7.2 変質帯

 (2011年3月6日作成)

 変質帯は基本的には地下深部からの熱水により岩盤が劣化したものである.

 熱水の通路としては破砕帯(断層)が利用されることが多く,活断層上には温泉が湧出することが多い(糸魚川−静岡構造線:下諏訪断層の長野県下諏訪温泉,北上川西縁活断層帯:江釣子山南断層の岩手県花巻温泉など).
 熱水変質は,マグマ(デイサイト質〜安山岩質)から上昇してくる熱水が周辺の岩盤と反応し岩盤を劣化・変質させる作用である.

 トンネル掘削に限らず,変質帯は建設工事で遭遇するとやっかいなものである.

変質帯のタイプ

 マグマから上昇してくる熱水と地表から地下に浸透する天水との作用により岩石を変質させる熱水の成分が変化する.この変化に対応して3種類の変質タイプが形成される.

(1) 酸性変質帯:マグマの揮発性成分がほとんど変化せずに上昇して形成される変質である.
 生成される主要鉱物は,高温側から低温側にかけて,ダイアスポア(ボーキサイトの主成分),硬石膏,パイロフィライト(葉ろう石:アルミニウム珪酸塩鉱物),カオリナイト(アルミニウム珪酸塩鉱物),ハロイサイト(カオリン鉱物の一種),メタハロイサイト,蛋白石である.

 伴ってくる硫化鉱物は,高硫化系(硫黄の活動度が高い)のもので塊状珪化型の浅熱水性金鉱床を伴うことがある.黄鉄鉱,硫砒銅鉱,ルソン銅鉱,閃亜鉛鉱,黄銅鉱,方鉛鉱,辰砂が伴う.多孔質珪化岩や明ばん石,ディッカイトを特徴とする.

(2) 中性変質帯:マグマの揮発成分を持った熱水が浅所に上昇する以前に,地表から浸透してきた天水と反応し深部の壁岩と反応して形成される.
 生成される主要鉱物は,石英,カリ長石,曹長石,緑泥石,緑れん石,セリサイト,セリサイト/モンモリロナイト混合層鉱物,モンモリロナイトなどである.  伴ってくる硫化鉱物は低硫化系のもので,黄鉄鉱,硫砒鉄鉱,閃亜鉛鉱,黄銅鉱,方鉛鉱,辰砂などある.
 菱刈,佐渡,鴻ノ舞などの浅熱水金鉱床はこのタイプになる.これらの硫化鉱物は砒素を含むこと,銅,鉛,亜鉛,水銀などの元素を含んでいることからトンネル掘削時にはズリ処理が問題となるほか,酸性水が湧出する可能性が高い.

(3) アルカリ性変質帯:主に地下に浸透した天水がマグマの熱に暖められて壁岩と反応して形成される.マグマの揮発成分の添加が少ないのが特徴である.
 生成される主要鉱物は,石英,曹長石,緑泥石,セリサイト,モンモリロナイト,各種の沸石である.
 黒鉱鉱床の周辺には沸石類を含むこのタイプの変質帯が分布している.  トンネルが広域的な変質帯にかかる場合には,膨潤性粘土の問題だけでなく掘削ズリの有害土としての処理,酸性水の湧出の可能性を検討しておく必要がある.

 生成されている変質鉱物の組み合わせによって,その変質帯が高硫化系なのか低硫化系なのか判断する.変質帯の性質を知ることで掘削などに伴ってどのような障害が生じるかを大まかに予想することができる.


表7.2.1 熱水変質帯の分類(歌田,1977,151p)
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図7.2.1 変質作用と貫入岩の関係模式図
(Hedenquist,et al. ,1996および渡辺,1998,p55による)

変質帯についての留意点

 トンネル掘削に関わってくる変質帯での留意点は次のようになる.

参考文献


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