7.3 破砕帯・変質帯の調査方法

(2014年12月3日作成)

 破砕帯・変質帯の調査の流れの概略を下に示す。
 破砕帯・変質帯の調査では,
 1)岩盤が劣化している
 2)特に破砕帯では突発湧水の可能性がある
 3)有害な重金属類が濃集していることがある
と言うのが特殊な点であろう.これらの点に注意して調査を進める必要がある.


変質帯調査の流れ図.jpg
図7.3.1破砕帯・変質帯調査の流れ図
 破砕帯・変質帯の調査で特別なことは,掘削ズリに有害金属が含まれているかどうかのチェックと標準支保パターンで施工できない特殊な地山であるかどうかの判定であろう.
 自然由来の有害金属については,2011年に発行された「建設工事で遭遇する地盤汚染対応マニュアル[改訂版]」(土木研究所編)にもとづいて対応するのが良い.
 このマニュアルでは,影響予測を行い敷地境界でのモニタリングにより地下水経由の摂取が起こらないようにすることが基本となっている.当然,直接汚染掘削ズリに接触することによる被害を防ぐ処置は必要である.


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破砕帯・変質帯調査の留意点

 破砕帯・変質帯は,場合によってはトンネルのルート変更や掘削工法変更をも考慮しなければならなくなる点で重要である.
 以下に留意点について述べる.

(1)既存資料収集
 破砕帯,変質帯は大規模なものが付近に分布している場合には,トンネルから離れている場合でも地山は劣化しており,トンネル掘削が困難となることが多い
 したがって,大規模な破砕帯,変質帯がトンネル周辺に分布しているかどうかを十分に検討する.一つの破砕帯の規模は数100m程度のこともあり,そのような大規模な破砕帯では周辺に派生断層による破砕帯が分布していることが多い.
 既存資料では断層が分布していなくてもトンネルに大規模な破砕帯が出現することはある.地質図幅はそのまま信用するのではなく,あくまでも地質の基本的な構成を整理する基礎資料と考えるべきである.当該箇所については明らかに図幅の記載が間違っていることもあることに注意が必要である.

(2)地形図・空中写真判読
 トンネルを中心とした周辺の広域的な地形判読には,1:25,000の地形図が最も適している.広域的な地形判読,空中写真判読の基図として1:25,000地形図を用いるのが最も合理的である.資料収集で集めた地質図もこの1:25,000地形図のコンパイルすることにより地形,地質をあわせた総合図が出来る.
 空中写真判読は初期の段階では怪しい地形は全て拾い出すのが肝心である.地質を反映した浸食の違いによる地形なのか破砕帯なのかの判定は場合によっては難しい.構成地質の差による差別浸食を破砕帯と誤読する場合もあるので注意が必要である.
 破砕帯は活断層であることが多い.活断層は第四紀,特に第四紀後半に活動しているので,浅い所でも破砕を受けているというのが大きな特徴で,一般的には粘土化したり角礫化し透水帯となっていたりする.
 地形的に活断層を判定するには,変位基準面が必要であるが,山地ではこの基準面がないことが多く,活断層の判定が難しい.  湧水点の分布は破砕帯推定の大きな根拠となるので,湧水点を空中写真で判読できると破砕帯の分布を把握する一つの証拠となる.この点では,湧水点や沢の枝分かれ部分など3点以上が直線上に載る線を引いてその中から断層を抽出する「杉山の方法」は有効である.

(3)地表踏査
 地表踏査の留意点は一般的な踏査と変わらない.ただし,破砕帯,変質帯の踏査では,湧水や沢水の水質に注意する必要がある.
 沢を踏査しながら,沢水の水温,pH,電気伝導度を測定することにより破砕帯の分布域の概略,特に変質帯の分布を把握する情報が得られることが多い.
 変質帯の踏査では,露頭の観察により変質区分をまず行う必要がある.厳密には各変質区分を構成する粘土鉱物を同定する必要がある.しかし,実際にはそこまで費用をかけて行うことは少ないので,肉眼観察により変質度の区分を行い,代表的な試料について構成粘土鉱物を同定する.踏査ではこのことを念頭に置いて代表的な試料を採取しておく必要がある.
 破砕帯や変質帯の延びの方向については,露頭での走向・傾斜のみにとらわれることなく,各沢での分布や方向に十分注意することが肝心である.特に変質帯については図学的に連続することはまれで,ある程度足で稼いで分布形態を把握する必要がある.


現地水質調査の例.jpg
図7.3.2現地水質調査の例
 この図では,沢水や湧水の水温(水色),電気伝導度(緑色),pH(赤色)の測定結果を表現している.扇型の大きさで値の大きさを示している.pHについては,値が小さいほど扇の形が大きくなっている.一目で酸性水の湧出点が分かる.
 湧水がはっきりしている場合には,湧水量の測定も有効であり,沢の流量も測定しておくのが良い.

(4)物理探査
 破砕帯,変質帯の物理探査としては弾性波探査,比抵抗二次元探査が有効である.
 特に比抵抗二次元探査は,上部に硬い岩盤があり下部に変質などにより軟質となった岩盤があって(逆転層)も検出できること,含水比に比較的敏感に反応することから,破砕帯や変質帯の検出に有効であることが多い.
 弾性波探査は一般には逆転層が分布する場合には上部の硬い岩盤までしか把握できないが,ボーリング孔内で受振し解析にトモグラフィー的手法を用いることにより逆転層を把握できることがある.
 放射能探査は地中から湧いてくるラドンガスの濃度を測定する探査方法である.
 断層活動により岩石が破砕された時にウラン(238U)などからラドンガスが放出され,割れ目を通って上昇してくる.ラドンガスは不活性であるので,毛管の中でも拡散しやすく乾いた礫層では10m,普通の土壌で1m以上の厚さがあると検出不能といわれている.ラドン(222Rn)の半減期は約3.8日であるのでこの程度の移動距離で検出不能となる.
 また,ラドンは0℃,1気圧で水1容に対して0.51容が溶解可能なので,深部から水に溶けて移動し断層などで減圧してラドンガスとなっていると考えられている.水の中ではウラン・ラジウム塩類となっているためにガスとしてのラドンは寿命以上の長距離を移動すると考えられている.
 最近の放射能探査では,γ線スペクトル法が用いられる.
 この方法は,入射するγ線を強度別に,214Bi(ビスマス),208Tl(タリウム),40K(カリウム)の核種を区分してγ線スペクトルを記録し,強度特性からそれぞれの核種の移動,拡散,堆積の過程を推定して断層,破砕帯,クラックなどを検出し,さらに地下構造から温泉や地下水の存在を推定したり,深部の地熱流体の探査に利用しようとしている.

(5)ボーリング
 破砕帯,変質帯でのボーリングは難工事となることが多い.
 亀裂が多く孔壁が崩壊しやすい岩盤(多亀裂性岩盤)である場合と膨潤性粘土により孔壁が押し出してくる場合とがある.特に押し出してくる粘土では厚さ10cm程度でもロッドが抑留されコアを回収できなくなることがある.したがって,ボーリング計画は慎重に掘削深度を決め,ケーシングプログラムを立案する必要がある.
 また,破砕帯を狙っての斜掘りでは孔壁が自立しやすいように掘削の効率の問題から下向き60度より急角度とするのが安全である.
 破砕帯の傾斜方向を間違えるとボーリングで破砕帯を把握できないという事態になるので,踏査結果やその地域の大局的な応力場を考慮してボーリングの方向を慎重に決定する必要がある.
 検層類は破砕程度を把握する上で重要な資料となるので,P波検層,電気検層,温度検層は実施することが望ましい.電気検層,温度検層は破砕帯からの湧水の推定にも役に立つ.
 孔内試験は実施できるかどうかを慎重に判断する必要があるが,破砕帯では数値解析が必要となることが多いので,出来るだけ実施する必要がある.特に孔内水平載荷試験は,変形特性を把握できるだけでなく,岩石試験に供するコアが採取できない場合に破壊強度から岩盤としての強度を推定できるので実施することが望ましい.
 孔内湧水圧試験は破砕帯では必須の試験である.最近はパッカーの性能が向上しているので,かなり岩盤条件の悪い箇所でも試験を実施できるようになってきた.

(6)破砕帯・変質帯とトンネルとの関係
 破砕帯,変質帯とトンネルとの関係では,トンネルと緩く斜交したりトンネルと併走するような破砕帯が分布する場合が最もやっかいである.
 このような場合には,トンネルに偏圧が作用することがあり,トンネルがねじれるように変状することも考えられる.また,劣化した岩盤が長い区間にわたってトンネルに出現し,湧水が切羽について回ることになり難工事となる.
 破砕帯の鉛直方向の変化に注意する必要がある.活断層では数百m程度の深度では岩盤劣化部の亀裂は閉じていない可能性があるが,古い破砕帯で比較的深部で形成されたものは,地表からの地下水により浅部は劣化しているが,トンネル断面では亀裂が閉じて岩盤がそれほど劣化していないことがある.
 例えば,金属鉱床では,上部では風化により酸化物が形成されているが,深部(地下200mほど)では幅数mの脈となっていることがある.弾性波探査で幅広い低速度帯として検出されてもトンネル断面では幅数mの亀裂の閉じた多亀裂帯程度ですむ場合があるので注意が必要である.このあたりの判断は地表踏査から断層の形成年代を推定し判定する必要がある.


トンネル切羽崩壊.jpg
図7.3.3 遮水層からの突発湧水
 切羽前方の粘土を伴う遮水帯が崩壊して切羽が崩壊した.出水と同時に土砂が流出した.
 原因究明と土砂の除去を行ったあと,側壁からに水抜きボーリングを実施しながら掘り進んだ.


地表の陥没孔.jpg
図7.3.4 トンネル内の出水と同時に発生した陥没孔
土被り90mの地表に陥没孔が形成された.陥没孔の位置は,トンネルセンターより5mほどずれていて,トンネル縦断方向に約30m,横断方向に約25mの長方形であった.孔は大きさを減じながらトンネルまで連続していた.
 地質は更新世の火砕岩類で,水を通しやすい地質である.トンネルのほぼ直交する方向の粘土化帯によって遮水されていた.

(7)地山等級設定
 破砕帯の地山等級は,よくてもDIである.
 破砕帯の問題は次の点にある.

(8)標準支保パターンが適用可能かの判定
 破砕帯,変質帯ではよくてもDIパターンとなる.問題はEパターンである.Eパターンは別途支保パターンを設計するものとするとされているので,地形・地質・湧水状況の判断がかなり重要となってくる.
 設計担当者は主に岩石の物性値をパターン判定のよりどころとしているようである.しかし,破砕帯のような岩盤劣化部の岩石物性値は得られにくい.
 そこで,次のような方法で岩石物性値を推定する方法が必要となる.


荷重_壁面変異曲線.jpg
図7.3.8 トンネルの荷重−壁面変位の関係
(NEXCO設計要領第三集トンネル編,2009,89pを簡略化)
 それぞれの曲線は一軸圧縮強度(qu)の違いを示す.
(1)qu=0.5MN/m2:地山強度比=0.125
(2)qu=1.0MN/m2(10kgf/cm2):地山強度比0.25
(3)qu=2.5MN/m2:地山強度比=0.625
(4)qu=5.0MN/m2
(5)qu=10.0MN/m2:地山強度比=2.5
 その他の条件は次のとおりである.
 単位体積重量=20kN/m3
 土被り=200m
 半径5mの真円のトンネル

(9)補助工法など
 破砕帯で補助工法が必要と判断した場合,まず通常のトンネル施工機械で可能な補助工法を検討する.先受け工は,その点では最も一般的な補助工法である.
 AGF工法(All Ground Fasten Method)はイタリアで生まれた長尺先受け工法を改良したもので,ジャンボ(トンネルのロックボルトや火薬装填孔の掘削を行う機械)で施工でき,1回の施工で10m程度の前方まで先受けできるのが特徴である.
 トンネルを安定させる最も確実な方法は,断面を閉合することである.断面を閉合することにより地圧に対抗する内圧をトンネル全周に作用させることが出来る.早期の断面閉合には吹付けコンクリートによる仮閉合が有効である.なお,この吹付けコンクリートによる仮閉合は永久構造物としてインバートの厚さに算入してよい.場合によっては,ストラット(H鋼)を設置する.ストラットの利点はコンクリート吹付けのように硬化時間が必要ないので効果が直ちに期待できることである.
 剛な支保工でも限界がある場合には,先進導坑による「いなし工法」や掘削断面を円形にするなどの対策が必要となる.

(10)施工中の観察・計測
 破砕帯での観察,計測は密に行う.事前に管理基準値を決めることは難しいので,200mmを目安として管理基準値を設定し計測結果,吹付けコンクリート,鋼製支保工,ロックボルトの座金などの変状に注意しながら施工することになる. 破砕帯などでは掘削後の崩落が収まらず切羽に近づけない場合が多い.切羽観察にデジタルカメラを含めた画像解析技術を使用することを検討するのがよい.なお,切羽観察表はいくつかの様式があるのでそれを利用する.

(11)供用後の観測・維持管理
 破砕帯や変質帯では供用後比較的早い時期に変状が発生することがある.変位が収束するかどうか不安がある場合は,地中変位計などの計器を供用後にも計測できるように保護し測定器の設置場所を覆工部の箱抜きにより確保しておくことも必要になる.
 変状トンネルでは新設時の施工記録や地質の情報が重要である.変状が発生する可能性があるトンネルではこれらの保存を発注者に喚起しておくことが重要である.


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