ニセコアンヌプリ

ニセコアンヌプリ

(山行:2020年9月28日(月) 公開:2020年10月3日)

ニセコ火山の地質と登山道

 ニセコアンヌプリから一番西の雷電山まで西北西に連なる約25kmの火山群は,ニセコ火山群と呼ばれている.ニセコアンヌプリは標高1308mの火山で,活動時期は70万年前から25万年前である.この火山群で最も新しい活動はイワオヌプリの約6,000年前のマグマ噴火で,江戸時代後半や20世紀初頭にも山頂部で噴気活動があったと記録されていて活火山に指定されている.

 登山案内書には,登山道はニセコ山の家コース,アンヌプリ・ゴンドラコース,グランヒラフ・ゴンドラコース,鏡沼コースの四つが紹介されている.今回は,ニセコ山の家(五色温泉)コースを登った.
 地質は,道道倶知安ニセコ線の周辺はニセコアンヌプリ噴出物の最も下位の舞台状溶岩と火砕岩で,標高800m付近から上は輝石安山岩のニセコアンヌプリ溶岩である.
 紅葉にはまだ早く,花はほとんど終わっていて特に見るものはないが,朝までの土砂降りの雨が嘘のように晴れて気持ちの良い山歩きができた.


写真1 五色温泉キャンプ場から見たニセコアンヌプリ
 いちばん手前の峰がアンヌプリの頂上のように見えるが,山頂から西に延びる尾根の末端で標高は約1,280mほどである.「ニセピーク」と呼ばれているらしい.右奥に見える三角の峰との間に,ちょっこと頭を出しているのが頂上である.
 登山道は手前の峰の頂上手前から左に回り込んで,アンヌプリの頂上に達している.

登山道の地質

 登山口からしばらくは木の階段が続く.段が高いところもあり歩くのにちょっと苦労する.おそらくこの辺りは,5万分の1地質図幅「岩内」で舞台状溶岩と呼んでいる一番下位の溶岩あるいは火山砕屑岩が出ているのであろう.標高800m付近からやや地形が急になるので,その付近からニセコアンヌプリ溶岩が出現するものと考えられる.
 ニセコアンヌプリの南南西の尾根はニセコアンヌプリ国際スキー場となっている.このゲレンデの標高300m〜400m付近までは,きれいな溶岩地形が残っている.図幅ではニセコアンヌプリ溶岩の分布域となっている.


写真2 登山道の標高840m 付近の安山岩
 輝石安山岩である.斑晶の粒が小さく灰色がかっていてややデイサイト質である.「山頂まであと2000m」の看板の手前である.


写真3 エゾリンドウ(多分)
 登山道の標高880m付近で見た.


写真4 シラタマノキ
 生育適地が岩地あるいは火山灰地といわれているので,溶岩一色のアンヌプリにふさわしい花かもしれない.


写真5 安山岩の転石
 登山道が鋭角に曲がって尾根沿いになる付近の安山岩である.岩質は変わらない.


写真6 遭難碑のある尾根からイワオヌプリ
 標高940mの尾根から見たイワオヌプリ(右)と二つのコブを持つニトヌプリ(中央)である.この高さではチセヌプリは,ニトヌプリの後ろに隠れている.


写真7 角礫岩
写真8 安山岩
 標高1,060m付近に転がっている角礫岩である.どんなふうにして形成されたのか不明である. 写真7とほぼ同じ場所の安山岩の転石である.濃い灰色で比較的新鮮である.


写真9  ニセピークに向かって登る
 ニセピークから南南西に延びる尾根を登る.尾根道には安山岩が露出している.


写真10 前の写真の足元の安山岩
 やや軟質で粗しょうな安山岩である.節理は胞方状あるいは不規則である.


写真11 岩塊斜面
 標高1,150mから始まるジグザク道の手前の斜面である.登山道に安山岩の転石が転がっているほか,右側の斜面にも転石が積み重なっている.氷期の寒冷気候で安山岩の割れ目にできた氷の凍結融解による破砕作用で割れ目が分離して生産された岩塊が斜面に溜まったものである.標高1,100m付近からハイマツが目立ってくる.


写真12 ニセコ火山群
 手前からイワオヌプリ,ニトヌプリ,チセヌプリ.その右奥に岩内岳,左に目国内岳である.ジグザクの始まる標高1,150m付近である.
 朝の時々土砂降りの雨は嘘のように上がって気持ちの良い秋の日となった.


写真13 岩塊斜面
 標高1,160m付近の岩塊斜面である.岩塊には苔がついていて現在はそれほど移動していない.しかし,岩塊の間には空洞があり不安定である.


写真14 岩塊斜面を登る
 板状に割れた岩塊が登山道を埋めている.2つ目のジズザグをすぎた標高1,200m付近である.ニセピークから南西に延びた幅の広い尾根上である.


写真15 イワオヌプリ
 右側の岩がゴロゴロしている部分が溶岩円頂丘である.左の白い部分は温泉水によって岩石が変質し粘土化したものである.


写真16 羊蹄山
 ニセコアンヌプリの頂上から見た羊蹄山である.この写真では雲の影と区別が難しいが,山麓に円形の半月湖があり半月湖火砕丘・溶岩ドームと呼ばれている.羊蹄山の北西から北の山麓には富士見火砕丘,巽火砕丘などが分布している.これらの火砕丘の活動時期は,約6,000年前〜11,000年前と考えられている.山頂を中心とした最後の噴火活動は2,500年前〜4,000年前である.


写真17 ニセコアンヌプリ山頂の安山岩
 山頂の安山岩は板状節理の発達したややデイサイト質で細粒の斑晶を持つ.節理の走向・傾斜はN45°E,60°SE〜90°である.山頂のこのような板状節理が,どのようにして形成されたのかは興味のあることである.
 最近,元日本地質学会会長で現在原子力規制委員を務めている石渡 明氏が,日本地質学会>e-フェンスター>いろいろコラムで「柱状節理は発泡膨張,板状節理は高温の流動剪断でできる」という記事を書いている.この考え方が,参考になるかもしれない.


写真18 山頂の安山岩
 板状節理を持つ山頂の安山岩である.白みがかった灰色で斑晶の粒度は小さい.