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 2.2.4 孔内水平載荷試験

 トンネル坑口付近は,崖錐堆積物や風化岩が分布している.そのために,トン ネルの安定性を検討する場合に数値解析が必要となる場合がある.
 また,山岳トンネルでは坑門部は斜面上の基礎となり深礎基礎となることが多い.このために,地山条件によっては変形特性(K値あるいは変形係数,弾性係数)あるいは強度特性(せん断強度=粘着力,内部摩擦角,引張強度)を求めておくことが必要となる.

 トンネル一般部では,大深度での孔内水平載荷試験は,実施上の困難を伴う. したがって,一般にはコアの状況から変形特性を推定することになる.

変形特性の種類

 岩盤の変形特性としては,変形係数,弾性係数,ポアソン比,クリープ係数な どがある.

(1) 岩盤の変形特性を支配する要因としては,岩盤を構成する岩石そのものの変形 岩盤内の不連続面の開口・閉口不連続面に沿うすべり変位がある.

(2) 変形特性を把握する方法としては,平板載荷試験,孔内載荷試験,水室試験な どがあるが,調査段階で実施するのは孔内水平載荷試験である.孔内水平載荷試 験で繰り返し載荷を行った場合に得られる変形特性は次のようになる.

変形係数:
 荷重―変位曲線の処女曲線の勾配から求められる.緩みの影響を受けた岩盤の 変形特性を表すといわれており,弾性計算で擬似的に岩盤の緩みを評価する場合 に用いられる.

接線弾性係数:
 荷重―変位曲線の直線部分の勾配から求められ,岩盤が弾性的に挙動する場合 の変形特性を表すといわれている.ダムや大規模地下空洞などの設計で,弾性解 析の弾性係数,非線形解析の初期変形係数として用いられる.応力が大きくなる と接線弾性係数は大きくなるので施工時に発生する応力レベル付近の値を求める 必要がある.

割線弾性係数:
荷時および除荷時の変形曲線のうち始点と終点を結ぶ直線の勾配から求められ る.ある程度の岩盤のへ弾性的な挙動を反映した変形特性といわれるが,設計上 の意味は明確でない.

(3) ポアソン比やクリープ係数も岩盤の変形特性を表す.岩盤のポアソン比の測定 はほとんど行われておらず,経験的なおおよその値が設定されている.クリープ 係数は載荷重を一定に保ち,時間―岩盤変位関係を測定することによって求める ことが多い.

変形係数などの設計上の意味については,「鹿島建設土木設計本部編,1993,[土木設計の要点]1 設計の基本知識」が参考になる.

岩盤のせん断定数

 せん断強度や引張強度は,岩石試験結果を地山弾性波速度と供試体の超音波伝 播速度との比により低減することによって求めることが多い.
(1) 軟岩や土砂のせん断強度は,孔内リングせん断試験により求めることができる.
 この試験で得られる値についてはいろいろと議論があるが,一つの目安として用 いることは有効である.この試験では残留強度を求めることができるので,すべ り面が出来かかっているような場合にも有効であろう.

設計用のポアソン比の例

(鹿島建設土木設計部編,1993,p167,原出典は土屋,1986)

地山区分初期ポアソン比破壊時ポアソン比
硬岩0.250.45
軟岩・中硬岩0.300.45
土砂0.350.45

(2) 地質構造的な応力が働いている場合には,初期地圧が解放されることにより予 期しない応力がトンネルに働くことがある.
 一般には,地山(岩石)の単位体積重量とトンネル土被りから初期地圧を設定するが,鉛直成分は土被りにより発生する応力の0.8〜1.2倍の値をとるという実測結果が得られている.

(3) 一方,水平成分の実測結果は地域によりかなりのばらつきがみられる.この原因は,過去の残留地質構造応力や現在の地殻造営力などのためと考えられている(鹿島建設土木設計部,1993,上記,p151).
 トンネル坑口付近では偏圧地形や地すべりによって水平成分が大きくなる.数値解析などで実測変位と解析結果があわない場合にはこのようなことも考慮する必要があろう.

(4) 孔内水平載荷試験の降伏応力は岩石試験の不可能な地山の概略の一軸圧 縮強度を推定する上で有効である.岩石試験の強度はあくまでも試料採取が可能 な比較的良好な地山についての値であるのにたいし,孔内水平載荷試験は粘土化 したような劣化部でも値を得ることが出来る.


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