12 施工中の調査・計測

 (2015年4月15日作成)

概 要

 トンネルは地下に建設する線状構造物である.

 建設にあたって事前に得られる地山の情報が十分なものであるとは言い難く,計画段階でトンネル周辺地山の挙動と適切な支保工を正確に予測することは困難なことが多い.
 また,トンネル周辺の地山を構造材料として応力を負担させるという点で他の構造物と異なっている.つまり,荷重となる土圧などをあらかじめ正確に把握したり,構造材料の一部である地山の力学特性を正確に求めることが困難である.

 したがって,事前設計による予測と施工時のトンネル挙動が異なる事態が生ずる.この差異を埋め適切な設計および施工を行い,安全かつ経済的にトンネルを建設するために施工中の観察・計測による施工管理が重要となる.
 NATM工法では,現場の観察・計測を施工にフィードバックさせることで経済的かつ安全な施工を行うことを理念としている.

12.1 切羽観察と地山評価および支保パターンの妥当性評価

観察・計測の目的

 観察・計測による施工管理の目的は次の4点に絞られる.

切羽観察の重要性

 支保パターンの変更にとって切羽観察は最も重要なものである.

 計測値の解釈を行う上でも切羽観察にもとづく地山状況の判断は欠かせない要素である.
 切羽観察の際には切羽面はもちろんであるが,側壁部の状況も記載する.特に主要な地質構造が切羽面と平行な場合には側壁の観察を行わないと重要な地質情報を見落とすことになる.

 亀裂性岩盤の場合は,不連続面によりトンネルの挙動が支配されるので,着目点は不連続面となる.
 必要であれば,キーブロック解析により妥当な支保構造の検討を行うことができるので,それに耐えうるデータを得ておく必要がある.すなわち,切羽面の詳細なスケッチと亀裂面の走向・傾斜のデータおよびトンネル軸方向である.キーブロック解析の場合は,不連続面の性質などのデータはとりあえず不要で,最も不安定な岩塊(キーブロック)は掘削面と不連続面の幾何学的関係で決まってくる.

 軟岩では不連続面が地山挙動の主要な要素とならず,岩石の強度がトンネル挙動を支配するので,最も重要な地山評価の要素は一軸圧縮強度である.
 一般には岩石試験を行うことになるが,シュミット・ロックハンマー,針貫入試験器,場合によっては土壌硬度計など現場で簡便に一軸圧縮強度の目安を得る方法が実際的である.特に,針貫入試験器は泥岩,シルト岩だけでなく礫岩に適用しても岩石試験とほぼ一致する値が得られる.一軸圧縮試験で破壊する場合にも最も弱い基質部分から破壊するので,針を貫入させるときにこの点に注意して基質部分の貫入量を得るようにすればよいと考える.
 NEXCOの「設計要領第三集トンネル編」では,点載荷試験(ポイントロードテスト)などにより定量的な指標を得ること,吸水による強度低下の目安を得ることを提案している.

 膨潤性粘土鉱物を含む地山は,施工中最も問題となるものの一つである.
 迅速な判定が求められるので現場で簡易浸水崩壊度試験を行い判定する.慣れてくれば,指感による判定と浸水崩壊度試験でスメクタイトの有無は判断できる.
 また,パラフェニレンジアミン溶液によるモンモリロナイトの呈色試験も有用である(例えば,鈴木,1987 ,土と基礎,35−3,35-39).その上で確認のためにX線回折で膨潤性粘土鉱物の同定を行う.
 また,不定形試料に含まれる粘土鉱物を試料の近赤外域の分光スペクトル測定によって同定する機械もあり,野外で粘土鉱物の同定が可能である.
( https://www.geotechnos.co.jp/service_products_hard.html )

切羽観察表

 切羽観察は後々のデータベースとなるので一定の様式で整理しておく必要があり,切羽観察記録表が示されている(例えば,土木学会,2006,トンネル標準示方書 山岳工法編・同解説,259−262).

 NEXCO設計要領第三集トンネル編(2009)では,次の7つの項目で切羽評価を行うようになっている.

A. 圧縮強度:
 基本的には一軸圧縮強度試験により求めるが,ポイントロードテスト(点載荷試験),ハンマーの打撃(あるいは針貫入試験)により強度を推定して評価を行う.この時,岩片の異方性や不均質性に十分注意する.

B. 風化変質:
 風化変質の判定は,本来ある種の鉱物の化学変化量(成分変化)や比重の低下などの物理量で示すのがよい方法である.しかし,現状では割れ目を中心とした風化変質の進行程度を目安として評価している.
 風化;物理的風化=岩石が化学成分を変化させることなく機械的に細かく粉砕される現象で,主に温度変化と氷霜によって起こる.
 化学的風化=水に溶解した酸類が岩石を構成する鉱物を化学的に分解させる現象である.
 変質;地下深部から上昇してくる熱水による気成作用,熱水作用により,特有の変質鉱物が生じる現象である.日本では新第三紀〜第四紀の火山活動に伴って発生している場合が多く,特に問題となるのは著しい粘土化作用と酸性水を伴う変質である.

C. 割れ目間隔:
 トンネル掘削により切羽に凹凸を形成するような明瞭な割れ目の間隔をいう.地山が互層をなして明らかに弱層となる層理を有する場合は層理間隔で判断する.機械掘削では割れ目が切羽に明瞭に現れないので,掘削中のズリの落下の仕方によって判断する.

D. 割れ目の状態:
 トンネル周辺の岩盤は掘削による応力の再配分により周方向に圧縮力を受けている.不連続面の摩擦抵抗が大きければ圧縮力により安定を保っているが,抵抗が小さい場合は不連続面に沿って滑り落ちる.
 以上のことを考慮し,割れ目の開口度,割れ目の挟在物,割れ目の粗度・鏡肌で評価を行う.実際に評価を行うと各評価項目で評価区分が異なってくるが,その場合はトンネルの安定に寄与すると考えられるものの中で最も悪い項目によって判定する.

E. 割れ目の走向・傾斜:
 切羽の安定性は地山の主要な不連続面の方向に大きく左右される.切羽面に対して「流れ目」となっている場合が最も不安定で,切羽崩壊が発生しやすい.
 主要な不連続面がトンネル軸と並行に近い場合は,側壁の押出しや偏圧が発生しやすい.供用後のトンネル変状では割れ目の走向・傾斜が重要な要素となる.

F. 湧水量:
 湧水量と水による劣化の状況は,切羽面および後方10m区間での湧水状況と劣化を考慮する.

G. 水による劣化:
 水により劣化しやすい地山としては,1)固結度の低い砂岩,2)膨潤性のある凝灰岩・泥岩・蛇紋岩など,3)割れ目が湧水によって軟質化する泥岩や砂岩である.
 膨潤性粘土を含む地山は粘土質であるために水を通しにくく,掘削当初は乾燥して硬質となっているが,時間が経過すると水が集まってきて土砂化したり,空気中の水蒸気によって土砂化したりする.
 供用後の長期的な劣化について十分な検討が必要である.

 以上のようにして求めた切羽評価点の天端部の評点を2倍,左右肩部の評点は1倍とした加重平均値(÷4)を最終的な切羽評価点とする.
 この切羽評価点と支保構造を対応させた表で,現在施工している支保構造の適否を判断する.この場合,複数の技術者が判定を行い,総合的に判断することが大切である.

切羽観察の留意点

(1) 切羽観察では切羽全面が均質でないことがある.このような場合には次のように対処する.

 ① 圧縮強度,風化変質および割れ目間隔:
 切羽を天端,左肩部,右肩部に分ける.
  ・ 劣悪な部分が30%以上を占める場合は劣悪な部分の状況により評価する.
  ・ 劣悪な部分が10〜30%の場合には両者の中間ランクとする.
  ・ 劣悪な部分が10%以下の場合はその他の良好な部分の状況により評価する.

 ② 割れ目の状態:
 割れ目は一部分でも悪い部分があるとその面をすべり面として岩塊が落下する危険性があるので,岩盤の安定に対して最も大きな影響を与えると考えられるもので判定する.切羽に近接して天端付近に状態の悪い不連続面がある場合があるので注意が必要である.

(2) 実際の施工では,切羽状況が悪くなった場合の変更は比較的スムーズに行えるが,地山が良好となった場合に迅速に変更することは難しいことが多い.縦断図に進行状況と地山評価・支保パターンを逐一記入し施工済みの地山状況と比較して迅速に変更できるようにデータを管理することが必要である.

(3) 最近の大断面トンネルでは,頂設導坑(径5m程度)をTBMで掘削し天端を補強してから拡幅するという方法が採られているが,このような工法に対応して外国の評価方法が導入され始めている.

切羽観察による評価区分と支保パターン選定

 切羽観察による評価点を支保選定の指標とするために,NEXCOでは「トンネル施工管理要領(計測工編)」(平成24年7月)で,1)圧縮強度,2)風化変質,3)割れ目間隔,4)割れ目状態についての配点を示している.トンネル施工管理要領の最新版は,平成25年7月である.

 掘削対象の岩石を塊状・層状に分け,さらに硬質岩・中硬質岩・軟質岩に分け,それぞれについて配点を示している.例えば,塊状・硬質岩で評価区分がすべて「1」であれば100点となり,すべて最低ランクであれば0点となる.この4項目の点数を,さらに湧水量と水による劣化の程度による調整点で修正して総合的な点数を得る.ただし,この調整は,軟質岩系と層状岩盤系の場合に適用することとしている.
 この配点は,前項で述べた「設計要領第三集」に載っている切羽評価区分とは異なり,支保工の妥当性を判定するものである.

 この評価点と実績をもとにした支保パターンを対応させた表があり,これを参考に現在施工している支保パターンの妥当性,支保パターンの変更について協議して決定することとしている.


トンネル切羽評価点.tiff
図12.1 トンネル切羽評価点の例
 切羽評価を行うとどうしても観察者の立場が微妙に反映される.
 左2人は発注側の担当者であり,点数は高くなる.つまり,出来るだけ軽い支保で施工し工費を少なくしたいという立場である.
 右2人はゼネコンの所長と担当者で,なるべく安全に施工したいので慎重になり,点数は低くなる.
 真ん中の2人は,コンサルタントとして判定に加わっていて中立の立場であるが,左から4人目の評価が最も妥当である.この表でマイナスとなっているのは水による劣化の評価が大きく効いている.例えば,切羽に滲みだし程度の湧水があり,それによって切羽が流れ出すような状態であれば「-10点」となる.
 内空変位量と天端沈下量は日常的に計測されているので,これらの数値も参考にして支保構造を決定することになる.
 この切羽では,6人の平均評価点が7.4となり,DI-bパターンで施工することとなった.
 なお,この切羽評価点は現在のものとは異なっている.

 施工中の切羽評価について書かれたものでは,「土木学会,2007,よりよい山岳トンネルの事前調査・事前設計に向けて」の「5.4 施工時の調査に関する考え方」(155-175)が参考になる.

いろいろな切羽の地山評価法

 道路トンネルで用いられている切羽の地山評価方法について述べてきた.切羽の地山評価には,鉄道トンネルのものもある(日本鉄道建設公団,1996年2月,NATM設計施工指針).基本的な考え方は道路トンネルと同じである.未固結地山についての追記項目がある.

 「PM法」という地山評価の方法がある.基本的な考え方は,やはり道路トンネルのものと同じであるが,評価項目に重み付けをしない単純平均法であるため,より簡便である.


表12.1 PM 法による地山評価
PM法による地山評価.jpg

 この評価法による点数の算出は次の手順による.



PM法による切羽評価の例.jpg
図12.2 PM法による切羽評価の例
 この場合,切羽評価点が70点を越えると補助工法が必要となる.ただし,評点と施工実績が明瞭には対応していない.


表12.2 各種切羽評価手法の適用性(1)
切羽評価手法一覧.jpg
 かなり古い資料であるが,参考までに掲載する.旧(財)高速道路技術センター,1997,トンネル切羽安定に関する調査研究.43pによる.表12.3も同様.
 これとほぼ同じ内容の表が「道路トンネル観察・計測指針」(1993,92p)に掲載されていた.


表12.3 各種切羽評価手法の適用性(2)
切羽評価手法一覧.jpg

12.2 施工中の計測と地山評価

計測の種類

 施工中の計測は,A計測とB計測がある.

A計測:

  1. 天端沈下測定,
  2. 内空変位測定
  3. 坑口部および土被りの浅い区間の地表沈下測定
B計測:
  1. 地中変位測定
  2. 吹付けコンクリート応力測定
  3. ロックボルト軸力測定
  4. 鋼アーチ支保工応力測定
  5. 地山試料試験
  6. 現位置試験(孔内水平載荷試験,平板載荷試験など)
  7. 覆工応力試験
  8. 坑内弾性波探査
 など

 特に問題がない場合は,A計測で施工管理はできる.
 B計測のどの項目を実施するかは地山条件により選定しなければならないが,吹付けコンクリートやロックボルトに変状が発生した場合には,地中変位測定,ロックボルト軸力測定,吹付けコンクリート応力測定,それに岩石試験を行えば,解析を含めて対策工検討は可能である.

 既施工区間に変状が発生した場合は,トンネル天端沈下,側壁の押し出し,脚部沈下に注意する必要があるが,特に建築限界が最も小さい肩部および側壁部の縦断方向での通りに注意し,必要な内空断面を侵していないかチェックする必要がある.


表12.4 地山条件に応じた観察・計測項目の選定
地山条件に応じた計測項目.jpg
(社)日本道路協会,1993,道路トンネルの観察・計測指針.15p による.

 計測の詳細については,日本道路協会,2009,道路トンネル観察・計測指針(平成21年改訂版)を参照のこと.

管理基準

 トンネル施工では切羽観察と計測を行いながら必要な修正をする.そのために管理基準と安全管理体制を設けている.
 管理基準の設定方法としては,次のような方法がある(土木学会,2006,263-270).

 地質調査に関連して管理基準に関わるものとしては,(1)〜(3)であろう.
 地質調査の初期段階では,様々な既存資料の収集が必要である.この時に,類似した地質のトンネルについての資料を収集し,可能であれば施工記録を集めどのような変位挙動を示し最終的にどの程度の変位量になるかを整理しておく.
 この資料を用いて,上記(1)および(2)によって管理基準を設定することは可能である.

 事前の地質調査で実施した岩石試験から限界ひずみを求め管理基準を設定する(3)の方法は,施工の初期段階で有効であろう.

表12.5 鉄道トンネルの天端沈下量の管理基準値
注意レベル
A
(σc>100MPa以上)
B
(σc=5〜100MPa)
C
(σc<5Mpa以下)
I3-55-1010-30
II10-1515-4040-90
III30-4040-110110-270
注1)トンネル半径は5m(D=10m),基準値の単位はmmである.
注2)この天端沈下量は,掘削によって生ずる全変位量である.掘削から計測開始まで時間が経過した場合は注意を要する.
注3)この基準は,土かぶりが十分大きくアーチアクションが作用している場合の値である.
注4)岩塊が硬く,割れ目の影響が顕著な地山では,この基準値の適用には注意を要する.
(土木学会,2006,2006年制定 トンネル標準示方書 山岳工法・同解説.265p による)

 以下,管理基準設定する上での留意点を述べる.

  1. 内空変位は水平測線の変位量を管理基準に用いる.この場合,両側壁の変位の合計が水平測線変位量であるので,地中変位量の2倍量となっていることに注意する
  2. 地中変位計の変位量は,変位計の孔底(最奥)を不動点としてトンネル壁面の変位を表している.孔底を不動点としてよいかは,内空変位量との関係を見て検討する.すなわち,変位計の孔底よりさらに深部から変位している場合には,地中変位計による孔壁の変位量が内空変位量に比べて小さくなっている.
  3. 内空変位にしろ,地中変位にしろ測定を開始した時点では,すでに地山の変位はかなり進行している(先行変位).
     弾性変形の場合,理論的には切羽が到達した時点で30〜35%の変位がすでに現れているとされており,実測結果もそれとほぼ同様の結果となっている.
     さらに,実際の施工では掘削,ズリ出し,支保工建込み,吹付けを行った後に,測定ピンあるいは光波測量用のターゲットをセットして測定を開始するので,測定開始時にはすでに40〜50%の変位が進行していると考えた方がよい.したがって,実際に計測されている変位量は破壊ひずみから求められる変位量の50〜60%である.
 なお,北海道新幹線S調査坑で実施した先行変位測定結果は図12.3に示した.この結果でも,切羽通過時の先行変位量は全変位量の約35%で,内空変位測定開始時ではすでに約40%の変位が発生している.


先行変位の図.jpg
図12.3 先行変位の測定例
 斜坑からの水平枝坑の上部に鉛直変位を測定できる孔内傾斜計を挿入して計測した例である.枝坑と孔内傾斜計のボーリング孔は約45°で交差しているので,正確な先行変位ではない.

 管理基準値を設定について参考となる例は,「トンネルにおける調査・計測の評価と利用」(土木学会,1987,237-240)に四国横断自動車道明神トンネルの例が載っている.

<長野県の県道トンネルの例>

トンネル諸元:
  延長;1,006.0m
  掘削幅;約11m
  地質;新第三紀鮮新世の凝灰岩,泥岩,砂岩,礫岩.一部亜炭層が挟在する.

管理基準値の設定:
 変位の管理基準値は,ひずみ制御法により設定した.上半水平測線管理基準値を3等分して管理レベルを決めた.

表12.6 トンネル管理基準値の例
支保パターン限界ひずみ
(%)
測定開始後の破壊ひずみ
(%)
トンネル半径
(mm)
破壊ひずみ時の内空変位量
(mm)
上半水平測線の管理基準値
(mm)
CIおよびCII0.800.525,3002856
DIおよびDII1.000.655,4003570
DIIIa1.100.725,5004080
DIIIaT0.770.505,5002856
注1)このトンネルでは破壊強度パラメーターを安全側を取って 0 とした.
注2)先行変位量は35%とした.
注3)このトンネルの地山の特徴は,地山状況が良好となっても限界ひずみがあまり変化しないこと,限界ひずみと破壊ひずみの比率が大きいことである.
注4)DIIIaTは土被りが小さく地山が土砂に近い坑口区間で,一般に管理基準値を小さく取る必要があるとされていることから,破壊ひずみを一般部の70%とした.

 以上のような管理基準値に基づいて施工管理図を作成し,大まかな対処方法の目安を示した.
 しかし,実際には,凝灰質泥岩中に挟在していた有機質泥岩がトンネル断面に出現し,この有機質泥岩に沿って吹付けコンクリートにクラックが発生し内空断面を侵してしまった.このため縫い返しを行った.縫い返し区間については,FEM 解析により妥当な支保構造の検討を行った.

変位速度と変位量

 計測による地山評価で最も有効なのは,初期変位速度から最終変位量を予測し警戒レベルと設けることである.
 これまでの実績にもとづいた初期変位速度(mm/day)と最終変位量(mm)との相関図が得られているので,掘削の初期の段階ではこの一般値を一つの目安とし,施工が進んだ段階では,その現場のデータに基づいた予測を行うのが最も合理的である(道路トンネル観察・計測指針(平成21年度改訂版)や土木学会岩盤力学委員会,1987,トンネルにおける調査・計測の評価と利用 など).


最大変位量と食変位速度.jpg
図12.4 最大内空変位量と初期変位速度の関係の例
 破線で示したのは,急な崩壊の予兆となるとされる20mm/日の線で,最大内空変位量は164mmとなる.
(日本道路公団,1997,84p)

表12.7 変位計測評価の目安
基 準内  容
変位計測の実績
  • 最終水平内空変位量の中央値は約10mm
  • 硬岩の中央値は約5mm
  • 軟岩の中央値は約30mm
  • 20mm/day程度の変位速度は急な崩壊の予兆となる場合がある
支保工の変状実態:
  • 最終水平内空変位量が0〜20mm;吹付けコンクリートの変状発生率は微少
  • 同20〜120mm;変状発生率10〜20%
  • 同120mm以上;変状発生率30%以上(何らかの対策が必要)
計算:
  • 吹付けコンクリートのひずみが1%の時,応力は約18MPa
地山のひずみ
  • 変位計測結果から逆解析で地山の物性定数等を求める
  • 順解析で地山のひずみを求める
  • 破壊ひずみとの大小を比較する
*弾性挙動を示す硬岩トンネルへの適用が適当
注)2車線道路トンネル(掘削幅D≒10m)の実績による.
(2006年制定 トンネル標準示方書 山岳工法・同解説.268p を簡略化)

変位収束の判定

 変位が収束したことを確認した段階で計測は終了するが,変位がなかなか収まらない場合には二次覆工の時期についても慎重に判断する必要がある.

  1. 天端沈下,内空変位の収束は一般的な目安としては,1mm/週 以下となったことを2回 確認でき,収束を確認したと思われた場合に測定を終了する.
     実際には後荷のかかる泥岩,凝灰岩や蛇紋岩の地山では,確実にこの基準で収束を確認できることは少ない.したがって,二次覆工を施工する前に一度測定を行い変位の収束を確認することになる.
     これまでの施工例では,内空変位速度が1〜3mm/月 以下であれば覆工には支障はないとされている(日本道路協会,1993,p149).逆に,大きな変位が予想される地山では支保工建込み後直ちに覆工を施工することにより変位を抑える場合もある.
  2. それでも完全に収束していない場合は,二次覆工後も測定することがある.
     内空変位や天端沈下の測定はそれほど問題とならないが,地中変位計は箱抜きをして覆工内に測定端子を出しておくかデータロガーなどの計器を設置しておくことになる.
  3. 切羽での現位置試験により変形係数を求めてFEM解析により最終変位量を予測して,二次覆工の施工時期を決定することも有効である.この場合,地山の挙動は塑性的であると考えられるが,弾性解析で実用的な予想は可能である.
  4. なお,計測計画は,設計報告書に述べられているが,実際の施工では予想した地山が出現しないことが多く,工事の進行を見ながら計測点を省略したり追加したりする必要が出てくる.その場合,それぞれの地山等級により測定間隔が異なってくるので注意する必要がある.

最新の変位計測・変位予測システム

 最近の電子機器の発達はめざましい.3次元レーザースキャナー(3D-LS)でトンネル壁面の変位を計測し,あらかじめ入力しておいた諸データを使って,初期変位から最終変位を予測するシステムが実用化されつつある.

 3D-LSを使った計測では,トンネル半径方向の変位(内空変位や天端沈下)だけでなくトンネル軸方向の変位あるいはトンネル脚部沈下による “ねじれ” も検出することが可能である.
 3D-LSは1秒間に約3万点のスキャンニングが可能で,精度も非常に高い.

 このような精度の高い計測システムができてくると,結果の解釈にはより精度の高い地質的あるいは岩盤力学的な知識が必要となってくる.

(例えば,http://www.toda.co.jp/news/2014/20140708.html 参照)

12.3 支保パターンの変更など

 切羽観察,計測結果をもとに安全で経済的な地山にあった工法,支保パターンを採用することになる.
 ここでいう安全性というのは,一つには施工時の安全性が確保できるかどうか(切羽の安定)という問題があり,もう一つはトンネルの長期的安定性が確保されるか(土圧による変形・変状に対する安定性)という問題がある.

<切羽の安定性>

 施工中にまず問題となるのは切羽の安定性である.
 設計段階ではこの切羽の安定性,すなわち安全に切羽作業が出来るかどうかは,あまり考慮されない傾向にある.

(1)切羽の安定性は切羽での作業員の安全性,施工の速度,トンネル自体の長期的安定性に大きく影響する.
 例えば,標準支保パターンBは1掘進長が2mである.発破をかけたあと,まずズリ出しを行い,支保工が建て込めるように断面を整え,支保工を建て込み,コンクリートを吹き付けるまで(通常では3〜4時間),裸の岩盤の下で作業する.この間,作業員の安全が確保できなければならない.
 コンクリート吹付けが終了すれば一応地山は安定するが,吹付けコンクリートの強度が発揮されるまでは大岩塊が崩落する危険性はある.
 したがって,かなり不連続面の間隔が大きく,不連続面に粘土などの夾雑物がない岩盤でないとBパターンの採用は難しい.日本では花崗岩体の芯に当たる部分とか,安山岩の貫入岩体などのようにごく限られてくる.

(2)切羽の安定が保てない場合は,まずリングカット(核残し:さね・のこし)を行うのが現場での対応である.
 すなわち,切羽周辺の支保工を建て込む部分だけを所定の位置まで掘削し中心部分は残すことのより切羽を自立させる.リングカットではロックボルトを坑壁に垂直に打設できないので,打設が2基ほど遅れることや,作業能率が低下するなどの短所がある.

(3)天端崩落が発生するような地山では,先受け工法(フォアポーリング:長さ5m程度以下のロックボルト)が用いられる.フォアポーリング工法では,ロックボルトを仰角10〜30゜で打ち込む.全面接着式ボルトを挿入するだけの場合と注入工を併用する場合とがある.また,先受け工が必要な地山では,ロックボルトの削孔が困難なことが多く,自穿孔ボルトを用いることがある.

(4)切羽の自立性を保つだけであれば,鏡面に掘削後直ちにコンクリート吹付けを行ったり,鏡ボルトを打設するなどで対処する.しかし,この段階になるとトンネルの長期的な安定性を確保することが難しくなることが多く,支保パターンの変更が必要となってくる.

 切羽安定対策については,NEXCO設計要領第三集(平成21年7月)の169-182 が参考になる.


表12.8 代表的な切羽安定対策工の概要
切羽安定対策工.jpg
(高速道路技術センター,1997,52p)

支保パターンの変更

 支保パターンの変更を行う場合,材料,特に鋼製支保工の手配が一番の問題となる.トンネルごとに断面形状が異なるので,それぞれのパターンの支保工は当然受注生産となり,現場に材料が搬入されるのは注文してから最低1週間は必要である.
 実際には切羽状況と前方の地質を予測し支保パターンを変更することになる.この時点で地表踏査の精度がかなり重要な要素となってくる.切羽の進行につれて地質的にも新しい情報が得られるので踏査を再度行い地質構造の再検討を行う.
 トンネルは地中に作られた全面露頭ということができる.支保パターン変更の理由は実際には後付けとなる場合があり,切羽観察結果と前方地質予測が重要となる.

表12.9 設計修正の考え方
現 象検討事項修正方法
設計を軽減する必要がある場合
  • 変位量が小さい
  • ロックボルトの軸力が小さい
  • 吹付けコンクリートの応力が小さく,かつ変状がない
  • 切羽が安定している
  • 不連続面の間隔・状態
  • 湧水の多少
  • 地山強度比が大きい
  • 支保構造の軽減
  • 一掘進長の延伸
  • 断面分割の変更
  • 変形余裕量の減
設計を増強する必要がある場合
  • 変位量が大きい
  • 吹付けコンクリートの変状がある
  • ロックボルトに過大な軸力が作用している
  • 鋼アーチ支保工に変状がある
  • 切羽が安定しない
  • 初期変位速度
  • 変位の収束性
  • 地山の応力・ひずみ状態
  • 緩み領域の大きさ
  • 地山強度比が小さい
  • 切羽の自立性
  • 湧水の多少
  • 支保構造の増加
  • 切羽付近の補強(フォアポーリング・鏡吹付けなど)
  • 断面の早期閉合
  • 断面分割の変更
  • 掘削断面の変更(インバートの曲率を大きくする)
  • 変形余裕量の増
(NEXCO設計要領第三集,88p)

 トンネル壁面に作用する荷重と変位の関係は,地山特性曲線と呼ばれる.この曲線を用いて地山の状態を3つに分けることができる.
 詳しくは,NEXCO設計要領第三集の88-91 を見て欲しい.

  1. 弾性的挙動を示す場合:地山等級A〜CII
  2. 塑性化するが通常の支保構造でトンネルを安定させることができる場合:地山等級DI・DII
  3. 通常の構造ではトンネルが安定しない場合:地山等級E
  4. インバートの設置を検討する地山

用語解説

 今や,常識的なことかもしれないが,注意した方が良い言葉について簡単に説明する.

フォアポーリングとフォアパイリング

 フォアポーリングとは短尺の先受け工をいい,主として通常のトンネル施工機械で施工できるものである.一般的には,天端崩落防止のためのロックボルト打設のことと考えてよい.ロックボルトの長さは3〜4mである.
 これに対して,フォアパイリングは長尺の先受け工をいい,鋼管打設,ジェットグラウトなどにより10m程度先まで天端を保護するものである.数mを重複させながら天端崩落を起こしやすい区間を掘削していく,

地山分類と標準支保パターン

 地山分類は地形,地質,地下水条件から判定できる地山条件をもとにした地山の分類のことを言い,事前調査,施工中調査,供用後調査のどの段階でも共通である.かつて,道路公団で建設中であった3車線トンネル(第二名神・東名高速道路など)では,地山分類は2車線トンネルのものを準用することになっていた.
 これに対して,標準支保パターンは2車線トンネルと3車線トンネルでは支保構造が異なっている.
 地山分類では施工中の安全性も考慮して分類する必要があるが,基本は地形条件(偏圧地形,土被りが浅い;土被りが2D以下が一つの目安など),地質条件,地下水条件(被圧水,大量湧水など)の記載を正確に行い地山分類を行うことが肝心である.施工では日々遭遇する切羽の状況が勝負となるので,事前の地質調査では,どれだけ正確に切羽状況を予測できるかが要点となる.


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