている.下に示した参考文献に,ほぼ網羅されている.
山岳トンネルの地質調査で必要とされる一般的な物性値を表10.1に示した.
調査方法 | 得られるデータ | 設定できる 地山物性値 | 文 献 (参考文献参照) |
標準貫入試験 | 換算N値 | 単位体積重量 変形係数 粘着力 内部摩擦角 | a,d,e |
孔内載荷試験 | 孔壁圧力と孔壁面変位量 | 変形係数,弾性係数 | a,d,f |
岩石試験 | 単位体積重量 一軸圧縮強さ 圧裂引張り強さ 静弾性係数 ポアソン比 粘着力 内部摩擦角 | 単位体積重量 粘着力 内部摩擦角 | a,c,e |
弾性波探査 P波検層 | 地山弾性波速度 | 亀裂係数 | a,e |
<表10.1の参考文献>(順上同)
岩種 | 粘着力(kN/m2) | せん断抵抗角(°) |
砂岩・礫岩・深成岩 | (標準偏差=0.218) | (標準偏差=4.40) |
安山岩 | (標準偏差=0.384) | (標準偏差=7.85) |
泥岩・凝灰岩・凝灰角礫岩 | (標準偏差=0.464) | (標準偏差=9.78) |