5 地質調査の基礎知識

地質調査に要求されること

 建設工事に伴う地質調査の目的は次のようになる.

 「対象となっている地質が,いつ,どのようにして形成されたか,形成後どのような変化を受けているか,どのような三次元分布をしているか,そして,どのような物性値を持っているかを明らかにする.それをもとに,人工改変により地山がどのような挙動を示すかを予測し,必要な対策を提案する.」

 この目的を達成するには,対象地山の形成過程を出来るだけ正確に把握する必要がある.4章で述べた「資料利用上の留意点」にもふれながら,地質の基礎的な知識をここでまとめる.


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地質基準の地質体区分

 日本地質学会では地質調査の質の基準として「地質基準」(日本地質学会地質基準委員会編著,2001)を制定した.この基準は地質調査にあたっての調査事項を系統的にまとめたもので,国際水準の調査(ランクA)と認められるための基準から学生実習レベルの調査(ランクD)まで,それぞれの到達すべき内容を述べている.
 2003年9月には「地質学調査の基本 -地質基準-」(日本地質学会地質基準委員会編著,2003)を出版した.この内容は『「この調査をしなければ調査したとはいえない」という,地質学調査の必須調査項目を各地質体について記述し た.』ものとなっている.

 「地質基準」の調査基準ランクは表5.1,地質体区分は表5.2に示すようになっている.この基準の特徴は次の通りである.

(1) この基準は,性能基準である.つまり,対象とする地質体について調査で何を明らかにするかを規定し,到達目標(調査基準=“性能基準”)を4段階にランク分けしている.基準を満たすための調査手法,調査方法については,特に規定はなく調査技術者の判断で必要な調査を行う.

(2) 環境対策,廃棄物処理,土木,災害,資源探査などを目的とする地質学的調査結果が,地質学の発展にために寄与できることを一つの目標としている.

(3) 大学における応用地質学修得のための教育の指針となる.

(4) 5年ごとに見直しを行い,地質学の発展や調査方法の進展を取り入れたもの とする.

 各地質体のランクごとの基準を見れば,その調査で達成すべき内容をつかむことが出来る.当然一つの業務ではいくつかの地質体にまたがることもある.
 今回の業務では,最低ランクDは達成しよう,この項目については重要な点なのでランクBを目指そう,といった具合に自ら目標を立て,業務に望むという利用の仕方が出来る.

表5.1 地質基準の調査基準ランク

ランク目       安
A最新の調査手法を駆使し,国際学会の招待講演とされるような最先端の調査.
博士論文に相当.
B博士論文あるいは修士論文に相当.
C修士論文あるいは卒業論文に相当.
D卒業論文に相当.
応用地質,地質工学の調査としては,この基準を達成しなければ調査したとは言えない必要最低限の調査.

注)上位ランクの基準は,下位ランクを基準を満足していることが前提である.


表5.2.1 正常堆積物の地質体区分と調査目的など

地質体定義調査目的調査基準(性能基準)
正常堆積物自然の堆積作用によって形成された地質体で,礫岩,砂岩,泥岩などの砕屑性堆積物のほかに,石灰岩,チャート,石炭,蒸発岩,氷床なども含まれる.これらに挟在するタービダイトや火山砕屑物も含める. 建造物の基礎として使用する場合には,充分な強度を有しているかを明らかにする.そのためには,堆積過程によって強度特性などの三次元分布がどのようになっているかを理解することが的確な調査方法となる. 項目  ランクAランクBランクCランクD
同定 形成過程を考慮した正常堆積の同定 堆積相(浅海成,深海成,網状河川,蛇行河川等)の同定と堆積年代の認定 堆積域の認定(陸成,海成) 構成粒子の起源;粒径による堆積物の分類とそれらの変動周期の認定
分布 堆積過程・テクトニクス過程に基づく堆積盆形成のモデル化 地下を含めた三次元分布形態の解明 同時時間面の側方追跡と形成年代の認定 地表における分布と層序および他の地質体との境界の認定
地質構造 地質構造形成のモデル化 構造運動(断層活動,褶曲)時期および応力場の変動解明 地層の上下の確認・同時間面追跡による断層の変位および褶曲形態の定量的解明層理面および断層面の走向・傾斜分布と岩相分布との関係の認定
堆積環境 環境変動のモデル化と将来予測 環境変動の定量的解明 環境変動および変動時期の認定 堆積場と気候区の同定と環境変動記録の確認
資源の起源と賦存量 資源の起源と賦存量の評価 資源賦存状況の三次元分布の解明 資源の二次元分布の確認 資源の有無の確認

表5.2.2 沖積層の地質体区分と調査目的など

地質体定義調査目的調査基準(性能基準)
沖積層 過去2万年間に堆積した正常堆積物.
日本では最終氷期最盛期に大陸氷河に覆われなかったために,海水準の低下(約100m)により削られた河谷を沖積層が埋積している.
形成過程を解明し,沖積層の堆積相を三次元的に明らかにすることである.
沖積層の堆積相は海水準変動に対応する堆積域と背後地の環境変化によって支配されている.
項目  ランクAランクBランクCランクD
岩相と分布 沖積層堆積過程のモデル 地表および地下試料にもとづく三次元岩相分布の解明 地表および海上からの沖積層の地下分布探査 現地における地質層序の認定および地形資料・既存地質資料にもとづく岩相分布の認定
形成史 100年間隔での年代認定のもとづく過去2万年間の形成史の確立 500年間隔での年代認定にもとづく形成史の解明 堆積相認定と複数層準の年代認定 層序の認定と既存形成史への対比
気候変動史 気候変動のモデル化と将来予測 全地球的気候変動と対比し,調査地域の気候変動史を解明 気候変動量と変動年代の認定 気候変動記録の確認と既知の気候変動史との対比
同海水準変動史海水準変動のモデル化堆全地球的海水準変動と対比し,調査地域の海水準変動史を解明海水準変動量と変動年代の認定海水準変動の記録の確認と既知の海水準変動史との対応
地殻変動史地殻変動のモデル化と将来予測広域地殻変動と対比し,調査地域の地殻変動史を解明地殻変動量と変動年代の認定地殻変動記録の確認と既知の地殻変動史との対比

表5.2.3 付加帯堆積物の地質体区分と調査目的など

地質体定義調査目的調査基準(性能基準)
付加体堆積物大陸縁辺における海洋プレートの沈みに伴う付加作用によって形成された地質体.
激しい構造変形を被った海溝陸側斜面被覆堆積物も含める.
付加過程において各種岩石が複雑に破断・接合しているために,相接する岩石の形成された場所や環境・年代が異なり,工学性を大きくことにする.
構成される岩石の起源,付加過程,上昇過程の形成史を明らかにする.
項目 ランクAランクBランクCランクD
岩相の三次元分布 付加過程と関係づけた岩相の三次元分布の解明1mオーダーの岩相分布および岩相の接合関係の解明地表および地下の10mオーダーの岩相分布および岩相の接合関係の解明地表の100mオーダーの岩相分布認定C
岩相の形成年代200万年精度500万年精度1000万年精度1,000万年より悪い精度
岩相の付加年代200万年精度500万年精度1000万年精度1,000万年より悪い精度
岩相の起源各岩相の形成環境変遷の解明各岩相の形成過程の解明起源を同じくする岩相内の側方変化にもとづく各岩相形成環境の解明海溝充填堆積物,海洋底構成岩石,海洋底被覆堆積物,海溝陸側斜面被覆物と起源を異にする岩相の区分
付加機構の解明付加過程のモデル化付加過程が進行した地下深度・温度・応力状態の解明付加に伴う変形・破断・接合の過程の解明付加体形成周期のへの位置付け
付加過程以後の変形・変成作用付加体の上昇・削剥過程のモデル化各岩相における変形・変成の側方変化の定量的解明起源を異にする各岩相の変形・変成の相違の定量的解明変形の定量的解析および変成の温度・圧力条件の解明
資源の起源と賦存量資源の起源と賦存量の評価資源賦存状況の三次元分布の解明資源の二次元分布の認定資源の有無の確認

表5.2.4 火山および火山岩の地質体区分と調査目的など

地質体定義調査目的調査基準(性能基準)
火山および火山岩 火山は火山活動により地表付近に生じた特徴的な構造あるいは地形
火山岩は地表あるいは地下浅所でマグマが急冷することにより生成された岩石
火山岩の種類,分布形態,岩相変化を確認する.火砕岩の粒径による分類を行い岩相分布図を作成する.
活火山では地質学,地球物理学,地球化学データを総合しマグマ供給モデルを構築し,噴火の予知と活動様式を予測する.
地熱調査では貯留構造,熱構造,値ネル流体流動を総合して地熱系モデルを構築する.
項目  ランクAランクBランクCランクD
火山岩の同定成因を考慮した火山岩の同定化学組成や粒度組成による火山岩の同定造岩鉱物組成・微細組織による火山岩の同定現地における火山岩の岩石名と産状の同定
火山岩分布調査層厚10cmオーダーでの岩相変化の確認層厚1mオーダーでの岩相変化の確認層厚10mオーダーでの岩相変化の確認層厚100mオーダーでの岩相変化の確認
火山体構造調査火山体の三次元構造のモデル化地下試料による火山体構造の確認物理特性による火山体構造の確認地表試料による火山体構造と層序の確認と形成年代の認定
活火山調査噴火活動履歴調査将来の活動様式モデル化 噴出量時間積算段階図の作成と噴火様式の同定各噴出物の空間分布の確認と噴火年代の認定噴火層序の確立と噴火記録の抽出
火山災害予測図加害因子ごとの危険範囲の確率予測加害因子ごとの危険範囲の数値予測被害実績域の現地確認と危険範囲の経験的予測既存資料による被災実績域の抽出と避難場所・経路の確認
火山活動観測マグマ供給系のモデル化と噴火予知火山体地下の物理・化学変化の連続確認震動源の位置確認地震発生頻度の確認と表面変化の目視確認
地熱調査貯留構造調査貯留構造のモデル化原位置における貯留構造の確認物理特性による貯留構造の確認地表試料による貯留構造の確認
熱構造調査熱構造のモデル化原位置における熱構造の確認地表試料による熱源の種類・年代・温度・体積の確認地表変質域の確認と地表での熱量確認
地熱流体調査地熱流動のモデル化地熱流体の起源・流動方向・貯留場所の確認地熱流体の地球化学的特性の確認温泉・噴気の分布確認
鉱物資源の起源と賦存両調査資源の起源と賦存量の評価資源の賦存状況の三次元的分布の解明資源の二次元分布の認定資源の有無の確認

表5.2.5 深成岩の地質体区分と調査目的など

地質体定義調査目的調査基準(性能基準)
深成岩 マグマが地下深所でゆっくり冷却・固結して生じた完晶質の岩石.ここでは半深成岩も含む.建造物の基盤としての強度や資源の賦存状態 は深成岩を形成したマグマの発生から定位置への移動と冷却・固結の過程や現在までの構造運動の履歴を明らかにする. 項目  ランクAランクBランクCランクD
一般調査深成岩の同定成因を考慮した深成岩の同定化学組成や鉱物組成等を総合的に用いた深成岩の同定と性状認定鉱物組合せによる深成岩の同定現地における深成岩の同定
深成岩体の分布と地質構造調査成因を考慮した深成岩体の三次元分布深部情報を用いた深成岩体の三次元的な形状・内部構造の認定物理的特性による深成岩体の分布認定現地試料による深成岩体の分布と内部構造
捕獲岩・包有物捕獲岩・包有物形成過程のモデル化化学組成や鉱物組成等を用いた捕獲岩・包有物の同定と性状解明鉱物組合せによる捕獲岩・包有物の同定と性状の確認現地における捕獲岩・包有物の同定と性状の認定
岩体形成史定置モデルを含む岩体形成史(地質構造発達史)の作成岩体冷却年代と岩体形成順序の解明地質学的・岩石学的調査による相対的な岩体形成順序の認定現地における深成岩と周辺岩石との相互関係の認定
岩脈形成場と成因を考慮した岩脈形成過程のモデル化化学組成や鉱物組成等を総合的に用いた岩脈の同定と形成年代の認定鉱物組合せによる岩脈の同定と性状の認定現地における岩脈の分布・産状・内部構造等の認定
節理節理形成過程のモデル化と水理モデルの作成節理の三次元分布と透過性状の解明地下深部における節理の分布や性状の認定現地における節理の分布や性状の認定
マサの土木地質的調査マサ形成過程のモデル化マサの三次元的分布の解明マサの地質・岩石学的性状と物理・化学的性状の認定現地におけるマサの分布・産状・性状認定
資源の起源と賦存量調査資源の起源と賦存量の評価資源の賦存量の三次元分布の解明資源の二次元分布の認定資源の有無の確認


表5.2.6 変成岩の地質体区分と調査目的など

地質体定義調査目的調査基準(性能基準)
変成岩 既存の堆積岩あるいは火成岩が地下で鉱物組成や岩石組成を変化させる変成作用を被った地質体. 変成鉱物の種類,配列,片理の発達状態などの性質を三次元的に捉える.この三次元的分布を支配している形成過程を明らかにする.
項目ランクAランクBランクCランクD
原岩の性質原岩の形成過程のモデル化原岩形成の地質年代および形成環境の解明原岩の残存構造の記載原岩の起源が堆積岩であるか 火成岩類であるかの区別
鉱物組成鉱物形成過程のモデル化鉱物組成の原岩依存性の定量的 解析鉱物組成の三次元的分布構成鉱物の記載
異方性異方性の形成モデル異方性と構成鉱物類および鉱物配列との関係の認定剥離・面構造・片理・線構造・節理および各種物性の三次元的認定縞状・片麻状・片状・千枚状・線状構造の記載
鉱物組成および異方性の三次元分布10cm精度1m精度10m精度100m精度
変成作用の条件変成過程のモデル化と構造発達史への位置づけ最高変成条件への累進変成作用および交代変成作用の解析および鉱物種による変成年代の相違の認定到達最高変成条件の解明および変成年代の認定変成作用の区分
変成年代200万年精度500万年精度1000万年精度1000万年以上
資源の起源と賦存量資源の起源と賦存量の評価資源の賦存状況の三次元分布の解明資源の二次元分布資源の有無の確認

表5.2.7 人工地質体地質体区分と調査目的など

地質体定義調査目的調査基準(性能基準)
人工地質体人類によって形成された地質体.廃棄物であるゴミ・焼却灰・汚泥や海砂・山砂・採石あるいは建設現場で発生する残土石などで構成される.自然地質体とは異なった力学的特性を持ち,液状化,沈下,安定性検討などが求められる.
構成物の化学反応により体積変化を起こす.有害物質を含んでいる場合には周辺環境への影響を明らかにする.
項目ランクAランクBランクCランクD
同定構築過程の解明構成鉱物の同定と詳細断面の作成地下試料などによる人工地質体の同定と断面の作成地表試料による人工地質体の同定
分布層厚cmオーダー,広がり0.1mオーダーでの三次元分布の認定構成物質と地下水の流れの方向の認定人工地質体と自然地質体の境界認定z履歴調査,文献調査などによる埋め立て時期の確認,既存資料からの分布範囲の予測
物理特性調査沈下・液状化・斜面崩壊予測モデルの作成三次元的な物理・力学特性の認定各種試験などによる物理・力学特性の確認と断面図の作成原位置における物理・力学特性の確認
汚染調査汚染機構解明と浄化対策の策定三次元的な汚染範囲と汚染速度の認定表層における汚染の有無と汚染源(地下浸透箇所))の認定資料等調査による有害物質存在の有無と確認
地質環境の調査周辺市自然地質体におよぼす影響評価のモデル作成自然地質体での汚染の拡がりと汚染速度の予測自然地質体への汚染経路の確認現地における汚染物質の自然地質体への影響予測
最終処分場における人工地質体としての調査処分場の閉鎖の評価と跡地利用計画の作成周辺環境対策モデルの作成処分物質の特徴と処分時期の認定および自然地質体との相互作用の認定資料等による構造と処分物質の物理的・化学的特性の確認

表5.2.8 断裂の地質体区分と調査目的など

地質体定義調査目的調査基準(性能基準)
断裂(断層,裂か,節理) 地質体に共通に見られる破断面で,その境界に沿って変位のあるものを層,境界に直交し開口性のものを裂か,変位のほとんどない境界(面)を節理とい う.断裂の性質を認定し,形成過程を調査する.構造物の基礎としての強度不足,地下掘削に際しての湧水の発生,斜面崩壊等の問題が発生する.項目ランクAランクBランクCランクD
分布と種類形成過程を考慮した三次元構造の解明三次元分布の解明地表における二次元分布と褶曲構造や構成地質体との関係の解明断層・裂か・節理の存在の確認
断裂およびその周辺の力学的性質地下深部の断層主要変位位置における断層の性質の解明三次元分布の解明地表における断層の性質の解明地表付近における母岩の性質の解明
断裂およびその周辺の物質移動物質移動のモデル化流体と母岩との反応によって生成した物質の分布の解明流体と母岩との反応によって生成した物質の同定流体の透過性(透水,透気)の認定
断層位置の特定2m以内10m数十m数百m以内
断層の形状と変位量形成過程を考慮した三次元構造の解明三次元的分布の解明平面的な分布と周囲の地質体の変形との関係の解明存在の確認
断層面および断層間物質微細構造と物質分布の解明ずれの方向と鉱物分布の解明断層間物質同定とスリッケンサイドおよび条線の有無,方向の確認面・ガウジ・断層間物質の確認
活断層の活動履歴および形成環境将来の活動予測(1回に活動する断層長を含む)各活動年代とその時に単位変位量,変位の向き,活動した断層長,地震の規模の認定最新活動時期およびその時の単位変位量,変位の向き,活動した断層の長さ,地震の規模認定活断層の疑いのあるものの抽出
地質断層の活動履歴および形成環境地質構造発達史との対応とその変遷の解明応力場との対応とその変遷の解明変位の向き,変位量の認定変位と褶曲などの地質構造被覆堆積物の層厚変化との関係の確認
裂か・節理の形成過程地質構造発達史(応力場の変遷)との対応関係を解明裂か・節理周辺の応力場およびその変遷(人工改変を含む)の解明剪断性,伸張性など成因の解明裂か・節理の存在の確認

表5.2.9 重力移動の地質体区分と調査目的など

地質体定義調査目的調査基準(性能基準)
重力移動(地すべり・崩壊等)重力によって移動したことが認定できる地質体を重力移動地質体と呼ぶ.
移動形式は,滑動,落下(崩落),流動,葡行などがあり,その速度や移動形式は,地面の勾配と水理条件,地震動のほかに,地質やそれを覆う植被の種類などに支配される.
重力移動は災害をもたらすために,発生の位置・規模そして移動様態や移動経路,停止地点などについての予測を求められる.
重力移動がどのような斜面不安定にもとづいて発生し,周辺地質体との違い解明する.
海底地すべり堆積物や混在岩と共通の機構を有している.
項目ランクAランクBランクCランクD
分布と移動機構重力移動機構の解明重力移動地質体の三次元分布と移動様式の認定重力移動地質体の三次元分布認定重力移動地質体の二次元分布
物理特性重力移動地質体の物理特性の数値モデル作成重力移動地質体とその周辺の物理特性にもとづく重力移動発生機構の解明重量移動地質体とその周辺の物理特性の定量的認定現地における重力移動地質体とその周辺の地質体の物理特性の認定
内部構造及び物質移動重力移動地質体の形成・移動モデルの作成重力移動地質体の三次元構造と移動年代・移動量の認定重力移動地質体の三次元構造と移動状況の認定現地における重力移動地質体の内部構造と移動機構の同定
災害予測重力移動地質体の形成・移動モデルによる危険範囲の確率予測重力移動地質体の形成・移動モデルによる危険範囲の数値予測重力移動被災実績域の抽出と危険範囲の経験的予測重力移動の危険範囲の抽出

表5.2.10 風化変質の地質体区分と調査目的など

地質体定義調査目的調査基準(性能基準)
風化・変質 「風化」とは,地表または地表地殻の岩石が雨・熱・風などにさらさられて次第に崩れて土になっていく過程をいい,機械的風化作用と化学 的風化作用とがある.
「変質」とは,岩石が地表水や地下水・熱水などと反応し,鉱物の分解・生成をともなって化学成分の変化や組織の変化を起こすことをいう.
風化作用,続成作用,熱水変質作用に区別される.
風化・変質は構造物基礎の力学的強度に直接関係し,構造物自体の強度変化にも関係している.
風化・変質過程の種別,原岩,その進行状況を中心に据えた調査の展開が必要である.

<前提条件>
風化・変質の種類を同定する.

項目ランクAランクBランクCランクD
風化・変質層の厚さ,側方変化など三次元的な分布形態風化・変質相(色・粒度・硬さ・鉱物組成帯構造)風化相・変質相形成のモデル化(種類とその形成範囲の特定)風化相・変質相の定量的記載風化相・変質相の定性的記載風化変動部と未風化・非変質帯を識別
風化帯・変質帯の力学強度・化学的抵抗性の三次元分布cm精度1m精度10m精度100m精度
風化・変質鉱物の同定風化変質鉱物形成環境変遷史のモデル化風化変質鉱物の種類と定量的認定と形成環境の認定風化変質鉱物の種類の同定既存資料および現地における風化変質鉱物の同定
風化・変質年代風化年代・変質作用期を特定し気候変遷史,変質作用史,環境変遷史モデルの作成風化・変質生成物の三次元分布の認定と気候変遷史・変質作用史への位置付け原岩・構成鉱物の生成年代と風化・変質鉱物生成年代の認定既往文献・資料および現地における風化変質期の認定
資源の起源と賦存量資源の起源と賦存量の評価資源賦存状況の三次元分布の解明資源の二次元分布の認定資源の有無の確認
風化変質の将来予測・・構造物の保守計画に備えて構造物とその基礎の風化・変質の将来予測と保守計画の立案構造物とその基礎の風化・変質変遷史の解明構造物とその基礎の風化・変質過程の認定構造物とその基礎の構成鉱物組成・物質組成による風化・変質過程の推定

堆積物の分類

 堆積物としては,日本での代表的なものとしては通常の堆積岩(砕屑性堆積岩)と火山砕屑性堆積物とがある.その他に,石灰岩のような生物の遺骸が堆積した生物起源の堆積岩や岩塩のような海水の蒸発残留により形成された科学的成因の堆積岩などがある.
 ここでは,砕屑性堆積岩と火山砕屑性堆積岩の分類について述べる.  これらの堆積岩類は粒度で分類され,いずれも2の倍数の粒径で区分されている.

 砕屑性堆積物は,2mmで礫と砂に分けられる.砂は多くの場合1個の鉱物で構成されているのに対し,礫は2個以上の鉱物で構成されている.そのため,扇状地では粒径2〜4mmの細礫は生産されにくく,扇状地の末端で勾配の不連続が生じると考えられている(鈴木,1998,228-229).
 このように,堆積物の粒径は地形形成に非常に大きな役割を果たす場合がある.

 火山砕屑性堆積物の分類は,1960年代まで火山礫の粒径の下限を4mm,上限を32mmとしていた.しかし,堆積岩の分類と異なっているため整合を取ることになり,火山礫の粒径は2〜64mmに変更された.なぜ,昔は4mmで区分していたかという理由ははっきりしないが,おそらく火山弾中の斑晶の最大粒径が4mm程度であったためと言われている(荒巻,1999,54-59).

 水中火山岩は,かっては集塊岩と呼ばれる場合があった.集塊岩の厳密な定義はなく,火山弾や火山餅など特殊な形態を持つ岩塊を含む火山角礫岩という意味で使われていた(久野,1954,22-24).
 これに対して,水中溶岩(水中火砕岩類,ハイアロクラスタイトなどとも呼ばれる)は,水中に噴出した火山岩で水によって急冷されるために枕状構造など礫が独特の構造を取るのが特徴である.

 水中溶岩の分類は,山岸(1994,p156-168)に詳しい.

 砕屑性堆積物の粒度区分は,大久保ほか,1984,63p

 火山砕屑性堆積物の分類は,久城ほか1989,11p

付加体堆積物

 付加体堆積物は,海洋プレート上に整然と堆積したものが,付加作用とその後の変形,破壊により混在化して形成される.泥質基質に玄武岩,石灰岩,チャート,珪質泥岩,砂岩などの相対的に硬質な岩石が岩塊や礫として混在し,メランジュ(混在岩)を形成する.変形の程度により整然相,破断相,混在相に分類される.

 混在岩の分類法は,中江,2000,7p

火成岩

 火成岩はマグマの固結によって形成された岩石で,固結時の化学成分,温度・圧力によって晶出する鉱物種が決まり,冷却速度による結晶成長の違いにより組織が異なってくる.
 火成岩の分類は,色指数(岩石に含まれる有色鉱物の百分比 %)90以下の火成岩の分類と全岩化学組成による火山岩の分類がある.
 なお,島弧形成の最早期につくられたと考えられるボニナイトは,Si02>53%,MgO>8%,TiO<0.5% の岩石である.


参考文献

 荒巻重雄,1999,火山とその産物,深田研ライブラリー(特別号).(財)深田地質研究所
 大久保雅広,藤田至則編,1984,新版・地学ハンドブック.築地書館.
 久城育夫,荒牧重雄,青木謙一郎編,1989,日本の火成岩.185-194.岩波書店.
 鈴木隆介,1998,建設技術者のための地形図読図入門 第2巻 低地.古今書院.
 中江訓,2000,付加複合体の区分法と付加体地質学における層序構造概念の有効性.地質学論集,no.55,1-15.
 日本地質学会地質基準委員会編著,2001,地質基準.共立出版.

 山岸宏光,1994,水中火山岩-アトラスと用語解説-.北海道大学出版会.



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