14 おわりに

 (2015年4月15日作成)

 以下に掲載する文章は,「山岳トンネルの地質調査」を,当時務めていた地質コンサルタント会社から発行した2002年に書いたものである.この頃も,山岳トンネル技術の進歩はめざましい物があった.現在は,特に電子化に関わって急速に技術が進展している.
 建設会社では,CIMヘの対応を進めており,建設事業の上流側に位置する地質調査も対応を迫られつつある.

 そのような状況で,私が,山岳トンネルの将来の技術動向を述べることは無理である.そこで,10数年前にどんなことを考えていたのかを示す意味で,当時の文章をそのまま掲載する.

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 現在,山岳トンネルでの動向を順不同の列記すれば次のようになろう.

 より経済的なトンネルの施工(機械化施工,支保工の柔軟な変更)
 シールドトンネルとの接点(経済的な優位性)
 大断面トンネルの施工(頂設導坑先進工法)
 岩盤力学を取り込んだトンネル設計(Q値法などの適用)
 キーブロック解析などの適用(支保工の軽減)
 老朽化したトンネルの経済的な補修,補強

経済性の追求

 トンネルの工事費はこの数10年で見ると乗用車の生産費と同じ程度で減少してきているという.
 日本の地質には不向きといわれたトンネルボーリングマシン(TBM)の採用や現場計測データのフィードバックによる適正な支保工の採用などにより工事費は大きく低減してきた.さらに工事費を低減するために検討されているのは鋼製支保工をなるべく減らし,ロックボルトと吹付けコンクリートで支保構造を構築する方向である.鋼繊維吹付けコンクリートを採用することによりコンクリートの強度を増し,鋼製支保工建込みの時間をなくし施工を早めることが出来る.
 また,ガントリージャンボにいろいろな機能を持たせ迅速に施工する工夫も行われている.施工上問題となるのは,掘削から支保工構築までの無普請の空間での作業をどれだけ安全に行えるかということである.トンネルの調査・設計に現場経験が必要なのは,まさにこの点である.

シールドトンネルとの接点

 山岳トンネル工法(NATM工法)とシールドトンネルとの接点が次第に小さくなってきている.
 工事費の比較では明らかにNATM工法の方が経済的であり,シールドで問題となる地表沈下量は,土被りが極端に薄い場合はシールドが有利であるが,土被りが1D以上となるとほぼ同じような沈下量となっている.
 NATMの適用可能な地質は洪積層までであり,沖積層では難しいとされている.また,NATM適用可能な地山の物性値は,一軸圧縮強度が0.1N/mm2(1.0kgf/cm2),変形係数10MN/mm2(100kgf/cm2)が限界とされている.
 補助工法をシステマティックに採用しながらどこまで安全に迅速に施工できるかでNATMの適用範囲は広がっていくと考えられる.

大断面トンネル

 大断面トンネルは第二名神・東名高速道路で施工真っ最中で,貫通したトンネルもある(例えば,清水第3トンネル).
 ここで採用されている工法は,トンネル頂部にTBMで導坑を掘削し,この導坑から天端を中心とした補強工を実施して切り拡げるというものである.大断面トンネルの標準支保パターンも決定されている(建設省道路局,1996.日本道路公団,1997,92p).
 大断面トンネルの問題点は扁平率(=内空高さ/内空幅)である.扁平率を小さくしなければ不要な掘削と支保が必要となり不経済となるが,扁平率を小さくするとアーチ部の半径が大きくなりトンネルの安定が損なわれる.トンネルの安定を保つためには断面半径の大きくなる天端付近の補強が必須となってくる.扁平率の小さいトンネルは高速道路だけでなく広い歩道を必要とするような都市トンネルでも多くなると考えられる.

新しい地山評価と解析方法

 日本のトンネル地山区分は岩盤力学的な裏付けに乏しいといわれている.
 例えば,Q値法ではトンネル支保工の規模と関連付けられているだけでなく,支保工に作用する内圧を求めることができて,施工時の計測データをフィードバックすることによりトンネル力学的な釣り合いが得られる変形量を予測できる.
 このように単に経験的なデータの積み重ねだけでなく,岩盤力学的な関連を得られる地山の評価方法が必要となってくる.最近では,RMR法を現場で使用する例が増加している.
 キーブロック解析は,亀裂性岩盤で構成されるトンネル壁面や岩盤斜面で,このブロックが移動すると全体の安定が崩れるというブロック(キーブロック)を数学的に探し出す方法で,キーブロックはほとんど純粋に幾何学的な不連続面の配置で決まってくる.この方法の利点は現場で簡単にキーブロックを探し出し,必要最低限の支保(ロックボルト)を施工することでトンネルの安定を保つことが出来る点にあろう.
 軟岩に対しては,FEM解析が比較的手軽に出来るようになってきているので,現場で標準支保パターンとメッシュを入力しておき,切羽観察や計測結果からそれぞれのトンネルの物性値などを入力することにより現場で簡単に解析が出来る.

 山岳トンネルの調査といっても,地質調査,地山物性値の設定,トンネル湧水量の推定,施工中の切羽観察や計測,そして供用後の補修・補強調査と多岐にわたっている.
 このような一連の調査のどの部分を担当した場合でも,参考となるような手引き書を作れたらというのがこの冊子の目的である.多少とも役に立つものとなっていればと思うが,具体的にどうしたらいいのか手に取るように分かるものとはなっていない.
 参考文献を可能な限り挙げたのでそちらを参考にし,自分の頭で考えてほしい.

 現在,トンネルも経済的に施工することが至上命令となっている.しかし,経済的にトンネルを施工するということは必要な調査費や工事費を削ることではなく,合理的で手戻りが少なく無理のない施工を可能にする設計を行うことが前提条件となろう.
 そのためには,トンネルの施工現場を少しでも多く見ることが必要である.

(2002年12月)

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