滑石とろう石

1 遊びの道具「ろう石」
2 滑石とろう石の構造
3 滑石とろう石の産状
4 滑石の工学性

滑石とろう石

1 遊びの道具「ろう石」

 昔は道路も学校の庭も土でした.その土に陣取りやケンケンパなどの線を引くときに使ったのが「ろう石」です.国語辞典でろう石を引くと「脂肪光沢と石蝋様触感のある岩石や鉱物の総称.葉蝋石・滑石・凍石などの類.」(広辞苑)となっています.

2 滑石とろう石の構造

 滑石とろう石(葉蝋石:パイロフィライト)は,いずれも板状形態を示す結晶性粘土鉱物です.滑石はマグネシウムを含み,ろう石はアルミニウムを含んでいます.
  この粘土鉱物は八面体シート(←粘土鉱物の結晶構造参照)の両側に四面体シートが結合し一つの単位の層となっています.このような層を,2:1層といい,この2:1層が積み重なって出来る構造を2:1型と言っています.2:1層の表面は四面体の底面が出ていますので,酸素が表面に並んでいて層の間には何もイオンを含んでいません.それで,層と層はファンデアワールス力結合していて,結合力が非常に弱いのです.< br>  ファンデアワールス力というのは,原子の中の電子の偏りで発生する引力で,結合の強さは共有結合(電子を共有して結合する)の数百分の1です.そのために,これらの粘土鉱物はつるつると滑りやすくなっているのです.
 ちなみに,膨潤性粘土鉱物であるスメクタイトは,同じ2:1型ですが,層間に交換性陽イオン(Na,Ca,Kなど)と水を持つために滑石などに比べやや結合力は強くなっていて,指にネトつく独特の指感を示します.


←“トップ”へ戻る

3 滑石とろう石の産状

 滑石は蛇紋岩などの超塩基性岩中に形成されるのが一般的です.その他に,珪質ドロマイトやマグネサイトが火成岩による低温接触変成作用を受けて形成される場合もあり,タルク片岩(滑石片岩)の構成鉱物としても産出します.
 ろう石は比較的高温の酸性熱水変質帯に伴って産出します.だいたい,200℃くらいでカオリナイトから転移します.日本では,(1)ろう石・陶石鉱床,(2)黒鉱鉱床,(3)高硫化系浅熱水鉱床(*1),(4)地熱鉱床,(5)堆積鉱床 の形で産出します.

4 滑石の工学性

 ろう石が工学的にどのような挙動を示すかあまりはっきりしていません.滑石は蛇紋岩に伴って産出するため,古くから注目されてきました.その特徴は次の通りです.

(1)蛇紋岩中では,葉片状蛇紋岩に伴って産出することが多いが,塊状蛇紋岩の節理にも挟在することがある.
(2)工学的には,せん断強度の低下をもたらす.特に,内部摩擦角が大きく低下し塑性流動の原因となる.滑石の結晶構造から分かるように,層間の結合力がきわめて弱いのが特徴で剥がれるように分離するといわれている.また,層間に水分子が入って体積増加を起こす膨潤性鉱物(スメクタイトなど)と異なり,少しの水分で飽和状態となる「疎水性」(水分子と結合しにくい性質)により層間が離れて滑りやすくなるといわれている.多くの場合,蛇紋岩自体が大きな潜在応力を持っているため,滑石の層間の結合力の弱さが切羽や斜面崩壊のきっかけになるものと思われる.
(3)滑石に伴われる鉱物として,膨潤性緑泥石がある.これはスメクタイトやバーミキュライト(雲母鉱物の風化により形成される)と混合層(*2)を形成しているものである.このような粘土鉱物を含む場合は,トンネルでは押出し性地圧が作用することがある.


用語の説明

(*1) 高硫化系浅熱水鉱床:硫黄の活動度の高い熱水から形成された鉱床で,温度150〜300℃,深さは1km程度より浅いところで形成される.硫黄は,SO2の状態で熱水は強い酸性を示す.形成される金属鉱物は,硫砒銅鉱,銅藍,斑銅鉱などで,変質鉱物としては,パイロフィライト,カオリナイトなどが形成される.これに対して,低硫化系では,硫黄はH2Sの状態で熱水は還元的で中性に近い.金属鉱物としては,閃亜鉛鉱,方鉛鉱,黄銅鉱など,変質鉱物は緑泥石,セリサイト,スメクタイトなどが形成される.

(*2) 混合層粘土鉱物:2種以上の異なった鉱物の単位構造層の積層からなっている粘土鉱物.混合層粘土鉱物は物理的な混合ではなく単位構造層が層間物質により化学的に結合している.規則混合層と不規則混合層とがある.

(2002年11月24日)


←“トップ”へ戻る