(2015年1月10日作成.2015年1月21日追記)
トンネルの地質調査で求められる地山分類は,トンネル掘削時の地山の挙動と関連付けられた地山の良し悪し(地山等級)である.調査での地山分類は,支保パターンと結びつけられて設計・施工に引き渡される。
トンネル設計で支保パターンを決定する方法としては,1) 地山分類による標準支保パターンの適用,2)類似条件のトンネル設計の適用,3)解析的手法の適用の3通りの方法がある.
一方,施工に際しては,観察・計測による支保パターンの修正が基本である.すなわち,事前の地質調査・設計を参照しながら,切羽観察と内空変位などの計測にもとづいた地山評価により,地山に即した合理的な支保パターンで施工する.
地山分類は,岩種,地山弾性波速度,露頭などでの地山の状態,ボーリングコアの状態,地山強度比,トンネル掘削時の地山挙動と変位などを指標としている.
注意しなければならないのは,地質調査から判断する地山分類と支保パターンとは,1:1に対応していないという点である.地山分類と標準支保パターンの関係については次のような注意が必要である.
各機関によって地山分類の要素は様々である。道路トンネル,鉄道トンネル,かんがい用水路トンネルの地山分類がある.その他に,電力会社の発電用水路トンネルの地山分類がある.
前者3つの地山分類と北海道開発局道路トンネル地山分類の評価要素を示す.
トンネルの種類 | 評価要素 | 区分の概要 |
道路トンネル | 岩石グループ | 塊状・層状 硬岩・中硬岩・軟岩 |
---|---|---|
弾性波速度 | 5km/sec以上〜1km/sec以下 | |
地山の状態 | 岩質・水による影響 不連続面の間隔 不連続面の状態 | |
コアの状態・RQD | コア長:20cm〜礫状・砂状・粘土状 RQD70以上〜10以下 | |
地山強度比 | 4以上・4〜2・2〜1 | |
トンネル掘削の状況と変位の目安 | 緩み・切羽の自立性・内空変位量 | |
鉄道トンネル | 岩種 | 硬岩・中硬岩・軟岩・土砂 A〜G岩種 |
弾性波速度 | 5.2km/sec以上〜1.5km/sec以下 | |
地山強度比 | 6〜5〜4〜2〜1.5 | |
相対密度 細粒分含有率 | 80% 10% | |
かんがい用水路 トンネル | 地質状態 | 亀裂状態:α〜δの4段階 圧縮強度:1,200kgf/cm2以上〜50kgf/cm2以下まで 地山ポアソン比:0.16〜0.35 地圧:作用する・作用しない |
弾性波速度 | 4.5km/sec以上〜0.8km/sec以下まで | |
見かけ地山強度比 | 10以上〜6〜2以下まで4段階 | |
北海道開発局の 道路トンネル | 岩種 | 剥離性の富む古生層〜深成岩 剥離性に富まない古生層〜深成岩,火山岩 第三紀堆積岩類 |
弾性波速度 | 4.8km/sec以上〜1.0km/sec | |
RQD | 60以上〜20以下 | |
亀裂係数 ={1-(Vp / Vp0)2}×100 | 25%以下〜80%以上 | |
準岩盤圧縮強度 | 140MPa以上〜1.5MPa ただし,地山等級Eは1.5MPa〜0.5MPa | |
岩盤の粘着力 | 6MPa以上〜0.5MPa ただし,地山等級Eは0.5MPa〜0.1MPa | |
岩盤の内部摩擦角 | 55°以上〜30° ただし,地山等級Eは30°〜15° | |
岩盤の変形係数 | 5,000MPa以上〜150MPa ただし,地山等級Eは150MPa〜30MPa | |
岩盤のポアソン比 | 0.25以下〜0.35 ただし,地山等級Eは0.35〜0.40 | |
地山強度比 | 4〜2〜1 ただし,地山等級Eは1以下 |
これら地山分類を適用する場合の留意点を列挙する.
(1)地山分類の要素は,まず岩の硬さと不連続面である.
トンネルの場合,掘削により周辺地山に応力の再配分が起こり変位が発生する.この時の地山の挙動は,二つの場合に分けて考えることが出来る.道路トンネルの地山分類では,この境界を一軸圧縮強度20N/mm2(=20MPa:200kgf/cm2)に置いている.
一つは,岩石の強度がトンネル掘削によって発生する荷重に比べて大きく,節理などの力学的不連続面で支配される不連続的挙動を示す場合である.この場合,地山の挙動は岩盤中の地質不連続面の方向,節理系の数,分布密度,連続性,充填物の状態などに関連するので,岩盤の不連続面の調査を主体とし弾性波速度を補完的に用いて地山分類を行う.
一方,岩石の強度がトンネル掘削によって発生する応力に比べて比較的小さく,地山強度比がトンネルの変形量を支配する連続的挙動を示す場合がある.この場合,地山強度比がある程度大きければ地山は弾性変形にとどまるが,逆に小さければ塑性変形により地山に大きな変位が発生する.このような地山(新第三紀の堆積岩類や更新世の地層)ではトンネルの挙動は地山強度比で定量的に表現できる.
(2)その地質が形成された地質時代は重要な要素である.
一般的には,古い地質ほど硬い.例えば,中生代の粘板岩では地山弾性波速度が2.0km/sec以下であるとスコップで掘れるほど軟質で粘土化が進行している.しかし,鮮新世の泥岩や凝灰岩類では2.0km/sec程度あればかなり固結度はよい.
(4)地山弾性波速度は地山分類の重要な要素となっている.
弾性波が地山中を伝わる速度は次のように表わされる(山口ほか,1977,185p).
ここで,
Vp:地山中を伝わる縦波(cm/sec)
E:岩盤のヤング率(1MN/m2=0.098kgf/cm2)
ρ:密度(g/cm3)
ν:ポアソン比
G:剛性率
すなわち,弾性波速度は弾性係数に左右されるというのが一つの考え方である.
弾性係数は鉱物組成,固結度,亀裂状況,空隙率,風化・変質状態,含水状態,封圧(周圧)などの要因によって大きく変化するといわれる(伊藤ほか,1998,3p).
一方,水で飽和されている地層の弾性波速度は次のように表される(Wyllie et al.,1956).
ここで,
Vp:地山弾性波速度(km/sec)
Vm:岩石構成物質の弾性波速度(km/sec)(=岩石供試体の超音波伝播速度)
Vf:岩石内に含まれている水の弾性波速度(km/sec)(=1.5km/sec)
n:間隙率(間隙率10%は0.1とする)
この式を使って算出した地山弾性波速度を下に示したが,ほぼ弾性波探査およびP波検層によって得られた値と一致している.ただし,中央の欄は超音波速度が5.08km/secと大きい値をとることの影響を受けて算出弾性波速度が実測値より大きくなっている.
地質は,新第三紀中新世〜鮮新世の火山砕屑岩類である.
岩石の超音波速度 (km/sec) | 3.27 | 5.08 | 3.69 |
間隙率 | 0.13 | 0.18 | 0.26 |
算出地山弾性波速度 (km/sec) | 2.83 | 3.56 | 2.68 |
弾性波探査による弾性波速度 (km/sec) | 2.6〜2.8 | 2.8〜3.0 | 2.8〜3.0 |
P波検層による弾性波速度 (km/sec) | 3.00 | 2.80 | 2.70 |
(5)基盤中の低速度帯はトンネル断面に出現しないことが多い.
これまでの経験では,岩盤の風化状態を示す弾性波の速度層区分は比較的ボーリング結果と一致するが,基盤岩中で低速度帯とされたものがトンネル断面に出現しないことが多い。
地質時代の断層に由来する破砕帯は,地下深部で形成されたものが構造運動により上昇して来ているために破砕物質が固結している.そのため,逆に亀裂の少ない岩盤となりトンネル掘削上大きな障害とならないと考えられる.
一方,金属鉱山などで深度方向の地質や鉱脈の変化を観察すると,地表に近い部分では上昇して来た熱水が天水と反応して幅広い変質帯を形成するのに対し,地下深部(100〜300m程度)では幅数mの脈となってしまう.変質帯も深部では規模が小さくなる.
トンネルに地山分類ではこの点を十分に考慮する.
(6)弾性波探査で解析困難な地質がある.
弾性波探査で解析困難な事例として,地表近くに弾性波速度の速い層が分布する場合はよく知られているが,測線に近接して速い速度層が分布する場合(例えば,岩脈)も測線下の遅い速度層を検出できないことに注意する必要がある(鈴木ほか,1993,p50).
このような場合,電気探査を併用すると精度が向上する。
現在,国内で使われている地山分類の概要は,前出の表11.1に示した.
トンネル調査で適用される主な分類指標は,1)岩種,2)一軸圧縮強さ,3)地山弾性波速度,4)地山強度比である.
これらの地山分類については,「土木学会,トンネル標準仕方書 山岳工法・同解説」(2006年制定)に掲載されている。
ただし,この仕方書では,道路トンネルの岩石グループの分類表が載っていないので,実際に道路トンネルの地山分類を行う場合は,「日本道路協会,2003,道路トンネル技術基準(構造編)・同解説」を見る必要がある。
北海道開発局のトンネル地山分類は,下のサイトからダウンロードできる. (http://www.hkd.mlit.go.jp/zigyoka/z_doro/download/pdf/04/4-2.pdf)
地山分類を適用する場合の留意点を幾つか列挙する.
NEXCO設計要領第三集.トンネル本体工建設編の「表4.5.2 地山分類表」の適用上の留意事項(平成21年7月版,72−83)を十分読み込むのが大事である.
以下,NEXCO設計容量第三集によって留意点を述べる.
国内で使われている地山分類は,施工時の安全性に力点を置いている傾向にあり,岩盤力学的な背景を持たないという批判がある.この点では,岩盤評価からトンネルに作用する内圧,変形係数や弾性波速度などを算出できる外国の評価法が優れている.
Q値は下の式で求める.それぞれの指標について評点が示されていて,求めたQ値に対して,「支保工なし」から「現場打ちコンクリート覆工」までの支保工設計チャートが用意されている.
ただし,以上の地山評価法の評価要素をまとめて下に示す.
評価法 | 評価要素 |
Q値法 |
|
RMR法 |
|
RSR法 |
|
日本のトンネル工事は,鉄道トンネルが先駆けとなった.東海道本線の丹那トンネルの難工事は有名である.
国鉄が民有化された時期(1987年)前後は,鉄道の新設トンネルの建設は減少し,高速道路を中心とした道路トンネルが多く建設された.
このようなトンネル建設の盛衰に応じて,トンネル地山分類も発展してきた.
鉄道トンネルでは,「池田の分類」が優れたものであった.その後,曲折を経て現在の鉄道トンネルの地山等級が設定された.
現在使われている道路トンネルの地山地山分類は,NEXCO(旧日本道路公団)が開発したものである.強度区分と地山弾性波速度が主要な分類基準となっている.この地山分類の特徴は,「トンネル掘削の状況」という項目があることで,施工中のトンネルにも適用可能であることであろう.
(1)旧道路公団では1997年10月に,「設計要領第三集トンネル」の改訂を行っている.この改訂の中心点の一つは,「トンネル支保のマルチ化」である.
トンネル支保のマルチ化と言うのは,「NATMの標準支保パターンが設定されて以来,それをあまりにも画一的に適用してきたことを反省し,それぞれのトンネルの地質状況をよく観察し,それに適応したより合理的,経済的支保パターンを選択しようという活動の全てを総称している」(吉塚ほか1997)である.
概念的には可能な限り連続的な支保パターンで地山に対応しようというものである.
(2)支保をマルチ化するに当たって,道路公団に蓄積されたNATMの切羽観察および計測データ(9,200断面以上)を分析し,新たな地山分類を決定している.分析結果の概要は次の通りである(中田ほか,1998).
「最終内空変位量は,粘板岩,黒色片岩,泥岩,頁岩,凝灰岩の泥質系地山では大きくなる傾向にある.砂岩,花崗岩,凝灰角礫岩の砂質系地山では変位量が少ない傾向にある.
岩石ごとにばらつきがあるものの,変位量と地山強度比は相関があるといえる.
事前調査の弾性波速度と変位量との関係では,大きな変位が発生する弾性波速度は2〜3km/sec程度であるが,粘板岩,黒色頁岩では4km/secを越えても大きな変位が生ずる.」
調査結果もとづいた地山分類は,施工上の検討をした上で設計支保パターンに反映される.したがって,支保パターンの考え方を知っておく必要がある.
NEXCOの設計要領にもとづいて要点を述べる.
(1)地山分類と標準支保パターンの関係については,基本的にトンネル掘削による変位が大きくなると予想される場合に適用するパターン(-b)とに分けられている.
CII-aパターンでは上下半とも鋼アーチ支保工を省略し,DI-aパターンのロックボルト長は3mである.CIおよびCIIパターンで変位が大きいと予想される第三紀泥岩,凝灰岩,蛇紋岩,風化結晶片岩,温泉余土などでは40cmのインバートを設置することにしている.
(2)未固結土砂地山については,類似例,数値解析により個々のトンネルの設計を行うこととして標準支保パターンを設定していない.
全体としては経済的にトンネルを施工するため,吹付けコンクリートとロックボルトを主体とした支保工とする方向を提案している.
(3)鋼製支保工の位置づけは,不連続面の状態が悪い場合(せん断抵抗が小さい,すべりやすい)に,落下しようとする岩塊を直接支えることであるとされている.
肌落ち程度であれば,作業時の安全性も考慮すると鋼製支保工よりも吹付けコンクリートにより対処した方がよいとされている.
不連続面に粘土が挟在していたり鏡肌となっている場合や湧水が多くて吹付けコンクリートの付着や強度発現が悪い場合に,鋼製支保工を用いるとしている.
また,変位量が大きくなり,吹付けコンクリートの変形能力より大きな変位が発生する場合には,鋼アーチ支保工は吹付けコンクリートに靱性(タフネス)を与える効果がある.ただし,地山の強度が不足して塑性変位が大きくなる場合には,鋼アーチ支保工には変位を抑制する効果は期待できない.
(4)NEXCOの要領では,鋼アーチ支保工の規格は高規格鋼(HH)となっている(平成24(2012)年7月改訂).
例えば,DIIパターンでは,これまでNH-150であったものがHH-108となっている.現場で見ると何となく頼りない感じを受けるが,十分な耐力を有しているので鋼製支保工の役割としてはこれで十分と言うことであろう.
(5)前述したQ値法から選定される支保構造は,鋼製支保工を用いていない.
地山が劣化した場合には鋼繊維補強吹付けコンクリートあるいは鉄筋で頭部を補強したボルト(補強リブ付き鋼繊維補強コンクリート)を打設することで対応している.鋼製支保工設置の時間をなくすことで,大幅に工費が減少できるようである.また,吹付けコンクリートを金網付きから鋼繊維補強とすることでの時間短縮も可能である.
Q値法による支保パターン選定でのトンネル施工では,トンネル建設費の平均は4,000〜8,000ドル(50万〜100万円.1999年当時)であるといわれており,日本での建設費の半分以下である.
地山に適合した支保構造とすることでトンネル建設費はまだまだ下げることが出来る可能性があることを示している.
これまで述べてきたことも含め,道路トンネルの地山分類を行う上での留意点を「NEXCO 設計要領第三集」(平成21年7月)にもとづいて幾つか述べる.
(1) 水による劣化をかなり重視している.
北陸自動車道での泥岩の「水による劣化」の評価と最終上半内空変位量の関係で見ると浸水崩壊しやすい岩では確実に変位量が増大している(中田ほか,1998,p62).
(2) ポイントロードテスト(点載荷引張強度試験)を利用することにより出来るだけ定量的な強度の把握につとめるよう提案している(設計要領第三集,79pおよび93p).
水による劣化なども点載荷試験により比較的簡単に把握することが可能であろう.
岩石試験から求めた地山強度比は内空変位量の一つの目安となるが,岩石の特性によって異なる.さらに,地山強度比の算出に当たっては岩石としてではなく岩盤としての評価が重要である(中田ほか,1998,59p).すなわち準岩盤強度を用いた地山強度比の方が内空変位量を反映した値となる.
(3) 内空変位量が地山分類の重要な要素となったために,内空変位測定の精度を上げる必要がある.
地山分類表の「トンネル掘削の状況と変位の目安」の欄には,各地山等級での内空変位量の目安が示されている.
測定方法自体は現在の方法(ターゲットによる三次元測量)で十分であるが,測定開始時間をどれだけ早くできるかがポイントとなる.
設計要領第三集では,原則としてズリ処理後3時間以内のできるだけ早く,やむを得ない場合でも6時間以内に初期値を測定する必要があるとしている(設計要領第三集,46p).
(4) 一般に,トンネルの変位は切羽が到達する前に,30〜40%は発生しており,切羽到達後の変位量は全体の60〜70%であるという実測結果が出ている.
理論的にもほぼ30%の先行変位があるとされている.特に変位量が大きい場合には,掘削後の変位測定開始時期が問題となる.
特殊な場合も含めて,現場での留意点を述べる.
(1)地山分類は標準支保パターンを決定するための基礎資料と考えて,地形・地質・地下水状況を考慮して地山分類を行う.
これを行っておかないと,施工時に支保パターンの妥当性の検討で混乱が起きる.
地山分類はトンネル施工時の安定性と長期的安定性の両方を満足しなければならない.特に,施工時の安全性(安定性)については,ある程度の数のトンネル掘削現場を見ないとイメージできないが,付近にやや規模の大きい露頭があればその前でトンネル断面を想定して切羽の状態を思い浮かべることが出来る.
その時の着眼点は,岩の硬さ,主要な不連続面の走向・傾斜,亀裂などの密度,湧水のある亀裂の方向などである.不連続面の性質,すなわち粘土が挟在しているか鏡肌が発達しているかも重要である(鋼製支保工の効果判定=不連続面に粘土が挟在し地山がブロックで滑り出すおそれがある場合は,鋼製支保工が有効である).
(2)一般に,地山分類表が適用可能なのは土被りが20〜500mの2車線トンネルでトンネル幅が10m程度である.
坑口区間をどこまで設定するかは別に検討を要する.
また,土被りが500mを越える場合は,トンネルに作用する地圧が強大となり別途検討する必要がある.このくらいの土被りとなるとCL 級岩盤(変形係数20MN/m2〜30MN/m2:2,000〜3,000kgf/cm2)がトンネル断面に出現すると変位量は200mmを優に越えてしまう.
弾性波速度は地山分類の重要な指標であるが,探査有効深度は測線長の5〜6倍であるので深くても200m程度が限界となる.
(4)沢の直下や偏圧地形の箇所では横断図を作成し土被りがどのようになっているかのチェックを必ず行わないと大きな間違いを犯す.
(5)トンネル基盤から上部約15mの範囲が複数の速度層からなる場合は基盤の速度層より上層(速度の遅い)の速度を採用するのが望ましい.
弾性波探査もトモグラフィー的解析が行えるようになってきているので,このような手法を用いることにより精度の高い地山分類が可能となる.
(7)不連続面の夾雑物は十分注意する必要がある.
例えば,泥岩中の亜炭層などはトンネルに向かって滑り出す面となるのでトンネル断面との関係に注意が必要である.
(8)現在の施工方法では,まだ,トンネル掘削中に頭上に全く保護設備がない状態で切羽作業をする時間がある.
したがって,不連続面の間隔とトンネル幅との関係は重要である.単純に地山分類表を当てはめるとBとなる場合でも,施工中の安全性を考えると奥行き2mの無支保の切羽に作業員が入ることが可能かどうか慎重に検討する必要がある.
(9)地山強度比の算出に当たっては,可能な限り準岩盤強度を用いた方がよいとされる(中田,1998,58p).その根拠は,施工中の切羽観察で求められた,大ざっぱな一軸圧縮強度の方が,最終変位量との関係のばらつきが少なくなることである.
(10)内空変位量が地山分類の中で大きな要素となっているので,事前調査の段階でも弾性計算で良いので変位量の目安を得ておくのが望ましい.
トンネル名 | Oトンネル(1) | Oトンネル(2) | Sトンネル(1) | Sトンネル(2) |
壁面変位量 (u:mm) | 123.0 | 245.9 | 143.0 | 286.0 |
鉛直応力 (Pv:tf/cm2) | 431.3 | 431.3 | 300.0 | 300.0 |
土被り (H:m) | 227 | 227 | 120 | 120 |
単位体積重量 (γ:t/m3) | 1.9 | 1.9 | 2.5 | 2.5 |
ポアソン比 (ν) | 0.4 | 0.4 | 0.3 | 0.3 |
変形係数 (E:kgf/cm2) | 2,000 | 1,000 | 1,000 | 500 |
トンネル半径 (ra:m) | 5 | 5 | 5 | 5 |
支保工の内圧 (tf/m2) | 80 | 80 | 80 | 80 |
Oトンネルは,変形係数100MN/m2(1,000kgf/cm2)でFEM解析を行った結果では,天端沈下量 450mm,側壁変位量 157mmとなった.目安としてはこの計算で良い.
Sトンネルでは,トンネル周辺は完全に土砂化しており,変形係数は50 MN/m2(500kgf/cm2)程度まで低下していると想定した.
(11)大量の突発湧水が予想される場合は,その位置を事前に把握し,前方からの水抜きなどにより対処する必要がある.
一方,水による岩石強度の低下は,その区間,低下の程度を踏査やボーリングである程度予測することが可能であるので,事前調査で十分に検討する.
いわゆる後荷がかかる地山では,掘削当初は乾燥して十分自立しても地下水がじわじわと集まってきて数日で切羽が崩壊することがある.また,空気中の水蒸気を吸収して膨潤することもある.膨潤性粘土を含む凝灰岩などでは,工事が中断した場合に水が付かなくても土砂化することがある.
地山の特性を見極め,長期的安定性に十分配慮した支保パターンとするのが肝心である.
地山強度比は、地山分類の重要な指標となっていて,2以下であれば地山等級はDIIとなる.
等方等圧の地山中に円形トンネルを掘って無支保の場合,トンネル周辺地山の応力は次の式で表される.
ここで,
σr:トンネル半径方向の応力
σθ:トンネル接線方向の応力
P0:初期地山応力(=γH:γは地山の単位体積重量,Hは土かぶり)
R:トンネル半径
r:トンネル中心からの距離
ここでは,トンネル壁面の応力を考えているので,R=r となり,
σr=0,σθ=2P0 →
σθ/ P0=2 の状態で釣り合っているが,初期地山応力(土被り圧)が大きくなって,この値が2より小さくなると壁面に塑性地圧が発生する.
この地山強度比の考え方を最初に提案したのは,仲野(1974:農業土木試験場報告,No.12,89-133あるいはトンネルと地下,Vol.6,No.10,15-25)であろう.
仲野は,側圧係数の関数としてトンネル天端と側壁(土平)の応力状態を表している.
地山強度比は側圧係数(k),つまり,鉛直土圧(σ1)に対する水平土圧(σ2)の比で変化する.
等方地山(k=1.0)では,地山強度比が2より小さくなるとトンネル周辺で一様に地山が降伏する.
k=0.5,つまり,鉛直土圧が水平土圧の2倍だとトンネル側部付近が最初に降伏する.これに対して,K=1.5の場合は,トンネル天場付近がまず降伏する.
地山が異方性を持っていて,水平土圧が卓越すると予想される場合は,地山強度比による地山分類に注意が必要である.