石狩低地東縁断層帯と2018年北海道胆振東部地震と斜面崩壊

 (2018年10月10日作成)

胆振東部地震の余震域

 2018年9月6日午前3時7分頃発生した平成30年北海道胆振東部地震は,複雑な震源分布を示している.
 本震の深度は36kmであるが,余震分布を見ると地下35km付近と15km付近の深度で余震が集中して発生している(図2).深度15km付近の余震域は平面的にはN10゚Wの走向を示すのに対し,深度35km付近の余震域はN10゚Eの走向を示す(図1).傾斜は,いずれも東に70゚ほどである.
 一つの斷層面がねじれているのか,深度20km付近を境に二つの斷層に分けられるのか不明である.


図1 石狩東部地震余震域.jpg
図1 胆振東部地震の余震域(2018年9月6日〜9月30日)
(石川,2018年10月8日更新:
http://www.ab.cyberhome.ne.jp/~catfish/event/20180906m67ishikari.html)

 2018年9月6日から9月30日までの余震分布である.本震は余震域の中央部付近で発生し,その後,南へ波及しているようである.
 30kmより深い震源(青印)は,N10゚Eの走向であるのに対し,それより浅い地震はN10゚Wの走向を持ち,両者は北緯42.6度,東経142度付近(9月30日余震の震源)で重なっている.


“地質と土木をつなぐ”⇒ “貯蔵庫"⇒

余震域の規模

 余震域は南北約35kmの規模で,震央から北に16km,南に19kmである.北端は,厚真ダムの北北東約3.3km,南端はむかわ町と日高町の境界の南南西約1.5kmの太平洋の中である.

 この付近の地殻は,太平洋プレートが北米プレートに衝突したため硬化した地殻が厚くなっている(Kita,S. et al,2010.あるいは,木村ほか,2018,揺れ動く大地 プレートと北海道,77-78.北海道新聞社)
 日高山脈西部では,この硬化した地殻の厚さは70kmほどになっている.南西には東北ウェッジマントルが硬化した地殻に刺さり込んでいる.その上面の深度は25km〜35kmほどである.このような地殻の構造と今回地震の発生場の関係がどうなっているのか興味深い点である.


図2 余震分布東西断面図.jpg
図2 余震分布東西断面図
(石川,2018年10月4日更新)

 余震域は,東に70°ほどで傾斜している.深度20km付近より浅いところと,それより深いところの二つに分かれる.走向がN10゚Eの面が深く,N10゚Wの面が浅い.この図には示してないが,10月5日に発生したM 5.2の地震は余震域の南部,深度31kmであった.

石狩低地東縁活断層帯

 石狩低地東縁活断層帯は,美唄から安平まで石狩低地東部と丘陵の境に分布している長さ66kmの活斷層である(地震本部,2010).
 この断層帯は,全体として西に凸の弓形を示し,南端の安平付近では北北西−南南東の走向を示す.
 今回の地震の余震分布では,30kmより浅い地震の分布域と石狩低地東縁活断層帯の走向はほぼ一致する.これに対して,本震を含む深い地震は,この活断層と斜交する余震分布を示している.

 石狩低地東縁断層帯は,美唄から安平に至る主部とその西にあり千歳市から むかわ町沖合まで続く南部とに分けられている.主部は西に凸の弓形を示し,南部は北北西−南南東の走向を示す.
 石狩低地東縁断層帯主部の傾斜は,深度6km〜10kmでは東に10゚程度とされている(地震本部,2010).

 地下深部の低角の断層が,地表付近で受動破壊を起こして急角度で現れるというのはありうることと思う.しかし,深部で70゚ほどの傾斜を持つ断層が,地表付近で低角になるには,どのような形成機構が考えられるのだろうか.

 以上のようなことを考えると,今回の地震断層は地表に明瞭には現れておらず,地表に現れている活断層は別のものと考えるのが妥当と思う.

胆振東部地震による斜面崩壊

 今回の地震では,北は夕張川,南は鵡川,東は上幌内早来(停)線のオビラルカトンネル付近まで斜面崩壊が発生した.分布の長軸はN20゚Wで長さ33km,幅は20kmである(地理院地図による:地理院ホーム>防災関連>平成30年(2018年)北海道胆振東部地震に関する情報>6.斜面崩壊・堆積分布図).
 日高幌内川に大規模な地すべりが発生したが,大部分は表層崩壊である.直下型地震特有の激しい縦揺れによって表層の火山砕屑物が崩壊したものと考えられる.

 このような斜面崩壊が過去に発生した事例としては,厚真町の厚幌1遺跡で見つかった地すべり移動体と推定される小丘がある.この地すべりの発生年代は,4,600 yBP(5,600 cal yBP)〜約2,500 yBP以前とされている(田近ほか,2016).
 馬追断層の調査では,安平町のフモンケ川沿いのトレンチ(富岡トレンチ)で 5,300 cal yBP以降,3,400 cal yBP以前の断層活動が確認されている(地震本部,2010).


図3 石狩低地東縁断層帯の時空分布.jpg
図3 石狩低地東縁断層帯の時空分布
(地震本部,2010 に厚幌1遺跡の年代を加筆)
 石狩低地東縁断層帯の活動年代で,ある程度年代を絞れるのは馬追断層である.厚幌1遺跡の地すべりが地震によるものだとすると馬追断層の年代と重なる.

道道平取厚真線の斜面崩壊

 今回の地震で,道道平取厚真線の厚真川支流・ウクル川の支沢・石油沢の出口から厚真側(下流)へ850m程のところで土石流が発生している.この場所には,今回発生した土石流とほぼ同じ形態の古い堆積物がある.堆積している土砂の規模は今回のものよりも大きい.注意深く空中写真判読や現地観察すると,このような古い土石流堆積物が,まだ発見出来る可能性がある.
「地理院地図>情報>平成30年北海道胆振東部地震>斜面崩壊・堆積分布図」の 北緯42度41分51.96秒,東経141度56分47.14秒  )

2018年 胆振東部地震による斜面崩壊の写真8 参照 )

参考にした図書など(あいうえお順)

“地質と土木をつなぐ”⇒ ←“貯蔵庫"⇒