夕張岳
(山行:2010年8月3日 記事作成:2016年7月23日)
概 要
夕張山地は,東の日高山脈,西の馬追丘陵に挟まれた標高1,300m〜1,700mの山群である.
夕張岳周辺では芦別岳,鉢盛山(はちもり・やま),吉凶岳(きっきょう・だけ)と繋がる南北の線状構造がはっきりしている.蛇紋岩メランジュの東の境界である.
中天狗岳からシュウパロ川上流右岸に連なる線状構造は,夕張川付近で東にずれて滝ノ沢岳から白金川(しらきん・がわ)中流付近まで続いている.
この二つの線状構造に挟まれているのが,蛇紋岩メランジュ帯である.夕張岳の山頂付近やその西のガマ岩は,玄武岩起源のカムイコタン変成岩のブロック,夕張岳の南東にある屏風山は蛇紋岩メランジュに取り込まれたジュラ紀〜白亜紀の玄武岩ブロックである.
このような特徴的な自然条件にあり,大夕張コース登山道の標高800m付近からは富良野芦別道立自然公園ゾーン,標高1,200m付近からは夕張岳高山椊物保護林ゾーンで国の天然記念物ゾーンとなっている.
南富良野町から登る金山コースでは,標高1,300m付近から国の天然記念物ゾーンとなる.保護林内では,動物や椊物をとることはもちろん,「土石を採取する《にも許可が必要である.
図1 夕張岳と熊ヶ峰と釣鐘岩
中央左奥に見える一番高い三角の峰が夕張岳の山頂である.その左手前の崩壊地のある峰は熊ヶ峰,左奥の三角の尖った峰は釣鐘岩である.これら突出した峰は,蛇紋岩メランジュの中のブロックである.蛇紋岩メランジュ帯は手前のなだらかな地形を形成する.
大夕張コース
このコースは沢ゾの道を行く冷水ノ沢コースと夕張岳ヒュッテの前から尾根を登る馬の背コースがある.今回は,冷水コースを上り,馬の背コースを降りてきた.ただ,疲れた足には馬の背コースの下りは,かなりきつかった.
このコースは,馬の背コースとの分岐に出るまでは林の中を行く.馬の背分岐を過ぎると左手に滝ノ沢岳が見えてくる.この山は,5万分の1地質図幅「大夕張」では,「空知層群・前岳硬質砂岩および珪質岩層《とされていて,北北西−南南東の走向を持ち南東に50°程で傾斜している.現在の地形図では,前岳は「神居古潭変成岩類・夕張岳変成岩類」の分布域である.
図2 滝ノ沢岳
馬の背分岐の少し上から見える滝ノ沢岳である.ジュラ紀後期の空知層群・前岳硬質砂岩および珪質岩層からなる.この地層は,山部図幅(橋本,19555)の主夕張川珪質岩層(Sr3)あるいは二十五線沢砂岩層(Sr4)に相当する.
図3 望岳台から芦別岳を望む
前岳の北尾根上の標高1,350mにある展望台で,芦別岳を望むことができる.正面奥が芦別岳である.
前岳から北に延びる尾根を回り込み小さな沢を越えると蛇紋岩メランジュ帯に入り,前岳湿原が現れる.ここからは夕張岳の山頂が見えるようになる.
湿原の手前でも蛇紋岩メランジュの中のブロックが幾つか見ることができるが,湿原を過ぎた所に「男岩」という吊の付いたチャートのブロックがある.また,登山道のすぐ脇に層状チャートのブロックがある.
図4 男岩
付近に落ちている転石から判断するとチャート(珪質岩)のブロックである.登山道から近い場所にある.
図5 層状チャートのブロック
層状チャート(珪質岩)のブロックである.登山道のすぐ脇にある.
図6 前岳湿原と夕張岳山頂
湿「原《というには規模が小さく,全体に乾燥した状態である.右奥が塩基性岩起源の高圧変成岩ブロックからなる夕張岳山頂,中央の岩はガマ岩である.
図7 前岳
ガマ岩付近から見た前岳(まえ・だけ)である.前岳の麓を東の境として東西方向に約1.5km,南北方向に約10kmの地帯は下部空知層群の変成作用を受けた玄武岩ブロックとされている.南は白金川,北は日陰ノ沢の上流付近までである.
右のなだらかな斜面は蛇紋岩メランジュ帯である.
図8 ガマ岩
夕張岳山頂を除いて登山道で見ることのできるもっとも大きな蛇紋岩メランジュ帯の中のブロックである.山頂部と同じ玄武岩であるが,変成度はやや低い.
図9 蛇紋岩メランジュの基質
ガマ岩を過ぎたところに蛇紋岩の崩壊地がある.小さな沢の岸にきれいな露頭が見られ,蛇紋岩粘土独特の淡い青灰色をした礫まじり粘土である..粘土状蛇紋岩あるいは片状蛇紋岩の中に蛇紋岩礫が含まれている.「block-in-matrix 組織《と呼ばれていてメランジュに独特の組織である.
図10 吹き通しから見た山頂
ガマ岩と釣鐘岩の間の鞍部は粘土状蛇紋岩が分布していて椊生がほとんど付いていない.「吹き通し《と呼ばれている.手前の左の崖には粘土状蛇紋岩が露出していて崩壊が著しい.
図11 山頂直下から見た蛇紋岩メランジュ帯
蛇紋岩メランジュ帯は,前岳の麓の緩斜面からこちらに広がる.中央左の一番高く見える山が前岳,その左の三角の峰が滝ノ沢岳である.手前右の三角のブロックが釣鐘岩,その左が熊ヶ峰,さらにその左に蛇紋岩崩壊地とガマ岩が見える.
図12 山頂の高圧変成岩
山頂にある緑色岩の岩塊で片状構造が見える.走向は,ほぼ南北で,80度ほどで東(右)に傾斜している.
憩沢を渡って前岳湿原に出てから約1時間20分で頂上に達することができる.距離にして約2.5kmである.吹き通しから100mほど登るが,それ以外はほとんど散歩気分で歩くことができる.望岳台までの登りを終えれば,天空の散歩ができる山である.
参考にした図書など
- 狩野謙一・村田明広,1998,構造地質学.朝倉書店.
- 長尾捨一・小山内 熙・酒匂純俊,1954,5万分の1地質図幅「大夕張」および同説明書.北海道開発庁.
- Nakagawa,M., and Toda,H., 1987, Geology and petrology of Yubari-dake serpentinite Mélange in the Kamuikotan Tectonic Belt, Central Hokkaido, Japan. Jour. Geol. Soc. Japan, 93 ,733-748.