大量湧水が発生したトンネルで有名なのは,旧国鉄が建設した旧丹那トンネルである.工事中の最大湧水量は 135m3/minを記録している.
関西電力・黒部川第四発電所関連施設のために建設された関電トンネル(旧称大町トンネル.延長5.4km)は,日本アルプスの鉢ノ木岳の北尾根(標高約2,550m)の下を通過した.最大土かぶりは約1,050mで,4.1MPa( 42kgf/cm2)という高圧の湧水が40m3/min も出て工事が半年停止した.
このような集中湧水に対し,恒常湧水は掘削中の集中湧水が時間の経過とともに減衰し恒常湧水となる場合と,掘削中はあまり湧水がなかったものが地下に開放面が形成されることによって徐々に浸透水が流出しやすくなり,やがて一定の湧水量となる場合とがある.
トンネル湧水量は,トンネル完成後ある程度時間が経過すると減少していく.実際の湧水量の減少を測定したものが,図11.18である.
記号 | 岩 種 | トンネル名 |
---|---|---|
● | 火山岩類 | 新丹那,宮,長崎,釈迦岳,南郷山,榛名,旧丹那 |
〇 | 深成岩類 | 神戸,六甲山,六甲,清水,新清水 |
■ | 第三紀堆積岩類 | 長浜,由比,浦本 |
□ | 古生層 | 石北 |
大量湧水の見舞われたトンネルは多い.ここでは,旧国鉄の丹那トンネルについて述べる.
旧丹那トンネル
延長:7,804m
地質: このトンネルの地質は,中新世の安山岩と凝灰岩および安山岩・火山角礫岩の互層が基盤をなし,その上位に割れ目の多い新期安山岩溶岩が分布している.
火山角礫岩中にも大断層があるが,トンネル中央部の割れ目の多い安山岩が湧水が多く,しかも活断層を含む断層群が分布している.新期安山岩と火山角礫岩の境界部には未固結の火山砂が分布しており,この火山砂中の水が突発湧水となって噴出した.
ほぼトンネル中央部(熱海側から3660m付近)に北伊豆活断層が分布している.この活断層では約136m3/minの突発湧水があった.
施工状況:丹那トンネルは,基本的には底設導坑先進工法で掘削した.
断層部分では側壁導坑先進工法で掘進したほか,熱海側から2,440m〜2,740m間の温泉余土区間では,サイロット工法や圧気式シールド工法を使用している.また,三島側から2,160m〜2,440m間の火山砂区間も圧気式シールド工法で掘削した.
湧水は,新期安山岩中で大量の湧水があり,特に北伊豆活断層では水抜き坑をトンネルの脇だけでなく上部にも掘削して立体的に排水を行った.
火山砂の区間は三島側から掘削して抜いたが,発破と同時に湧水が始まり坑口の総排水量は204 m3/minに達し,坑内だけでなく坑外で排水が処理しきれなくなり洪水となった.
参考文献