11.9.4 大量湧水のトンネル

 (2015年2月11日作成)

概 要

 大量湧水が発生したトンネルで有名なのは,旧国鉄が建設した旧丹那トンネルである.工事中の最大湧水量は 135m3/minを記録している.
 関西電力・黒部川第四発電所関連施設のために建設された関電トンネル(旧称大町トンネル.延長5.4km)は,日本アルプスの鉢ノ木岳の北尾根(標高約2,550m)の下を通過した.最大土かぶりは約1,050mで,4.1MPa( 42kgf/cm2)という高圧の湧水が40m3/min も出て工事が半年停止した.

 このような集中湧水に対し,恒常湧水は掘削中の集中湧水が時間の経過とともに減衰し恒常湧水となる場合と,掘削中はあまり湧水がなかったものが地下に開放面が形成されることによって徐々に浸透水が流出しやすくなり,やがて一定の湧水量となる場合とがある.


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図11.16 トンネル湧水量経時変化の模式図
(日本トンネル技術協会,1983,52p) による
トンネル湧水量は,掘削の進行とともに緩やかに増加する恒常湧水と遮水層を抜いたり堆積盆の帯水層に遭遇したりして発生する集中湧水とがある.導坑を先行して掘削している場合は,導坑が貫通すると突発湧水は減少する.固結度の低い砂岩や礫岩など透水性の高い(水を良く通す)地山では,大雨あるいは融雪によって恒常湧水が増加する場合がある.

恒常湯水量

 トンネル湧水量は,トンネル完成後ある程度時間が経過すると減少していく.実際の湧水量の減少を測定したものが,図11.18である.


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図11.17 恒常湯水量の模式図
(高橋,1988,27p による)
 トンネル掘削中あるいは貫通直後は,掘削前の地下水位から恒常湧水の地下水位までの間の面積(体積)に相当する地下水が湧出してくる.その後,降水量や流域外からの流入量とトンネル湧水量が平衡状態になり,恒常湯水量となる.


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図11.18 トンネル湧水量の減少曲線(榛名トンネルの例)
(高橋,1988,28p)
 この図では,恒常湧水量は貫通時湧水量の50〜80%の範囲まで低下している.
 湧水量の低減解析の結果から, 湧水量(Q) と時間(t)の関係式が得られている.
 上の式は,下新井工区以南の約5.2km区間の解析で得られた式で,相関係数は0.67,下の式は長岡工区約9.2kmの解析結果で,相関係数は0.94であった.
 右辺第2項(8.3および45.5)は,トンネル最終湧水量に相当する.榛名トンネルでは,約54m3/min と予想された.実際にトンネルが完成した時の湧水量は62.2m3/minであった.
恒常湯水量の式.jpg


Q-Q'グラフ.jpg
図11.19 低減湧水量と貫通時湧水量のグラフ
(高橋,1988,28pによる.原典は,石井政次,上越新幹線地下水調査委員会資料)
 トンネル貫通後の湧水量は,50%程度まで低減し,恒常湯水量に達すると考えて良いようである.
 深成岩類(〇)では,湧水量はあまり低減しない場合と半分程度になる場合とがある.
 古生層(□)は低減していない.
 火山岩類(●)および第三紀堆積岩類(■)は,80%以下まで低減する.
 ここで言う「低減湧水量」は,恒常湯水量と考えて良い.
 このデータは貴重なものである.トンネル工事で周辺に渇水が生じた場合,トンネル湧水を配水する場合がある.この時に,最終湧水量がどの程度になるかが問題となる.このデータをもとに概略の予想を立て,配水できる水量を検討することができる.

記号岩 種トンネル名
火山岩類新丹那,宮,長崎,釈迦岳,南郷山,榛名,旧丹那
深成岩類神戸,六甲山,六甲,清水,新清水
第三紀堆積岩類長浜,由比,浦本
古生層石北

大量湧水トンネルの施工例

 大量湧水の見舞われたトンネルは多い.ここでは,旧国鉄の丹那トンネルについて述べる.

旧丹那トンネル

延長:7,804m
地質: このトンネルの地質は,中新世の安山岩と凝灰岩および安山岩・火山角礫岩の互層が基盤をなし,その上位に割れ目の多い新期安山岩溶岩が分布している.
 火山角礫岩中にも大断層があるが,トンネル中央部の割れ目の多い安山岩が湧水が多く,しかも活断層を含む断層群が分布している.新期安山岩と火山角礫岩の境界部には未固結の火山砂が分布しており,この火山砂中の水が突発湧水となって噴出した.
 ほぼトンネル中央部(熱海側から3660m付近)に北伊豆活断層が分布している.この活断層では約136m3/minの突発湧水があった.
施工状況:丹那トンネルは,基本的には底設導坑先進工法で掘削した.
 断層部分では側壁導坑先進工法で掘進したほか,熱海側から2,440m〜2,740m間の温泉余土区間では,サイロット工法や圧気式シールド工法を使用している.また,三島側から2,160m〜2,440m間の火山砂区間も圧気式シールド工法で掘削した.

 湧水は,新期安山岩中で大量の湧水があり,特に北伊豆活断層では水抜き坑をトンネルの脇だけでなく上部にも掘削して立体的に排水を行った.
 火山砂の区間は三島側から掘削して抜いたが,発破と同時に湧水が始まり坑口の総排水量は204 m3/minに達し,坑内だけでなく坑外で排水が処理しきれなくなり洪水となった.


丹那トンネルの活斷層.jpg
図11.20 丹那トンネル 北伊豆活斷層付近の水抜き坑
(櫻井,1998および丹那トンネルの話,1933 にもとづきまとめた.)

参考文献


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