4 既存資料の入手方法と利用の留意点

資料の入手方法

 地質の既存資料として,全国どこでも一応の地質構成を掴むための資料としては,「日本の地質」シリーズ(共立出版)がある.北海道から九州まで全9巻からなり,ほぼ,どの地域でも広域的な地質を把握することができ,これをもとに参考文献を探し出すことができる.

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 インターネットによる文献検索が身近になった.2013 年8月時点で稼働しているサイトを紹介する.

 地質関係の文献は,産総研 地質調査総合センターの「地質情報データベース」が便利である.
(https://www.gsj.jp/researches/geodb/index.html)

 JOIS(JST Online Information System) は,科学技術振興事業団(JST=Japan Science and Technology Corporation)が運営しているデーターベースで,科学技術に関する文献や研究テーマ情報などを,インターネットを通じて直接データベースにアクセスして、8,000万件を越すファイルの中から、必要な情報の所在を探し出すことが出来る.
 アドレスは,(http://pr.jst.go.jp/db/db.html)である(有料).

 国立国会図書館の電子図書館でもインターネットで文献の検索が出来る.(一部無料)
(http://webopac2.ndl.go.jp/)
(http://www.ndl.go.jp/jp/data/opac.html)

 その他にも,NEDO技術情報データベース
(http://www.tech.nedo.go.jp/)
(新エネルギー・産業技術開発機構)や
 土木学会の土木図書館
(http://www.jsce.or.jp/library/index.html)
などもインターネットでの文献検索が出来る.

 また,地すべり学会のホームぺージ

http://japan.landslide-soc.org/

では学会誌の各号の目次検索が出来る.

 トンネルに関しては,「トンネルと地下」の目次が土木工学社

http://www.tunnel.ne.jp/

のホームページで検索できる.

 これらの検索は,キーワードを入力すると目的のものが検索できる使いやすいものから,多少検索技術を要するものまでいろいろである.いずれにしても,インターネットを利用しての情報収集,文献収集は,ヒットすると非常に有効で無駄な労力を省くことが出来る.

その他の資料としては,温泉調査や地下水調査等のボーリングデータが刊行されている場合がある.これらは地質図に比べると地下深部の地質状況を直接確認できる点で利用価値が高い.

金属鉱床や昔の石炭探鉱のための広域調査図幅と説明書,水理地質図等も資料としては有用である.特に,金属鉱業事業団の広域調査図幅は年代測定値を含むデータが豊富である.

資料利用上の留意点

 公表されている文献は,引用元を示して使用することは勿論であるが,資料そのものが持っている限界を十分理解しておく必要がある.
 なお,用語を統一する点では,「地質基準」(日本地質学会地質基準委員会編著,2001,共立出版)が参考になる.

 既存資料を読む上での留意点としては次のようなことがある.

 (1) 地質図幅はその地域の地質を広域的に統一した観点で記述することを目的としており,トンネル建設のような比較的狭い範囲の地質については必ずしも地質の分布などが合致していないことがある.したがって,自分で踏査して納得のいく地質構成・地質構造を把握する.

 (2) 図幅中に,走向・傾斜がきちんと記載されているものは信頼性が高い.

 (3) 火山岩地域では地質構造がはっきりしないことが多く,図幅作成者の解釈に大きく左右されることがある.火山岩類はその成因,形成条件を念頭に置いて分布,性質を把握する.

 (4) トンネル工事では,常に切羽で地質と向かい合って仕事をすることになるために,その地質の産状が非常に大切である.火山岩であれば,貫入岩なのか溶岩なのか,堆積岩であれば,正常堆積物なのか付加体堆積物なのかといったことである.
 つまり,貫入岩であれば地山区分はかなり上位に(軽い支保構造に)位置づけてもあまり問題はないが,溶岩であれば一般には亀裂が開口し噴出単元の自破砕部を含むことが多く,地山としては不安定である.
 また,堆積岩が付加体堆積物である場合は,深部まで破砕されていたり予想しない応力解放が発生したりするほか,弾性波速度がかなり大きく出る傾向にあり地山区分には注意が必要である.
 したがって,既存資料はできる限り最新の地質解釈を取り入れたものを手に入れることが重要となる.

 (5) この20年ほどの地質学の進歩は幾つかの重要な地質的見解を発展させてきた.特に,付加体の地質学は土木地質に大きな問題を投げかけている.
 踏査段階では露頭には硬質な砂岩が見られ良好な地山と判断されたものが,実際にボーリングを行ってみると砂岩のブロックを包んで破砕された泥質岩が分布していることがある.このような付加体の地質は,弾性波速度が目で見た感じよりも速くなることが特徴で,地山区分には十分注意し少なくとも1ランク下げる(例えば,C1をC2とする)ことも検討する.この場合,地質的な根拠をはっきり示すことが大切である.

 (6) 地質用語はできるだけ成因を含めた正しい名称を用いるように習慣づける.砕屑性堆積物の粒度区分と堆積岩の名称や火山砕屑性堆積岩の分類などについても正確に用いる習慣が大切である.
 一般には,火山砕屑岩は強度が小さく不透水層となっていることが多い.一方,溶岩は亀裂が多く亀裂からの湧水が比較的多いという違いがある.溶岩と火山砕屑岩が互層している場合には,評価が難しい地山となるので,成因を十分考慮して広域的な岩相の変化を追跡する.

 (7) トンネルで問題となる地質現象の一つに変質がある.変質した地質の問題点は次の通りである.
 a) 変質帯ではスメクタイト(モンモロロナイトを含む膨潤性粘土鉱物)が含まれることが多く,トンネルに膨潤性地圧が作用しやすい.また,いわゆる“後荷”がかかり,施工後の変位が収束しにくくトンネルの長期的安定性を損なう.
 b) 変質帯の中には有害な重金属類が含まれることがある.最もやっかいなのは砒素である.現在,トンネル掘削ズリから有害金属が溶出しないかどうかの判定のために「岩の化学分析」と「岩の溶出試験」を行うことが一般的となっている.
 c) 変質帯中ではトンネル排水が強酸性となる可能性がある.

 (8)また,海底や湖底に噴出した水中火山岩(ハイアロクラスタイト(水冷破砕岩)や枕状溶岩)も比較的よく出会う地質である.
 豊浜トンネルの岩盤崩落は,給源岩脈の近くの水中火砕岩類が崩落したものである.水中火砕岩類の特徴は,全体に亀裂が少ないことで,トンネル坑口で崩落した場合,大事故につながりやすい.


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