“貯蔵庫”>若い地質技術者へ>等価摩擦係数

等価摩擦係数

 地すべりの移動体がどこまで達するかを推定する一つの方法として、等価摩擦係数を用いる方法がある。
 以下、森脇(1987)によって説明する。

等価摩擦係数の考え方

 等価摩擦係数(μ)は、地すべり移動体が一定の距離を落下して得た位置エネルギーと移動体の底面の摩擦によってなされた仕事(抵抗エネルギー)とが等しくなった地点で移動体は停止するとして算出した係数である。
 移動体の末端から見上げた地すべり頭部の仰角を見通し角(θ)と呼び、μ=tanθとなる。つまり、地すべり頭部から移動体の末端までの水平距離(L)に対する崩壊高(H)の比である。


等価摩擦係数の説明
図1 崩壊高(H)・到達距離(L)・見通し角(θ)の説明
 波線の地形線:崩壊前地形 実線の地形線:崩壊後地形
 等価摩擦係数(μ)=H/L=tanθ 流下比=(L−ℓ)/H 崩壊源の斜面勾配(θ‘)=h/ℓ
 森脇は、崩壊源の斜面勾配(θ')と内部摩擦係数が良い相関関係にあると述べている(森脇、1983)。

等価摩擦係数の運動モデル

 等価摩擦係数をA.E.シャイデッガーは平均摩擦係数と呼び、K.J.シューは等価摩擦係数と呼んだ。
 シャイデッガーは、崩壊土量が1万立方メートルを超える大規模崩壊では土量が大きくなるほど平均摩擦係数が小さくなり到達距離が大きくなることを明らかにした。

 等価摩擦係数の考え方は次のとおりである。
 地すべり移動体が流下中の微小区間(斜面長Δs)の走路における運動量保存則を考える(図2)と、下の1行目の式が得られる。 Δs*sinα=Δy、Δs*cosα=Δxであるから2行目の式となる。 崩壊開始時および土砂移動終了時の速度は0として2行目の式を積分すると3行目の式が導かれる。


運動モデル
図2 等価摩擦係数の考え方(森脇、1987 原図は、Scheidegger,1973 を元に描いた)
運動モデルの方程式
m:微小区間の移動体の質量 υ:移動体の速度 Δs:微小区間の斜面長
α:任意の区間における平均斜面勾配 y:流下高 x:水平移動距離 H:流下高 L:到達距離

実用面での等価摩擦係数

 等価摩擦係数(≒動摩擦係数)が分かると、尾根付近から崩壊が起きる場合に崩壊土砂がどこまで達するかのおおよその見当を付けることができる。
 森脇(1987)は、幾つかの事例を検討して H/L=0.7tanθ'-0.07 の関係式を示している。崩壊源の斜面勾配と崩壊源の比高が分かれば、移動土塊の到達距離を推定することができる。

 ただし、これはあくまでも目安である。2012年3月7日に発生した新潟県上越市板倉区で発生した国川こくがわ地すべりのようにtanθ=0.003という値を示す地すべりもあり、斜面を構成する地質や融雪水を含めた水の供給状態により大きく変わることに注意が必要である。

参考にした文献

<元文献>
 以下の文献が元の文献です。インターネットで入手できます。有料です。
地質と土木をつなぐ“貯蔵庫”へ➡️