11 トンネルの地山分類

11.1 一般的事項

(2015年1月10日作成.2015年1月21日追記)

 トンネルの地質調査で求められる地山分類は,トンネル掘削時の地山の挙動と関連付けられた地山の良し悪し(地山等級)である.調査での地山分類は,支保パターンと結びつけられて設計・施工に引き渡される。

 トンネル設計で支保パターンを決定する方法としては,1) 地山分類による標準支保パターンの適用,2)類似条件のトンネル設計の適用,3)解析的手法の適用の3通りの方法がある.
 一方,施工に際しては,観察・計測による支保パターンの修正が基本である.すなわち,事前の地質調査・設計を参照しながら,切羽観察と内空変位などの計測にもとづいた地山評価により,地山に即した合理的な支保パターンで施工する.


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<地山分類と支保パターン>

 地山分類は,岩種,地山弾性波速度,露頭などでの地山の状態,ボーリングコアの状態,地山強度比,トンネル掘削時の地山挙動と変位などを指標としている.
 注意しなければならないのは,地質調査から判断する地山分類と支保パターンとは,1:1に対応していないという点である.地山分類と標準支保パターンの関係については次のような注意が必要である.

  1. 地山分類と標準支保パターンは対応関係にはあるが,完全に1:1ではない.すなわち,地山分類は地質,地形,湧水状況などを十分検討し決定される支保パターン設定のための一つの要素である.
  2. 特に,地形条件については坑口付近の偏圧地形,沢横断部の土被りなどを三次元的に把握して地山分類を決定する.また,地質条件についても横断図での検討を忘れないように注意する.
     例えば,破砕帯がトンネルに併走しているような場合は,長い区間にわたって地山が劣化していることが予想され,偏圧が作用することがあるので,地山分類に当たってはこの点を十分考慮する必要がある.
  3. 標準支保パターンの設定に当たっては,トンネルの長期的な安定性を考慮するのは当然であるが,施工時の安全性についての考慮を行わないと,地山分類としては妥当でも実際に施工が出来ないことがある.
     一般には,発破をかけ,ローダーでズリを処理し,鋼製支保工を建て込むわけであるが,次に吹付けコンクリートで岩盤を覆うまで,完全に岩盤が露出した状態の下で作業をしなければならない.人が怪我をしたりするのには10cm程度(こぶし大)の岩石が落ちてくれば十分である.施工の安全性を考慮して支保パターンを決定しなければならない理由である.
  4. 全体の工事費との関係で支保パターンが決まる部分もある.すなわち,なるべく少ない工事費で施工を始めたいという場合も生じる.そのような場合には,協議の上で支保パターンがより軽い(DI→CII)ものに変更されることがある.
     地質調査にもとづいて行う地山分類には,地形・地質・湧水などから決まる地山分類を項目別に表示しておくと施工に入ってから無用の混乱を避けることができる.
     なお,施工中の切羽観察と計測結果から支保パターンの妥当性を判断するのは,実際に日々の切羽を見ている担当者や地質調査担当者が適している.
  5. 文書になったものを見たことはないが,支保パターンが2段階くらい飛ぶ場合(例えば,DIIからCIIへ変更になるような場合)は漸移区間を設けるということが言われる.その理由として,作業員が新しい支保の建込みに慣れる期間(1週間程度=10〜20m)が必要であるとされたり,急激な断面変更で応力が集中するのを避けるためということが言われている.
     しかし,実際の施工で非常駐車帯などで断面を拡幅する場合,手前についてはラッパ状に拡大していくが,駐車帯を抜けて断面を縮小する場合にはトンネル横断方向の壁を作って断面を縮小している.
     例えば,破砕帯が,粘土化帯→破砕帯→多亀裂帯と変化すると予想される場合には漸移区間を設ける必要があるが,粘土化帯から急激に良好な岩盤に移行することが踏査やボーリングで確認されている場合には,,地質にもとづく地山分類では段階が飛んでもかまわないと考える.地山分類の基本は地形,地質,地下水条件である.
  6. 坑口区間をどこまでとするかは主に地質および地形条件により決定する.
     急斜面では横断形状に十分注意して,川側の土被りが不足しないように注意が必要である.逆に,低土被り区間が長く続く場合には,地質状況を考慮した上で坑口区間をどこで切るか判断する.
     坑口区間は,インバート付きで全周に鉄筋が入るので経済性を考えるとなるべく短いのが望ましい.

11.2 地山分類の要素

 各機関によって地山分類の要素は様々である。道路トンネル,鉄道トンネル,かんがい用水路トンネルの地山分類がある.その他に,電力会社の発電用水路トンネルの地山分類がある.
 前者3つの地山分類と北海道開発局道路トンネル地山分類の評価要素を示す.

表11.1 それぞれの地山分類と評価要素
トンネルの種類評価要素区分の概要
道路トンネル岩石グループ塊状・層状
硬岩・中硬岩・軟岩
弾性波速度5km/sec以上〜1km/sec以下
地山の状態岩質・水による影響
不連続面の間隔
不連続面の状態
コアの状態・RQDコア長:20cm〜礫状・砂状・粘土状
RQD70以上〜10以下
地山強度比4以上・4〜2・2〜1
トンネル掘削の状況と変位の目安緩み・切羽の自立性・内空変位量
鉄道トンネル岩種硬岩・中硬岩・軟岩・土砂
A〜G岩種
弾性波速度5.2km/sec以上〜1.5km/sec以下
地山強度比6〜5〜4〜2〜1.5
相対密度
細粒分含有率
80%
10%
かんがい用水路
トンネル
地質状態亀裂状態:α〜δの4段階
圧縮強度:1,200kgf/cm2以上〜50kgf/cm2以下まで
地山ポアソン比:0.16〜0.35
地圧:作用する・作用しない
弾性波速度4.5km/sec以上〜0.8km/sec以下まで
見かけ地山強度比10以上〜6〜2以下まで4段階
北海道開発局の
道路トンネル
岩種剥離性の富む古生層〜深成岩
剥離性に富まない古生層〜深成岩,火山岩
第三紀堆積岩類
弾性波速度4.8km/sec以上〜1.0km/sec
RQD60以上〜20以下
亀裂係数
={1-(Vp / Vp0)2}×100
25%以下〜80%以上
準岩盤圧縮強度140MPa以上〜1.5MPa
ただし,地山等級Eは1.5MPa〜0.5MPa
岩盤の粘着力6MPa以上〜0.5MPa
ただし,地山等級Eは0.5MPa〜0.1MPa
岩盤の内部摩擦角55°以上〜30°
ただし,地山等級Eは30°〜15°
岩盤の変形係数5,000MPa以上〜150MPa
ただし,地山等級Eは150MPa〜30MPa
岩盤のポアソン比0.25以下〜0.35
ただし,地山等級Eは0.35〜0.40
地山強度比4〜2〜1
ただし,地山等級Eは1以下

 これら地山分類を適用する場合の留意点を列挙する.

(1)地山分類の要素は,まず岩の硬さと不連続面である.
 トンネルの場合,掘削により周辺地山に応力の再配分が起こり変位が発生する.この時の地山の挙動は,二つの場合に分けて考えることが出来る.道路トンネルの地山分類では,この境界を一軸圧縮強度20N/mm2(=20MPa:200kgf/cm2)に置いている.
 一つは,岩石の強度がトンネル掘削によって発生する荷重に比べて大きく,節理などの力学的不連続面で支配される不連続的挙動を示す場合である.この場合,地山の挙動は岩盤中の地質不連続面の方向,節理系の数,分布密度,連続性,充填物の状態などに関連するので,岩盤の不連続面の調査を主体とし弾性波速度を補完的に用いて地山分類を行う.
 一方,岩石の強度がトンネル掘削によって発生する応力に比べて比較的小さく,地山強度比がトンネルの変形量を支配する連続的挙動を示す場合がある.この場合,地山強度比がある程度大きければ地山は弾性変形にとどまるが,逆に小さければ塑性変形により地山に大きな変位が発生する.このような地山(新第三紀の堆積岩類や更新世の地層)ではトンネルの挙動は地山強度比で定量的に表現できる.

(2)その地質が形成された地質時代は重要な要素である.
 一般的には,古い地質ほど硬い.例えば,中生代の粘板岩では地山弾性波速度が2.0km/sec以下であるとスコップで掘れるほど軟質で粘土化が進行している.しかし,鮮新世の泥岩や凝灰岩類では2.0km/sec程度あればかなり固結度はよい.

(3)その地質が形成されたときの初期荷重の大きさが,地山の硬さを支配している場合がある.
 例えば,同じ時代の同じ岩質の堆積岩でも深い深度で堆積したものの法が固結度が高い感じがある。安山岩では迸入岩の方が溶岩よりも固結度は高いが,これは発泡の程度の違いを反映しているように思う。
 注意を要する地質としては,太平洋岸に広く分布する白亜紀から古第三紀の付加体堆積物や新第三紀の堆積物がある.例えば,鮮新世とされている足柄層群や同時代の砂岩・泥岩互層では,3.5km/sec程度の地山速度を示す.しかし,実際には圧縮力を受けて著しい破砕,粘土化している場合が多い.このような性質を示す原因として考えられるのは,未固結状態から続成作用により固結する地層形成の比較的早い時期に付加されたため圧縮応力を受けたことである.

(4)地山弾性波速度は地山分類の重要な要素となっている.
 弾性波が地山中を伝わる速度は次のように表わされる(山口ほか,1977,185p).

P波速度とS波速度.jpg

ここで,
 Vp:地山中を伝わる縦波(cm/sec)
 E:岩盤のヤング率(1MN/m2=0.098kgf/cm2)
 ρ:密度(g/cm3)
 ν:ポアソン比
 G:剛性率

 すなわち,弾性波速度は弾性係数に左右されるというのが一つの考え方である.
 弾性係数は鉱物組成,固結度,亀裂状況,空隙率,風化・変質状態,含水状態,封圧(周圧)などの要因によって大きく変化するといわれる(伊藤ほか,1998,3p).

 一方,水で飽和されている地層の弾性波速度は次のように表される(Wyllie et al.,1956).

飽和地山の弾性波速度.jpg

ここで,
 Vp:地山弾性波速度(km/sec)
 Vm:岩石構成物質の弾性波速度(km/sec)(=岩石供試体の超音波伝播速度)
 Vf:岩石内に含まれている水の弾性波速度(km/sec)(=1.5km/sec)
 n:間隙率(間隙率10%は0.1とする)

 この式を使って算出した地山弾性波速度を下に示したが,ほぼ弾性波探査およびP波検層によって得られた値と一致している.ただし,中央の欄は超音波速度が5.08km/secと大きい値をとることの影響を受けて算出弾性波速度が実測値より大きくなっている.
 地質は,新第三紀中新世〜鮮新世の火山砕屑岩類である.

表11.2 あるトンネルでの地山弾性波速度の算出例
岩石の超音波速度
(km/sec)
3.275.083.69
間隙率0.130.180.26
算出地山弾性波速度
(km/sec)
2.833.562.68
弾性波探査による弾性波速度
(km/sec)
2.6〜2.82.8〜3.02.8〜3.0
P波検層による弾性波速度
(km/sec)
3.002.802.70

(5)基盤中の低速度帯はトンネル断面に出現しないことが多い.
 これまでの経験では,岩盤の風化状態を示す弾性波の速度層区分は比較的ボーリング結果と一致するが,基盤岩中で低速度帯とされたものがトンネル断面に出現しないことが多い。
 地質時代の断層に由来する破砕帯は,地下深部で形成されたものが構造運動により上昇して来ているために破砕物質が固結している.そのため,逆に亀裂の少ない岩盤となりトンネル掘削上大きな障害とならないと考えられる.
 一方,金属鉱山などで深度方向の地質や鉱脈の変化を観察すると,地表に近い部分では上昇して来た熱水が天水と反応して幅広い変質帯を形成するのに対し,地下深部(100〜300m程度)では幅数mの脈となってしまう.変質帯も深部では規模が小さくなる.
 トンネルに地山分類ではこの点を十分に考慮する.

(6)弾性波探査で解析困難な地質がある.
 弾性波探査で解析困難な事例として,地表近くに弾性波速度の速い層が分布する場合はよく知られているが,測線に近接して速い速度層が分布する場合(例えば,岩脈)も測線下の遅い速度層を検出できないことに注意する必要がある(鈴木ほか,1993,p50).
 このような場合,電気探査を併用すると精度が向上する。


破砕帯の鉛直変化.jpg
図11.1 破砕帯の鉛直変化模式図
  1. トンネルの土被りが比較的浅い場合は,実際の破砕帯の周辺に風化部があり,地山劣化部が広く現れることがある。
  2. トンネルの土被りが深いと施工基面付近では割れ目が破砕物質で充填されていたり密着していて地山は締まっていることが多い。
  3. 熱水変質作用を受けた地質が地表に広く分布しているが,トンネル付近では熱水の通り道だけになっている場合がある。

11.3 地山分類のいろいろ

 現在,国内で使われている地山分類の概要は,前出の表11.1に示した.
 トンネル調査で適用される主な分類指標は,1)岩種,2)一軸圧縮強さ,3)地山弾性波速度,4)地山強度比である.

 これらの地山分類については,「土木学会,トンネル標準仕方書 山岳工法・同解説」(2006年制定)に掲載されている。
 ただし,この仕方書では,道路トンネルの岩石グループの分類表が載っていないので,実際に道路トンネルの地山分類を行う場合は,「日本道路協会,2003,道路トンネル技術基準(構造編)・同解説」を見る必要がある。

 北海道開発局のトンネル地山分類は,下のサイトからダウンロードできる. (http://www.hkd.mlit.go.jp/zigyoka/z_doro/download/pdf/04/4-2.pdf)

 地山分類を適用する場合の留意点を幾つか列挙する.
 NEXCO設計要領第三集.トンネル本体工建設編の「表4.5.2 地山分類表」の適用上の留意事項(平成21年7月版,72−83)を十分読み込むのが大事である.
 以下,NEXCO設計容量第三集によって留意点を述べる.

  1. トンネル地山分類表は,土被り高さが20m以上,500m未満の2車線トンネル計画に適用するものである.
     トンネル坑口部は地質状況によって1D〜2D(D:掘削幅)の土被りを確保することになっている.一般に2車線トンネルの掘削幅は約10mであるので,坑口部を除いたトンネル一般部に適用すると考えて良い.
     ただし,土被りが20m以下の区間が長く続く低土かぶりのトンネルもある.このような場合は,別に検討が必要である.
  2. 地山等級Eについては,特殊な岩質で内空変位量が200mm程度以上となるものに採用する.
     地山等級Eについては,標準支保パターンも決められていない.しかし,北海道開発局の地山分類では,地山等級Eが表示されていて,支保構造も設定されているので参考になる.
  3. 「4.地山判定基準について (a)弾性波速度(km/sec) 2)頁岩,粘板岩,片岩などで褶曲などによる初期地圧が潜在する場合,あるいは微細な亀裂が多く施工時にゆるみやすい場合には,実際の地山等級よりも事前の弾性波速度によるものが過大に評価されることがある.」
     控えめな表現であるが,重要な事項である.四万十帯の泥質岩や三波川帯の片岩類では,予期しないような変位が発生し天端崩落が頻発することがある.事前調査の地山分類で注意が必要な地質である.
  4. 多亀裂性岩盤では,亀裂係数を用いて低減した準岩盤強度を用いて地山強度比を算出する必要がある.予想以上に地山強度比が低下することがある.
     ここで言う亀裂係数は,(Vp / vp)2 である.
     ただし,
     Vp:地山の弾性波速度(km/sec)
      vp:試料の超音波伝播速度(km/sec)である.
  5. 「4.(h)4)蛇紋岩や変朽安山岩,黒色片岩,泥岩,凝灰岩等で膨潤性が明確に認められたならば,DIIまたはEに等級を落とす.」
     この記述は重要である.施工時に押出しがひどく,地山等級をせめてDIIにしたいと思った場合,膨潤性粘土が含まれていることが分かれば,支保構造をより剛なものに変更できる重要な根拠となるからである.
     地質調査に従事する者としては,現場で粘土をこねた時の感覚でスメクタイトを含んでいるかどうかの判断を行い,怪しいと思ったらX線回折で確認するのが良い.
     ただし,膨潤性を示す粘土には,スメクタイトのほかに膨潤性緑泥石があるので,現場での地山挙動を十分検討して必要な場合は,より詳細な粘土鉱物の同定を行う必要がある.

11.4 海外の地山評価

 国内で使われている地山分類は,施工時の安全性に力点を置いている傾向にあり,岩盤力学的な背景を持たないという批判がある.この点では,岩盤評価からトンネルに作用する内圧,変形係数や弾性波速度などを算出できる外国の評価法が優れている.

  1. 外国の評価法はQ値法が有名である.
     Q値法は,1974年にN.バートンにより考案された評価法で,それ以来基本的な変化はないが,“SRF”(Stress Reduction Facter)に関しては土被りが大きい地山に見られる山はねや軟岩地山に見られるスクィースィングなどを考慮できるように範囲を拡大してきた.
     岩盤評価は0.001〜1,000までの範囲で広範囲の地山条件に対応している.トンネルの大きさと安全性に関する係数から等価寸法を求め,グラフから支保工を決定する.また,支保工に作用する内圧を求めることが出来,変形係数を算出することもできる.
     Q値法については,「トンネルと地下」の26巻,10号〜12号に掲載された「ノルウェートンネル工法(NMT)の概要」を見るのが便利である.

     Q値は下の式で求める.それぞれの指標について評点が示されていて,求めたQ値に対して,「支保工なし」から「現場打ちコンクリート覆工」までの支保工設計チャートが用意されている.

    Q値.jpg

    ただし,
     RQD:コア採取率による指標
     Jn:不連続面系の数に対する指標
     Jr:不連続面の粗さに対する指標
     Ja:不連続面の変質に対する指標
     Jw :不連続面における水の状態に対する指標
     SRF:応力状態に対する指標
  2. RMR法(Rock Mass Rating)は,1973年にBieniawskiによって南アフリカの硬岩を対象として提案された方法である.
     地山等級を5段階に分け支保構造を決定する.支保荷重,変形係数を算出することもできる.Q値法との関連付けもなされている.
  3. RSR法(Rock Structure Rating) は,1972年にWickham,Tiedemann, Skinnerらによってアメリカで提案された方法であるが,事例分析の90%が矢板工法によるものである.

 以上の地山評価法の評価要素をまとめて下に示す.

表11.3 外国の主な地山評価法
評価法評価要素
Q値法
  • RQD(=Rock Quality Designation :25,50,75,90)
  • 不連続面系の数(Jn=Joint Set Number)
  • 不連続面の粗さ(Jr=Joint Rughness Number)
  • 不連続面の変質程度(Ja=Joint Alteration Number)
  • 不連続面における水の状態(Jw=Joint Water Reduction Factor)
  • 応力の減少状態(SRF=Stress Reduction Factor)
RMR法
  • インタクトロックの強度
  • RQD
  • 不連続面の間隔
  • 不連続面の状態
  • 地下水
  • 節理の方向,走向・傾斜
RSR法
  • パラメーターA:岩盤構造の評価(岩石の種類,岩石の硬さ,地質学的構造)
  • パラメーターB:不連続面の影響(不連続面の間隔,不連続面の走向・傾斜,トンネルの 掘削方向)
  • パラメーターC:地下水の影響(パラメーターAとBの合計,不連続面の状態,湧水量)

11.5 NEXCOのトンネル地山分類

 日本のトンネル工事は,鉄道トンネルが先駆けとなった.東海道本線の丹那トンネルの難工事は有名である.
 国鉄が民有化された時期(1987年)前後は,鉄道の新設トンネルの建設は減少し,高速道路を中心とした道路トンネルが多く建設された.

 このようなトンネル建設の盛衰に応じて,トンネル地山分類も発展してきた.
 鉄道トンネルでは,「池田の分類」が優れたものであった.その後,曲折を経て現在の鉄道トンネルの地山等級が設定された.

 現在使われている道路トンネルの地山地山分類は,NEXCO(旧日本道路公団)が開発したものである.強度区分と地山弾性波速度が主要な分類基準となっている.この地山分類の特徴は,「トンネル掘削の状況」という項目があることで,施工中のトンネルにも適用可能であることであろう.

  1. (1)旧道路公団では1997年10月に,「設計要領第三集トンネル」の改訂を行っている.この改訂の中心点の一つは,「トンネル支保のマルチ化」である.

     トンネル支保のマルチ化と言うのは,「NATMの標準支保パターンが設定されて以来,それをあまりにも画一的に適用してきたことを反省し,それぞれのトンネルの地質状況をよく観察し,それに適応したより合理的,経済的支保パターンを選択しようという活動の全てを総称している」(吉塚ほか1997)である.
     概念的には可能な限り連続的な支保パターンで地山に対応しようというものである.

  2. (2)支保をマルチ化するに当たって,道路公団に蓄積されたNATMの切羽観察および計測データ(9,200断面以上)を分析し,新たな地山分類を決定している.分析結果の概要は次の通りである(中田ほか,1998).

     「最終内空変位量は,粘板岩,黒色片岩,泥岩,頁岩,凝灰岩の泥質系地山では大きくなる傾向にある.砂岩,花崗岩,凝灰角礫岩の砂質系地山では変位量が少ない傾向にある. 岩石ごとにばらつきがあるものの,変位量と地山強度比は相関があるといえる.
     事前調査の弾性波速度と変位量との関係では,大きな変位が発生する弾性波速度は2〜3km/sec程度であるが,粘板岩,黒色頁岩では4km/secを越えても大きな変位が生ずる.」

  3. (3)以上のような分析を通じてまず,岩盤を初成的な状態での強度によって硬質岩(一軸圧縮強度800kgf/cm2=80N/mm2以上),中硬質岩(同80〜20N/mm2),軟質岩(20N/mm2以下)の3つに区分し,初成的な岩盤が地殻変動,風化・浸食などにより劣化する仕方を,節理面が支配的な不連続面となるようなものを塊状(砂質系),層理面・片理面が支配的な不連続面となるようなものを層状に区分する.全体を大きく4つの岩石グループに分ける.旧要領の岩種eは岩石グループから除かれている.
     この地山分類の基礎となっているのは,トンネル掘削時の変位量である.構成する地質の時代は,評価要素としては考慮されていない.

11.6 支保パターンの基本的考え方

 調査結果もとづいた地山分類は,施工上の検討をした上で設計支保パターンに反映される.したがって,支保パターンの考え方を知っておく必要がある.
 NEXCOの設計要領にもとづいて要点を述べる.

  1. (1)地山分類と標準支保パターンの関係については,基本的にトンネル掘削による変位が大きくなると予想される場合に適用するパターン(-b)とに分けられている.
     CII-aパターンでは上下半とも鋼アーチ支保工を省略し,DI-aパターンのロックボルト長は3mである.CIおよびCIIパターンで変位が大きいと予想される第三紀泥岩,凝灰岩,蛇紋岩,風化結晶片岩,温泉余土などでは40cmのインバートを設置することにしている.

  2. (2)未固結土砂地山については,類似例,数値解析により個々のトンネルの設計を行うこととして標準支保パターンを設定していない.
     全体としては経済的にトンネルを施工するため,吹付けコンクリートとロックボルトを主体とした支保工とする方向を提案している.

  3. (3)鋼製支保工の位置づけは,不連続面の状態が悪い場合(せん断抵抗が小さい,すべりやすい)に,落下しようとする岩塊を直接支えることであるとされている.
     肌落ち程度であれば,作業時の安全性も考慮すると鋼製支保工よりも吹付けコンクリートにより対処した方がよいとされている.
     不連続面に粘土が挟在していたり鏡肌となっている場合や湧水が多くて吹付けコンクリートの付着や強度発現が悪い場合に,鋼製支保工を用いるとしている.
     また,変位量が大きくなり,吹付けコンクリートの変形能力より大きな変位が発生する場合には,鋼アーチ支保工は吹付けコンクリートに靱性(タフネス)を与える効果がある.ただし,地山の強度が不足して塑性変位が大きくなる場合には,鋼アーチ支保工には変位を抑制する効果は期待できない.

  4. (4)NEXCOの要領では,鋼アーチ支保工の規格は高規格鋼(HH)となっている(平成24(2012)年7月改訂).
     例えば,DIIパターンでは,これまでNH-150であったものがHH-108となっている.現場で見ると何となく頼りない感じを受けるが,十分な耐力を有しているので鋼製支保工の役割としてはこれで十分と言うことであろう.

  5. (5)前述したQ値法から選定される支保構造は,鋼製支保工を用いていない.
     地山が劣化した場合には鋼繊維補強吹付けコンクリートあるいは鉄筋で頭部を補強したボルト(補強リブ付き鋼繊維補強コンクリート)を打設することで対応している.鋼製支保工設置の時間をなくすことで,大幅に工費が減少できるようである.また,吹付けコンクリートを金網付きから鋼繊維補強とすることでの時間短縮も可能である.
     Q値法による支保パターン選定でのトンネル施工では,トンネル建設費の平均は4,000〜8,000ドル(50万〜100万円.1999年当時)であるといわれており,日本での建設費の半分以下である.

 地山に適合した支保構造とすることでトンネル建設費はまだまだ下げることが出来る可能性があることを示している.

11.7 地山分類適用上の留意点

 これまで述べてきたことも含め,道路トンネルの地山分類を行う上での留意点を「NEXCO 設計要領第三集」(平成21年7月)にもとづいて幾つか述べる.

  • (1) 水による劣化をかなり重視している.
     北陸自動車道での泥岩の「水による劣化」の評価と最終上半内空変位量の関係で見ると浸水崩壊しやすい岩では確実に変位量が増大している(中田ほか,1998,p62).


    上半変位量と地山強度比.jpg
    図11.2 北陸自動車道の泥岩の「水による劣化」の評価と上半最終内空変位量の関係
    (中田ほか,1998,62p を簡略化)
     浸水崩壊度4(全体が泥状化あるいは砂状化)では,地山強度比が10を越えていても50mmほどの内空変位量を記録している.
     一般に,内空変位量が30mmを越えると塑性変形が発生し変位が収まりにくくなると言われる.

  • (2) ポイントロードテスト(点載荷引張強度試験)を利用することにより出来るだけ定量的な強度の把握につとめるよう提案している(設計要領第三集,79pおよび93p).
     水による劣化なども点載荷試験により比較的簡単に把握することが可能であろう.
     岩石試験から求めた地山強度比は内空変位量の一つの目安となるが,岩石の特性によって異なる.さらに,地山強度比の算出に当たっては岩石としてではなく岩盤としての評価が重要である(中田ほか,1998,59p).すなわち準岩盤強度を用いた地山強度比の方が内空変位量を反映した値となる.

  • (3) 内空変位量が地山分類の重要な要素となったために,内空変位測定の精度を上げる必要がある.
     地山分類表の「トンネル掘削の状況と変位の目安」の欄には,各地山等級での内空変位量の目安が示されている.
     測定方法自体は現在の方法(ターゲットによる三次元測量)で十分であるが,測定開始時間をどれだけ早くできるかがポイントとなる.
     設計要領第三集では,原則としてズリ処理後3時間以内のできるだけ早く,やむを得ない場合でも6時間以内に初期値を測定する必要があるとしている(設計要領第三集,46p).

  • (4) 一般に,トンネルの変位は切羽が到達する前に,30〜40%は発生しており,切羽到達後の変位量は全体の60〜70%であるという実測結果が出ている.
     理論的にもほぼ30%の先行変位があるとされている.特に変位量が大きい場合には,掘削後の変位測定開始時期が問題となる.


    先行変位量.jpg
    図11.3 先行変位の測定例
     上半切羽通過時には,0.56mmの先行変位が発生していた.最終変位量は,1.75mmであるので,上半切羽通過時には32%の変位が進行していた.
     内空変位量の測定を開始した時点では0.60mm(34%),地中変位量の測定開始時には0.75mm(43%)の変位が発生していた.

    11.8 地山分類についての現場での留意点

     特殊な場合も含めて,現場での留意点を述べる.

    (余談)地山強度比について

     地山強度比は、地山分類の重要な指標となっていて,2以下であれば地山等級はDIIとなる.
     等方等圧の地山中に円形トンネルを掘って無支保の場合,トンネル周辺地山の応力は次の式で表される.

    トンネル周辺の応力.jpg
    ここで,
     σr:トンネル半径方向の応力
     σθ:トンネル接線方向の応力
     P0:初期地山応力(=γH:γは地山の単位体積重量,Hは土かぶり)
     R:トンネル半径
     r:トンネル中心からの距離

     ここでは,トンネル壁面の応力を考えているので,R=r となり,
    σr=0,σθ=2P0 →
    σθ/ P0=2 の状態で釣り合っているが,初期地山応力(土被り圧)が大きくなって,この値が2より小さくなると壁面に塑性地圧が発生する.

     この地山強度比の考え方を最初に提案したのは,仲野(1974:農業土木試験場報告,No.12,89-133あるいはトンネルと地下,Vol.6,No.10,15-25)であろう.
     仲野は,側圧係数の関数としてトンネル天端と側壁(土平)の応力状態を表している.

     地山強度比は側圧係数(k),つまり,鉛直土圧(σ1)に対する水平土圧(σ2)の比で変化する.
     等方地山(k=1.0)では,地山強度比が2より小さくなるとトンネル周辺で一様に地山が降伏する.
     k=0.5,つまり,鉛直土圧が水平土圧の2倍だとトンネル側部付近が最初に降伏する.これに対して,K=1.5の場合は,トンネル天場付近がまず降伏する.
     地山が異方性を持っていて,水平土圧が卓越すると予想される場合は,地山強度比による地山分類に注意が必要である.


    表11.5 側圧係数と地山強度比
    地山強度比.jpg

     側壁付近では,側圧係数が1.0の場合,地山強度比は2である.これに対して,側圧係数が0.5の場合は地山強度比は2.5となる.つまり,地山はより強度がないと降伏することになる.
     これに対して,天端付近では側圧係数0.5の場合,地山強度比は約1となり,降伏しにくいことになる.
     つまり,側圧係数が1より小さい場合は,まず,側壁付近が降伏し,1より大きければ天端付近が最初に降伏することになる.


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