八ッ場ダム(その2 地すべりと応桑岩屑なだれ堆積物)

 (2016年10月1日作成)

概 要

 八ッ場ダムの地質的問題の一つが貯水池地すべりと渓岸崩壊である.ダム貯水池周辺に地すべりがあることは珍しいことではない.しかし,八ッ場ダムのように渓岸に2.4万年前に発生した未固結の岩屑なだれ堆積物が広く分布している例はあまり聞かない.


図1 応桑岩屑なだれ堆積物.jpg
図1  応桑岩屑なだれ堆積物
 ほぼ鉛直の崖をつくる応桑岩屑なだれ堆積物の露頭である.吾妻川左岸・林地区の標高600mの平坦面の先で,馬蹄形の崩壊地となっている.ダムの常時満水位が標高583mであるので,この崖の大部分が水に着くことになる.


図2  勝沼地区地すべり.jpg
図2  勝沼地区地すべり
 吾妻川左岸・不動大橋上流の勝沼地区地すべりの上流側側崖である.群馬県中之条土木事務所で地すべり対策の集水井などを施工している.幅約400m,奥行き約350mの大きな地すべりの中に,さらに二つのブロックが認められる.
 押え盛土と頭部排土によって湛水時安全率を1.05とする計画である.


図3 勝沼地すべり頭部排土.jpg
図3 勝沼地区地すべり頭部排土
 勝沼地区地すべりの頭部排土で,資材置き場として利用されている.今回の見学会では,八ッ場ダム工事事務所の許可が得られず崖面を観察することはできなかった.ただ,平成25年八ッ場ダム地盤性状検討報告書(国交省)では,こののり面に7千年〜1万年前のローム層がブロック化し,上位の黒ぼくが落ち込んでいるなど変位を示す現象が記載されている.


図4 川原湯温泉駅の平坦面.jpg
図4 川原湯温泉駅の平坦面
 川原湯温泉駅のある平坦面である.背後の山からの土砂供給が大量にある.国交相は旧河道跡だとしている.この面の現河床からの比高は約80mである.八ッ場大橋と付け替えられた国道145号の交差点付近から見たものである.


図5 川原湯温泉駅の平坦面.jpg
図5 のり面に見られる変質帯
 国道145号八ッ場バイパスの川原畑のり面に見られる変質帯で,白色の部分は石英−カオリナイトからなり,周辺にはスメクタイトも形成されている.


図6 変質帯.jpg
図6 変質帯
 町道の小さな切土に見られる変質帯.左の黒色の岩は八ッ場安山岩類で,右の褐色部ははカオリナイト−石英の変質帯である.変質帯の走向・傾斜はN30°E,80°SEである.電柱の向こうに安山岩の岩脈がある.


図7 国道145号切土のり面の変状.jpg
図7 国道145号切土部に見られる道路変状
 「やんば見放台」の北西にある国道145号の切土部の道路変状である.山側車線の縁石が持ち上がり,道路面も山側車線の部分までが盛り上がっている.のり面は白色に粘土化した地山が見えている.

参考にした図書など

“地質と土木をつなぐ”へ→
“貯蔵庫"へ→