3 地形判読

 3.1 地形図を読む  3.2 空中写真判読  3.3 活断層

 3.1 地形図を読む

地形図読図

 現在日本全国を網羅していて最も信頼性のある地形図は,国土地理院発行の 1:25,000地形図である.この地形図をじっくり眺めるだけでかなりの情報が得ら れる.最も簡単な作業は,水系,山系を全て拾って色鉛筆で入れてみる,遷急線, 遷緩線を記入するといったことであるが,この作業を行うだけでも様々な地形現 象が見えてくる.
 このような読図の方法については,「鈴木隆介著,建設技術者のための地形図読 図入門,第1巻〜第4巻」に詳しく述べられている.地質を専門としている人間 は,地質が分かれば地形が説明できると考えがちであるが,地形には地形の発達史があり,それを明らかにすることが建設計画に有効であることがこの本では強調されている.

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トンネル調査での要注意地形

 トンネル調査では,
  (1) 坑口部の地すべり地形・崩壊地形
    (2) 土被り(トンネルの天井から地表面までの距離)が20m〜30m(普通の トンネルでは大体トンネル掘削の幅(D)の2倍〜3倍)以下の区間の地質がどん な状況にあるか
    (3) トンネル本体区間に大規模な破砕帯が分布していないか
  (4) 湧水点がどの程度の標高にあるか
などといったことを念頭において地形図を読む.

以下にいくつかの留意点を述べる.

(1) 地すべり地形の判読では,斜面の上方に谷側に凹の等高線(へこみ)があ り,下方に谷側に凸の等高線(押し出し)があって対になっている地形を拾 い出せば,ほぼ間違いなく地すべり地形を拾い出せる.
 すなわち,谷側に凹の等高線は地すべりの滑落崖であることが多く,谷側に凸の等高線は地すべり移動土塊の末端を示していることが多い.この場合,谷側に凹の等高線がその上下斜面に比べ混んでいれば滑落崖の可能性が非常に高い.このような 目で注意深く見ると,幅50m程度までの地すべり地形を1:25,000分の1の地形図で判読できる.また,地すべりの側部は,周辺に比べ地形が緩く沢状地形が発達し ていることが多い.

(2) 坑口付近は沢に面していたり,やせ尾根に取り付いていたり,あるいは片 斜面に取り付いていたりといった特殊な地形に位置していることがある.
 やせ尾根では風化が深部まで及んでおり,かなり深くまで突っ込まないと安定 した地山とならないことがある.
 等高線の幅が不揃いである場合には尾根全体が緩んでいる可能性があり,異様に平坦な尾根は風化が深部まで及んでいる可能性が高い.
 また,単調に見える斜面でも崖錐堆積物が意外に厚い場合や段丘堆積物が崖錐堆積物の下に隠れている場合があり,注意が必要である.

(3) 大規模な破砕帯はリニアメントとして地形図で判読できる.鞍部や沢の曲 がり,直線状の沢などを目安に,とにかく疑わしい地形は全て拾い出すこと が肝心である(武田ほか,1976.参照).この段階では,地質的弱層となりう る地形を全て拾い出す.

(4) 地形図から湧水点を拾い出すことはかなり難しいが,沢の源頭付近で沢が ばらける地形の扇の要の位置が湧水点である場合が多い.

(5) 水系を丹念に拾い出した水系図は,谷密度の粗密が見事に現れることがある.
 一般に,風化したマサや砂岩のように地山の透水性が高い地質の分布域では 谷密度は粗となり,泥岩のように透水性の小さい地質の分布域では谷密度は 密となる.

 以上のようにして拾い出した地形的特徴は,1:25,000の地形図にそのまま,ま たは1:10,000程度に拡大して記入する.営林署の森林基本図が手に入ればこれを 利用するのもよいが,等高線がしっかりしていて地形が読みやすいのは国土地理 院の図面である.とにかく,トンネル直近だけでなく,やや広い範囲にわたり地 形図を読み,類似した地形を拾い出すようにする.

 3.2 空中写真判読

 空中写真判読により得られる情報は,地形判読の場合より詳細に地形情報を得 ることが出来るので,トンネル調査では丹念に判読する.

空中写真の種類と入手方法

 空中写真の種類は,パンクロマティックフィルム(白黒写真),カラー写真,赤 外写真があり,フィルムのサイズは23cm×23cm画郭と18cm×18cm画郭とがあ る.日本地図センターで普通に販売している空中写真は23cm画郭である.
 トンネル調査で判読に使用する写真は基本的にはカラー写真を用い,坑口付近 については微細な地形を判読できる2倍拡大写真が望ましい.広域的な構造を把 握するには密着写真が良く,それぞれ目的にあった倍率を使用する.
 また,空中写真判読の際に用いる実体鏡は,必ずレールまたはアームを付けて 使用し,広域的に類似の地形を拾い出す.

なお,空中写真の種類と入手方法を表3.1に示した.


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表3.1 空中写真の種類と入手方法


撮影計画機関撮影区域撮影年次縮尺申込先
国土地理院
(国土基本図用)
平野部1960〜一部 1:10,000
大部分1:20,000
日本地図センター
国土地理院ほぼ日本全域1964〜約1:40,000日本地図センター
国土地理院
(国土整備事業用)
全国
(カラー)
1974〜平野部1: 8,000
山地部1:10,000 〜
1:15,000
日本地図センター
林野庁および
都道府県林務課
山地部1952〜約1:20,000日本林業技術協会
都道府県庁
米軍日本全域1946〜
1948
約1:40,000日本地図センター
米軍鉄道沿線
主要平野部
1946〜
1948
約1:10,000日本地図センター

 それぞれの申込先の電話番号等は次の通りである.

(財)日本地図センター 東京都目黒区青葉台4-9-6
TEL:0298-51-6657〜8
FAX:0298-52-4532
URL: http://www.jmc.or.jp/

(財)日本林業技術協会 東京都千代田区六番町7
TEL03-3261-6952
FAX:03-3261-3044
URL: http://www.jade.dti.ne.jp/~jafta/

*ランドサット,イコノスなどの衛星写真の入手先
(財)リモートセンシング技術センター
  東京都港区六本木1丁目9-9 六本木ファ-ストビル12階
TEL:03-5561-9771
FAX:03-5561-9540
http://www.restec.or.jp/

 空中写真の縁にある記号は次のようになっている.

TO−77−1C8−19:28TH1800
地方名−撮影作業年度−番号フィルム
ロール番号
コース
番号
写真
番号
撮影月日撮影会社海抜高度

 また,反対側の縁にある写真は,
傾き(単位はグラード,1グラード=1/100直角),撮影時間,撮影高度である.

空中写真判読の効用と留意点

   トンネル調査で空中写真判読を行う目的は,崩壊・地すべり地形や大規模破砕 帯の抽出,湧水点の確認,地質構造の把握などである.
 現地踏査に先立って空中写真を見ることの効用は,踏査で土地勘とでもいうべきものが働くようになるという点である.詳細に写真判読を行ってから踏査に入ると,まるで一度来たことのある場所を歩いているように感じられる.さらに,踏査後にもう一度空中写真を見ると,歩いた場所の地形が詳細に浮かび上がってくる.

   空中写真では,水系を丹念に追うことから始まり,段丘面,山頂平坦面,崖錐面,崩壊地形,遷急線・遷緩線(遷緩線=山頂から下ってきて斜面が緩やかになる点を結んだ線.遷急線はその逆.),鞍部,沢の異常な曲がりなどを拾い出す.
 判読にあたっては,とりあえず自分がそうであると判断したものは「全て残らず拾い出す」ことが大切である.その上で,身近にいる人にクロスチェックを行ってもらうことが有効である.

   空中写真の特殊な利用方法について述べる.
(1) 積雪があまり多くない時期の,うっすらと雪が積もった状態の空中写真では,湧水点が非常に明瞭に判読できる. (2) 火山岩地帯では溶岩の噴出単元の境界が判読出来る場合がある. (3) 池,沼,湧水点等が直線状に並ぶ場合には,それに沿って断層が分布していると考えてよい.

 3.3 活断層

 活断層は内陸型地震の変位が地表に現れたもので,大規模なものは破砕帯としてトンネルに出現する場合がある.

活断層によるトンネルの被災例

 活断層が動いてトンネルが被災した例としては,伊豆大島近海地震(1978年1月14日発生.マグニチュード(M)=7.0)による伊豆急行線の稲取トンネルの例がある.この時のトンネル断面の変形状況は「道路震災対策委員会,1988,道路震災対策便覧(震災復旧編).P228-229」に掲載されている.
 その概要は次の通りである.
 覆工の変状は断層付近を中心に約150m間が著しく,水準変位はトンネル中央部の50cmを最高に前後400m間がせり上がった.この例はトンネルとしては極めて珍しいものである.


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 トンネル施工中に活断層が動いた例としては,北伊豆地震(1930年11月26日発生.M=5.1)による丹那トンネルの例がある.丹那トンネルでは,三島口から3,300m付近で西側がほぼ水平に約2.5mほどずれていた.この地震で5人が生き埋めになり,そのうちの2人は救出された(鐵道省熱海建設事務所,1933,丹那トンネルの話.P168など.<1995年に復刻されたが現在絶版>).
 この本では丹那トンネルで遭遇した色々な断層を5つのタイプに分けスケッチで示している.断層の性質を考える上で大変参考になる.

丹那トンネルでの断層のいろいろ(鐵道省熱海建設事務所,1933,p173)

(1) わずかに断層線を示す薄い粘土を挟んだだけのもの.時にはその面がつるつるして光っているので鏡肌といわれる.断層線の両側は何の変化も受けず,トンネル掘削中は,よく気を付けないと断層とは知らずに通り過ぎてしまう.
 (注)この程度のものであればトンネル施工上はほとんど問題とならない.しかし,粘土が形成されているので,遮水帯として地下水を止めている場合があり,切羽から少量の湧水がみられる場合もあろう.

(2) 中央に鏡肌があってその両側,時として片側だけがぐざぐざした粘土があって所揉まれているもの.
 (注)規模としては数10cm程度の粘土化帯とその周辺の破砕帯とからなり,小規模な断層である.

(3) 相当悪い断層で両側に鏡肌があって,その間を断層帯と称し,その部分の岩石は断層により打ち砕かれて荒い部分は回転して角がなくなり,丸くなって表面はつるつるした断層角礫となっている.細かい部分は粘土となって角礫を包んでいる.このような断層帯に水を含んでいるとまことに始末が悪い.三島口から約1,510m地点はこの断層があり,両側は安山岩のしっかりしたものでありながら破砕帯の幅が約9m(三十呎(フィート))もあって大変苦労した.

(4) この断層は(3)の両側に(2)のような破砕帯を持っているもので,幾度も断層で動いたために出来たもの.

(5) 断層群ともいうべきもので,主断層を挟んで無数の断層群が密集したもの. 三島口から3,660mの丹那断層はこれに相当し,幅の広いところは約18m(60呎)あり,地質時代以来数限りなく動いて発達したものと見える.

(断層の記述は「丹那トンネルの話」の説明文のままである.断層の幅は呎(フィート)で表現している.(注)はスケッチを見ての規模を筆者の感じで述べた.)

トンネルを活断層が横断する場合の対処

トンネルが活断層を横断せざるを得ない場合は次のような検討を行う.

(1) 地形判読,空中写真判読により活断層の通過位置を大まか推定する.
(2) 現地踏査により活断層の露頭を探す.必要な場合には表土を剥いだり,トレンチを行って活断層を確認する.
(3) 既存資料によりその活断層の最新活動時期と再来周期を求める.
(4) 次の活動時期が差し迫っている場合は,活断層の前後区間を可撓性の構造にするなどの検討を行う.次の活動までどのくらいの時間をもって差し迫っていると判断するかは難しい問題であるが,100年程度が妥当であろう.しかし,現在は研究段階でも数10年単位で次の活動時期を予測することは困難であり,総合的な判断が必要となる.
(5) 活動時期が差し迫っていない場合は,地山状況に応じて多少支保構造を剛にしておく程度でよいであろう.

 一般には,活断層は山地と平地の境界付近を通っていることが多く,トンネルが直接活断層を横切ることは稀である.また,活動度の判定は活断層の繰り返し周期が判明しないと出来ないために,普通のトンネル調査では明らかにすることは難しい.
 したがって,トンネル調査では活断層がトンネルを横断するかどうか,横断するとすれば破砕規模,程度,性状(透水性など)はどのようなものであるかを明らかにし,必要な支保構造決定のためのデータを揃えておくという対応で十分である.

 なお,山陽新幹線新神戸駅は,六甲山麓の諏訪山断層の上に位置しており,工 事の際に断層の位置が確認されたので,断層部分に相当する構造物にジョイント を設けた.
 兵庫県南部地震(1995年1月17日,M7.2)では,諏訪山断層の地下深部が活動した可能性が高いとされているが,震源断層は地表まで延びなかったと考えられている(池田ほか,1996,207-208).

活断層の抽出手順

活断層の抽出手順は次のようになる(活断層研究会,1991).

(1) リニアメントの抽出:線状に続く谷地形や崖,異なる種類の地形の境界な どの地形的に続く線状模様(リニアメント)を抽出する.
(2) 変位基準地形の有無とその変位の向きの確定:同じ時代に出来たひと続き の地形面(段丘面など)または地形線(河川や尾根)を基準としてリニアメント を境としてその基準面(線)がくいちがっていることを確かめる.
(3) 変位基準地形の時代とその変位量の推定:基準地形面のくいちがい状態か ら,横ずれ成分と上下成分を求める.また,変位基準地形の時代を種々の方法に より確定する(表3.2参照).
(4) 活動度の判定:活動度は一般にはその断層の平均変位速度で示す(表3.3 参照).

表3.2 断層変位地形の主な用語(活断層研究会,1991,p5)

(1) 崖地形
(縦ずれ地形,変動崖)
断層崖,撓曲崖,低断層崖,三角末端面,逆むき低断層崖
(2) 凹地形
(変動凹地)
断層谷,地溝,小地溝,断層凹地,断層陥没地,断層池,断層鞍部,断層角盆地
(3) 凸地形
(変動凸地)
地塁,小地塁,ふくらみ(E),断層地塊山地,傾動山地,圧縮尾根
(4)横ずれ地形横ずれ尾根,横ずれ谷,閉塞丘,段丘崖,くいちがい

表3.3 平均変位速度による活断層の活動度の分類(松田,1978,)

活断層の分類 第四紀の平均変位速度S(単位はm/1000年)

10>S≧1

1>S≧0.1

0.1>S≧0.01

2000年有珠山噴火時の火山性地殻変動によるトンネル被災例

 2000年3月31日に23年ぶりに有珠山が噴火し噴火に伴う火山弾による北海道縦貫自動車道虻田洞爺湖インターチェンジ付近の高速道路の被害のほかに,火山性活断層によってトンネルや橋梁,のり面などが被災した.
 虻田洞爺湖インターチェンジのすぐ西に位置する洞爺トンネル(全長1,070m)は,東側坑口が1.65m海側にずれ,0.83m隆起した.トンネルの沈下は中央やや東坑口よりの位置で最大で0.25mであった.
 西側坑口から約250mの位置の被災が最も著しかったが,ここでは海側に約 20cm変形し,覆工コンクリートが剥離し,鋼アーチ支保工は海側肩部で挫屈し ていた.
 洞爺トンネルの復旧は,全体の72%に相当する区間で行われた(この項は,日本道路公団北海道支社室蘭管理事務所,2001による).

表3.4 北海道縦貫自動車道 洞爺トンネル復旧工法

復旧工法施工ブロック数
覆工コンクリートの取り壊し,覆工新設 26ブロック
クラック補修,炭素繊維シート51ブロック
77ブロック(77/107ブロック=72%)

洞爺トンネルにおける覆工新設の施工フロー

  
覆工取り壊し
地山改良
支保工縫い返し
インバート打替え
SFRC(スチールファイバー入り吹付けコンクリート)覆工


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