6.2 坑口の調査

  6.2.1 一般的事項

 坑口の調査は坑口の特殊性を考慮したものとなる.すなわち,坑口から奥に向かって土砂から風化岩さらに新鮮岩へと変化するが,その変化の状態を十分に把握する必要がある.また,土砂が厚い場合にはトンネル脚部の支持力が不足することがあるので,この点を考慮して調査を行う.

 以下に坑口の調査・設計・施工上の留意点について述べる.  

坑口で発生する災害

 坑口の地形で災害を招きやすいものを表6.2.1に示す.これらのうち最も問題となるのは地すべり地形である.これについては章を改めて述べる.  

 1996年2月10日に発生した豊浜トンネルの岩盤崩落を契機としてトンネル坑口緊急点検が行われ,さらに坑口付近の斜面を中心に安全度の見直しが行われた.その後の第二白糸トンネルの崩落も含めて浮かび上がった問題は,坑口位置はあらゆる危険性について慎重に検討する必要があることということである.
 トンネル坑口付近は落石の危険がある場合には明り巻きを延長したり,覆道を設けたりしているが,予想を上回る巨大落石(岩石崩壊,岩盤崩落)については,事前調査を十分行い長期的な安定性を検討し,必要な場合には計画ルートの変更も含めて検討する必要がある.

表6.2.1 坑口の災害現象と問題点(旧日本道路公団,1992,p148)
災害現象坑口としての問題点
地すべり 坑口の切土により斜面のバランスが崩れることにより新たな地すべりが発生したり,旧地すべり地が再滑動するなどは坑口計画そのものに重大な障害となる.
崩壊・落石 急傾斜で岩盤が露出するなど施工にとって好条件であっても,急斜面特有の落石や岩盤崩壊の可能性が高いところでは,事前にその規模を推定し十分な対策が必要である.
土石流 土石流の衝撃力やエネルギーは極めて大きく,その防止対策も非常に大がかりなものとなる.このため坑口が荒廃渓流にかかる場合は土石流を十分に考慮した坑口位置の選定が望まれる.
雪崩 雪崩もいわゆる地山との境界部で滑る底雪崩になると極めて大きなエネルギーを有する.したがって,積雪地帯において坑口が沢地形や急斜面に位置する場合は,雪崩対策が大きなウェートを占める.
その他 洪水氾濫,火山噴火,高温地熱,有毒ガス,地震等.

 

坑口で問題となる地形

 坑口の問題地形としては,地すべり地形,崖錐地形,扇状地や段丘地形,火山山麓の地形や土石流地形などがある(表6.2.2参照).
 注意を要するのは,尾根状の地形であっても地山全体が緩んでいる場合である.このような場合,周辺の踏査により慎重に判定する必要がある.すなわち,両側に沢が発達しているような尾根は健全であるので残っているのか,非常に不安定な状態で残っているのかの判定が必要となる.
 これについては,「6.3 坑口の地すべり・崩壊地形」で詳述する.

表6.2.2 構成物質から見た坑口の問題地形(旧日本道路公団,1992,p146)
地形区分坑口としての問題点
地すべり地形
(クリープを含む)
 土塊そのものがルーズである上,すべり面付近は粘土化し地下水も多いため偏圧・地耐力不足・地表面沈下など各種の障害が発生する.また,いったん滑り出した場合には,その防止対策に膨大な費用を要する.
崖錐地形 現状(自然状態)では安定しているが,施工などで一度バランスを崩した場合に,すべり・崩壊などが発生しやすい.
 不均質な構成物(小礫−巨礫,シルト,粘土など)からなるため地耐力不足をはじめ施工が困難である.
段丘地形
(扇状地を含む)
 構成物質(亜円礫,砂など)がルーズで不均質な上に大量の湧水を伴う場合が多く,容易に崩壊が発生するほか,地耐力不足などの問題がある.
その他
火山山麓の地形
崩壊跡地形
土石流地形等
 火山山麓には未固結な火山砕屑物からなるルーズな若い地形があったり,溶岩流の末端が大壁面を形成していたり坑口として問題の多い地形が見られる.
 その他,土石流地形や崩壊跡地などは,再びそれらの現象が再現される可能性が高い地形といえよう.

 

坑口で問題となる地質

 地質別に坑口の問題点をまとめて表6.2.3に示す.これらの地質のうち土砂,軟岩について一般的に注意すべき点はこの表に述べられているとおりである.

 特異な地質として注意する事項を列挙する.

  1. 岩盤崩落
     1996年2月10日に発生した北海道古平町の豊浜トンネルの岩盤崩落は,トンネル坑口の長期的安定性について新たな問題を投げかけた.
     崩落した岩盤は,2.6トンとも言われており,明り巻き部分は完全に破壊された.この地域は海底火山により形成された中新世のハイアロクラスタイト(水中溶岩)が広く分布している地域である.この地層は亀裂が極めて少なく硬さは軟岩相当である.変質等による二次的な地山の劣化は少なく,最も問題の少ない岩盤の一種である.
     このような岩石崩壊(岩盤崩落)は崩壊エネルギーが巨大であるため,通常の落石対策とは異なる対応が必要となる.すなわち,「落石便覧」などで想定されている落石の規模は,落石の大きさとしては径1m程度までであり,これ以上大きな落石ではロックシェッドやトンネル巻出し部などが破壊されている.
     なお,落石として対応できない規模の大きな崩壊については,用語が多少乱れている.すなわち,道路防災点検では「岩石崩壊」として大規模な崩壊を扱っているが,平成8年度の坑口緊急点検では,「岩盤崩壊」という用語が用いられている((財)道路保全技術センター,1996).また,規模の大きさを強調する意味から「岩盤崩落」という用語も用いられている.

  2. 付加体堆積物
     トンネル掘削時に予期しない大きな応力が働きやすい地山として注意しなければならないは,太平洋側に広く分布する付加体堆積物の砂岩・泥岩類である.この地層は多くの場合タービダイトであり,形成されてまもなく圧力を受けているために,地質時代が新しいわりには締まっており,鮮新世の泥岩類でも地山弾性波速度は3.5 km/sec程度を示す.しかし,実際には付加された時に圧縮応力を受け,著しく破砕・片状化した泥岩類は弱層となっている.一軸圧縮強度が1N/mm2(10kgf/cm2)を下回ることも珍しくない.しかも深部まで破砕され幅が広いのが特徴である.
     また,地質構造的応力が蓄積されているために,坑口の切土時に思わぬ崩壊・すべりが発生しやすいのもこの地層の特徴である.この地層は,もともと坑口となる斜面付近では地すべり地形を呈することが多く,明瞭な地すべりでない場合でも尾根は極めて不安定であると考えてよい.

  3. メランジュ
     付加体堆積物の中でも,破断相や混在相(メランジュ)は,地層累重の法則が成り立たないので,地表調査結果から地下構造が推定できないことがあり,ボーリングを密に実施する必要がある(地質基準案,2001参照).
     トンネル掘削上は,チャートのブロックとその周辺を構成する粘板岩などの場合には,非常に硬質なチャートブロックを掘削することの困難さと破砕された粘板岩による切羽自立の困難さが重なることになる.

 坑口の問題点を地質ごとにまとめたものを表6.2.3に示した.

表6.2.3 坑口の地質区分と問題点(旧日本道路公団,1992,p147)

大区分中区分細区分・実例坑口としての問題点




土砂一次堆積物
(主として火山放出物)
ローム層
一次シラス
(風化土)
 主として火山から噴出し空中を漂ったのち降下したか,斜面を流下したもので,未固結ではあるが比較的自立する.浸食には極めて弱い.
二次堆積物
(上記以外の未固結物)
段丘堆積物
扇状地堆積物
崖錐堆積物
二次シラス
その他
 水により運搬されて堆積したり斜面下部に堆積したもので坑口条件としては極めて悪いものである.地下水を大量に含むことがある.
軟岩未固結岩新第三紀末から第四紀の砂岩・泥岩・礫岩・溶結凝灰岩 節理や層理などの割れ目は少ないが,堆積物自体が軟質なもの. 比較的自立性はよいが,地耐力等に若干問題ある.
風化変質岩マサ土・温泉余土・緑色凝灰岩・蛇紋岩 母岩自体は堅固であったが風化作用や変質作用を受けた結果極めて軟質になったもの.
 粘土鉱物が多く水を含むと膨張する等施工上極めて問題が多い.
破砕岩亀裂の多い泥岩・粘板岩・黒色片岩・千枚岩等 岩片自体は硬質であるが亀裂が多く岩盤としては全体的に脆いもの.自立性が悪く偏圧も受けやすい
硬岩中硬岩−硬岩第三紀以前の堆積岩・火山岩・変成岩・深成岩など 土砂や軟岩以外の堅固な岩盤.地質構造さえ問題がなければ坑口条件としては最適なものである.



大構造断層垂直・水平変位・活断層 変位量の大きい断層は周辺部にも派生断層等を生じており断層粘土と地下水等の影響で施工条件が極めて悪いもの.
 活断層は最近も活動をしているために破砕が深部まで及んでいる
破砕帯断層作用
圧砕作用
さまざまな規模を有するが,大きなものは数10m以上に達し地山全体が破砕質となっている.
小構造節理等流れ盤・受け盤 岩盤内では閉じた節理であっても応力が解放されることによって岩石間の粘着力が失われる.

 

岩石崩壊の事例

 岩石崩壊はトンネル坑口だけでなく,いくつか発生している.これらのうちで規模の大きい主なものを表6.2.4に示した.

 静岡県の大崩海岸は,崩壊を避けて海に張り出した橋を建設した.同じような事例は,北陸道の親知不である.
 層雲峡の岩盤崩落は大雪溶結凝灰岩の柱状節理が崩壊したものである.この溶結凝灰岩の下位には粘板岩が分布しており,特に境界部付近は著しく脆弱化している.
 豊浜トンネルと第二白糸トンネルはいずれも水中溶岩を主とする地質である.

 このほかにも,坑口が崩壊した事例は,地すべりのところで述べるJR飯山線高場山トンネル,北海道の国道231号雄冬トンネルなどがある.

表6.2.4 岩石崩壊の事例
年月日場所道路名規 模崩壊土量概 要
1971.7.5静岡県
大崩海岸
国道150号幅 :45m
高さ:50−100m
6,000m3岩すべりにより国道部分の道路が崩落した.
1989.2同上同上幅:7−8m 高さ:約25m2,000m3国道より下が崩壊.
1987.6.9北海道
上川町層雲峡
国道39号厚さ:4−5m
高さ:120m
約11,000m3溶結凝灰岩の岩石崩壊.石狩川を堰き止め,約100m離れた国道の通行中の車を直撃.
1989.7.16福井県
越前町玉川越前岬
国道 305号幅:約30m
高さ:約25m
約1,100m3岩石崩壊によりロックシェッドとポケット式落石覆工が破壊した.
1991.10.18長野県
猿なぎ洞門
国道158号幅 :60−65m
高さ:65m
岩石崩壊によりロックシェッドが破壊.
1996.2.10北海道
古平町豊浜トンネル
国道229号幅:40m
高さ:60m
約20,000m3大規模な岩盤の崩落が発生しトンネル坑口の明り巻きが破壊した.
1997.8.25北海道
島牧村第2白糸トンネル
国道229号幅:約40m
高さ:約70m
厚さ:約10m
約20,000m3大規模な岩盤崩落によりトンネル巻き出し部が約100mにわたって破壊.
1993年7月12日の北海道南西沖地震により近傍で崩壊が発生していた.
2001.10.4北海道
北見市北陽(ルクシ峠)
国道333号幅:40m
長さ:80m
約10,000m3岩盤崩落により2車線がふさがれ一部は国道と平行しているルクシニコロ川に達した.


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坑口切土部の土・軟・硬区分

 坑口の調査で忘れがちなのが,坑口付近を構成する地山の土砂,軟岩,硬岩の区分である.坑口条件がいい場合には,ほとんど坑口付けの切土のみで済むが,一般には,少しでもトンネルを短くしたいために可能な限り切土で入る場合が多い.

 地質調査の結果をもとに切土の標準勾配,掘削区分を提案する必要がある.この場合,トンネル出口側面の切土斜面やトンネル上部に出現する大きな切土斜面は,トンネル施工中の仮設ではなく恒久的なのり面となるので,のり面保護工を含め設計で利用できる地質データを揃える.

表6.2.5 掘削の難易による岩および土の分類
名 称説 明摘 要日本統一土質分類法による土の簡易分類との対応
岩または石硬岩きれつがまったくないか,少ないもの,密着の良いもの弾性波速度
3,000m/sec以上
中硬岩風化のあまり進んでないもの(亀裂間隔30−50cm程度のもの)弾性波速度
2,000−4,000m/sec
軟岩固結の程度の良い第4紀層,風化の進んだ第3紀層以前のもの,リッパ掘削できるもの弾性波速度
700−2,800m/sec
転石群大小の転石が密集しており,掘削が極めて困難なもの,転石群
岩塊・玉石岩塊・玉石が混入して掘削しにくく,バケットなどに空隙のできやすいもの玉石まじり土,岩塊,起砕された岩,ごろごろした河床礫
礫まじり土礫の混入があって掘削時の能率が低下するもの 礫の多い砂,礫の多い砂質土,礫の多い粘性土礫{G}
礫質土{GF}
バケットなどに山盛り形状になりにくいもの海岸砂丘の砂
まさ土
砂{S}
普通土掘削が容易で,バケットなどに山盛り形状にし易く空隙の少ないもの砂質土,まさ土
粒度分布の良い砂
条件の良いローム
砂{S}
砂質土{SF}
シルト{M}
粘性土バケットなどに付着し易く空隙の多い状態になり易いもの,トラフィカビリティが問題となり易いものローム
粘性土
シルト{M}
粘性土{C}
(有機質土)高有機質土{Pt}
 注)上記の説明は出現頻度の多いものについてのものであり,土は,特にその状態によって大きく変化するので注意すること.

坑口の切取り勾配

 坑口付けの切取り勾配は,施工性を考えるとできるだけ急勾配とするのがよい.つまり,切取り勾配が緩いとそれだけ明り巻き区間が長くなり不経済である.
 施工性から要求される一般的な坑口切取り勾配は,1:0.3−1:0.5であり,これより緩くなる場合は,地質条件によりのり面吹付けコンクリートや吹付けコンクリート+ロックボルトあるいはのり枠などで補強を行う.
 これらののり面工は,仮設なのか永久構造物なのかも考慮して「道路土工-切土工・斜面安定工指針(平成21年度版)」(道路協会,2009年)に従って検討することになる.
 地質調査としては,坑口周辺の土質・地質状況を見極めることが重要で,特に堅岩線の位置・深度は周辺の状況も十分観察して決定する必要がある.

行間

6.2.2 坑口での調査ボーリング

   NATM工法で施工されるようになってから,掘削時に切羽観察や内空変位測定などを行って掘削するために,大規模な破砕帯や大量湧水が予想されるなど特殊な場合を除き,トンネル調査ではボーリングは,一般的には坑口に限られてきている.

 地表踏査,物理探査(弾性波探査,比抵抗二次元探査)で大規模な破砕帯や膨潤性を示す地質あるいは流砂現象を起こすような未固結砂層の分布が予想され,トンネル・ルートの変更も考慮しなければならない場合には,中間部でのボーリングを実施する.   

坑口水平ボーリング

 低土かぶり区間が長く続くというような特殊な条件でない場合には,坑口での水平ボーリングを実施する.掘進長は一般的には100m程度実施するが,地形・地質条件によって変わる.地表踏査を実施し弾性波探査を行った後でボーリングが実施できれば,水平ボーリングの長さは坑口付近で問題となる部分まで実施すればよい.

 水平ボーリングが適さない特殊条件としては,坑口の地形が緩く,土かぶりの小さい区間が長くなり水平ボーリングの掘進長に比べて得られる情報が少ない場合や坑口が急峻でボーリングの足場が設置できない場合などがある.必ず現地の地形条件や土地所有状況などを確認する.

 一般に,水平ボーリングのトンネル断面での実施位置は,施工上最も危険性が高い(悪い地山が出現する)トンネル天端付近で実施する.この場合,トンネル天端から1-2m程度下げた位置が適当である.
 ボーリング掘進上はスライム排除がスムースに出来ることが必要であるため,上向き数度(3°程度)で掘削することになる.地山が劣化していたり湧水が多い場合は,掘削後グラウトを行ってトンネル掘削時に障害が発生しないように処理する.

 崩壊性地山で,しかも湧水が多いと予想した場合には,トンネル施工上の障害とならないようにスプリングライン付近か踏前(トンネル施行基面)付近で実施する.あるいは,トンネル断面をはずして排水ボーリングを兼ねて実施することも検討する.

 なお,旧道路公団の要領では,水平ボーリングの掘削位置はトンネル断面外のスプリングライン(SL)付近で,地山が安定するまでの長さ(通常100−200m)としている(旧日本道路公団,1992,p164).
 ただし,最近の経済状況から掘進長は必要な情報が得られる範囲で,できるだけ短くする必要がある.

 水平ボーリングでは,区間ごとに孔口からの湧水量を必ず測定する.また,湧水が多い場合には湧水圧試験を実施するか,水頭を測定する.


suiheibr.jpg
図6.2.1 トンネル坑口の水平ボーリングの位置
1:上下2本のトンネルを掘る場合は,両トンネルの真ん中に掘って,両方の地質を把握するのが一般的である.
2:一般の2車線トンネルでは,最も地質の悪い天端付近が効果的である.地形条件に合わせて天端から1−2mくらい下をねらって位置を設定するのが良い.この場合,極端に地山が悪い場合や湧水が多い場合は,トンネル掘削時に障害にならないようグラウトで処理する.
3:湧水が多い場合や切羽が自立しにくい場合は,最低上半の足元付近をねらって位置を設定するのが良い.
 なお,水平ボーリングはある深さ以上では孔曲りしてトンネル断面に出てこないこともある.経験的には,孔口から30m付近から先で大きく曲がることが多い.


tunres622.jpg
図6.2.2 トンネル坑口の水平ボーリングの例
 この水平ボーリングは,奥の幅広い低速度帯を抜いて堅岩を確認することを目標として実施した.弾性波探査結果からは低速度帯を抜いたことになるが,堅岩に到達できなかった.
 この付近の地質は新第三紀中新世−鮮新世の砂岩・泥岩互層で,成因的には付加体堆積物であり,地山弾性波速度は3.5km/sec程度である.しかし,地山中には破砕帯があり膨潤性粘土が含まれているため,一般的には地山分類はDII相当である.反対側坑口は泥岩の挟在しない砂岩で棒状のコアが採取され,悪く見積もっても地山分類はCI相当であった(地山分類一般については後で述べる).
 このような地山ではかなり馬力のあるボーリング機械を用いないと100m以上掘削するのは困難になるので,踏査時に地山状況を見極める必要がある.
 上下方向の位置は,地形が厳しいためトンネル・スプリングライン付近で実施した.
 なお,このトンネルは.径5mのTBM(トンネルボーリングマシン=Tunnel Boring Machine )で頂設導坑を掘削し,天端付近を補強した後で拡幅するという工法が取られ,左側から掘進してきたTBMのUターン位置をどこにするかが大きな問題となった.
 TBMによる掘削を経済的に行うには1台の機械で2-3km以上の掘進が望ましく,少しでも終点側に近い位置でTBMをUターンさせた方がよいのであるが,終点側坑口の地質が悪いので無理をすればTBMがジャーミングを起こし極端に能率が低下する可能性があった.
 実際のUターン地点は,追加調査を行い当初予定地点よりも発進側にしたが,それでも天端の小崩落が発生しUターンにはかなり苦労を強いられた.



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水平ボーリングの孔曲り

 トンネルを掘削してみると,水平ボーリングの孔はあまりトンネル断面に出てこないと言われる.当然のことながらボーリングの孔はまっすぐにはなっていない.かなり用心して掘削したつもりでも孔曲がりは避けられない.

 例えば,変質した幅広い粘土化帯中のトンネル坑口のボーリングで,孔口で下向き30°に掘削したところ90m先で地表に出てしまったことがある.
 破砕帯の位置を正確につかむなど精度が必要な場合には,孔曲がり測定を実施する.この場合は,孔曲がり測定の頻度をやや密にして少なくとも25m間隔程度に実施し,出来るだけ正確な位置を出す様にするのがよい.
 水平ボーリングではそれほど悪い地山でないと判断していたところ,施工してみたら著しい粘土化帯が出現した例がある.このような場合には,ボーリングの掘削精度が問題となる.

 旧鉄道建設公団の仕様書では,「水平ボーリング,斜めボーリングにおいては,100m掘進ごとに25m間隔で方位および傾斜を測定すること.」と規定されている.精度は「方位および傾斜角が1°以下まで測定可能なもので測定記録が残るものが望ましい」としている.
 孔曲がり測定が必要な深いボーリング掘削では,一般にワイヤーライン工法が用いられるが,地質条件が悪い場合,ワイヤーライン工法でもコアチューブの上げ下げの間にロッドが止まっているだけで締め付けられることがある.また,地質の悪い場合は機械を長時間止めないために昼夜交代で掘削する.このような条件では,掘削に集中するあまり孔曲がり測定がおろそかになることがある.孔曲がり測定をしてみたら回復できないほど孔が曲がってしまっていたという事態も生じかねない.そのために,「100m掘進ごと」という「しばり」が設けられていると解釈できる.

 水平ボーリングのコア状況は,そのままトンネルの地山分類に反映させることができる.注意しなければならないのは,水平ボーリングのコア中の亀裂面の向きは,走向方向と傾斜角の両方に左右されることである.周囲の岩盤の亀裂の卓越方向と岩石の内部構造からある程度推定できるが,トンネルの切羽面にどの方向の亀裂が卓越するかはボーリングコアからは正確には判定できない.
 したがって,亀裂の方向がトンネル掘削に大きな影響を与えると想定した場合は,水平ボーリングでボアホール・カメラを実施する.この場合でも,ボーリング孔に平行あるいは平行に近い方向の亀裂はまれにしか捉えることは出来ない.地表踏査により補う必要がある.


boreholemeg.jpg
図6.2.3 孔曲り測定の例
 このボーリング孔はやや下向きに掘削する計画で,自然に発生する孔曲り量を想定して孔底位置を想定した.しかし実際には上下方向で約2倍多く孔が曲り,水平方向には右に約50cmずれた.トンネル掘削に伴う先行変位を測定する目的は達成できた.
 ちなみに,このときの測定では,先行変位はトンネル掘削の内空変位測定で得られた変位の約35%であった.


boreholemeg2.jpg
図6.2.4 水平ボーリングコアの不連続面の走向・傾斜の推定はできない
という説明図
  1. 上:尾根部で真っ直ぐ西に向かって掘っているボーリング孔の水平断面図
     地山での亀裂の傾斜が,例えば90°(鉛直)でも,走向がN70°WあるいはN70°Eであればボーリングコアでは掘削方向に対して20°の亀裂となる.これを緩い傾斜の亀裂と判定することはできない.
  2. 下:真西に向かって掘っているボーリングの断面図
     この場合は,コアの傾斜角と実際の傾斜角は一致する.

坑口付近の鉛直ボーリング

 坑口での鉛直ボーリングは,地形・地質条件を考慮して実施する.最低,トンネル掘削幅の1倍−2倍の土被りの位置(トンネル本体への移行位置)で1本実施する.
 ただし,坑門付近に崖錐堆積物が分布していたり,横断方向で地形が傾斜している場合には,岩盤線を確認するためのボーリングが必要となる.特に,坑門付近はトンネルの最も弱点となる部分であり,土砂が5m−10m程度の厚さで分布している場合には地耐力が不足し,坑門の基礎処理が問題となるので,トンネル縦断方向でのボーリングを提案する.
 一方,坑口付近の斜面がトンネル横断方向で傾斜している場合には,トンネル坑口付近に偏圧がかかりやすくなるため横断方向で(特に谷側に)鉛直ボーリングを実施する必要が出てくる.

 また,橋梁とトンネルが連続しているような場合に,橋台の掘削により地山が乱されて完成後坑口付近に横断クラックが発生することがあり,精度の高い岩盤線を把握しておく必要がある.

 坑口鉛直ボーリングの掘進長は,トンネル施工基面より上部で安定した地山が出現すれば,施工基面から下3-5mで掘止めとする.施工基面より下で安定した地山が出現した場合には,5m程度掘削して安定した地山であることを確認する.
 坑口部ではインバートを設置するので施行基面の下2mほどは掘削対象となるので,その下の堅岩を3m確認する.つまり,施工基面下5mは地山状況を確認する.

 最近の経済情勢を反映して,ボーリングをできるだけ短くする方向にある.周辺の地表踏査から,この岩がでれば安定した岩盤になり下位に脆弱層は存在しないと言うことがはっきり分かっていれば,施工基面2mで掘止めとしても良いが,分からない場合は坑口部では施工基面の下5mまで確認しておくのがかえって経済的になる.


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