変質帯は基本的には地下深部からの熱水により岩盤が劣化したものである.
熱水の通路としては破砕帯(断層)が利用されることが多く,活断層上には温泉が湧出することが多い(糸魚川−静岡構造線:下諏訪断層の長野県下諏訪温泉,北上川西縁活断層帯:江釣子山南断層の岩手県花巻温泉など).
熱水変質は,マグマ(デイサイト質〜安山岩質)から上昇してくる熱水が周辺の岩盤と反応し岩盤を劣化・変質させる作用である.
トンネル掘削に限らず,変質帯は建設工事で遭遇するとやっかいなものである.
(1) 酸性変質帯:マグマの揮発性成分がほとんど変化せずに上昇して形成される変質である.
生成される主要鉱物は,高温側から低温側にかけて,ダイアスポア(ボーキサイトの主成分),硬石膏,パイロフィライト(葉ろう石:アルミニウム珪酸塩鉱物),カオリナイト(アルミニウム珪酸塩鉱物),ハロイサイト(カオリン鉱物の一種),メタハロイサイト,蛋白石である.
伴ってくる硫化鉱物は,高硫化系(硫黄の活動度が高い)のもので塊状珪化型の浅熱水性金鉱床を伴うことがある.黄鉄鉱,硫砒銅鉱,ルソン銅鉱,閃亜鉛鉱,黄銅鉱,方鉛鉱,辰砂が伴う.多孔質珪化岩や明ばん石,ディッカイトを特徴とする.
(2) 中性変質帯:マグマの揮発成分を持った熱水が浅所に上昇する以前に,地表から浸透してきた天水と反応し深部の壁岩と反応して形成される.
生成される主要鉱物は,石英,カリ長石,曹長石,緑泥石,緑れん石,セリサイト,セリサイト/モンモリロナイト混合層鉱物,モンモリロナイトなどである.
伴ってくる硫化鉱物は低硫化系のもので,黄鉄鉱,硫砒鉄鉱,閃亜鉛鉱,黄銅鉱,方鉛鉱,辰砂などある.
菱刈,佐渡,鴻ノ舞などの浅熱水金鉱床はこのタイプになる.これらの硫化鉱物は砒素を含むこと,銅,鉛,亜鉛,水銀などの元素を含んでいることからトンネル掘削時にはズリ処理が問題となるほか,酸性水が湧出する可能性が高い.
(3) アルカリ性変質帯:主に地下に浸透した天水がマグマの熱に暖められて壁岩と反応して形成される.マグマの揮発成分の添加が少ないのが特徴である.
生成される主要鉱物は,石英,曹長石,緑泥石,セリサイト,モンモリロナイト,各種の沸石である.
黒鉱鉱床の周辺には沸石類を含むこのタイプの変質帯が分布している.
トンネルが広域的な変質帯にかかる場合には,膨潤性粘土の問題だけでなく掘削ズリの有害土としての処理,酸性水の湧出の可能性を検討しておく必要がある.
生成されている変質鉱物の組み合わせによって,その変質帯が高硫化系なのか低硫化系なのか判断する.変質帯の性質を知ることで掘削などに伴ってどのような障害が生じるかを大まかに予想することができる.
(2)変質帯は鉛直方向に変化する.
熱水変質の形成過程から分かるように,地下深部から上昇する熱水が壁岩と反応したり,地表から浸透してきた天水と反応し組成を変化させながら壁岩と反応して変質が進行する.したがって,鉛直方向の変化が著しい場合があり,地表付近では広い範囲にわたって変質し岩盤が
劣化していても深部では変質帯の幅が極端に狭くなることがある.
(3)変質帯の形態は脈状のことが多い.
熱水の上昇通路は岩盤の弱層であることが多いので,変質帯の形態は脈状となることが多い.
例えば,北海道の札幌以南から東北地方にかけては中新世の金属鉱床が多数存在しているが,これらの鉱脈はほぼ東西〜北西−南東系である.この原因は当時の応力場が南北性の引張応力場にあったためと考えられている.
しかし,鉱床の中には黒鉱鉱床あるいは硫黄鉱床のように塊状もしくは層状となる場合もある.
また,硫黄鉱山などでは上昇して来た熱水が,溶岩の噴出の休止期に堆積した泥岩類によって上昇を止められ横に広がることがある.このような場合,変質帯がトンネル断面に広く出現することになる.
したがって,変質帯の性質を明らかにすることが空間的な広がりを把握する上でも重要である.
(4)変質帯の性格を解明する上では,広域的な変質鉱物の組み合わせを把握する必要がある.
単に膨潤性粘土を検出するだけの目的で行っているX線回折試験では変質帯区分は出来ない.全岩のX線回折を行うと同時に,岩石顕微鏡観察で変質作用により形成されている粘土鉱物を特定し,変質分帯を行う必要がある.
参考文献