基盤岩の盤膨れ

 (2014年4月18日作成)

概要

 東通原子力発電所の活断層調査で知られるようになった地盤の膨潤による「変位地形」の例は,アメリカ中西部のコロラド州デンバー周辺に広く分布しているそうです。
 コロラド州では家屋や道路,ライフラインに被害が多発していて,1979年には地すべりや土石流と並んで,「膨潤する土壌(Swelling Soils)」という項目が立てられ,住宅の基礎や地下水などの排水についての注意が出されています。

 コロラド州での事例を紹介し,国内での同じような現象について述べます。

 なお,この文章を書くきっかけは,2014年4月16日に行われた日本応用地質学会北海道支部・北海道応用地質研究会の特別講演会での田近 淳氏の講演「活断層か地すべりか?−ノンテクトニック地質構造入門−」です。


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コロラド州の事例

 コロラド州では,膨潤性の土壌および膨潤性の岩盤が浅く分布している地域を,膨潤のしやすさによって3段階に分けた地図を1981年には作成し公表しています。この地図を見ると,州の半分くらいは膨潤の可能性のある地盤になっています。

 特に,デンバーの東には膨潤の可能性の高い広大な地域が広がっています。
 例えば,グーグルで “swelling soil” と入れて検索すると,住宅地の道路が波打っている写真が出てきます。これは,コロラド地質調査所のウェブサイトに載っている代表的な盤膨れ基盤岩(土壌)による変形の写真です。
 波を打っているのは,盤膨れ粘土岩層とあまり盤膨れしない頁岩層が互層していてるためです。盤膨れ粘土岩層が集合している地域では,全体が持ち上がって一見すると撓曲崖のような緩い斜面をつくるようです。
(http://geosurvey.state.co.us/hazards/Swelling%20Soils/Pages/SwellingSoils.aspx)

 デンバー市の西20km付近にフロント山脈の東端があります。これより西,つまり山脈側では盤膨れ基盤岩は分布していません。山脈の東には砂岩主体の地層を挟んで,急立した頁岩主体の地層があり,東に向かって次第に傾斜が緩くなっています。この頁岩を主体とした地層が盤膨れ基盤岩のようです。時代は後期白亜紀とされています。

 盤膨れ基盤岩はデンバーの東では傾斜が緩く,盤膨れによる住宅などの被害対策の方法が大体確立されましたが,フロント山脈に近い西の急傾斜盤膨れ基盤岩については対策がうまくいかなかったようです。


heabing_bedrock.jpg
図1 急傾斜の盤膨れ基盤岩の模式図
頁岩層に挟在している膨潤性の粘土岩層が地下水の浸透などにより体積を増加させる。周辺の頁岩層は固結しているので体積増加分は地表を押し上げる。Noe,D.C.(1997)による。

盤膨れ基盤岩の地質的な特性

 デンバー周辺でこのような盤膨れが発生する地質的特性は,次のようにまとめられています(Noe,D.,C.1994)。

 これらの特徴で重要と思われるのは,非常に固結度の高い頁岩中にベントナイトを含む層が挟在していて,頁岩の割れ目を通して地下水がベントナイト層へ供給されやすいと言うことだと思います。
 さらに,ベントナイト層が挟在している頁岩は硬いので,地表に現れたベントナイト層は上に盛り上がってきます。

日本での類似事例

 私が見た中で,このデンバーの事例に最も似ているのは,北海道北部,歌登付近で見られた上部蝦夷層群の砂岩・頁岩互層での斜面崩壊です(「くさび形膨潤性崩壊」参照)。
 亀裂が多く一部脆くなっているが,硬質な頁岩主体の層でその中にスメクタイトの層が挟まっています。地層の傾斜は60°ほどで急立しています。
 これは,見た瞬間,非常に異様な感じを受けました。その理由は,亀裂の斜面下側が盛り上がっていることです。トップリングでは,このような現象が生じると考えられますが,それだけではなくて膨潤性粘土層の体積膨張も関係している可能性があると考えた方が良さそうです。

 もっと大規模なものは,静内中札内線の切土のり面で出現しました。ここでは,ひと冬で数十cmの段差が発生しました。やはり,亀裂の下側が大きく突き出していました。

 また,浦河町の上部蝦夷層群のトンネル坑口のり面でも同じような崩壊が発生しました。トンネル掘削によって地表面が沈下し,一時,工事を止めてトンネル内外で地すべり対策を行いました。

 雑誌「応用地質」の第48巻第6号(2008)の表紙写真が,このタイプの崩壊の最も見事な写真です(上野将司氏 撮影・解説)。

 これらは,いずれも斜面崩壊で,デンバーでのように平地で発生した盤膨れ現象ではありません。

参考にした資料
(「応用地質」を除いて,いずれもウェブサイトからダウンロードできます)

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