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 2.2.7 室内試験

 トンネルで必要となる室内試験としては,一般的な岩盤で実施する岩石試験と 膨張性地山あるいは流砂現象を起こしやすい地山で実施する土質試験,有害金属の処理判定のための化学分析などがある.

岩石試験

 岩石試験の項目としては次のものがある(日本鉄道建設公団,1991,地質調査標準示方書).

 (1) 密度試験:
 不定形の試料について水中重量,乾燥重量を計り計算により密度,含水比,吸 水比,間隙率を求める場合と岩石試験用に整形した試料の体積と重量を求め比重 を求める場合とがある.

 (2)一軸圧縮強度試験:
 岩石の力学的特性を判断する基本的な指標である.軟岩(一般には一軸圧縮強 度が20N/mm2=200kgf/cm2以下)ではトンネルの土被り厚との比による地山強度比を求めることにより,地山分類の重要な指標が得られる.
 地山強度比が4以下であると地圧が大きくなり押し出し性の地圧が発生し,2 以下では膨張性の地圧が発生するとされている(仲野,1975).しかし,実際には地 山強度比が1以下で膨張性の地圧が発生することが多く,また土被りが100mを越えると要注意となる.

  地山強度比
  GN=σc/(γ・H)
GN:地山強度比
σc:一軸圧縮強度(tf/m2=×0.1kgf/cm2
(=×10kN/m2=×0.01MN/m2) γ:単位体積重量(t/m3=g/cm3)
(=×10kN/m3) H:土被り厚(m)

 例えば,岩石試験から求められた単位体積重量が25kN/m3(2.5t/m3),一軸圧縮強度が10MN/m2(1,000tf/m2),トンネルの土被りが100mとすると
地山強度比は,10,000÷(25×100)=4 
となり,塑性変形が発生するかどうかの微妙な値となる.

 一軸圧縮試験では可能な限り静弾性係数,ポアソン比を求める.

 一軸圧縮試験の用い方の一つに,限界ひずみ による管理基準値の設定がある (桜井,1982,土木学会論文報告集.no.317,93-100 ).

 (3)圧裂引張試験:
 引張強度を求める.一軸圧縮強度と引張強度から岩石の強度定数(粘着力,内 部摩擦係数)を簡便に求めることが出来る.
 岩石の強度定数が必要となるのはトンネルが破壊する可能性があるような軟岩の場合で,硬岩では省いてもよいが岩石の基本的物性値として試験を行うことが望ましい.
 ここで求められた強度定数は,地山弾性波速度と供試体の超音波伝播速度の比 を用いて低減することにより岩盤の物性値として利用できる.

  C=√(qu×Tu)/2
φ=sin-1{(qu-Tu)/(qu+Tu)}

C:粘着力(kgf/cm2)
φ:内部摩擦角(゜)
qu:一軸圧縮強度(kgf/cm2)
Tu:引張強度(kgf/cm2)  *注)単位に注意.基本的にSI単位に変換.

 (4)超音波伝播速度:
 岩石の基本的な物性を把握する指標となる.地山弾性波速度との比較から岩盤 の劣化度(亀裂の発達程度,開口度など)を推定する.P波速度とS波速度から 動弾性係数,動ポアソン比を求めることが出来るが,この値は岩石試験から求め られるものより大きめになる傾向がある.


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土質試験

 土質試験は膨潤性,流砂現象発生の可能性を判定するために実施する.
 (1)土粒子の比重:
 未固結〜半固結の砂質土では土粒子の比重が流砂現象が発生するかどうかの指 標となる.

 (2)自然含水比:
 自然含水比が20%以上の場合,膨張性を示す可能性がある.

 (3)粒度試験:
 粒度組成,均等係数を求める.
 堆積軟岩の膨張性の指標としては2μm以下の粒子の含有率が30%以上では地圧発生の可能性が非常に大きいとされている(膨潤性の判定については,吉川ほか,1982,応用地質,Vol.24,No.2,17-29および土木学会,1983,トンネルの地質調査と岩盤計測を参照のこと). 固結度の小さい砂岩,シルト岩では,均等係数が流砂を起こすかどうかの判定基 準の一つとなっている(土木学会,1987,トンネルにおける調査・計測の評価と利用図を参照のこと).

 (4)液性限界・塑性限界:
 泥質地山での膨張性の指標となる.塑性指数70以上,液性指数20以上では 膨潤性を示すとされている(土木学会岩盤力学委員会,1987,同上,p77).

特殊な室内試験

 軟岩地山の膨潤性判定のための特殊な試験として次のようなものがある.

 (1)浸水崩壊度試験:
 強制乾燥させた試料を水につけ水中での崩壊程度により膨潤性の判定を行う.

 (2)X線回折:
 粉末にした試料をX線にかけ粘土鉱物の同定を行う.
 一般には,岩石全体のX線回折をまず行い,その後,水ひ(水による篩い分け)により粘土鉱物だけを選別する.
 粘土鉱物がシート状の構造をしていることを利用して,ガラス板に水で結晶を定方位に配列させ,粘土鉱物を張り付け,X線反射強度が大きく出るようにして同定する.
 さらに,薬品処理や熱処理で同定の精度をあげる.トンネル地山分類では,蛇紋岩や変質安山岩(いわゆるプロピライト),黒色片岩,泥岩,凝灰岩などで膨張性が明確に確かめられたならば,地山等級をD2またはEにするとされている.
 この場合,粘土鉱物の産状が問題となる.つまり,泥岩や凝灰岩ではほぼ全体に均等に膨潤性粘土が含まれているが,変質安山岩あるいは新鮮な安山岩では脈状にモンモリロナイトの粘土脈が分布していることがある.
 このような粘土脈が挟在することで地山等級を落とすかどうかは粘土脈の分布頻度などを考慮して切羽でどのような出方をするか予想して判断する必要がある.

 (3)CEC試験:
 CEC(Cation Exchange Capacity)試験は粘土鉱物の層間水をアンモニアで 置換して,置換したアンモニウム量を測定することにより粘土鉱物の膨潤性の指 標を得るものである.
 鉱物の陽イオン交換容量を示すものであるため,沸石のように大きな陽イオン交換容量を持つ鉱物が含まれている場合でもCECは大きな値となるので注意が必要である.この試験値の単位は,meq/100g(乾燥試料100g当たりのアンモニウムのミリグラム当量)で表される.

 CECの値のみを用いて膨潤性の判定を行うと判断を誤るので,必ずX線回折 結果により膨潤性粘土が含まれていることを確認する必要がある.

 (4)モンモリロナイトの定量分析:
 この試験は試料を乾燥させた後,メチレンブルーを加えて色調の変化を観察す る.メチレンブルーの消費量がモンモリロナイトの含有量に比例するとして含有 量を計算する.
 以上のような測定方法から分かるとおり,この方法で得られた値も一つの目安 として用いるべきである.

 (5)岩の化学分析
 岩石を粉砕して所定の方法で化学分析を行う.トンネル掘削ズリ中の有害金属の含有量を分析し処理が必要かどうかの判定を行う.
 掘削ズリは建設発生土として有害金属を基準以上含んでいる場合には,関係法規に従って処理する必要がある.
*注)ここで言う「岩の化学分析」は岩の全岩分析で公定法の含有量試験とは異なる.土壌対策汚染法が施行されてからは,岩の化学分析を行うのは特殊な場合である.

 (6)岩の溶出試験
 岩石を粉砕して所定の薬品でどの程度の有害金属が溶けだしてくるかを測定する.この試験で得られる溶出量値によって,掘削ズリの処理を決定する.


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