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 2.2.2 弾性波探査

 ボーリングが鉛直方向のデータを取得できるのに対し,弾性波探査はトンネル沿いに二次元のデータを得ることができる.ボーリングで実物としての地山状況を把握し,弾性波速度と対比しながらトンネル全体の地山状況を推定することができる.さらに,トンネル地山等級区分は岩質と地山弾性波速度が大きな区分要素となっている.

測線設定の留意点

 弾性波探査の測線設定状の留意点を坑口部とトンネル一般部に分けて述べる.

(1) 坑口部の弾性波探査は,トンネル一般部に移行する付近で横断方向の測線を設けて実施する.
 特に,地山が片理の発達した片岩や粘板岩である場合は,弾性波速度の異方性が検出される.つまり,トンネル縦断方向と横断方向で地山弾性波速度に差が出てくる.
 また,基盤中に低速度帯が分布する場合には,縦断測線と横断測線の低速度帯の分布を検討することで,その延長向を把握できる.もちろん,地表踏査による地形・地質状況を含めた総合的な検討が必要である.

(2) 坑口部の弾性波探査で注意すべき点は測線長である.
 一般に,弾性波探査の測線長は,探査深度の5〜7倍が必要とされている.土被りが20mであれば最低100mの測線長がないと,トンネル施工基面付近の精度のよいデータは得られない.

(3) トンネル縦断測線の延長は一般的にはトンネル延長+30〜+50mとされている.したがって,トンネル坑口予定地点から最低片側30mは縦断測線を設ける.
 ただし,坑口付近に厚く土砂が堆積していると予想される場合には,岩盤線を捉えることが出来る充分な測線長を上記(2)を参考にして設定する.

(4) トンネル一般部で注意する点は,カーブしたトンネルの測線分割である.この 場合,測線長の目安は次の式で与えられる(旧日本道路公団 土質地質調査要領,1992,p155).

      L=L+(5〜6)×Z
 ここで,
     L :測線長
     L:調査したい範囲(トンネル区間長)
     Z :基盤までの深度,またはトンネル計画高までの最大土被り

 また,この場合に交点の延長をどこまでするかは,土被りによって決まり一概 に決定できない.測線の端部では精度が落ちることを考慮して不足のないような長さを取る必要がある.

(5)弾性波探査では地震波がトンネル断面を通過していないとトンネル断面での弾性波速度が得られないので施工に有効な地山区分を行うことができない.
 高精度弾性波探査では,既存資料から地山の弾性波速度構成を仮定して地震波がトンネル断面に達しているかどうかを検討することができる.慎重を期す場合はこのような検討が必要になる.

(6)三木(2005)によれば,土かぶり厚が50mを超すと弾性波の波線通過率が100%未満となるトンネルが顕著に現れだし,約120mを超すとほとんどのトンネルで波線がトンネル計画位置に達していないという.
 測線計画をつくる場合は十分に注意する必要がある.


tunres_fig23.jpg
弾性波探査の基本的な測線配置
(NEXCO土質地質調査要領)

●一番上はトンネルが1本の場合で,全線に渡って弾性波測線を展開する.
●真ん中の二つは上り線・下り線の2本のトンネルを掘削する場合で,先行施工するトンネルは全線弾性波探査を行うが,2本目は一般部については,先行トンネルのデータを用いて坑口のみに限定するのが一般的である.
●もっとも注意を要するのはトンネルがカーブしている場合で,必要なデータが得られかつ効率の良い測線設定を行う必要がある.地質構造等を考慮して測線配置・測線長を決定する.


弾性波探査結果の解釈上の留意点

(1) 坑口部でトンネル天端に近接して上方に低速度層(風化部)がある場合には,地山分類を1ランク落とすことが一般に行われている.
 これは天端付近の崩落がトンネル施工にとって最も危険なためである.一般にはトンネル基盤より上部約15mの範囲に複数の速度層がある場合には,速度の遅い層の値を採用しランクを落とす.すなわち,標準的なトンネルではトンネル天端から7〜8m程度上部にトンネル断面より小さい速度層がある場合,この小さい速度層の値を用いることになる.

(2) 一般に,弾性波速度は地下水がない場合には極端に小さく出ることがある.
明らかに硬質な岩盤が露岩している場合でも,急崖をなしていて地下水がない場合などは地山弾性波速度が1.5km/sec以下となることがよくある.この場合,岩塊としては良好であっても亀裂が開口し分離面が出来ていると考えられるので,弾性波速度値をそのまま適用しないで露頭状況などを考慮したり,類似事例を参照して地山分類を慎重に行う.

(3) 弾性波探査はトモグラフィー的手法を用いた解析方法が一般的である.
 この方法をトンネルに適用する場合の利点は,地山速度が細かく得られるので地質に応じて必要な速度区分を行うことができること,ボーリング孔内で受振することにより逆転層構造(上部に速度の速い層があり下部に遅い層があるような地質構造.例えば,溶岩と凝灰岩の互層)を捉えることができることである.
 探査精度が高まった分,地質的な解釈を行う場合に精度の高い地質平面図,地質断面図が要求される.また,解析結果が弾性波の等速度線として表され視覚的に分かりやすいことから,速度構造を鵜呑みにして地質的な解釈がなおざりにされる可能性があるので注意が必要である.

参考文献
三木 茂ほか,2005,波線を用いた従来弾性波探査にトモグラフィ的解析法を適用.トンネルと地下,第36巻,10号,51−59.


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